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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
28/30

28 前日、夜の教室で。

 リハが解散し、教室へ戻ったあまねは、明日の準備のために黙々と後片付けをしていた。

 ほとんどの生徒は帰ってしまい、教室は夜の静けさに包まれている。


 そんな中、扉がそろりと開いた。


「……委員長」


 野木だった。


 昼間のぎこちない空気を引きずって、二人はそれ以来ほとんど喋っていなかった。

 教室に入ってきた野木は、何か言おうとしては口を閉じ、落ち着かない様子でそわそわしている。


 その瞬間だった。


「あのさ」


 突然声を出したあまねに、野木は――


「うわぁっ!!」


 大げさなくらいビクッと体を震わせた。


「ちょ、何よその反応!?」

「い、いやっ……急に話しかけるから……」


 あまねはその様子に呆れたように目を細め、そして少しだけ視線を落とした。


「……ごめん。昨日、キツいこと言った。余裕なかったの」


 その謝罪には、素直な気持ちが滲んでいた。


 野木はすぐさま首を振る。


「い、いいんだよ!そんなの全然気にしてないから!」

「早口になってる」

「なってない!」


 その必死さに、あまねは思わずクスッと笑った。

 釣られるように、野木も照れくさそうに笑う。


「……あのさ」


 今度は野木の方が言いにくそうに口を開いた。


「俺、やっぱり……無理はしてほしくないよ。体は大事にしてほしい」


 その言葉は、いつもの調子とは違って、どこか優しく柔らかかった。


 あまねは一瞬きょとんとし、それから照れながら視線を逸らした。


「心配してくれてんの?……ありがと」


「あ……」


 素直に返されるとは思っていなかったのか、野木は固まってしまう。


「……本当に、野木がいてくれてよかった」


「えっ……?」


「そんな顔しないでよ、バカ。こっちまで恥ずかしくなるじゃん」


「か、顔って……そんな変だった?」


「変! すっごい変!」


「なんだそれ!? い、委員長だって変だし!」


「はぁ!? やめてよ! バカ!」


「バ、バカって言う方がバカなんだよ!」


 二人は、まるで小学生のように口喧嘩を始めた。

 しかしそのどこか微笑ましい声を、教室の外からそっと聞いている者がいた。


(……また小学生みたいなことしてる)


 晴大だった。


 ため息をついた瞬間、背後からひょこっと顔を覗かせる人物がいる。


「あれ、佐藤君。何して……?」


 さくらだ。


 晴大はそっと指を口元に当てて、


「しー」


 と小さく合図した。


 さくらは状況を悟ったように、こくりと頷く。


 教室の中には、笑いながら言い合う二人の声が響いていた。


「……本当、もどかしいったらありゃしない」


 晴大が呆れたように呟けば、


「ふふっ」


 さくらも軽く笑った。


 そして二人はそっとその場を離れた。

 本番前日の夜、ほんの少しだけ、空気が柔らかくなった気がした。

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