27 リハーサルの裏で。
本番前日の総仕上げのリハーサルは、驚くほど順調だった。
あまねはセリフの抜けがほとんどなく、動きも昨日までより明らかに滑らかになっていた。
脚本を知っている人でなければ、代役が直前に決まったなど、とても思えないほどの完成度だった。
影で自然に支えるのは、さくら。
あまねがほんのわずかに詰まったところを、さりげないアドリブや動きで軌道修正していた。
――役者としての底力。
それが舞台全体の空気を、明るく強く引き上げていた。
リハが終わると、キャストとリーダー達が舞台上に集まり、動線や照明、立ち位置について意見を出し合った。皆、緊張と高揚を抱えながら、明日の本番に向けて真剣そのものだ。
そんな賑やかな舞台を、舞台袖の暗がりからじっと見つめる二人がいた。
野木駿介と佐藤晴大だ。
「良い感じだね」
晴大が静かに呟く。
「……うん」
返ってきた声は、どうにも沈んでいた。
晴大は横目で野木を覗きこむ。
「どうした? 元気ないけど」
野木は肩を落とし、視線を足元へ落とす。
「なんか……悔しいな」
「は?」
予想外の言葉に、晴大の眉がぴくりと動く。
野木は唇を尖らせて続けた。
「リハ前にさ、さくらちゃんが委員長になんか言ってたんだよ。何言ってたかは分かんねぇけど、そっから急に委員長、元気になってさ……」
どう見ても拗ねている。
晴大は目を細め、口元にニヤッとした薄笑いを浮かべた。
「……はぁ〜ん? なるほどね?」
「な、何がだよ」
「つまり、お前は“委員長を慰められるのは俺だけだ”って思ってたわけだ」
「ばっ……! 馬鹿! なんだよその顔!!」
野木は真っ赤になり、そっぽを向く。
その反応が余計に図星で、晴大は思わず小さく笑った。
「菊田さんを何だと思ってんの。あれはプロだぞ? こういう局面、きっと山ほど経験してる」
「……分かってるよ。でも……」
野木は、情けなさそうに眉を寄せる。
「……俺、委員長に嫌われたかもしれない。慰めるつもりで言ったのに……逆効果だった。いや、慰めるってのがまず違ったのかも……ぐぅぅ、ほんと馬鹿みたい……」
「……お前さぁ」
晴大は呆れたように肩をすくめた。
「委員長がお前のこと嫌いになるわけないだろ? 馬鹿じゃないの?」
「え? 嫌われてない?」
「むしろ逆だと思うけどな。何があったか知らないけど……冷たく何か言われたんだろ?」
野木は黙った。
否定はしない。
「それ、多分心許してるからだよ。お前相手にしか出ないやつ」
「……え、え、それって、え?」
野木の心臓は、自分でもうるさいほどバクバク鳴っていた。
委員長が――俺だけに?
そんなこと……考えたこともなかった。
でも、晴大が言うと、不思議と腑に落ちてしまう。
「はぁ〜……お前ら、本当にもどかしい。いい加減、自分の気持ちに気付いてないとか、そういうのやめてほしいんだけど」
呆れ半分、優しさ半分の声。
野木は晴大をじっと見た。
そして――勢いよく晴大の手をつかんだ。
「先輩、ありがとう!!」
「……は?」
思わず固まる晴大。
野木は晴大の手をぶんぶん振りながら、顔を真っ赤にしていた。
「あの……手もげるんだけど……」
「いや、でも……なんか……すげぇ、救われた……!」
晴大はため息をつきながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「……はいはい。頑張れよ」
「が、頑張るって何を!?」
「……うるせぇ」
舞台上で響く照明チェックの音。
翌日に迫った本番の熱気に、体育館は静かに、しかし確実に満ちていった。
すみません。
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