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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
27/30

27 リハーサルの裏で。

 本番前日の総仕上げのリハーサルは、驚くほど順調だった。


 あまねはセリフの抜けがほとんどなく、動きも昨日までより明らかに滑らかになっていた。

 脚本を知っている人でなければ、代役が直前に決まったなど、とても思えないほどの完成度だった。


 影で自然に支えるのは、さくら。

 あまねがほんのわずかに詰まったところを、さりげないアドリブや動きで軌道修正していた。


 ――役者としての底力。

 それが舞台全体の空気を、明るく強く引き上げていた。


 リハが終わると、キャストとリーダー達が舞台上に集まり、動線や照明、立ち位置について意見を出し合った。皆、緊張と高揚を抱えながら、明日の本番に向けて真剣そのものだ。


 そんな賑やかな舞台を、舞台袖の暗がりからじっと見つめる二人がいた。

 野木駿介と佐藤晴大だ。


「良い感じだね」


 晴大が静かに呟く。


「……うん」


 返ってきた声は、どうにも沈んでいた。

 晴大は横目で野木を覗きこむ。


「どうした? 元気ないけど」


 野木は肩を落とし、視線を足元へ落とす。


「なんか……悔しいな」


「は?」


 予想外の言葉に、晴大の眉がぴくりと動く。


 野木は唇を尖らせて続けた。


「リハ前にさ、さくらちゃんが委員長になんか言ってたんだよ。何言ってたかは分かんねぇけど、そっから急に委員長、元気になってさ……」


 どう見ても拗ねている。

 晴大は目を細め、口元にニヤッとした薄笑いを浮かべた。


「……はぁ〜ん? なるほどね?」


「な、何がだよ」


「つまり、お前は“委員長を慰められるのは俺だけだ”って思ってたわけだ」


「ばっ……! 馬鹿! なんだよその顔!!」


 野木は真っ赤になり、そっぽを向く。

 その反応が余計に図星で、晴大は思わず小さく笑った。


「菊田さんを何だと思ってんの。あれはプロだぞ? こういう局面、きっと山ほど経験してる」


「……分かってるよ。でも……」


 野木は、情けなさそうに眉を寄せる。


「……俺、委員長に嫌われたかもしれない。慰めるつもりで言ったのに……逆効果だった。いや、慰めるってのがまず違ったのかも……ぐぅぅ、ほんと馬鹿みたい……」


「……お前さぁ」


 晴大は呆れたように肩をすくめた。


「委員長がお前のこと嫌いになるわけないだろ? 馬鹿じゃないの?」


「え? 嫌われてない?」


「むしろ逆だと思うけどな。何があったか知らないけど……冷たく何か言われたんだろ?」


 野木は黙った。

 否定はしない。


「それ、多分心許してるからだよ。お前相手にしか出ないやつ」


「……え、え、それって、え?」


 野木の心臓は、自分でもうるさいほどバクバク鳴っていた。


 委員長が――俺だけに?


 そんなこと……考えたこともなかった。

 でも、晴大が言うと、不思議と腑に落ちてしまう。


「はぁ〜……お前ら、本当にもどかしい。いい加減、自分の気持ちに気付いてないとか、そういうのやめてほしいんだけど」


 呆れ半分、優しさ半分の声。


 野木は晴大をじっと見た。

 そして――勢いよく晴大の手をつかんだ。


「先輩、ありがとう!!」


「……は?」


 思わず固まる晴大。

 野木は晴大の手をぶんぶん振りながら、顔を真っ赤にしていた。


「あの……手もげるんだけど……」


「いや、でも……なんか……すげぇ、救われた……!」


 晴大はため息をつきながらも、どこか嬉しそうに笑った。


「……はいはい。頑張れよ」

「が、頑張るって何を!?」

「……うるせぇ」


 舞台上で響く照明チェックの音。

 翌日に迫った本番の熱気に、体育館は静かに、しかし確実に満ちていった。

すみません。

投稿を無断でお休みしてしまいました。

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