24 文化祭直前、なんだけど……!?
昼休みの終わり。教室の中は文化祭ムードで浮き足立っていた。
「ねぇ、ちょっと!あと三日で本番よ!」
新宮あまねの声が教室に響き渡る。彼女の額にはうっすらと汗。
その横で——。
「うぉ〜!! すげぇすげぇ!!」
野木駿介が飛び跳ねている。
「……はしゃいで物壊さないでね!?」
呆れ顔のあまね。
そんな二人のやり取りを眺めながら、佐藤晴大はふっと笑った。
「楽しみだね」
そう言いながら、隣の菊田さくらに目を向ける。
けれど、さくらは机の上で両手を組み、何かを考え込むように俯いていた。
「どうしたの?」
声をかけると、さくらはビクッと肩を震わせた。
「あ、ご、ごめん。考え事してて……」
「あら、どうしたの? 大丈夫?」
あまねが心配そうに覗き込む。
野木も不思議そうに首を傾げた。
「いや、うん。そんな大したことじゃないんだ」
さくらは小さく笑ってごまかす。
——けれど、頭の中では、あの言葉が何度も反芻されていた。
『調子に乗らないでよね。』
東堂結衣の声が、まだ耳に残っている。
気にしたって仕方がない。分かっているのに、どうしても心がざわついた。
そんなさくらに、晴大がふいに声をかける。
「……そうだ、菊田さん。今日の放課後、空いてます?」
「……え?」
途端に、野木が身を乗り出す。
「おっ? なんだなんだ〜? ついにデートか〜?」
ガンッ。
「あいたっ!」
あまねの拳が、的確に野木の頭に落ちた。
「よかったら、みんなも来てよ」
晴大が穏やかに笑うと、さくらもあまねも、そして野木も首を傾げる。
その日の放課後。
教室は相変わらずの喧騒に包まれていた。文化祭の準備、笑い声、ガムテープの音。
そんな中、さくらたちは静かな美術室へと足を踏み入れた。
そこには、晴大が以前倒れた時に助けてくれた男子と、数人の美術部員の姿があった。
「わ……」
息を呑む。
美術室の壁いっぱいに広げられた模造紙には——。
淡い色彩で描かれた、壮麗な城の絵。
青空に伸びる塔、陽の光を浴びた石畳。
そのすべてが手描きとは思えないほど繊細だった。
「えぇ〜!? すんげぇ! これ全部手描き!?」
野木が叫ぶ。
「うん、そうだよ。文化祭の背景、皆んなで頑張って描いたんだ」
晴大が少し照れたように笑った。
「ほぇ〜……」
野木は言葉を失っている。
「ほんと、すごい。本当に、ありがとう」
あまねは感嘆の息を漏らした。
「うん……お城も風景も、全部素敵」
さくらの瞳が、柔らかく光を映す。
晴大は少しだけ微笑んで、部員たちと目を合わせる。
「ふふっ」
その穏やかな空気を切り裂くように——。
ガラッ。
ドアが勢いよく開いた。
入ってきたのは、同じクラスの女子だった。顔色が真っ青で、息を切らしている。
「あまね!!」
呼ばれたあまねがすぐに駆け寄る。
「どうしたの?」
その女子は震える声で言った。
「し、しずくが!しずくがインフルになったって!」
一瞬、空気が凍る。
なぜなら、しずくは物語のメインキャラクターの1人、シンデレラを虐める義姉を演じるキャストだからだ。
さくらも、野木も、晴大も、誰も言葉を発せなかった。
「……どういうこと?」
あまねの声だけが、静かに響いた。




