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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
23/30

23 夜は怖い。それでも良い。

 森下圭吾が、ポツリと呟いた。

「……やっぱ、カッコ悪いか」


 木村は、不意を突かれたように顔を上げる。

「え?」


 森下は視線を落としたまま、続けた。

「暗いのってさ、なんか悲しいし、怖いし、息苦しくなる」


 木村は何も言わずに、その言葉を聞いていた。


「そういうこと、ない?」


 木村は少しだけ目を細めて、窓の外へと目をやった。

「……このくらいの暗さなら、なんとも」


 外はすでに日が落ち、夜の街が広がっている。

 けれど、ビルの灯りや街灯が眩しいほどに光を放ち、完全な“暗闇”とは程遠かった。


「……そっか。やっぱ変なのかな」

「……さぁ。そういう人もいるんじゃない?」


 森下は、少しだけ笑った。

「ふふっ、そうかな」


 けれど、その笑みの奥に本当の笑顔は見えなかった。


「昔からそうなんだよな。暗いのが怖い。一人が怖い。ただの怖がりかよって、カッコ悪って、自分でも思うけど」


 森下は俯いたまま、かすかに息を吐いた。

「……ごめん、変なこと言った」


 木村は、少しだけ考えてから口を開いた。

「……私も、時々、自分は一人なんだって思うときがある」


 森下が、不思議そうに木村の方を見た。


「子どもの時はね、何だかんだ誰かは見てるでしょって思ってたの」


 木村の声は静かで、どこか遠くを見ているようだった。

 森下は何も言わず、缶コーヒーを一口飲む。


「……けど、私がどれだけ頑張っても、誰も見てくれない」


 森下がちらりと木村の方を見やる。

 木村の横顔は、過去を見つめるようでいて、今を生きている顔でもあった。


「……えぇ?何?」


 森下は缶を見つめて小さく笑った。

その言葉を軽くあしらうように、木村は軽く伸びをした。


「別に〜?他人に言うようなことでもないわ。ただの昔話よ」

「ほう?それはつまり、聞くなってやつだね?」


森下の言葉に、木村はふっと小さく笑ってみせた。そして、勢いよく立ち上がった。

「それじゃあ、さっさと帰ってください。こっちは残業しなきゃなんでね」

「あぁ、大変だねぇ。うん、話、聞いてくれてありがと」


 森下圭吾もすっと立ち上がり、そのまま真横の自販機のところで立ち止まる。軽く片手を上げ、缶をゴミ箱へポイッと放った。

 そしてそのまま、軽い足取りで正面玄関へ向かっていった。


「……夜は怖いんじゃなかったの?」


 木村が呆れたように声をかけると、森下は振り返り、にっと笑った。

「おっと〜? そんなこと言うなら、木村ちゃんが一緒にいてくれる〜?」


「……嫌。」


 森下は笑みを深めて、「知ってる」とだけ言い残し、夜の街へと消えていった。


 その背中を見送ると、木村はふぅっと小さく息を吐く。

「……あ〜あ、仕事いっぱい溜まってるのに……」


 そうぼやきながらも、その足取りはどこか軽かった。


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