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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
16/30

16 羨ましい。

「行かなきゃ良かった……? そんなの、嘘だ」

 さくらの声が静かな保健室に響いた。

 その瞳は揺れている。信じたくない、という気持ちが透けて見える。


 あまねと野木は言葉を挟めず、ただ二人の様子を見守っていた。

 晴大はベッドの上で目を伏せ、少しの間、動かなかった。

 そして――絞り出すように言った。


「嘘じゃない。もう、どっか行ってくれ。邪魔だから」


 その言葉はあまりにも冷たくて、刺すようだった。

「おい、なんでそんなこと!」

 野木が声を荒げる。

 しかし、あまねがすぐにその腕を掴んで止めた。


「佐藤君、それはあまりにも言葉足らずだわ」

 静かながらも芯のある声。

「それが本心じゃないことぐらい、分かってるの。何があったか教えて」


 晴大は俯いたまま、誰の顔も見ようとしなかった。

「……お前らに、何が分かんだよ。 やりたい事好きなようにやってるお前らに、何が……!!」


 その言葉に、空気が一瞬止まった。

「え……?ねぇ、佐藤君、違うよね? そんなこと、思ってないよね?」

 さくらが一歩前に出る。声が震えていた。

 けれど晴大は答えない。ただ、下を向いたまま。


「ねぇ、黙らないで! 教えてよ! 黙ってちゃ分かんないじゃん!」

 さくらは思わず晴大の肩に手をかける。

 さくらの表情は、今にも泣き出しそうだった。


 野木が息をのむ。

「……なぁ、どうしてそんなに暗いんだよ。そんなに嫌なことでもあったのか?」

 その声も、かすかに震えていた。


 けれど、晴大は何も言わない。

「ねぇ!」

 さくらが再び叫びながら、晴大の肩を叩いた。


 ――その瞬間。


 晴大が、ゆっくりと顔を上げた。

 その目には涙が溜まっていた。

 一粒、頬を伝い、シーツの上に落ちる。


 さくらも、あまねも、野木も、息を呑んだまま動けなかった。


「え……?」

 さくらの小さな声が漏れる。


 晴大の唇が、震える。

「なんで、なんでいつもこうなんだ……」

 声はかすれ、途切れ途切れになっていた。

「俺だってどうしていいか分かんないのに、分かんないまま適当に言葉を吐いて……馬鹿みたいだ」


 その独白に、誰も言葉を挟めなかった。

 さくらは、ただじっとその顔を見つめていた。

 そして、小さな声で言った。


「……ねぇ、教えてほしい。何があったの?無意味とか、言わないでね。私が聞きたいの」


 さくらは、晴大の瞳を見た。

 真っ直ぐに、まるで逃げ道をふさぐように。


 その瞬間、彼の瞳から堰を切ったように涙が溢れた。

「ごめん、ごめんなさい。俺、皆んなに嫌われたくない。 だけど、やっぱり、皆んなが羨ましい……!」


 嗚咽まじりの叫びに、保健室の空気が震えた。

 誰も動けない中、さくらだけがそっと一歩踏み出した。


 そして――泣きじゃくる晴大を、静かに抱きしめた。


「……佐藤君」

 その声は柔らかく、温かかった。


 晴大はしばらくの間、何も言わず、ただその肩に顔をうずめていた。


 ――少しして、涙が落ち着いたころ。

 晴大は小さく息を吸い、絞り出すように言った。


「あの日、夏祭りの夜……」


 そうして、彼の話が始まった。


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