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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
15/30

15 馬鹿だ。

「佐藤が! 佐藤が倒れた!」

 息を切らした男子生徒が、青ざめた顔で叫んだ。

 教室が凍りつく。

 さくらの心臓がどくん、と大きく鳴った。

「ねえ、どういうこと!?」

 あまねが真っ先にその生徒に詰め寄る。

 男子生徒は荒い息を整えながら言った。

「俺たち、美術室で背景の絵を描いてたんだ。そしたらさ、さっきまで元気だったのに、急に佐藤が倒れて……!!」

「それで今、佐藤君は!?」

 さくらの声は震えていた。

「先生呼んで、保健室に連れてった。今はきっと寝てる」

「……そう」

 さくらは唇を噛みしめる。

 どうして、という不安が胸に広がる。

「今、保健室にいるんだな!?」

 野木が勢いよく立ち上がった。

「おい、行こう!」

 けれど、あまねがすぐに腕を掴んで止めた。

「今寝てるなら、起こさない方が良いでしょ? とりあえず待ちましょう」

「でも!」

「とりあえず、ね」

 あまねの声には冷静さがあった。だが、目の奥には不安が滲んでいた。

 さくらが小さく口を開く。

「……そうだね、でも……」

 言葉を詰まらせながらも、絞り出すように言った。

「保健室に行きたい。佐藤君に会いたい」

 その表情には迷いがなかった。

 あまねは小さくため息をつき、頷いた。

「仕方ない。絶対静かにしてるのよ。それで、出ていくように言われたら大人しく出ていく。分かった?」

「おう!」と野木。

「うん……!」とさくら。

 三人は顔を見合わせて頷き合い、保健室へ向かった。


 保健室に入ると、薬の匂いと静かな空気が迎えてくれた。

 あまねが先生に事情を尋ねている間、さくらと野木は仕切りの向こうを気にして落ち着かない。

仕切りの向こうに、佐藤晴大がいるはずだ。

「多分、睡眠不足とかじゃないかしら。病気ではないから安心して」

 先生の言葉に、三人はほっと息をついた。

「起きたら教えるね」と言われたので、廊下の椅子で3人並んで座って待つことにした。


 ――1時間ほど経ったころ。

「起きたよ」

 先生の声に、さくらの体がピクリと動いた。

 三人は静かに立ち上がり、保健室へ入る。


 仕切りのカーテンが静かに開かれる。

 そこには、ぼんやりとした表情の佐藤晴大がいた。

 視線を少し泳がせながら、三人を見て言った。

「あれ、どうして……」

「心配したんだよ!」

 さくらが勢いよく言う。

「急に倒れたって聞いて!」

「あ……そうか、あのとき……」

 晴大はぼんやりと呟いた。

 野木が前に出て尋ねる。

「もう元気なのか?」

「うん……」

 けれど、その声には力がなかった。

 顔色も少し悪い。

「ねぇ、どうして倒れたか分かる?」

あまねが静かに尋ねる。

「疲れてたの?」とさくら。

 晴大は少し目を伏せた。

 しばらくの沈黙のあと、かすれた声で言った。

「……馬鹿だ」

「「「……え?」」」

 三人の声が重なる。

 晴大はゆっくりと息を吸い、震える声で呟いた。

「夏祭りなんて……」

「え?夏祭り?ねぇ、どういうこと?」

尋ねるさくらの声が、揺れる。


「……夏祭りなんて、行かなきゃ良かった」


はっきりと、そう聞こえた。

 保健室の空気が、一瞬にして重くなった。

 外の風鈴の音さえ、どこか遠くに聞こえる。


 ――晴大の心の中で、何かが崩れ始めていた。

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