14 仲直り、そして。
あまねがさくらに冷たく当たってしまったあの日から、数日が経った。
教室には、文化祭の準備で賑やかな声が響いていた。紙のきらめき、ガムテープの音、笑い声。
あまねも、野木と一緒に大道具の準備をしていた。
「……委員長、釘曲がった」
「もう、野木が雑に打つからでしょ」
「雑じゃねぇって。力強いだけ」
「はいはい、“力強い雑さ”ね」
「なんだよその言い方!」
二人の軽口が飛び交い、教室に少し笑いが戻る。
それでも、あまねの心の奥には、まだひっかかるものがあった。
さくらに言ってしまったあの言葉。
ちゃんと謝らなくちゃ――そう思いながらも、タイミングを掴めずにいた。
そのとき、教室の扉が開いた。
「ごめん、遅れて……!」
少し息を切らせて立っていたのは、菊田さくらだった。
制服のリボンが少し曲がっていて、髪は小さな毛が2、3本浮いている。撮影帰りなのだろう。
彼女の姿を見た瞬間、あまねの心臓がどくんと跳ねた。
――今だ。
あまねは、少し緊張した面持ちで立ち上がった。
真っ直ぐ、さくらのほうへ歩いていく。
その真剣な表情に、さくらは思わず少し身構えてしまう。
だけどすぐに、さくらは小さく息を整えて、しっかりとあまねを見つめ返した。
「あの……」
あまねが口を開く。
「酷いこと、言ってごめんなさい」
そのまま、深く頭を下げた。
教室の時間が、一瞬止まった。
ざわめいていた空気が静まり返り、誰もがその光景を見守る。
さくらは驚いて固まっていたが、すぐに歩み寄り、そっと言った。
「顔あげて」
おそるおそるあまねが顔を上げると、そこには――さくらの柔らかな笑顔があった。
「……え?」
「大丈夫だよ。委員長が頑張ってるの、ちゃんと知ってるから。謝らなくていいよ」
さくらの声は、静かで、それでいてあたたかかった。
「それにね、委員長のおかげで、少しだけ分かったの」
「分かった?」
あまねが首を傾げる。
さくらは、少し照れくさそうに笑ってから続けた。
「私ね、ちゃんと自分の意見を言う。ちゃんと堂々とする。自分のやりたいようにやる。だから――」
一呼吸おいて、さくらは真っ直ぐに言った。
「だからさ、委員長、私と友達になって」
教室の空気が、ふっと和らいだ。
あまねは一瞬、目を丸くして、それから小さく笑った。
気づけば、自然とさくらを抱きしめていた。
「……元々友達だし」
その声はとても小さかったが、さくらにははっきり聞こえた。
さくらはくすっと笑って、「そっか」とだけ言った。
それから二人は、並んで演劇の練習に参加した。
さくら含めキャスト達が演じ、あまねが台本と照らし合わせる。そして、時々皆で笑い合う。
野木がそれを後ろから眺めて、「やっと戻ったな」なんてぼそっと呟いた。
いつもの、あの教室の空気。ようやく戻ってきたのだ。
――しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。
練習が終わりかけたころ。
教室の扉が勢いよく開き、一人の男子生徒が息を切らして飛び込んできた。
「佐藤が! 佐藤が倒れた!」
その言葉が響いた瞬間、教室中の動きが止まった。
テープも、ペンも、笑い声も止まる。
空気が一気に冷たくなる。
――誰も、すぐには動けなかった。




