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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
14/30

14 仲直り、そして。

 あまねがさくらに冷たく当たってしまったあの日から、数日が経った。

 教室には、文化祭の準備で賑やかな声が響いていた。紙のきらめき、ガムテープの音、笑い声。

 あまねも、野木と一緒に大道具の準備をしていた。

「……委員長、釘曲がった」

「もう、野木が雑に打つからでしょ」

「雑じゃねぇって。力強いだけ」

「はいはい、“力強い雑さ”ね」

「なんだよその言い方!」

 二人の軽口が飛び交い、教室に少し笑いが戻る。

 それでも、あまねの心の奥には、まだひっかかるものがあった。

 さくらに言ってしまったあの言葉。

 ちゃんと謝らなくちゃ――そう思いながらも、タイミングを掴めずにいた。


 そのとき、教室の扉が開いた。

「ごめん、遅れて……!」

 少し息を切らせて立っていたのは、菊田さくらだった。

 制服のリボンが少し曲がっていて、髪は小さな毛が2、3本浮いている。撮影帰りなのだろう。

 彼女の姿を見た瞬間、あまねの心臓がどくんと跳ねた。

 ――今だ。


 あまねは、少し緊張した面持ちで立ち上がった。

 真っ直ぐ、さくらのほうへ歩いていく。

 その真剣な表情に、さくらは思わず少し身構えてしまう。

 だけどすぐに、さくらは小さく息を整えて、しっかりとあまねを見つめ返した。


「あの……」

 あまねが口を開く。

「酷いこと、言ってごめんなさい」

 そのまま、深く頭を下げた。


 教室の時間が、一瞬止まった。

 ざわめいていた空気が静まり返り、誰もがその光景を見守る。

 さくらは驚いて固まっていたが、すぐに歩み寄り、そっと言った。

「顔あげて」

 おそるおそるあまねが顔を上げると、そこには――さくらの柔らかな笑顔があった。

「……え?」

「大丈夫だよ。委員長が頑張ってるの、ちゃんと知ってるから。謝らなくていいよ」

 さくらの声は、静かで、それでいてあたたかかった。

「それにね、委員長のおかげで、少しだけ分かったの」


「分かった?」

 あまねが首を傾げる。

 さくらは、少し照れくさそうに笑ってから続けた。

「私ね、ちゃんと自分の意見を言う。ちゃんと堂々とする。自分のやりたいようにやる。だから――」

 一呼吸おいて、さくらは真っ直ぐに言った。

「だからさ、委員長、私と友達になって」


 教室の空気が、ふっと和らいだ。

 あまねは一瞬、目を丸くして、それから小さく笑った。

 気づけば、自然とさくらを抱きしめていた。

「……元々友達だし」

 その声はとても小さかったが、さくらにははっきり聞こえた。

 さくらはくすっと笑って、「そっか」とだけ言った。


 それから二人は、並んで演劇の練習に参加した。

 さくら含めキャスト達が演じ、あまねが台本と照らし合わせる。そして、時々皆で笑い合う。

 野木がそれを後ろから眺めて、「やっと戻ったな」なんてぼそっと呟いた。

 いつもの、あの教室の空気。ようやく戻ってきたのだ。


 ――しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。


 練習が終わりかけたころ。

 教室の扉が勢いよく開き、一人の男子生徒が息を切らして飛び込んできた。

「佐藤が! 佐藤が倒れた!」

 その言葉が響いた瞬間、教室中の動きが止まった。

 テープも、ペンも、笑い声も止まる。

 空気が一気に冷たくなる。


 ――誰も、すぐには動けなかった。


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