12 頑張る奴はかっこいい。
文化祭の準備もいよいよ大詰め。だが、今日の放課後は少しぎこちない空気が流れていた。
きっかけはキャストの予定のすれ違い。予定が合わないことに焦ったあまねは、思わずさくらにも強く当たってしまった。
その後、全員が気まずいまま解散となり、夕方の校舎には沈黙が残っていた。
――帰り道。
商店街のネオンがちらちらと瞬く中、あまねと野木は並んで歩いていた。
風鈴の音が、ふたりの間の沈黙を埋めるように揺れていた。
「……要は、『文化祭”ごとき”でマジになってるの?』って笑われたことを気にしてるんだな?」
野木が言った。隣で歩くあまねは、徐々に歩幅が小さくなっていた。
「……なんか、馬鹿みたい」
ぽつりと、あまねがつぶやいた。
「私、張り切りすぎてんのかなぁ。もしかして痛い人?」
その声には、いつもの強気な響きがなかった。
野木はしばらく黙って歩いたあと、まっすぐ前を見たまま言った。
「そんなことは絶対ない」
「絶対?」
あまねが少しだけ首を傾げる。
「うん、絶対。だって、頑張ってる奴はみんなかっこいいんだ。だから委員長はかっこいい!」
あまりにも自信満々に言うものだから、あまねは思わず吹き出した。
「……あんたみたいに単純思考だったら、悩まないで済むのかな」
「う〜ん、俺だって悩むときは悩むけど……」
野木は頭をかきながら、少し真面目な顔になった。
「俺、悩むのって大事だと思うけどな」
「……え?」
「……悩むってのはさ、より良い方向へ進むために努力すること、だろ? どうしたら良いかな、って考えて考えて考えて。だから悩める奴は皆んな成長できる」
あまねは少し目を丸くして、それから静かに笑った。
「……そっか」
「……うん、だから悩んでることには悩まないで良いと思う。だから、それを踏まえて言うけど、」
野木はあまねの方にくるりと体を向けて言う。
「委員長は頑張ってるからカッコいい。誰も馬鹿になんてできない。 それでも笑う奴はほっとけば良い。 ああ、頑張れない奴なんだって、こっちが笑ってやるんだ。 だから、委員長はいつも通りいてくれたら良いんだよ」
一言一言が真っ直ぐで、重くて、暖かい。
野木の必死に言う様子が、あまねには輝いて見えた。
少しの間、二人の間を蝉の声が埋める。
遠くで犬の鳴き声がして、夕暮れの空が少しずつ群青に染まっていく。
「……野木のくせにカッコつけんな」
「なぬっ!?」
野木が素っ頓狂な声を上げる。
「今の、褒められた!? え、けなされた?どっち!?」
「あーはいはい、調子乗らないの」
そう言ってあまねは笑いながら野木の肩を軽く叩いた。
その笑顔は、さっきまでの曇りをすっかり吹き飛ばしていた。
少し歩いたあと、あまねがふと立ち止まる。
「……なんか笑えてきた」
空を見上げながら、少し照れくさそうに続ける。
「あ、そうだ。さくらにちゃんと謝らないと。さくらに当たっちゃって、酷いことしたから」
野木は優しくうなずいた。
「うん、それがいいと思う。委員長らしいよ」
その言葉に、あまねは少しだけ口元をほころばせた。
街灯の明かりに照らされた二人の影が、並んで長く伸びていった。




