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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
12/30

12 頑張る奴はかっこいい。

 文化祭の準備もいよいよ大詰め。だが、今日の放課後は少しぎこちない空気が流れていた。

 きっかけはキャストの予定のすれ違い。予定が合わないことに焦ったあまねは、思わずさくらにも強く当たってしまった。

 その後、全員が気まずいまま解散となり、夕方の校舎には沈黙が残っていた。


 ――帰り道。


 商店街のネオンがちらちらと瞬く中、あまねと野木は並んで歩いていた。

 風鈴の音が、ふたりの間の沈黙を埋めるように揺れていた。


「……要は、『文化祭”ごとき”でマジになってるの?』って笑われたことを気にしてるんだな?」

野木が言った。隣で歩くあまねは、徐々に歩幅が小さくなっていた。


「……なんか、馬鹿みたい」

 ぽつりと、あまねがつぶやいた。

「私、張り切りすぎてんのかなぁ。もしかして痛い人?」


 その声には、いつもの強気な響きがなかった。

 野木はしばらく黙って歩いたあと、まっすぐ前を見たまま言った。


「そんなことは絶対ない」


「絶対?」

 あまねが少しだけ首を傾げる。


「うん、絶対。だって、頑張ってる奴はみんなかっこいいんだ。だから委員長はかっこいい!」


 あまりにも自信満々に言うものだから、あまねは思わず吹き出した。

「……あんたみたいに単純思考だったら、悩まないで済むのかな」


「う〜ん、俺だって悩むときは悩むけど……」

 野木は頭をかきながら、少し真面目な顔になった。

「俺、悩むのって大事だと思うけどな」


「……え?」


「……悩むってのはさ、より良い方向へ進むために努力すること、だろ? どうしたら良いかな、って考えて考えて考えて。だから悩める奴は皆んな成長できる」


 あまねは少し目を丸くして、それから静かに笑った。

「……そっか」


「……うん、だから悩んでることには悩まないで良いと思う。だから、それを踏まえて言うけど、」


野木はあまねの方にくるりと体を向けて言う。


「委員長は頑張ってるからカッコいい。誰も馬鹿になんてできない。 それでも笑う奴はほっとけば良い。 ああ、頑張れない奴なんだって、こっちが笑ってやるんだ。 だから、委員長はいつも通りいてくれたら良いんだよ」


 一言一言が真っ直ぐで、重くて、暖かい。

野木の必死に言う様子が、あまねには輝いて見えた。

少しの間、二人の間を蝉の声が埋める。

 遠くで犬の鳴き声がして、夕暮れの空が少しずつ群青に染まっていく。


「……野木のくせにカッコつけんな」


「なぬっ!?」

 野木が素っ頓狂な声を上げる。

「今の、褒められた!? え、けなされた?どっち!?」


「あーはいはい、調子乗らないの」


 そう言ってあまねは笑いながら野木の肩を軽く叩いた。

 その笑顔は、さっきまでの曇りをすっかり吹き飛ばしていた。


 少し歩いたあと、あまねがふと立ち止まる。

「……なんか笑えてきた」

 空を見上げながら、少し照れくさそうに続ける。

「あ、そうだ。さくらにちゃんと謝らないと。さくらに当たっちゃって、酷いことしたから」


 野木は優しくうなずいた。

「うん、それがいいと思う。委員長らしいよ」


 その言葉に、あまねは少しだけ口元をほころばせた。

 街灯の明かりに照らされた二人の影が、並んで長く伸びていった。

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