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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
11/30

11 リーダーだから。

 夏休みのある日。

 学校の教室には、文化祭の準備に励む生徒たちの声が響いていた。

 机の上には絵の具、釘、段ボール、台本。汗ばむ季節に負けないほど、熱気に満ちている――

 はずだった。


 新宮あまねは、ホワイトボードの前で腕を組んでいた。

 ペン先を軽く叩く音が、教室の熱気に混ざる。

 彼女の表情には、いつもの穏やかさがなかった。


「……これで全員の予定が揃わないの、もう何回目?」


 キャストのスケジュール表には、いくつもの×印が並んでいる。

 塾や部活で来られない生徒が多く、練習時間は思うように取れなかった。

 それでも、どうにか全員の時間を合わせようと、あまねは一人一人に連絡を取っていた。


 廊下に出て、キャストの女子に電話をかけた時。

「え〜? その日は無理だよ。塾あるし」

「じゃあ次の日は?」

「その日も。てかさ、文化祭に使ってる時間ないんだよね」


 あまねの中で、何かがぷつりと切れた。


「忙しいのは分かるけど……どうしてキャスト引き受けたの? 練習はしたくないけど、本番には出たいって、それって勝手じゃない?」


「ちょ、なにそんな怒ってるの? 文化祭ごときで、そんなマジになることある?」

 電話越しの笑い声が、あまねの耳を刺した。


「……もういい」

 そう言って、通話を切った。

 画面が暗くなる。胸の奥が焼けるように痛かった。


 教室に戻ると、数人のキャストたちが作業の手を止めてあまねを見た。

 その視線の中には気まずさと、わずかな距離感があった。


 あまねの視線の先には――菊田さくらがいた。

 台本を抱えたまま、少し困ったような顔をしている。


「あの……ごめん、私これから仕事で行かなくちゃ」

 さくらが申し訳なさそうに立ち上がる。


「あんたさ」

 あまねの声が、思わず強くなった。

「主役なんだから、もう少し練習に参加してくれない? 一番登場シーン多いんだから」


 さくらはびくりと肩を震わせた。

「ご、ごめん……」


 あまねはため息をついた。

「……あんたさ、もっと堂々としてよ。自分の意見をちゃんと言って。仕事で抜けることが多いって分かってたなら、周りに勧められても断ってよ。正直、迷惑」


 その言葉に、さくらの瞳が沈んだ。

「……ごめん」

 それだけ言って、さくらは俯いたまま教室を出ていった。


 静寂。

 残された空気は重く、誰も口を開けなかった。

 窓の外から蝉の声だけが、やけに鮮やかに響いていた。


 あまねは胸の奥を押さえた。

(……やっちゃった)

 言いすぎたと分かっていた。

 でも、どうしても抑えられなかった。

 本気で取り組んでいるのは自分だけなんじゃないか。

 自分に任せておけばいいと思われているんじゃないか。

 そんな嫌な思いが、心の中でぐるぐると渦を巻いていた。


 机の上の台本を見つめながら、深く息をつく。

 そのときだった。


「おーい!」

 明るい声が廊下から響いた。

 バスケ部のユニフォーム姿の野木駿介が、コンビニの袋を片手に入ってきた。


「差し入れ〜!ジュースとお菓子! 頑張ってるみんなに届けに来ました〜!」

 教室を見回して、野木の笑顔が少しだけ固まる。

 室内の空気が、重い。


「……え、なにこの空気。お通夜?」

 冗談めかして言うが、誰も笑わなかった。


 あまねは机の上の資料を片付けるように手を動かしながら、小さく言った。

「ありがとう、そこに置いといて」


 その声には、明るさがなかった。

 野木は少し眉をひそめた。


「……委員長、どうした?」


 あまねは答えなかった。

 ただ、顔を上げることもなく、机の上の書類を見つめ続けていた。


 その横顔に、野木は小さく息をついた。

(……ま〜た、何かあったな?)


 外では、夏の陽射しが窓の縁を焼くように照らしていた。

 蝉の声が遠くで響き続けている。

 けれど教室の中は、ひどく静かだった。


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