10 夏祭り!
文化祭の準備に追われている日々。気づけば終業式が近づいていた。
教室には色とりどりのポスターと絵の具の匂いが混じり、すっかり夏の空気が漂っている。
「なあ、夏休み入ったらさ、夏祭り行こうぜ」
放課後の教室で、野木駿介が唐突に言った。
「夏祭り?」とあまねが顔を上げる。
「そうそう!ほら、駅前の神社でやるやつ。屋台めっちゃ出るんだって!」
「楽しそうね」
「でしょ?」と笑う野木に、あまねは呆れながらも少し笑った。
その日の帰り道、あまねは「せっかくだし、さくらも誘ってみよう」と言い出した。
そして、さくらは「じゃあ佐藤君も一緒に!」と嬉しそうに提案し、4人で行くことが決まった。
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そして迎えた夏祭り当日。
「どこ行くんだ?」
出かけようと靴を履いた晴大に、父親が声をかけた。
「友達と、夏祭りに……」
正直に答えた晴大に、父は渋い顔をする。
「遊んでる暇があったら勉強しろ。来年は受験だぞ」
いつもの口調だったが、今日はなぜか堪えた。
「……自分のことは、自分で決めるよ」
小さくそう言って、晴大は玄関を出た。
夜風の匂いが少しだけ胸を軽くした。
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集合場所の神社前。
すでに3人は揃っていた。
「おー、来た来た!」
野木が手を振る。
野木はTシャツにジーンズという動きやすそうな服を着ていた。そして、あまねもラフな普段着というような、黒い半袖のシャツに水色のズボンの組み合わせだ。
そしてその隣には、一際輝いている人間が立っていた。そう、菊田さくらである。
淡い桜柄の浴衣を着て、髪をバレッタで留めている。学校では見たことのない姿に、思わずドキリとする。
「晴大くん、浴衣じゃないんだね!」
「うん……時間が無くて」
「そっか〜。 いつか見てみたいな」
さくらが微笑むと、晴大は一瞬だけ目をそらした。
「何だよ〜イチャイチャしやがって!てか、さくらちゃんの浴衣姿可愛すぎるんだが?」
野木が興奮気味に言う。そしてすぐに、
「委員長も浴衣着れば良かったのに〜」
と口を尖らせた。
「浴衣ねぇ……、あんたに見せる浴衣は無い!」
「……どういうことだよ!?」
訳がわからないという様な野木を軽く肘で小突くあまね。
「いってぇ!委員長、容赦ねぇ!」
「当然でしょ」
さくらがくすくす笑い、晴大もつい小さく笑った。
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夜の神社は、光と音で満ちていた。
りんご飴、焼きそば、金魚すくい。
野木はまるで子どものようにはしゃぎ、あまねはその後ろを呆れながらも追いかける。
「野木、そんなに食べて大丈夫?お腹壊すわよ」
「俺の胃袋は無限大だって!見てろ、次たこ焼きいくぞ!」
「……学習しないわね」
さくらと晴大は少し離れて並んで歩く。
「にぎやかだね」
「うん。でも……こういうの、悪くないね」
晴大の口調は穏やかで、どこか満ち足りたようだった。
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やがて、夜空に大きな音が響いた。
花火が上がる。
4人は少し離れた川沿いに移動して、並んで座った。
色とりどりの光が空を染める。
「なぁ、願いごとしようぜ」
野木が言い出した。
「花火に願いごとって……そういうの、あるんだっけ?」とあまね。
「知らねぇけど!言ったもん勝ちだろ!」
野木は両手を合わせて大声で叫ぶ。
「億万長者になれますよーに!!」
「何だそれ」と小さく笑う晴大。
「ほんとに願う気あるの?」と呆れ顔のあまね。
「あるある!真剣に!」
笑いながら、各々が夜空に咲く満開の花に顔を向けた。
「私は……ずっと健康でいられますように」と手を合わせるあまね。
さくらも、空を見上げて言う。
「これからも、みんなといられますように」
それを聞いた晴大は、ほんの少しだけ目を伏せる。
(僕は……僕の生き方を見守っていてください)
胸の中でそう願い、空を見上げた。
「お?何願ったの?」
野木が興味津々に晴大に近づく。
晴大は少し斜め上を見た後、「秘密」と一言言った。
「えぇ〜〜!?気になる!!」
そう騒ぐ野木に釣られ、あまねやさくらも少し気になっている様子を見せた。
「秘密ったら秘密だ!」
頑なに言う晴大に、思わず皆が吹き出す。
そんな4人の背中を、華やかな煌めきが優しく照らした。




