1 出会い
週一ペースで投稿できたらと思います。
初回だけ2話投稿します。
時々キャラ紹介などを投稿することもあるかもです。
とある高校での物語。
放課後の校舎は、すっかり静けさに包まれていた。
窓の外では初夏の光が傾き、柔らかな風がカーテンを揺らしている。
新しい季節の匂いと、まだ少し残る春のぬくもりが、廊下の空気に溶けていた。
――カツン。
小さな足音が、静寂を揺らした。
その音の主は、菊田さくら。転校の手続きのために学校へ来ていた彼女は、帰り際にふと廊下の端の扉に目をとめた。
『美術室』と書かれたプレート。
なんとなく引かれるように、さくらは扉をそっと開けた。
中からは、絵の具と木の匂い。それに混じって、初夏の風が窓から入り込んでくる。
淡い光がカーテン越しに揺れ、ひとりの男子生徒が静かに筆を動かしていた。
「……あ」
声が漏れた瞬間、彼の手が止まる。
振り向いたその顔は、思ったよりも大人びていて、けれどどこかおっとりしていた。
「ごめんなさい。邪魔しちゃった……?」
「……あ、いえ。大丈夫です」
少し間を置いて、彼――**佐藤晴大**は穏やかに答えた。
その声は柔らかく、静かな美術室によく馴染んでいた。
「すごく……綺麗な絵だね」
「えっと……ありがとうございます」
短い会話。
けれど、言葉の端にお互いの緊張が見え隠れする。
晴大は筆先を見つめながら、心の奥で小さくざわついていた。
――どこかで、見たことがある気がする。
テレビか、雑誌か。それとも広告のポスターだったか。
思い出しかけたその名前を、彼は喉の奥で飲み込んだ。
一方のさくらは、少し頬を赤らめながら絵を見つめていた。
芸能の世界では、いつも「菊田さくら」として扱われる。
けれど、この少年は自分を“誰か特別な人”としてではなく、ただの見知らぬ女子として見ているように感じた。
――なんだか、嬉しいな。
その静かな温かさを胸に、彼女は小さく笑った。
「……じゃあね」
「はい」
短い言葉を残して、扉が閉まる。
再び美術室には、筆と夕陽の音だけが残った。
***
翌朝。
2年2組の教室の扉が開き、担任が一人の転校生を連れて入ってきた。
「今日からこのクラスに転入することになった、菊田さくらさんだ」
ざわめく教室。
誰もがその名を知っていた。人気若手女優――その本人が、自分たちのクラスにいる。
「よろしくお願いします」
笑顔で頭を下げるさくら。その一瞬、教室中が息をのんだ。
しかしその中で、ただ一人だけ反応を変えなかった男子がいた。
佐藤晴大。
昨日、美術室で出会った少年だ。
目が合った。
互いに「あっ」と思ったが、どちらもすぐには言葉にしなかった。
担任が席を指さす。
「菊田は、佐藤の隣の席だな」
「えっ……あ、はい」
さくらは少し戸惑いながらも、教室の奥の方へ歩いていく。
自分の席の隣をちらりと見ると、晴大と視線が合った。
「……よろしく」
「うん、よろしく」
ほんの短い挨拶。
それだけなのに、昨日の夕暮れの光景がふたりの胸にふわりと蘇る。
外では、初夏の風が窓を揺らしていた。
その柔らかな音を背景に、ふたりの物語が静かに動き出す。
初回なので。
〜キャラ紹介〜
菊田さくら→誕生日:4月9日、身長:160cm、外見:黒髪ロング、光に当たると薄茶色に見える瞳
佐藤晴大→誕生日:10月20日、身長:168cm、外見:前髪長め、少し猫背気味




