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俺と異世界最強戦士が入れ替わった結果〜こっちは戦えず、あっちは満員電車  作者: 三來


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05.賢者の謎を探してる俺を誰か応援してくれ

賢者エリアーデの家の中は、混沌の極みにあった。


 床から天井まで積み上げられた、夥しい数のメモの山。紙のメモ書き、木の板、果ては床の石材まで、無数の文字や数字がびっしりと刻まれている。


「うーん……さっぱりだ……」


 半日かけてその知識の山と格闘していた彼方は、ついに音を上げて床に座り込んだ。

 肉体はいざ知らず、慣れない魔法陣や難しい言葉の羅列に、精神的な疲労はとうに限界を迎えている。


(これを暇つぶしでやってたばあちゃんって……)

 ふと、隣で黙々とメモの仕分けを続ける祖母をみつめる。

(やっぱり、すごいよなぁ)


 尊敬のような、呆れのような……そんな、なんとも言えぬ気持ちでシズを見ていた彼方だったが、シズが視線に気がつきこちらに振り向いたところで、慌てて視線を外した。


「疲れたかい?」


 そう聞いてくるシズに対して、同じ作業をしていた祖母に疲れたとは言えない彼方は、誤魔化す為に別の話題を振った。


「いや、疲れたと言うか……あのさ、俺達ってなんでこっちの言葉が普通に読めるのかなって」


 咄嗟に出た疑問だったが、これに関しては割と気になっていたのだ。


「あたしも、不思議に思ってたんだけどねえ」


 シズは手を止め、考え込むように顎に手を当てる。


「この身体の持ち主たちの記憶は、全くない。それなのに、言葉だけは不自由なく使える。……妙な感覚だねえ」

「うん。……贅沢を言うなら、アッシュさんの記憶も知れたらよかったのになあ。そうしたら、もう少しうまく戦えるのに」

「……カナ坊。それは、もしかすると『人様を踏み躙る』ことになっちまわないかい?」


 シズの穏やかな指摘に、彼方はハッとして口をつぐんだ。


 誰であれ、知られたくないことはあるものだ。その考えに至らなかった自分に、少しため息をつきたくなる。


「あーあ、俺って本当に考えなしだなぁ。……やめやめ!! 自分がもっと嫌な奴になりそう」

「そうだよ。話せて読めるだけマシさ。……まあなんだ、パソコンの基本機能みたいなもんだと思っておいたらいいさ」


 彼方の落ち込みを笑って流すシズが、妙に納得感のある例えを言いだした。確かにわかりやすくはあるが、彼方は別の意味でその言葉が気になってしまう。


「ばあちゃん……もしかしてパソコンまで習い出したの?」


 そんな彼方の疑問に答えるように、にひひ笑うシズ。大当たりのようだ。どうやらこの調子だと、ある程度使いこなすぐらいは出来そうである。


(相変わらず多趣味だなぁ、ばあちゃんは。裁縫に、料理に、……そういえば、流行り物は一通りやったって言ってたっけ……)


 彼方はそんな祖母の横顔を眺め一息ついた。すっかり集中力が切れてしまったのだ。

 そんな彼方の様子を見たシズも、どうやら空腹感を覚えたらしい。


「まあ、ちょうどいい頃合いだ。ご飯にしようかね」


 シズはそう言うと、家の貯蔵庫から手際よく食材を取り出し、簡単に食事の準備を始めた。


 しばらく後、彼方に差し出された皿の上に乗っていたのはこの世界では初めて見た干し魚であった。


「わ……魚だ。なんか、すごく久しぶりに食べる気がするよ」

「ほう、そうかい。……こっちじゃ、めずらしいのかねえ?」

「どうだろう。王都は村に比べたら物流があるとは言ってたから、もしかしたら王都だったら買えたのかな」


 ただの相槌のつもりの彼方の言葉に、シズは疑問を持ったようだ。


「……それなら、エリアーデさんって人は、わざわざ王都まで買いに行ったのかねえ? ここまであんたの足で一日かかるんだろう?? それなら、この歳で食料抱えながら帰ってくるのは大変だったろうねぇ」


 香ばしく焼かれた魚を頬張りながら、彼方は確かになと思った。


(それじゃあ、自分でつくったのかな……川魚っぽくはないけど……。もしかして誰かが運んでくれてるとか?)


 そんな答えの出ない謎を考えているうちに、あっという間に食事は終わった。


 腹を満たし、再び調査を再開した数時間後。ついにシズが、一枚の古びた羊皮紙を手に、彼方を呼んだ。


「カナ坊、これを見な」

「何か分かったの!?」


「……『身体交換魔法。偉業のなりそこない。人が研究するには過ぎたもの。これは輝かしい魔法の歴史ではない。我々の愚かさを示す、負の遺産である』……って書いてあるねえ」

「身体の交換……?俺たちとこの二人の身体が交換したってこと??」


 確かに、自分たちに当てはまりそうな魔法の記載である。

 彼方は、さらに詳しい説明を求めたが、残念ながらそれは叶わなかった。


「もしかしたらねえ。だけど、書いてあるのはこれだけだよ。下の部分は破られちまってて、詳しいことは何もわからんねえ」

「そんな……」


 少しの進展に胸が躍ったのも束の間、せっかく見つけた手がかりが早々に行き止まりとなった。


 そこからさらに丸一日かけて研究資料を調べ尽くしたが、残念なことにそれらしいものは何一つ見つからずじまいであった。


「……こりゃあ、もしかしたら、隠してしまったのかもしれないね」


 シズの言葉に、彼方が食いつく。


「隠したって……じゃあ、家のどこかにあるかもってこと?」

「いいや、ちがうさ」


 探そうとする彼方の動きを止めて、シズはわかりやすく言葉を選んで続けた。


「『人には過ぎた研究』って書いてあったろう? そんな危ないもん、残さない方が世のためだろうさ。 エリアーデさんのような頭がいい人が、危険な資料をどこに隠すか。……わからんかい?」

「……もしかして……」

「そうさ。頭の中だよ」


 その言葉は、あまりにも説得力があった。


 自分たちには到底理解しきれないが、長年研究をしていたエリアーデ自身が残さないべきだと思ったのなら、そうなのだろう。


 こうして、彼方とシズがこの場所で入れ替わりの謎を解く、という道は完全に断たれたかに見えた。

 だが、彼方は諦めきれずに動き出す。


「家の中には無いと思うけどねえ」

「……もしかしたら、何かあるかもしれないしさ」


 やんわりと自分を止めるシズの声に、彼方はできるだけ明るい声を出してそう答えた。

 彼方も、都合よく求める答えが得られるとは思っていなかった。だが、何もせずにはいられなかったのだ。


 そして、一時間後。彼方はついに、地下室へと続く床下の隠し扉を発見したのである。


「あった!! あったよ、ばあちゃん!」

「……おやまあ。本当にあるとは」


 二人が薄暗い地下室に降りた。

 その中央に、複雑で幾何学的な模様が描かれた巨大な魔法陣が鎮座している。


「なんだろう、これ……」


 地下室いっぱいの床にかかれたそれを見て、シズはひとつ思い当たったようだ。


「……そういや、意味のわからないメモがあったね」


 そう言うと、急いで一階に戻り、仕分けていたメモの山から一枚の羊皮紙を持ってきた。


「これだよ、これ。カナ坊、見てみな」

「難しい言葉が多すぎるけど……えっと、質量計算、移動距離計算、えーっと、隠蔽工作? 視認阻害? なにこれ」

「なんのことかわからんだろう? でもここ、ほら。『地下地点より王都への移動成功数』ってあるじゃないか」


 シズが指差した先を確認すると、確かにそこには移動の成功を数えていたであろう印が数十個とつけられていた。


「じゃあ、もしかしてこれ、王都へのワープ!?」

「かもしれんよ? ここに書いてる魔法陣が、こいつとおんなじもんならね」


 その言葉を受けて、彼方はじっくりと魔法陣を見比べた。細部まで確認したところ、どうやら同じものらしい。

 それならば移動の魔法陣なのかと納得したところで、彼方は、はっとしたように声を上げた。


「だから、この家に魚があったんだ! これなら王都で食料を調達できるよ……あれ? でも、レオくんはこんなこと、一言も言ってなかったな……」


 彼方の疑問受けて、シズがやれやれと首を振る。


「よっぽどの変わり者か、用心深い人だったんだろうねえ。王家ですら、この通路のことは知らなかったのかもしれないよ」


 あり得ない話ではなかった。なにせ、こんな人里離れた森に住むような人だ。

 もしかしたら、誰のことも信用していなかったのかもしれない。


「でも、この隠蔽工作とか視認阻害って、なんのことだろうね」

「彼方、なんかわからんのかい?」

「うーん。隠してバレないようにするってことだから……移動した俺たちを隠すのかな? あ、いやそれだと王都に着いた後で困るか」

「そうだねえ。それじゃあ、人じゃなくて、この家そのものかもしれないねえ。こんだけ魔法の研究成果がある家だ。留守中に誰にも見つからないように守っていても、おかしくないさ」

「そっちの方が納得いくかも……」


 エリアーデの真の人柄はわからないが、繋ぎ合わせると、それが一番納得のいく答えだった。が、途端にニコニコと笑い出したシズに、彼方は嫌な予感がした。


「もしかしてだけどさ。ばあちゃん、一緒に王都に来る気でしょ」

「おや、バレたかい」

「やっぱり……」


 彼方は奇妙な共犯者であるレオ陛下を思い、ため息を吐いた。

 一人で行こうが二人で行こうが報告の内容は変わらないが、この豪胆な祖母をレオ陛下に会わせたら驚かせてしまいそうだと思ったのだ。

 

「……レオ陛下、受け入れてくれるかなぁ」

「大丈夫さきっと。少なくとも、カナ坊よりは肝が座ってそうだし」


 シズは悪戯っぽく笑い、先に魔法陣の中央に立った。

 その頼もしすぎる背中を見て、彼方も覚悟を決める。だが、最後の最後で、根本的な問題に気がついた。


「待って、ばあちゃん! この魔法陣、どうやって動かすんだよ! 俺たち、魔力を使うなんてできないんじゃ……」


 彼方が言い終わるより早く、シズが魔法陣の中央にある石を踏みつけた。

 その瞬間、魔法陣がまばゆい光を放ち、二人の身体がふわりと浮き上がる。


「え……?」


 視界が真っ白に染まり、次の瞬間には、全く違う場所に立っていた。

 ひんやりとした石の感触、微かに聞こえる水の音。そこは、明らかにエリアーデの家の中ではなかった。


「……転移、できてる……!?」


 魔力もないはずの自分たちが、なぜ。

 驚きに目を見開く彼方の隣で、シズは目を輝かせていたのだった。



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