序章
お初にお目にかかります。煉と申す者です。
ミステリ・推理モノのジャンルを書き綴らせて頂きます。
私自身の人生経験は決して豊富ではありませんので、
至らない点や表現が甘い・足りない部分が出てしまうこともあるかと思います。
ですが、そうしたコトを踏まえた上でこの作品を読んで頂けたら
これ以上嬉しいことはありません。
この作品のテーマは『疑惑』です。
人は疑に囚われるとあまりに脆い。
そんな心理描写をメインに書けたらと思っています。それでは。
『来週は豪雨になる事が予想されます。
気象庁から大雨洪水警報が出される恐れもありますので、
お出かけの方は十分にご注意下さい。』
「・・・ここもちょっと危ないかな?」
テレビから流れる天気予報に目を向けながら、一人の女性がそう呟く。
彼女はこの旅館に勤める支配人代理。
お昼休みの今は、彼女専用の部屋で寛ぎながらテレビと軽い昼食。これが日課だ。
今週はお客の予約も少なく、来週は全然。
普段から真面目・誠実と言われている彼女も、そうした時はちょっとだらけてしまう。
しかしその空気を周りに見せることはまずない。
こうして自分しかいない空間だからこそ、彼女は本心を見せるのだ。
・・・そう、彼女は人を全く信用していなかった。
幼い頃両親が亡くなってから親戚中をたらい回しにされ、あげく施設行き。
十八歳になる頃に、施設を出てこの旅館で住み込みとして働いていた。
更に追い討ちをかけるように、そんな彼女の過去に仲居達が無遠慮なくらいに興味津々。
そして体目的で彼女と親しくなろうとする支配人。
気が付けば彼女は、人をまず疑い、全ての疑惑が晴れても尚疑う程人間不信となっていた。
齢二十八ともなると、もう早々戻らない。彼女はそんな自分自身を完全に受け入れている。
「アイツ、いい加減下心無しで話せないのかよ。」
ついぼやく。彼女の言うアイツとは、上司にあたる支配人のことである。
「あの手、いつかチョン切ってやる。」
彼女がブツブツと独りで愚痴を呟き始めた丁度その時だった。
-コンコン-
「代理、ちょっと良いですかねー?」
軽くドアをノックされた後、聞き覚えのある声。
彼女は意外な人物の訪問に少々焦りながらも応じる。
「料理長ですか?構いません、どうぞ。」
そうして開けたドアの先には、今の今まで調理をしていたような臭いを連れてきた料理長。
「すみませんねぇお休み中に。」
「気にしないで下さい。それより用件は?」
中へ招き入れながら、彼女は出来るだけ手短に済ませたいという気持ちを込めつつ聞く。
「いや、実は支配人に通して欲しいお願いがあるのですが・・・。」
「支配人に?何でしょう?」
”支配人”という言葉を聞いて若干苛立つ。しかし己の中にそれを圧し留め、次を促す。
「実は来週、ここを貸切にして頂きたいんです。
無論、貸切に相応しい金額は用意出来ます。」
「は、はぁ・・。貸切ですか?」
現状、来週の予約は入っていない為、貸切そのものは問題無いだろう。
しかしこの旅館、実は今まで貸切にした事が無いのである。
「初の試みである為、どうにも直接支配人に伺うのはやり辛いんですよ。
代理から何とか話を通してもらえませんか?」
頼みます!と同時に頭を下げられる。彼女としては、疑う部分がまだ少なく、普段から自分に
優しくしてくれる料理長のお願いということもあり、無闇に断れなかった。
結果としてそのお願いを引き受け、詳細を聞いた後、支配人の下へ赴く彼女。
来週の自分も、いつも通りであると思い込んだまま―――――――――。