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20-2・崖のある採石場~セラフvsジャンヌ

-数時間後-


 麻由が、紅葉に不思議な依頼をしてきた。「変身後の自分セラフの姿をスマホの動画で撮影してくれ」と言うのだ。紅葉は言われた通りに撮影する。セラフは、しばらくはスマホに向かって直立していたが、そのうち、横を向いたり、後ろを向いたり、その場で動き回って、撮影を終えたあとは、変身を解除して、スマホで撮影した動画を何度も見ていた。


「マユが自分の移った動画をタンノーするような、

 ナルシストだとゎ思わなかったなぁ~」

「自分の姿に見惚れているわけではありませんっ!」




-PM7時・屋上-


 緊張した面持ちの麻由を中心にして、立会人の紅葉&美穂&真奈&バルミィが、一足早く屋上に来て待機をする。麻由とジャンヌには、妨害抜きで存分に戦ってもらう予定だが、もしジャンヌが麻由の命を奪おうとした時は、真奈の命令権でジャンヌを止めるつもりだ。それが、卑怯と罵られる行為だとしても、キッパリと割り切っている。


 塔屋の階段を上に向かって踏む足音が聞こえてくる。扉が開き、凜とした表情のジャンヌが現れた。周囲を見回したあと、麻由を見つめる。


「全員集合というわけですか?」

「あたし達は立ち会うだけ!戦うのは、あくまでも、麻由とアンタだ!」

「承知しました。貴殿等の事は、信用に値すると判断しています。

 天の巫女よ!我が願いを汲み、一騎打ちに応じてくれた事、感謝します!」

「こ、こちらこそ・・・え~~と・・・あの・・・お招きいただいて・・・・」


「ありゃ!マズい!セートカイチョーさんがカチカチになっちゃったばるっ!」

「このまま戦ったら、相手ペースに載せられて、即ヘタレるな。

 なんの為に、半日近くかけて気持ちを作ったんだか?

 ・・・やれやれ、世話が焼ける」


 美穂は両手で麻由の両側頭部をつかみ、自分のおでこを麻由のおでこにコツンと軽くぶつける。


「いいか、麻由?オマエがザコ妖怪相手にヘタレても、あたしは気にしてない。

 団体戦でヘマしても、いくらでもサポートする。

 だけど、戦うべき戦いからは絶対に逃げるな!有りっ丈の力で戦え!

 体で戦うんじゃない!魂で戦うんだ!

 それができなきゃ、オマエは自分の中の一番大事なもんを見失う事になるぞ!」

「・・・わ、解りました!」


 麻由は腹を括り直す。美穂が麻由の眼を見て離れたら、今度は真奈が麻由に寄ってきた。


「あの・・・優麗祭の時、勝手にゲリラライブをやった事、

 まだ、ちゃんと謝れてなかったね。

 麻由ちゃん達の努力を台無しにしてゴメンナサイ。

 ・・・でも、私、後悔はしてないよ」

「その事ですか。

 もう気にしていないと言えば嘘になりますが、あの一件は勉強になりました。

 熊谷さんが自信を持ってやった行動なら、私に謝罪する必要はありませんよ」

「それから、同じクラスの結城くんと風見くんは、

 麻由ちゃんの事が好きって噂だよ」

「・・・・はぁ?そ、そうなんですか?それは知りませんでした」

「あと、え~~と・・・またテスト前になったら、数学と化学、教えてね」


 紅葉&美穂&バルは「なんで今それ言う?」と、目を点にして真奈を見ている。開いた口が塞がらない。

 だけど、真奈を見て微笑んだ麻由の表情は自信に満ちている。久しぶりに見た“優等生な葛城生徒会長”の笑顔だ。

 もう、麻由には緊張も迷いも無い。活きた眼をしてジャンヌの前に進み出る。

 ジャンヌは懐中時計を握りしめて魔力を込めた。すると、ジャンヌと麻由の間に、鎧を着込んだユニコーンが現れる。ジャンヌはユニコーンの背に跨がり、麻由に向かって手を差し出した。


「後ろに乗って下さい」

「・・・え?」

「此処(屋上)はあくまでも、待ち合わせの為に指定しただけ。

 戦場にするには狭すぎる。場所を移動しますよ」


 麻由はジャンヌの申し出に応じて、差し出された手を掴んでユニコーンに跨がる。ジャンヌは、麻由がシッカリと掴まった事を確認すると、気勢を上げてユニコーンを走らせた!ユニコーンは屋上から飛び上がり、空を駆けてジャンヌが目指す決戦場に向かう!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!」×4


 紅葉&美穂&バル&真奈はしばらくはボケーッと眺めていたが、我に返って慌てる。てっきり、屋上で戦うと思っていたのに、立会人放置で別の場所に行ってしまった!しかも、場所を言わなかったから、どこに行けば良いのか解らない。




-文架市街地付近の切り立った崖がある採石場-


 麻由とジャンヌが、ユニコーンから降りて、間合いを空けて立つ!ジャンヌが、丹田に力を込めて気合いを発したら、首からぶら下げた懐中時計が反応をして冥い光を放つ!麻由はHスマフォ画面に指で『ベルト』となぞって「天」の文字をタップ!


「マスクドチェンジ!!」 「幻装!!」


 ジャンヌの全身が発光をして青銀のプレートアーマーで覆われ、マスクド・ジャンヌ変身完了!

 麻由の背中に光の翼が出現をして全身を包み、中から、聖幻ファイターセラフが出現!


 マスクドジャンヌはフィエルボワソードを、セラフは静薙刀を装備!互いに向かって突進をして、切っ先同士をぶつける!互いに衝撃に弾かれて半歩ほど後退!しかし、薙刀を持つセラフよりも、剣を持つマスクドジャンヌの方が身軽で切り返しが早い!素早く体勢を立て直して踏み込み、剣を振り下ろす!セラフは更に1歩後退しつつ、薙刀の束でジャンヌの切っ先を弾いて防御!その後しばらくは、ジャンヌが攻撃をしてセラフが防御をする、一方的な攻防戦が続いた!


「リーチの短い剣では、貴殿の和長刀の懐には飛び込めぬか・・・ならば!」


 マスクドジャンヌは数歩後退をして間合いを空け、剣を腰の鞘に納刀し、旗の付いた槍=オラクルフラッグを出現させて装備する!

 闘志の乗った突きが、セラフ目掛けて繰り出される!セラフは少しずつ後退をしながら、オラクルフラッグの穂先に意識を集中して、薙刀の先端で叩き回避を続ける!

 幾重の撃ち合いの後、共に間合いを空けて体勢を整え、ジャンヌがセラフを睨み付けた!


「どういうつもりだ?

 私には、貴殿が意図的に防御しかしていないように見えるのだが?」

「さぁ・・・どうでしょうね?

 それ(手の内)を説明するほど私はマヌケではありません。

 良い機会なので、アナタに聞きたい事があります」

「・・・ん?なんだ?」

「600年も前の伝承なので、正確ではないのでしょうが、

 アナタの役目は、オルレアンと奪還と王の戴冠で、

 終わっていたのではないですか?」

「・・・なに?」

「王の戴冠後のアナタは、しだいに宮中で孤立をしていく事になりましたね。

 その件について、アナタは、どうお考えなのですか?」


 農夫の娘・ジャンヌダルクは、神の啓示に従って決起をして、オルレアンの奪還をして敗北寸前だった故郷を救い、シャルル7世を国王として戴冠させる事に成功した。その後、国王が現状で満足して領土の更なる奪還を望まず、アルマニャック派(国王やジャンヌの派閥)とブルゴーニュ派(フランス国内の対立派閥、イングランドと協力)の間で和睦交渉が始まった。しかし、政治的バランスに疎いジャンヌは、「フランス国内からのイングランド軍の完全撤退」「アルマニャック派の完全勝利」を主張して、国王側近たちとの対立をして、次第に宮中で孤立していく。

 当時の捕虜は、身代金を支払って、身柄の引渡しを要求するのが普通だった。しかし、捕らえられたジャンヌは、「派閥内の邪魔者」「騎士道を知らない田舎者」「たかが農夫の娘」だった為、母国から見捨てられた。


「ぐぅぅぅ・・・貴殿は私が悪いと・・・だから孤立したと・・・

 私を見捨てた王家が正しいと・・・そう言いたいのか!?」

「国王が正しいと思っていません!

 ですが、アナタ自身、孤立したにも係わらず、

 行軍を強行した事実に気付いたのではありませんか?」


 ジャンヌは、狼狽えながら数歩後退して、セラフを睨み付ける!


「ふ、ふざけるな!私は王家に尽くした!

 だが、王家は捕虜になった私の身柄を放置した!

 私は神の啓示に従った!だが、神からの救済は無かった!

 ・・・その結果が、屈辱の火刑だ!

 キサマは、私が悪いと、私が愚かだと言い捨てるか!?」

「そうは言いません!アナタの人生には同情をしています!

 ですが、アナタには、もっと早くに立ち止まれる時が、あったはずなのです!」

「それが、神の言い訳かぁぁっ!!私を愚かと罵るかぁぁっっ!!

 やはり神だけは許す事はできないっっ!!!」

「話を聞いて下さい、ジャンヌ!!」

「問答・・・無用だぁぁっっっっ!!!」


 ジャンヌはオラクルフラッグを構え直して突進を開始!旗にジャンヌの攻撃的意志が伝わり、今まで以上に強大な魔力が感じられる!セラフは素早く数歩後退しつつHスマホを取り出して、画面に「セラフ」と書き込んだ!Hスマホが光り輝いて一時的にジャンヌの視界を遮り、セラフの前に理力によって作られたセラフが2人出現をする!3人のセラフがジャンヌを囲んで、同時に突進を開始!


「くっ!分身だと!?

 のろくさと防御に徹していた事には違和感があったが・・・

 これが貴殿の策だったか!!?・・・だが、甘いっ!!」


 ジャンヌは3人のセラフを見回し、正面と左側から突進してくるセラフを無視して、右側から攻めてくるセラフのみに狙いを定めて突進をして、オラクルフラッグの穂先を向ける!旗にジャンヌの渾身の魔力が込められる!テュエ・ディユ・セルパン(神殺しの蛇)を放つ為の魔力が、オラクルの旗に蓄積される!


「言葉で私の神経を逆撫でして冷静さを失わせるつもりだろうが、そうはいかぬ!

 キサマがどんな言葉を用いようと、私のキサマを倒す意志は変わらぬ!

 完成度の低いコピーに惑わされるほど、私は逆上をしておらぬっ!!」


 ジャンヌが指摘した通り、ジャンヌに無視された2体のセラフは、ジャンヌが狙っているセラフと比べると、プロテクターの意匠が大雑把で、冷静に見れば偽物と判別可能だ!


「・・・くっ!」


 ジャンヌの奥義・テュエ・ディユ・セルパンは近距離~中距離の広範囲で、最大の破壊力を発揮する!そして、互いに突進をしていたセラフとジャンヌの距離は射程圏内!


「はぁぁぁっっっっっっ!!

 喰らえっ!神への復讐の為に、研ぎ澄ませた一撃を!!」


 セラフはダメージ覚悟でジャンヌの懐に飛び込み、静薙刀を振るってオラクルフラッグの先端を弾き、素早くオラクルフラッグの穂先とは逆側に避けた!次の瞬間、セラフにとっては忌まわしき奥義、テュエ・ディユ・セルパンが発動!旗から蛇のように伸る光が発射され、紙一重でセラフの真横を通過して空に伸びていく!


「発射方向をずらして、外したか?」

「い、一か八かでしたが、上手くいったようですね!」

「フン!思っていたより勇敢だな!・・・だが、甘い!!」

「・・・え!?」

「こんな簡単に攻略できるような技を、奥義とは言わぬ!

 我が蛇は、標的のハラワタを食うまでは消えぬ!」


 ジャンヌが気合いを込めて念じると、空に伸びた蛇のような光が大きく弧を描いて軌道を変え、再度、セラフ目掛けて襲いかかる!振り返って、光の蛇に対して構えるセラフ!ジャンヌは、オラクルの旗の先端をセラフに向けたまま、数歩後退をした!


「連続発射を想定しなかったか!?」


 オラクルの旗が輝き、2発目のテュエ・ディユ・セルパンが発射された!セラフの正面と背後から、蛇のように伸びる光が襲いかかる!セラフは為す術も無く、腹と背中にテュエ・ディユ・セルパンの直撃を喰らった!同時に、2体のセラフのコピーが、形を維持できなくなって消滅をする!・・・が、その直後、ジャンヌの奥義を喰らったセラフも消滅をする!


「・・・なにっ!?全て・・・分身?ならば本体は!!?」


 麻由は、スマフォで撮影した自分セラフを何度も見ていた。あれは、本物と思い込ませる1体を作る為に、自分自身の外見と動きをチェックしていたのだ。目的は、分身で攻撃をする為ではなく、接近戦を演出して、大きく間合いを空けた本体の存在を気付かせない為!


 ジャンヌから大きく離れた場所に、弓に矢を番えたセラフが立っている!矢には、限界いっぱいの理力が注がれて「バチバチバチッ」と放電をしている!

 セラフはハナっから、この攻撃タイミングを狙っていた!接近戦が苦手な事は百も承知している!ロングレンジを狙って間合いを空けることなど、ジャンヌが許すわけがない!だからこそ、苦手な接近戦をアピールをした!分身を3体用意して、2体は意図的に完成度を低くして、完成度の高い1体が本体であると錯覚させたうえで、接近戦を続けるフリをした!全ては、その間に間合いを空け、渾身の一射を放つ為に!


「行けええええええええええええええええっ!!!!」


 セラフは、弓を引き、弦を目一杯に引き絞って、夜空に向けて矢を放った!勢い良く飛んだ光の矢が、ジャンヌの頭上高い場所で広がって黄金色の曼荼羅を形成!【天の曼荼羅・法雨】発動!大量の光の刃が、ジャンヌ目掛けて豪雨の如く押し寄せてきた!


「チィィィッ!まずいっ!!」


 ジャンヌは天から降り注ぐ迫力を目にして冷や汗を流す!直撃を受ければ、肉体を維持できなくなる!攻撃範囲が広すぎて逃げ場は無い!


「だ、だが・・・真上から来る数発だけを凌ぐ事ができればっ!!」


 腰を落として、両足を広げて精一杯踏ん張らせ、頭上高く掲げたオラクルフラッグに、有りっ丈の魔力を込める!旗が輝いて膨大な魔力を放出する!

 次の瞬間、聖なる光の雨がジャンヌに降り注いだ!真上から振ってくる光の雨は魔力の傘で掻き消され、傘から外れた光の雨はジャンヌの周りの地面に叩き付けられて、光の余波がジャンヌの体を灼く!


「ぐぅぅぅぅ・・・直撃せずとも体力が奪われる!

 このままでは我が魔力が保たない・・・

 い、いや・・・保たせる!

 これが天の巫女の最大の攻撃を見た!これさえ凌げば、勝てるっ!!」


 やがて、ジャンヌにはとても長く感じられた数秒間が終わり、光の大瀑布が周囲から消え、辺りは静寂に包まれる。地面にガックリと膝を付き、肩で息をしながら呼吸を整えるジャンヌ。

 これほどの大技を発動させた天の巫女は賞賛に値する。2度目の生を掛けて戦う価値の有る戦士だった。だが、そんな戦いもこれで終わる。これほどの大技を撃てば、天の巫女はガス欠になるはずだ。


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