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20-1・ジャンヌの怒り~麻由は自信喪失~老婆の優しさ

 マスクドジャンヌが、たった一撃で化提灯を追い払った。凜としたジャンヌの勇姿を、セラフ(麻由)は息を飲んで見つめる。


 しかし様子がおかしい。マスクドジャンヌは、急に脱力をして地に片膝を落とす。大技を発動させたとは言え、体力が尽きるには早すぎる。


(命令権で強制的に動かされたとしても、

 私の意志が契約から遠ざかれば、肉体の維持は困難ということか?)


 妖怪の撃退は、「ジャンヌの意志」ではなく、マスターに「命令された」事にすれば、目的を逸脱した事には成らないと考えたが、甘かったようだ。少なからずジャンヌの意志が関与した行動だった為に、「目的の逸脱」として肉体の維持に影響が出てしまった。


 セラフが、マスクドジャンヌの体を支えようと手を伸ばすが、足元をふらつかせながら立ち上がり、槍を振るってセラフを退ける!


「さ、さわるなっ!」

「きゃぁっ!」


 セラフはバランスを崩して尻もちをつく。ジャンヌの雰囲気が颯爽と登場した直後と違い、セラフは戸惑ってしまう。


「勘違いをするな!私は、貴殿を助けたわけではない」

「わ、わかっています!・・・だけど、なんで?」

「その質問に、私が答える義務は無い!」


 ジャンヌは虚脱感の収まりを感じる。自身の中にある憎悪を焚き付けた事で、契約が続行をされたようだ。内心では安堵をするが、セラフの前では厳しい表情を崩さない。


「貴殿は、何故、戦おうとしない?」

「そ、それは・・・あの妖怪が、こうお婆さんの・・・」

「こうさんを生かす為に闇の生命を放置したと?

 愚かなっ!それが、神の血族の道理とでも言うのか?

 神は、世界中の“死が付きまとう全ての者”に、手を差し延べるつもりなのか?

 だったら、何故、私を見捨てた!

 何故、あの日(火刑にされた日)、私には手を差し延べなかった!?」

「そ、それは、私では!!」

「貴殿はあずかり知らぬ事!その程度は百も承知している!

 その上で、神の道理を問うている!」

「もし、アナタの生きた時代に私が存在をしていれば、

 私はアナタの事だって・・・」


 その瞬間、マスクドジャンヌの仮面の下でジャンヌの目がつり上がり、髪の毛が逆立つほどに怒りが満ちる!


「思い上がるなっ!!」


 ジャンヌはセラフの言葉に激高し、槍を廻して柄の部分でセラフを思い切り殴った!だが、一撃をくれただけでは、まるで気は晴れない!怒りに身を任せて、数発の穂先や石突きをセラフの全身に叩き込む!セラフは、無抵抗のまま弾き飛ばされ、無様に地面を転がった!


「うわぁぁっっっ!」


 変身が強制解除をされて麻由の姿に戻ってしまう。麻由は、自分の行動が間違っている事も、何もできていない事も、ジャンヌに言おうとした事がその場しのぎだという事も、全て解っている。だから、ただ俯くだけ。何一つ抵抗をできない。

 一方のジャンヌは、麻由を打ちのめしても怒りが収まらない。むしろ逆に、怒りが込み上げてくる。


「何故、抵抗をしない!?フヌケがっ!これが、神の血族か!?」


 マスクドジャンヌは、腹いせに、もう一度、今度は生身の麻由を叩こうと突進する・・・が、上空から光弾が飛んで来て、足元に着弾!咄嗟に数歩後退をして、光弾の飛んで来た方向を睨み付ける!上空から、ハイアーマードバルミィが猛スピードで接近をしてきて、麻由を庇うようにして、ジャンヌの前に立つ!


「こういう事だったばるか!?

 話が解る奴だと思ったのは、ボクの勘違いだったばるっ!」

「・・・チィィ!」

「オマエ、調子の良い事言って、ハナっから邪魔が入らないところで、

 セートカイチョーさんを倒すつもりだったばるねっ!」

「だったら、何だと言うのです!?」

「真奈の命令でオマエを自決・・・いや、そんな必要無い!

 ボクがオマエを倒すばるっ!」


 睨み合うバルミィとマスクドジャンヌ!しかしジャンヌは、しばらくして、ヘタレている麻由に視線を向けて、舌打ちをして構えを解き、変身を解除した。


「不愉快だ・・・私は帰る!

 生憎だが、私が雌雄を決したいのは貴殿ではない」


 ジャンヌは麻由を睨み付けた後、踵を返し、指を鳴らして合図をして、甲冑に身を包んだユニコーンを呼び寄せた。


「ま、待ってください!私に不満があるなら・・・」


 ジャンヌを呼び止める麻由。ジャンヌは、ユニコーンを撫でながら半身だけ振り返って呟く。その表情は、先ほどまでの敵意剥き出しとは違い、少し寂しそうに見える。


「天の巫女よ・・・私には、もはや、貴殿と戦う以外の拠り所は無い。

 せっかく2度目の生を得たのに、何も得られずに消えたくはない。

 貴殿が神の血族であるならば、詭弁ではなく、他者の言葉でもなく、

 私の1度目の死と、2度目の生に、何の意味があるのか示して欲しい」


 ジャンヌはそれ以上は語らず、ユニコーンに跨がってバイクに変身させて、戦場から離れていく。

 この世を焼き尽くして、焼死体の山を手土産に天国に乗り込んで神を焼き殺す事が、肉体を得た後の望みだった。だが、現世の民は、処刑場に向かうジャンヌを嘲笑った民とは違う。無関係の民を焼く事に抵抗を感じる。

 天の巫女と闇の住人を殺す事が、肉体を得る為の契約だった。しかし、闇の住人を憎む事はできない。

 心が穏やかになると肉体が朽ちてしまう。だから、神を灼き尽くす目的と、天の巫女を殺す契約を拠り所にして、どうにか肉体を維持するしかない。麻由を恨む事でしか、自分を存続できない。


「私は、あと何日、生きられる?」


 2度目の生に執着をする気は無いが、神は自分に何を望んだのか、1度目の死では見付けられなかった答えは欲しい。


 麻由は、去って行くジャンヌの後ろ姿を、黙って眺め続けている。その表情は、今にも泣き出しそうなほどに弱々しい。

 バルミィは気付いていた。この因縁に自分が割って入ってジャンヌを倒すのは可能だろうけど、それでは何も解決できない。この先、麻由が復活できるのか、ヘタレたままなのかは解らない。ジャンヌが恨みを晴らすのか、麻由が勝つのかも解らない。だけど、どう転がるにせよ、麻由とジャンヌで決着を付けなければ、どちらも浮かばれないように思える。


「麻由・・・多分、キミじゃなきゃ、ジャンヌダルクは救えないばるよ」


 バルミィは、自信なさそうに、背中を小さく丸めている麻由の後ろ姿に、小声でポツリと呟くのだった。




-翌朝・美穂の病室-


「え~~~~~~っっ!!!私がっ!!?」


 美穂の病室に、麻由の驚嘆の声が響き渡る。紅葉&真奈も驚いている。バルミィは同意をして深く頷く。


「結論から言えば、麻由が戦うしか無い!

 理由は解らないけど、ジャンヌは麻由と戦いを臨んでいる!

 あたしと紅葉とバルミィは、ジャンヌからするとお呼びじゃない!

 オマエ(麻由)は、ジャンヌを嫌っていたはずだ!

 2人で精一杯ぶつかって、モヤモヤしたもん吐き出してこい!

 へタレっぱなしのオマエに『化提灯を倒せ』って言うよりはマシだろ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・わ、わかりました。」


「それなら、早く戦った方がィィねっ!

 よし、マユ!ジャンヌに果たし状を書こうっ!」

「・・・はぁ?」×3

「ん~~~~~~~・・・内容ゎ、そぅだなぁ~~。

 今日の夕方の6時に、駅東口のライオンちゃんの噴水のところに来て下さい!

 待っているから絶対に来てね!・・・で、どうかな?」

「ん?紅葉ちゃんは、麻由に『ジャンヌをデートに誘え』と言ってるのかな?」

「果たし状って、そんなフレンドリーな文章で良いばるか?」

「・・・ていうか、果たし状なんて要らねーだろ!?」

「ん~~~~・・・そっかぁ~・・・書かないのかぁ~~~。

 よし、だったら、直接言ぃに行こおっ!行くょっ、マユ!」

「く、紅葉っ!・・・ちょ、待ってっ!」

「ケットーの時間は、6時がイイ?7時がイイ?もっと早いほうがイイ?」

「いやっ、あのっ!まだ心の準備が全く・・・」


 紅葉は麻由の腕を引いて、病室から出て行ってしまう。残された美穂&真奈&バルミィは、呆気に取られた表情で、開けっ放しにされた病室の扉を見つめる。


「慌ただしいなぁ、もう!」

「相変わらず、せっかちばるね~!」

「でも、まぁ・・・さすがに今回は、麻由ちゃんが拒否るよ」


 紅葉が、麻由の腕を強引に引っ張って、足早に階段を駆け下りていく。しかし、ジャンヌの病室がある階層まで降りたところで、麻由は紅葉の手を振り切った。昨日の場合は、紅葉の強引さが、悩んでる麻由を後押しする形になったけど、今回はそういうワケにはいかない。

 美穂に言われて、ジャンヌと戦う事に一定の納得はしたが、直ぐに戦いのテンションに切り替えられるほど割り切った性格ではない。何よりも、今はまだジャンヌに会いたくないし、同室のこうお婆ちゃんと、どんな顔をして会えば良いかも解らない。


「んぁ?行かないの?」

「待って下さい!まだ、心の準備ができていません!」

「準備?そんなの無くたってィィよぉ!

 ケットー申し込んでから心の準備をすればィィぢゃん!」

「良いワケ無いでしょう!

 申し込む側が気持ちが浮ついてるなんて、聞いた事がありません!」

「ん~~~~~~?それっておかしくね?

 マユの言うのが正しいなら、マユゎ心の準備してるけど、

 ジャンヌゎなんにも準備してないって事だょね?

 スッゲ~不公平ぢゃね?マユもジャンヌも心の準備してない方が公平ぢゃん!」


 紅葉の言い分は、もの凄く正論だ・・・が、絶対にオカシイ。決闘を申し込む側が「まだ戸惑っている」なんて聞いた事が無い。でも、公平って意味では正論なので反論ができない。確かに“果たし状”や“決闘を申し込む”の時点で、誘った方は気持ちを含めて色々と準備できていて、誘われた方は誘った方のペースに乗らなきゃ成らないので、とても不公平な状況が発生をしている。まさか、舌っ足らずな紅葉に、もの凄く理不尽な正論で論破されるなんて思ってもいなかった。


「わ、解りました!

 では、紅葉が一人で行って、時間と場所を決めて下さい。

 そうすれば、公平になりますよね?」

「マユゎ行かなぃのぉ?」

「行きませんっ!紅葉はデリカシーが無さ過ぎます!」

「でりかしぃ?ん~~・・・『行かない』んぢゃなくて、行きたくないの?」

「は・・・はい、ものすごく・・・・・・・・・・行きたく・・・ありません」

「ん~~~~~~~~~・・・そっか、行きたくないんだ?

 だったら、最初からそう言えばィィのにっ」

「最初から言っています!」

「そっかぁ~。んぢゃ、時間と場所を決めてくるから、部屋で待っててね」


 紅葉が1人でジャンヌの病室に向かっていく。麻由は、「部屋で待ってて」と言われたが、1人で部屋の戻るのは、如何にも度胸が無くて逃げてきたみたいで恥ずかしい。身近にある適当なソファに腰を下ろして、紅葉が話を付けて帰ってくるのを待つ事にした。




-ジャンヌの病室-


 紅葉が元気よく挨拶をして室内に踏み込む!


「たぁのぉもぉ~~~~!!」


 室内にいたジャンヌやこう婆ちゃんや他の患者達は何事かと呆気に取られるが、紅葉はお構い無しにジャンヌに寄っていく。


「ジャンヌー!ケットー申し込みに来たぞぉ~!やるなら何時がィィ?」

「はぁ?」

「マユがジャンヌと戦う事にしたから、時間と場所を決めに来たのぉっ!」


 ジャンヌからすれば、願ったり叶ったりな申し出だ。


「そうですか・・・礼を言います」


 ジャンヌは、穏やかな表情で丁寧に頭を下げる。


「んぁ?・・・あの、ジャンヌ?昨日ゎスゴく怒ってたの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「バルミィに、麻由がジャンヌにボッコボコにされたって聞いたから」

「事実と言えば事実です。

 今の私では、彼女を憎む事でしか、私自身を維持できないのです」


 紅葉にはジャンヌの言い分はよく理解できなかったが、ジャンヌが悪人では無い事は把握できた。


「おはよう、紅葉ちゃん」

「あっ!おはよー、コウ婆ちゃん!」


 紅葉とジャンヌが話していたら、こう婆ちゃんが寄ってきて挨拶をした。物騒な挨拶をしながら入ってきたので、しばらくは様子を見ていたが、いつもと変わらない紅葉だったので、老婆もいつも通りに接する。


「おや?今日は紅葉ちゃんだけ?麻由ちゃんは?」

「ん~・・・今日ゎちょっとこないかな~」

「そうなの?また、喧嘩でもしちゃった?」

「えぇ?なんで、そう思ぅの?」

「だって昨日の夜、ジャンヌちゃん、寂しそうなお顔で帰ってきたからね」

「えぇっ!ジャンヌ、寂しかったの?」

「そ、そんな表情をしたつもりはなかったのだが・・・」

「また3人で仲良くできると良いわね」


 老婆は、紅葉とジャンヌに蜜柑を一つずつ渡してから、ゆっくりとした足取りで廊下に向かって歩き出す。


「コウ婆ちゃん、どこ行くの?」

「ちょっとお散歩よ。

 紅葉ちゃん達と仲良くなってから、すっかり元気になってね、

 今日は、病院内くらいは歩いても良いって、先生から許可をもらったの」

「そっかぁ~。ァタシ、付いていこっか?」

「大丈夫よ。紅葉ちゃんは、ここでジャンヌちゃんとお話ししていてね」


 実際に老婆は、初めてジャンヌと出会った時より元気になっていた。ただし、その原因は、老婆の念を依り代とした妖怪が得た生命力が、老婆に供給されているからだ。




-院内廊下-


 階段脇のソファーに麻由が俯いて座っている。紅葉みたいに“誰とでも仲良くする事”が出来ない自分がイヤになる。紅葉と一緒に居ると嫌な事を忘れられるのに、臆病なので紅葉に歩調を合わせる事ができない。


「私・・・どうすれば良いの?」


 ジャンヌと戦う事は決定事項になっている。でも、勝つ自信が無い。昨夜のジャンヌは怖かった。あんな攻撃的な態度で攻めてこられたら、どう対処をすれば良いのか解らない。


「麻由ちゃん・・・やっぱりいた」

「・・・え?こうお婆さん?」


 顔を上げたら、目の前にこうお婆ちゃんが立っていた。麻由は少し慌てた表情で対応をする。


「おはよう」

「お、おはようございます。・・・出歩いたりして大丈夫なんですか?」

「えぇ、今日はとっても体調が良いの。

 麻由ちゃんのお隣、空いてるかしら?」

「え?・・・えぇ・・・はい、どうぞ」


 優しそうな笑顔を浮かべて麻由の隣に腰を下ろして、ポケットから出した蜜柑を差し出す。


「どうしたの?そんな寂しそうなお顔をして。

 美人なんだから、もっとニコニコしてなきゃ勿体ないわよ」


 正直言って、まだ気持ちの整理が全くできていないので、こうお婆ちゃんともどんな顔で会えば良いのか解らない。麻由は蜜柑を受け取り、腰を浮かせて軽く横に移動して、同じソファー内で、老婆との距離を少し開ける。


「麻由ちゃん・・・お婆ちゃんの事、嫌いになっちゃった?」

「い、いえ・・・・ごめんなさい。そんなこと・・・・・ありません」

「ふふふっ、麻由ちゃんは優しい子、

 お婆ちゃん、ちゃんと解っているから大丈夫よ。

 麻由ちゃんは、とっても大切な事で悩んでいるみたいね。

 お婆ちゃんで良かったら話してみて」


 老婆に気付かれない程度に距離を空けたつもりだったのに見抜かれて、恥ずかしさと申し訳なさで顔を上げられない。俯いて、膝の上で両手で握りしめた蜜柑を見つめる。だが老婆は特に気にする素振りも無く、笑顔で麻由を見つめている。麻由は、何もかも老婆に見透かされているように思えて、小さな声を漏らした。


「もし、こうお婆さんだったら・・・

 頑張ってるつもりなのに何もできなかったら、どうしますか?」

「おやおや、そうなの?」

「まるで、泥の中を泳いでいるみたいで、

 一生懸命に浮かぼうとしているのに、ちっとも浮かび上がれなくて・・・」


 麻由は今の状況を「泥水の中」と表現した。いつ頃から「泥水の中」にいると感じるようになった?それは、最近だ。だがきっと、その前、もっと幼い頃から、麻由はずっと「泥水の中」にいた。小学校の、いじめられていた頃から「泥水の中」にいて、中学になって少しだけ浮かび上がれて、自分より沈んでいる人を見下していた。

 底辺に沈んでいると思っていた美穂が実は輝いていて、無様に溺れていると思っていた紅葉がとても眩しくて、自分は彼女達よりもずっと底の方に沈んでいると実感した。


「・・・ねぇ麻由ちゃん」

「・・・はい」

「泥の中を泳いでいるのは、麻由ちゃん一人だけなの?」

「・・・え?」

「一人で泥の中を泳ぐのは辛い事だと思うけど、

 紅葉ちゃんや他のお友達は、泥の中を一緒に泳いでくれないのかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「そんな事無いんじゃない?

 紅葉ちゃんは、泥の中でも辛いって思わないで、

 泥んこ遊びみたいに楽しんでいるんじゃない?」

「・・・楽しんで・・いる?」


 顔を上げる麻由。老婆に指摘された通りだ。泥水の中を泳いでいるのは麻由一人だけではない。紅葉は、泥水の中でも精一杯楽しんでいる。美穂は、泥水は泥水と割り切って、如何に無駄なく泳ぐかを考えている。バルミィは、泥水の中を物ともせずに力強く泳いでいる。麻由は溺れそうになって辛いけど、皆、一緒にいてくれる。

 こう婆ちゃんが横移動で麻由に近付き、麻由の頭を撫でるようにして、そっと自分の方に抱き寄せる。麻由は、恥ずかしいので拒否をしようとしたが、あまりにも居心地が良いので、直ぐに抵抗をする気がなくなった。


「お婆ちゃんは、喧嘩はダメとは言わない。

 時には、喧嘩をしなくちゃ解らない事だってあるわ。

 だけど、辛そうにしているのは良くないわね。

 喧嘩をするなら、思っている事を全部吐き出して、

 相手が思っている事も全部聞いて解る努力をするの」


 不思議と気持ちが落ち着く。麻由は脱力をして、老婆に身を預けながら、その温もりを愛おしく感じた。




-十数分後・美穂の病室-


 麻由とジャンヌの一騎打ちが決まった。午後7時、病院の屋上。


「マユ、ガンバ!」

「はい!やれるだけの事はやってみます!」

「何があったのかは知らないけど、

 さっきまでと比べて、随分マシな顔になったな」


 美穂が麻由の表情を確認して、麻由が頷く。今朝の狼狽えていた時と比べて、麻由の顔には一定の決意が見られるようになった。


 一騎打ちまで、あと9時間程度。麻由はイメージトレーニングを兼ねて気持ちを作る。


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