19-2・女子会~紅葉と麻由の口論~化提灯
-数分後-
ジャンヌの病室では、敵味方&老婆が参加をする奇妙な女子会が催されていた。
「へぇ~・・・もう2ヶ月も入院してんだ?どこが悪いの?」
「紅葉ちゃん!そんなストレートな聞き方は失礼だよ」
「全部・・・かしらね。もう、年寄りだからねぇ。
紅葉ちゃん達みたいな若い子とは違って、直ぐには治らないよね」
「ふぅ~~ん・・・そっかぁ~」
麻由とジャンヌは「何故、敵と談話を?」と表情を引き攣らせている。互いに相手の事が大嫌いだ。しかし、「私は参加しない!」と老婆の仲裁を素っ気なく扱うほど冷淡には成れない。何も知らない老婆に「殺し合いをして、仲間が重傷を負わされた」とも言えないので、「チョット喧嘩をした」程度に説明をした。
「私には孫が一人、居るんだけどねぇ・・・1年くらい前から音信不通なのよ。
連絡取れていた頃から、仕事が忙しいのか、遊びほうけているのか解らないけど、
生活費を振り込むばっかりで、滅多に家には顔を出さなかったけどね」
老婆の名は美野こう。配偶者は20年も前に亡くなり、一人娘が居たが他界をしており、孫は何処で何をしているのか解らないらしい。
こうは、孫の話になると、眼を細めて嬉しそうに話をした。いくら音信不通でも、「孫の事が可愛い」という気持ちが伝わってくる。孫は、地元民なのに何故か広島弁で、子供の頃から腕っ節が強くて、うどん屋なのか、ヤ○ザなのか、よく解らない職種に就いたらしい。
其処まで聞いた麻由は、軽く鼻根部を押さえて「何処かで聞いた事が有るような無いような?」と思案をする。
「お嬢ちゃん(麻由)は、孫が憧れていた娘さんに似てる気がするわぁ。
その娘さんが商売敵に狙われてるとかで、
何度か、孫が連れてきて私の家で匿ったのよ。
会社の社長さんのご令嬢だったから、孫の立場では高嶺の花だったそうよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お嬢ちゃん(麻由)みたいな娘さんが、
孫のお嫁さんになってくれると、安心できるんだけどね」
「お~~~!マユ、モテモテ!」
「麻由ちゃん、今度、お孫さんと会ってみれば?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
老婆は何歳なのだろうか?仮に老婆が80歳として、その孫が35~45歳くらいでも不思議はない。・・・てか、匿った娘の嫁ぎ先は、なんて苗字で孫の名前は?そして、孫の勤め先は?色んな意味で怖くて、麻由は、この先の情報を聞きたくない。
「美野さん、そろそろお薬の時間ですよ」
病室に入ってきた看護師が老婆に声を掛けて、奇妙な女子会に水が差される。
「おやおや、もう、そんな時間かね。楽しい時は、時間が経つのが早いね」
「お薬を飲んで、少しお休みしましょうか」
「はいよ。じゃ、少し横になろうかね」
老婆の仲裁から始まった女子会なので、老婆が輪から離れてしまえば敵味方が混ざった女子会を続ける理由なんてない。
麻由が給湯室に行って人数分の湯飲みを洗い、紅葉と真奈はお菓子を包んでいたゴミを片付ける。ジャンヌは、何を手伝えば良いのか解らずに眺めていたが、片付けが終わったところで「すまない」と軽く一礼をした。
「じゃ~ね、コウばぁちゃん。また、遊びに来るねっ!」
「次は、私達もお菓子持ってくるね」
「楽しみにしてるよ。いつでもおいで」
「あまりご無理はなさらないように」
「固いなぁ、麻由ちゃんは」
「コウばぁちゃんゎ、もう友達なんだから、もっと気楽にしょうょっ!」
「紅葉がお気楽すぎなんです!目上の方は、もう少し丁寧に
・・・と言うか、真奈さんは、いつの間に、そちら(お気楽)側に?」
「どっちでも良いのよ。
気楽に接してくれる紅葉ちゃんや真奈ちゃんも、
丁寧に接してくれる麻由ちゃんも、
慣れない日本語で一生懸命に参加をするジャンヌちゃんも、全部嬉しいのよ。
ただ、麻由ちゃんもジャンヌちゃんも、せっかく可愛いんだから、
もう少し笑顔でお話しできると良いわね」
「エガオ・・・ですか?」
「き、気を付けます」
3人は老婆に一礼をして退室をする。すると、ジャンヌがベッドから起き上がり、廊下に出た直後の紅葉達に寄ってきた。その目付きは険しい。言うまでもなく、お見舞いに来てくれた友達を見送りに来たわけではない。一方の麻由も表情を険しくする。
「貴殿(麻由)に尋ねたい事があるのですが」
「な、なによ?」
「現世において、何故、私は聖人として扱われている?
貴殿ならば、説明できるのか?」
「マユなら、ジャンヌが聖人て呼ばれてるのがなんでか、わかるょねぇ?」
ただでさえ険しかった麻由の表情が更に険しくなり、眉間にシワを寄せて目を三角に吊り上げる。麻由の悪いクセ・排他的オーラ発動。あまりも露骨すぎる豹変なので、紅葉&真奈とジャンヌはたじろいでしまう。
「それを知ったから、何だというのですか?知れば何かが変わるのですか?
紅葉の“お気楽”につられて、勘違いしないでください!アナタは敵!
仲裁してくださったお婆様を悲しませたくないので、
この場から引き上げるだけです!」
「そ、そうですね。互いに、老婆の顔を立てて戦闘には発展させなかっただけ。
敵である貴殿から情報を得るなんて、虫が良すぎました。
私は逃げも隠れもしない。いつでも、貴殿等と雌雄を決する覚悟は出来ている」
「・・・んぁ?せっかく仲良くなれそうなのに、また、戦うの?」
「当たり前です!」×2
踵を返し、肩を怒らせ気味にして、足早に立ち去る麻由。少し遅れて紅葉と真奈が続く。紅葉が麻由に「いくらなんでも、今の態度は良くない」と注意するが、麻由は一切聞く耳持たず。逆に「敵と仲良くするなんて考えられない」と、紅葉が説教をされてしまう。
真奈は少し迷い始めていた。美穂に重傷を負わせたのは許せないが、話してみたらジャンヌのイメージが変わってきた。「何故、戦わなければならないのか?」をジャンヌに聞いてみたい。「マスターの私が頼めば、敵を止めてくれるかも」と考える。
-美穂の病室-
「・・・たくっ!戻ってきた途端にこれかよ?うるせ~なぁ」
紅葉&麻由、美穂の目の前で引き続き口論中。しかも、時々、真奈まで口を挟んで、それが火に油を注ぐ役割を果たしている。「喧嘩腰で部屋から飛び出して、女子会に参加してたんだけど、麻由の態度が悪かった」らしい。話が飛びすぎて、ちゃんと説明を受けていない美穂&バルミィはワケが解らない。
「いい加減にしてください、紅葉っ!幼稚園児でも解る事ですよっ!!」
「えぇぇ!?なんでなんで!?
婆ちゃんキッカケで仲良くなれるかもしれなぃぢゃんっ!」
「仲良くなろうとする理由が解りませんっ!!
そもそも、紅葉は敵の行為を許せるのですか!?」
「許せないょっ!
許せなぃけど、でも、話してみなきゃワカラナイことゎ沢山あるもんっ!」
「私は紅葉ちゃんに賛成です。もう少し話してみたい」
「そんな必要が、何処にあるのですか!?
許せないから倒す!それで充分です!!」
美穂がベッドの上で呆れた表情で眺める。紅葉や真奈の主張は解らなくはないが、麻由の言い分が正しいと思ってる。真奈はリベンジャーの実態を知らないから「解り合えるかも」と希望している。紅葉に至っては、多分、前に麻由が説明した事を忘れている。喧嘩を眺め飽きた美穂が間に割って入った。
「麻由!もう一回、本を調べて解った事を説明してくれ!
多分、紅葉は解っていない。それに真奈は聞いていない。
だから、紅葉は突拍子が無いし、真奈は甘ったれた考えをしてんだよ!」
「えっ?美穂さんは反対なんですか?
マスターは私だから、できるかもしれないのに・・・。」
「そこが問題なんだよ。
麻由、オマエが無理と思っている理由を、感情抜きで客観的に説明しろ!」
「は・・はい」
麻由は、リベンジャーについて、本から知り得た情報を説明する。リベンジャーとは何なのか、召喚の方法、召喚主とリベンジャーの相互関係、召還時の契約内容と命令権について。
「召喚主が死ぬと、リベンジャーは肉体を維持出来なくなって消滅をします。
先日の戦闘でジャンヌが私達を逃がしたのは、
真奈さんの安全を確保する為です。
私達に情が入って助けたわけではありません」
「そっか・・・マナのおかげで、ァタシ達ゎ助かったんだ?」
「召還時の契約を違反すれば、リベンジャーは存在意義を失って消滅します」
「・・・ケーヤク違反?」
「私達とリベンジャーが反目するしかない最大の理由は、契約内容なのです。
リベンジャーは『私達を倒す』という契約をして、実体を得ているのです。
つまり、私達と仲良くした時点で契約違反となり、消滅します。」
「なら、召喚主の私が、契約内容を変えれば・・・」
「確かに、これが普通の召喚主とリベンジャーならば可能でしょうね。
ですが、真奈さんとジャンヌの場合は特殊なんです。
召喚主は真奈さんですが、契約者は弁才天。
つまり、弁才天の意思が無ければ、契約の変更は不可能なんです」
紅葉は不満そうな表情を浮かべながら溜息をつく。流石に「気持ちの問題だけでは、ジャンヌとは仲良くなれない」と理解が出来た。もっと早く、麻由が紅葉に説明をすれば、口論なんてせずに済んだのだろうが、麻由がジャンヌを拒否するのは「契約があるから不可能」ではなく、「ジャンヌ全否定の100%感情論」だから、美穂の仲裁があるまで、説明をする発想すら無かった。
「ユカリ、ズルぃ!ムカ付く!」
「それについては、同感だな。あたしやオマエだけじゃない。
多分、バルミィや麻由も、そして真奈も、同じように考えてる。
だけどさ、これが現実なんだ。ジャンヌは倒すべき敵。
生い立ちには同情するけど、アイツは弁財天に操られた尖兵なんだ」
紅葉は、ふくれっ面をして、そっぽを向いて、押し黙ってしまう・・・が。
「彼女は・・・美穂さんの処刑を拒んでいました。
私が、ユカリの命令を解除した時、私にお礼を言いました」
真奈の反論で室内は静まりかえる。正論をかざしていた麻由すら黙ってしまう。麻由もその光景は見ていた。ジャンヌは、ギリギリのところで、ユカリの手先になる事を拒んだ。「話せば解り合えるかもしれない」って僅かな希望を感じてしまう。だからこそ、「ジャンヌが契約に縛られて敵対しかできない事実」が重くのし掛かる。美穂は、紅葉の「ジャンヌと仲良くなれるかもしれない」直感を信じたい。だけど、ユカリが「仲良くして良いよ」と言わない限りは不可能なのだ。
-ジャンヌの病室-
《・・・最後ニ 一目デ良イカラ 会イタイ
・・・アト 少シデ良イカラ 生キタイ
・・・セッカク 素敵ナ オ友達ガ デキタンダカラ》
「・・・ん?」
ジャンヌの耳に、蚊の泣くような小さな声が聞こえたような気がした。ほんの一瞬だけ、室内が闇に包まれたような心地良い感覚に包まれた気がしたが、今は通常通りである。
「何だ、今のは?・・・気のせいか?」
ジャンヌは病室内を見回すが、特に変わった事は無い。同室の数名は、本を読んだり、イヤホンを付けてテレビを見ている。こう婆ちゃんは、談話で疲れたのか薬が効いているのかは解らないが、熟睡をしている。
-病院・美穂の部屋-
「!!!?」
少し離れたところに建っているビルで妖怪が発生した!真っ先に紅葉が反応をして窓から外を眺める!意識的に理力の放出を抑えていた麻由も、少し遅れて感知をして窓の外を眺めている!
「・・・ヨーカイがいるっ!」
「行かなきゃ!」
紅葉と麻由は、バルミィを伴って飛び出して行こうとするが、2人の様子を見ていた美穂が呼び止めた。
「全員で行ったら、此処の防衛が出来なくなる!一人は残れ!」
「なら、バルミィが此処に残ってっ!」
「いや・・・行くのは麻由とバルミィ。紅葉が残れ」
「・・・え?なんでっ?」
「オマエ、さっきから、イライラしっぱなしだろ?
戦う前からペース乱してちゃ、戦えるわけがない!」
「・・・で、でもっ!」
「でもじゃない!行くのは、麻由とバルミィ!残るのは紅葉!」
「わかりました!」 「了解ばるっ!」
麻由とバルミィが病室を飛び出した。対照的に紅葉は、不満そうな表情で床に腰を下ろす。
麻由は、階段を駆け上がって屋上に飛び出しセラフに変身!「背に乗れ」と促すバルミィの指示に従って跨がる!セラフを乗せたバルミィは、勢い良く屋上から飛び出し、目標のビル目掛けて加速をした!
-檀轟興業ビル・社長室-
悪徳社長の眼前に、巨大な提灯に眼が憑いた妖怪・化提灯が出現していた!悪人の生霊を吸い取ってエネルギーにする妖怪だ。
《おぉぉぉぉぉ・・・アト 少シデ良イカラ 生キタイ
・・・オマエ達ノ 魂ヲ クレ》
「ひぃぃぃっっっっ!!おたすけぇぇっっっっ!!!」
逃げようとする悪徳社長!しかし、化提灯が目を見開いた途端に金縛りを掛けられ、続けて大きな口を開けて息を吸い込むと、悪徳社長の体から白いモヤ(魂)が溢れ出してきて、化提灯に吸収されていく。
「ばるばるばるぅぅぅっっっっっ!!!!」
窓ガラスが割れて、ハイアーマードバルミィとセラフが社長室に飛び込んできた!すかさず、小太刀(小草薙)を抜刀して妖怪を牽制するセラフ!
化提灯は目を見開いてセラフに金縛りを掛けるが、セラフは気合いを込めて弾き返す!続けて炎を吐き出すが、セラフは難なく回避をする!まだまだ、戦闘経験不足のセラフだが、発生直後の三下妖怪レベルに手こずる潜在力ではない!徐々に化提灯との間合いを詰める!
「まだまだ下手っぴだけど、前に比べると、だいぶマシになってきたばるね!」
バルミィは、セラフの戦い方が、以前ほど問題外では無い事に感心し、あえて手を出さずに、戦いを見守る事にした。
化提灯は、天井ギリギリまで浮かびながら、苦し紛れに炎を吐いてセラフを牽制する!炎を物ともせず、化提灯に飛び掛かるセラフ!化提灯目掛けて小太刀を勢い良く振り切った!化提灯は慌てて回避をするが、横面に大きな刃傷を喰らう!傷からは闇の霧が吹き出し、煙のように上がる!苦しそうな雄叫びを上げ、完全に動きを止める化提灯!
《おぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!
・・・アト 少シデ良イカラ 生キタイ
・・・セッカク 素敵ナ オ友達ガ デキタンダカラ》
「・・・え!?」
《・・・マ・・・ユ・・・チャン・・・おぉぉ・・・おおぉぉぉぉっっっ!》
「なんで・・・私の・・・名前を?」
妖怪の声は、低音で不気味ではあるが、何処かで聞いたような気がする。妖怪から吹き出した闇に触れた時、一瞬だけ、こう婆ちゃんの顔が見えたような気がした。セラフは、体を硬直させ、呆然と妖怪を見つめる。
-病院・ジャンヌの部屋-
「先ほどまで整っていた理力が、急に乱れた?戦闘中に迷いが生じた?」
ジャンヌはベッドから這い出して、こう婆ちゃんのベッドに近付いて確認をする。その表情は少し苦しそうだ。
ジャンヌは、妖怪発生の概念は解らないが、同じ闇の住人として、老婆を覆ってる微弱な闇と、天の巫女が戦っている闇の生物が、完全に同じ種類と把握する。
「情に流されて、戦意喪失か?甘いな、天の力を持つ巫女よ」
-檀轟興業ビル・社長室-
「う・・・うわぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!」
化提灯は大きな口を開け、セラフ(麻由)の生命力を吸い込み続ける!セラフに付けられた刃傷は塞がり、化提灯の体は一回り大きくなった!
楽勝のはずなのにセラフは戦いをやめてしまった。戦いを見守っていたバルミィには全く理解の出来ない展開だ。
バルミィは、化提灯目掛けてジェダイト弾(光弾)を発射!浮上をして回避をする化提灯!セラフへの生命力吸収が止まり、セラフは床に両膝を下ろす!
「ばるばるっ!」
化提灯目掛けて突進をするバルミィ!化提灯は炎を吐いて迎撃するが、バルミィはバリアを張って防ぐ!そして瞬く間に化提灯の懐に飛び込んで、右手甲からジェダイトソード(レーザー剣)を発して化提灯の正面に叩き込んだ!
「おぉぉぉぉ・・・おおぉぉおぉっっっっっ!!!」
苦しそうな雄叫びを上げる化提灯!バルミィは着地と同時に数歩後退して間合いを空け、化提灯に光弾を放った!




