18-2・魔術本の読破~真奈合流
-8時30分・文架総合病院-
面会可能時間より早く、大荷物を背負った紅葉が到着をした。麻由のスマホに「美穂の部屋の窓の下で待機をしている」とメッセージが入ったので、麻由が窓から顔を出す。
「入口、まだ閉まってた。バルミィ、いないんでしょ?」
「はい、出掛けています」
「そっかぁ~。ザンネン」
紅葉は、空を飛べるバルミィに部屋まで運んでもらうつもりだった。彼女には「時間まで待つ」と言う発想は無いらしく、しばらく外壁を見廻して、適当な突起に手を掛けてよじ登ろうとする。
「あ・・・あの・・・病院関係者に話が通っているので、通用口から入れます」
「おぉっ!そっかっ!」
紅葉は言われた通りに通用口に行き、インターフォンで受付の看護師に挨拶をして施錠を開けてもらう。看護師さんは、あまり顔を合わせないような態度で、紅葉は「冷たい感じだな~」「な~んか、見た事ある看護師さんだな~」と思いつつ、あまり気にせずに一礼をして、数分後には美穂の病室に到着した。美穂の寝るベッドの横に、レンタルの布団が3つ敷いてある。
「ありゃ?布団、準備してくれたの?」
「先程、看護師さんが持ってきて下さいました。
変に顔を隠していたり、態度が冷たくて、妙な看護師さんでしたね」
「へぇ~~・・・鍵を開けてくれた看護師さんと同じ人かなっ?」
「その看護師さんが、皆でこの部屋に泊まれるように、
配慮をして下さったようですね」
「なら、今日からは、みんなでお泊まりだねっ!よく解んないけどラッキー!」
紅葉は、担いでいた大荷物を降ろし、早速、畳んである布団を一組広げて、自分の陣地にして寝転がり、マンガ本を読みながらお菓子を並べて食べる。
-病院の屋上-
紅葉を病院内に招き入れた看護師が、スマホを弄って、病室に仕掛けて置いた監視カメラの映像を確認して、「チッ!」と舌打ちをして目を三角につり上げる。正体は、紅葉のママ・源川有紀だ。
家を留守にしたり病室に泊まれるように配慮したのは、仲間達と力を合わせて、この危機を乗り切ってもらう為。それなのに、今後の作戦会議もせず、いきなり布団に寝転んでリラックスモードになるなんて、どういうつもりなのだろうか?
先輩として、そして母として。あえて助けない。助言もしない。妖幻ファイターの力は、教わる物ではない。経験する事により、自分で掴み取るのだ・・・ってスタンスのつもりなんだけど、「心構えが成っていない!」と病室に怒鳴り込みたくなってきた。
-美穂の病室-
本を読み終えた麻由が一息ついた。しばらく目を閉じて、頭の中に入れた情報を整理する。麻由の動きに気付いた美穂が声を掛けた。
「どうだ?なんか、役に立ちそうな事、書いてあったか?」
「リベンジャーがどういう物なのかは、ある程度解りましたが、
戦いの役に立つかどうかと言う点では、少々微妙ですね」
「そっか。・・・どんな事が書いてあったんだ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これまでに解ってる情報は、
魔法によって過去の人物を召喚する事が出来て、リベンジャー呼ばれている。
召喚には、魔方陣、依代となるアイテム(今回は懐中時計)、リベンジャーが生きた記憶を持つ土、召喚が成功しやすい時間と場所がある。
魔術師や魔法使いと呼ばれる種族が召喚主に適しているが、今回は、真奈達で代用をした。つまり、専門職(魔術師や魔法使い)以外でも、手順を踏めば召喚が可能。
リベンジャーは、自分自身の体力と、召喚主の体力(魔力)で動いている。先ずはリベンジャー自身の体力で戦い、消耗をすれば召喚主の体力で補填される。つまり、体力は通常の人間の2倍。
破壊力の高い技を使うほど体力が消耗する。召喚主の体力が枯渇すればリベンジャーは無力化をする。
召喚主にはリベンジャーを従わせる命令強制権があるが、行使をすると体力を著しく消耗させる。
改めて解った情報は、
召喚主とリベンジャーは、意識の繋がりが発生する。
召喚主が死ぬと、リベンジャーは肉体を維持出来なくなって消滅する。同様に、契約を違反しても、存在意義を失って消滅する。ただし、契約内容の変更、及び、新たな召喚主との再契約は可能。
召喚主とリベンジャーは融合が可能。融合により戦闘能力が上がる。その際は、リベンジャーが主導権を持つ(戦闘能力の低い召喚主が主導権を得ても意味が無い)。ただし、召喚主には命令強制権でリベンジャーの行動を強制的に制限できるため、リベンジャーが召喚主の意思を無視して融合する行為は不可能。
本来の名称はガーディアン。リベンジャーと呼ばれる個体は復讐心を追加した特殊召還。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「その召喚主ってのを倒しちゃえば、リベンジャーってのは消えるってか。
でも、ジャンヌダルクを倒す為に、熊谷を殺す・・・出来るわけねーな。
他の2人は、ずっと、あの女とベッタリで隙は無さそうだ」
「弁才天が召喚主から、離れなかったわけですね。
他の召喚主が弁才天と離れたとしても、殺害をする気はありませんが・・・」
「結局は、正攻法でリベンジャーを倒すしかないってことか」
「そうなりますね」
美穂は麻由ほど甘ちゃんではないが、殺人を避けたいのは同意見。
「一つ気になる事があります。
本には、魔法使いがガーディアン(リベンジャー)を召喚するとありますが、
熊谷さんは魔術師の類いではありません。
一体、どういう事なのでしょう?」
「さぁ・・・あたしに聞かれても解らん」
予想はしていたけど、やはり“召喚の本”からは、リベンジャー打倒の有力な情報は得られなかった。
-病院から少し離れたビルの屋上-
弁才天ユカリと、操られた相良、そしてヘイグ(変身前)が、病院を眺めている。
「ふふふっ・・・み~つけた」
「にっひっひ・・・どうするんだ、ね~ちゃん?やっちまうか?」
「そうしたいところだけど、今はまだ人目が多いわ。
夜になったら仕掛けましょう」
狙いは真奈の奪還。彼女を取り戻せば、ジャンヌダルクが指揮下に戻る。そして、負傷中の美穂の殺害。麻由と紅葉に「自分達の無能さ」を噛みしめてもらう。
―別の病室―
眠っている真奈が、時折、表情をしかめる。
処刑場へ引っ立てられ、十字架に括り付けられたジャンヌに、嘲笑いながら罵声を浴びせる見物人。高々と積み上げられた薪に火が点けられる。煙の刺激で咳き込み、筆舌に尽くしがたい熱気に絶叫を上げる。だが、括られた四肢は身動き1つできない。
「・・・え?」
気が付くと、焼かれているのはジャンヌではなく真奈になっていた。
「嫌だ、熱い、怖い。助けて神様!!助けてっ!!」
だが、幾ら祈って空を見上げても、救いの手が差し伸べられる事は無かった。目に映るのは祝福の光ではなく、絶望をもたらす炎。聞こえるのは天使の歌声ではなく、薪が燃える音と浴びせられる罵声。神様は私を見捨てるのか?
「嫌だ!死にたくない!!・・・・・・・・・・うわぁっ!!」
目を覚まして、夢を見ていたことに気付く。恐ろしい夢だった。でも何で「自分が火あぶりをされる夢」なんて見たんだろう?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここは?」
真奈は、自分の置かれた状況が解らず辺りを見回す。スタンドに吊られてるのは点滴(栄養剤)から伸びた管が左腕に刺さっている。病院で支給された寝間着を着ており、殺風景な個室の壁のフックに、ハンガーに掛かった制服が吊るされている。此処は病院らしい。
ベッドを跨ぐように置かれた長テーブルには、見舞い定番のフルーツ詰め合わせが置いてある。居候先の叔父が差し入れてくれたようだ。
「・・・・・・・・・・・美穂さんっ!!」
落ち着いた途端に、ボロボロにされたネメシス=美穂の姿を思い出す。もの凄く怖い思いをした。うろ覚えだが、夢ではなく現実だったように思える。全身の怠さが「現実だった」と伝えている。それならば美穂も入院をしているはず。
真奈は、震える脚に力を込め、点滴スタンドを杖代わりにして立ち上がり、廊下に出て近くに居た看護師に「一緒に運ばれた友人は何処か?」と訪ねる。
―郊外の廃墟―
召喚主とリベンジャーは一定の意識共有がされる。
「マスターが目覚めたか?」
ジャンヌが起き上がり「う~ん」と伸びをする。戦闘で受けたダメージと消耗したスタミナは、ある程度は自然回復をした。
「マスターの所在は・・・」
首にぶら下げた懐中時計を握りしめて念じると、生物と言うより機械のような雰囲気の、鎧を着込んだユニコーンが現れた。
「遥か未来の異国で蘇った私には、仲間と呼べる者はお前だけ」
ユニコーンに跨がって、首の付け根にあるスイッチを捻ったらバイクに変形をした。
「さぁ、行こう、友よ」
ジャンヌを乗せたユニコーンバイクが走り出す。
―美穂の病室―
ガラガラガラ
「美穂さんっっ!!」
「・・・ん?」 「んぁっ」 「ばるっ?」 「熊谷さん?」
扉が開いて、片手で点滴スタンド握った真奈が立っている。美穂の顔を見た途端、泣きそうな顔になって、ふらついた足取りで寄って来る。直ぐに麻由が寄って行って真奈を支えた。
紅葉&麻由&バルミィは、その日のうちに美穂の無事を確認できたが、真奈だけは、美穂がどうなったのか知らなかったのだ。逸る気持ちに、消耗した体が追い付かないのは当然だろう。真奈は、麻由に支えられながら美穂の前に到着するなり、崩れ落ちるようにベッドにつっ伏して泣き出した。
「熊谷さん、お気持ちは解りますが、ここは病院ですよ。
大声で泣くのはどうかと思いますが・・・」
(マユがゆ~な!)
(昨日ヒスってたオマエが言う?)
(大声で号泣したのは、どこのどいつばる!?)
真奈を注意する麻由を、紅葉&美穂&バルミィが呆れた表情で眺めて、一斉に心の中でツッコミを入れる。
「心配かけてすまなかったな」
美穂は、真奈を宥めようとして、真奈の背中に手を伸ばすのだが、つい、腹に力を込めてしまって、傷口が痛んで顔をしかめた。それを見た真奈は、美穂の事情を察していきり立つ。
「私も変身したいっ!!
美穂さんみたいな力あったら、あのクソ女を叩き潰してやるのにっ!!」
「・・・まあまあ、落ち着け」
「これが落ち着いていられますかっ!!・・・あ~ムカつくっ!!
この手で、美穂さんの仇討ちしたいっ!!」
「あたしは死んでね~」
紅葉&麻由&バルミィも、考えていることは真奈と同じ。一方的に敵と認識して攻撃をしてきて、美穂に重傷を負わせたリベンジャー達は許せない。
「あっ!そう言えば、変な夢を見たんですよ。
ジャンヌダルクが火刑にされる夢なのに、気が付いたら私が焼かれていの。
凄く怖い夢でした。何でこんな夢を見たんだろう?
きっと、アイツ(ジャンヌ)と会った所為ですよね?」
「ジャンヌ・・・ダルク・・ですか」
真奈は何気なく喋ったのだが、聞いていた麻由が表情をしかめる。本に「召喚主とリベンジャーは、意識の繋がりが発生する」という一文があった。真奈が見た夢は、ただの夢ではなく、ジャンヌの辛い体験が意識の繋がった真奈に流入したのかもしれない。戦闘中のジャンヌが、酷く神を恨んでいた事を思い出す。
(麻由のヤツ・・・余計な情報を聞いて困惑してやがる)
麻由から本の説明を聞いていた美穂も何となく察した。リベンジャーにも、同情の余地はあるのかもしれない。だが、敵の都合には構ってられない。今は「叩き潰さなければ、こちらが潰される」と考えるべきだ。
「奴等、どう動くばるかな?」
「敵に休息を与えないのが戦いの定石だ。
今夜あたり仕掛ける可能性はあるだろうな。あたしならそうする」
「どうしましょう?病院を変更しますか?」
「麻由・・・医者になんて説明するつもりだ?」
「マユゎビビりすぎっ!逃げるんぢゃなくて、やっつけようよ!
ガスマスクゎ弱そうだよねっ!」
紅葉の甘い考えを聞いた美穂が溜息をつく。麻由のように怯えていたら何もできなくなるが、紅葉並みにお気楽だと、また敗北をしてしまうだろう。
「ガスマスクは、数の利で、あたしたちが有利に戦えたから、
満足に機能しなかっただけだ。
まともに戦ってたら厄介だぞ」
「んぁっ?あんな奴が!?」
「ヘイグは無差別で広範囲を攻撃します。
手段を選ばず、周りへの被害を考えずに戦う気になれば、
最も危険かもしれませんね」
「次は、あたしは戦えないから、数の利は望めない。3対3になる。
なぁ、麻由。オマエの矢は、ガスマスクの発生させる霧で無効化されてしまう。
もう少し広範囲や破壊力の高い遠距離攻撃は出来ないのか?」
それは、総合戦力が劣る状況で、麻由を戦力としてカウントしたい美穂の希望だ。
「・・・えっ!?私・・・ですか?」
「うん、オマエの遠距離攻撃が、もっと脅威になって警戒されれば、
紅葉は接近戦で戦いやすくなる。
ガスマスクだけじゃなくて、ジャンヌや大男とも、効率的に戦えるようになる。
紅葉が神鳥になる時に、八卦先天図で破壊力を上げるみたいにさ・・・」
「か、考えてみます。」
それきり麻由は黙り込んで、独りで思考モードに入ってしまう。
「ぁ~ぁ、どこに隠れてるか解ったらィィのになぁ~」
「そんな千里眼みたいな力あったら、苦労しないっつ~のっ」
「奴等なら、朝から向こうのビルの屋上で見張ってるばるよね」
「へぇ~っ?」
「この寒ぃのに、ごくろぅさんだねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁれ?」
「ちょっと、バルミィ?」
「何ばる~?」
「そんな大事な事、ずっと黙ってたの?」
「あれ?気がついてなかったばる?100m先のビルの屋上・・・
てっきり、知ってるのに知らないフリしてるかと思ってたばる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4
病室内が、しばしの沈黙に包まれる。




