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17-2・優勢の落穴~美穂負傷~紅葉敗北~セラフ覚醒

-ネメシス&バルミィvsヘイグ-


 ヘイグとの戦闘に集中をしていたネメシス(美穂)は、遠目にヴラドをチラ見して、マスクの下で「したやったり」と微笑んだ。

 パワーファイターゆえガス欠が早い。自分の体力で戦うなら自分の消耗に気付くが、他人(しかも優男)の体力で戦っている。あれでは、排気量が2000ccの車なのに、原付のガソリンタンクで動いているようなもの。これで、最も厄介と思えたヴラドが、ほぼ戦闘不能になった。


「くそっ!くそっ!くそっ!なんで、誰も助けに来ないんだよっ!?

 俺は、遠距離からの援護が専門!肉体労働は専門外だってのに!!」


 ヘイグは得意な戦闘を出来ないまま手詰まりになっていた。遠距離から硫酸ビームでを使おうとすれば、バルミィが空から光弾で攻撃をして、更にネメシスが隙を突いて懐に飛び込んでくる。近距離に近付けないように硫酸を霧状に噴霧すれば、キグナスターの羽ばたきで霧を飛ばされてしまう。そして、ネメシスが懐に飛び込んでくる。遠距離攻撃も近距離防御も封じられ、何も出来ずに逃げ回るのみ。


「だから、オマエを最初の標的に選んだんだよ!

 それに、あっちはあっち(ゲンジ&セラフ)で、

 予想してたより善戦してるみたいだ!

 大男や女騎士は、オマエを倒したあとで合流をして倒すつもりだったけど、

 今の調子なら、アイツ等だけで一匹くらい倒しちゃうかもな!」


 ネメシスは、ヘイグに対する挑発のつもりで喋っておきながら、自分で言った事に少し不安になる。確かに、ゲンジとセラフは想像以上によく戦っている。だが、順調すぎる。ネメシスが2人に出した指示は「深追いはするな!」だ。



-ゲンジ&セラフvsヴラド&ジャンヌ-


 セラフ(麻由)がヴラドに向かって弓を構え矢を番える!しかし、ジャンヌが間に入って妨害をする!セラフはジャンヌ目掛けて光の矢を射るが、ジャンヌは旗から魔力を放出して、矢が纏っている光を無効化してしまう!


「・・・くっ!光の矢が効かない!」

「いつまでも、同じ攻撃が通用すると思うなっ!」


 ジャンヌはオラクルフラッグ(先端が槍状の旗)を構え、セラフに突進をする!セラフは静薙刀を装備して応戦!続けて、鎌鼬のキーホルダーも召喚するが、ネメシスからは「接近戦禁止」を指示されている為、あえて使わずに、出来る限り間合いを開けて防御に専念をする!


「んおぉぉっっっっ!!」


 一方で、ゲンジ(紅葉)が、ヴラドに突進をする!ヴラドは巨大杭を振り回すのみ!ガス欠になった為、敵に一撃で致命傷を与える大技は使用不能!ゲンジの攻撃で細かいダメージが蓄積していく!


「あってはならぬ!

 我が、何の野望も達成せぬまま敗北をする事など、あってはならぬ!」


 苦し紛れに巨大杭を振り上げるヴラド!ゲンジは巨大杭を回避して、そのままの勢いで一気に踏み込んで、ヴラドの胸に巴薙刀の切っ先を突き刺した!


「グハァッッッ!!」

「んぁっっっっ!これで終わりだぁぁっ!!」


 ヴラドが仰向けに倒れようとしたその時!ヴラドは、自身の体にパワーが漲った事を感じる!ゲンジに付けられた傷が回復していく!

 グラウンドの片隅にいる召喚者は、まだ、地に両膝をついたまま、あきらかなスタミナ切れの状態だ。しかし、その背後、弁才天ユカリが掌を翳し、召喚者を介してヴラドにパワーを送り込む!


「まさか、私まで体力を消耗させられる事になるとは思っていなかった。

 だけど、惨めに敗亡するよりはマシよ!やれっ!マスクドヴラドッ!!」


 ヴラドは足を広げて踏み止まり、巨大杭を振り上げ、渾身の力を込めて地面に叩き付けた!


「おぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっ!!!!」

「んぁっっ!?」


 ドラクル・ディストゥッジェ(竜公の破壊)発動!地面が波打ち、轟音がとどろき、強烈な衝撃波が発生!衝撃波が、爆心地にいたゲンジを飲み込んで弾き飛ばす!

 直撃を受けたゲンジの体は、為す術も無く宙高く舞い上がってから落下!直ぐに体勢を立て直そうとするが、今の衝撃で体が痺れて動かない!

 その視線の先、飛び上がったヴラドが、巨大杭を頭上で構え、渾身の力を込めて大きく振りかぶる!


「おぉぉぉぉっっっっ!!!カズィクル・ベイ(串刺し公)!!!」


 仰向けに倒れたゲンジ目掛けて、魔力の込められた巨大杭が投げ放たれる!直撃コースだ!

 ゲンジが回避をしなければ、間違いなくゲンジの腹を貫く・・・いや、あれほど太い杭ならば、胴から上と下を分断するだろう!それに、辛うじて巨大杭が回避できたとしても、次には奥義が発動されて、地面から出現した無数の杭が、ゲンジの体を貫く事になる!ゲンジは完全に詰んだ!


「く、紅葉ぁぁっっっっっっ!!!!」


 ジャンヌと対峙をしていたセラフが、ゲンジの危機に気付いて行動を起こしていた!踵を返して、倒れたまま動けないゲンジに向かって突進!だが、このまま走っても、間に合わないのは明白!弓矢を再召喚する余裕も無い!セラフは走りながら、迷わずに、静薙刀を構えて鎌鼬のキーホルダーを取り付けた!


「はぁぁぁっっっっっ!!」


 セラフは立ち止まって、腰を低く落として構え、落下してくる巨大杭目掛けて渾身の力を込めた静薙刀を振り抜く!巨大な真空波が発生して一直線に空中を滑り、ゲンジに向かって落下してきた巨大杭に着弾して粉々に吹き飛ばした!

 巨大杭に込められていた魔力は空中で分散してカズィクル・ベイの発動は阻止できた。セラフは「どうにか、ゲンジの串刺しは回避できた」とマスクの下で安堵の表情を浮かべる。


「愚かなりっ」


 その背後!旗を携えたジャンヌが、セラフを追走している!旗には渾身の魔力が込められる!ジャンヌは、ヴラドのように奥義を連発するつもりは無い!奥義は切り札として、効果的に発動出来るタイミングを待つ!そして、「今が、その時」と判断する!


「あの、バカっ!!」


 ネメシスは、マスクの下で青ざめ、ヘイグとの戦闘を放棄して、セラフ目掛けて突っ走る!


「紅葉っ!」


 嫌な予感が的中してしまった!

 「深追いをするな」と言ったのに、ゲンジは深追いをして思いがけないダメージを負ってしまった!戦闘能力が高いくせに戦闘経験不足なので、「この先に起こる悪い可能性」を想定できずに、無意識に慢心をするのがゲンジの悪いクセだ!


「葛城っ!」


 嫌な予感が的中してしまった!

 セラフに「接近戦をするな」と言ったのは、セラフが接近戦ではナチュラルに動けないからだ。ゲンジならば、攻撃に移行する際に全く隙を見せない。本能的に戦うゲンジは、パワー(妖力)や体重の移動を、ナチュラルに行える為、ほぼノーモーションの状態から攻撃をする。だが、セラフは接近戦が苦手ゆえに、攻撃の直前に“力の溜め”の為に、無意識に体を硬直させてしまう。それは、接戦においては、敵に突かれる隙になる。ネメシスは体験入部の時点で見抜いた。だから、セラフの接近戦を禁止した。

 それなのにセラフは、通常攻撃どころか奥義を発動させてしまった。ただの攻撃をする時以上に隙だらけになってしまった。ゲンジも、大技発動直後は隙だらけになるが、それはあくまでも神鳥変化クラスの大技の直後であり、敵が反撃が来ない一撃必殺を前提にしている。だが、セラフの場合は、ただの小手先の技ですら、発動後に隙だらけになる。アレでは「狙ってくれ」と言っているようなものだ。


「あの、大バカがぁっっ!!」


 今まで何度も、セラフに接近戦の危うさを説明する機会はあった。だが、細々と説明する余裕が無くて、「接近戦をするな」と、指示をしただけにとどまった。「キチンと説明するべきだった」と、ネメシスは今更になって後悔をする。


「隙だらけだぞ!神の光を持つ女!!」

「・・・・えっ!?」


 真空波を発動させた直後の、動きが止まって無防備になったセラフの背中に向かって、ジャンヌが持つ輝く旗が振り抜かれた!


「喰らえっ!神への復讐の為に、研ぎ澄ませた一撃を!!」


 奥義、テュエ・ディユ・セルパン(神殺しの蛇)発動!


「ボケッと突っ立てんな、このバカっ!!」 


 ネメシス(美穂)が飛び込んできて、寸でのところでセラフを突き飛ばす!

 だが、ネメシス自身、気付いていなかった。ヴラドのドラクル・ディストゥッジェを喰らった時の麻痺は、完全に回復したと思っていた。だが、ほんの僅かにネメシスの動きを鈍らせていた。そして、その“ほんの僅か”が、一進一退の攻防では運命を左右する。


「うわぁっ!」


 振り返ったセラフ(麻由)の目の前で、ネメシスの体がジャンヌの発した光に飲み込まれる!


「桐藤さんっ!」


 その後の僅か数秒が、ゲンジ達にはとても長く感じられた。

 セラフは返り血を拭う余裕も無く、ただ呆然と走る閃光を眺めている。

 ゲンジ(紅葉)は体はマヒをして動かないが、頭の中だけは妙に鮮明な状態で、仰向けのまま上空を見つめる。


「・・・ミホ?」


 バルミィは戦闘の手を休め、目を見開いて空に上る光を見上げる。


「美穂っ!」


 上空に向かって蛇のように伸びた光の先端にネメシスがいる。全身が脱力をして、自身を押し上げる光に抗う気配は全く無い。白いマントが千切れ、プロテクターが弾け飛び、上昇の最高点で一時的に体が止まり、ゆっくりと反転して頭が地面に向いて、自由落下を開始。


 ゲンジ&セラフ&バルミィは、「ネメシスならば、いつものように、マントを羽のように展開させて、落下速度にブレーキをかけて、静かに着地をする」と期待する。だが、落下に抗う気配は全く無いまま、地面に叩き付けられた。

 直ぐに起き上がって「いて~な、コンチクショー」「ボケッと眺めてんな、バカ!」などを、いつもの悪態を期待するがピクリとも動かない。


 マスクは割れて美穂の顔が僅かに見える。マントはボロボロ、プロテクターは傷だらけ、アンダースーツの脇腹が破け、真っ赤な血が地面に流れ出して浸透していく。


 操られて虚ろな表情の真奈の瞳に倒れたネメシスが映り、真奈は僅かに顔をしかめる。真奈の目の前でネメシスの変身が解除されて、桐藤美穂の姿に戻った。


「ミホぉぉっっ!!」


 痺れる体を奮い立たせて美穂に駆け寄ろうとするゲンジ!その正面に、巨大杭を担いだヴラドが立ちはだかる!


「退けぇぇっっっ!!!」

「おぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!」


 ゲンジは素早くヴラドの懐に飛び込んで、ヴラドの顎に飛び膝蹴りを叩き込む!しかし、体が痺れた状態では攻撃が浅い!ヴラドを退ける事ができない!ヴラドが巨大杭を振り上げて、脳天目掛けて振り下ろした!ゲンジは頭上で両腕をクロスさせてガードをする!

 しかし、ゲンジの考えは甘かった!歴戦の王は、咄嗟に、自らの武器に残った魔力を込めていた!咄嗟ゆえに魔力の充填はMAX時の2~3割程度だが、それでも直撃ならば充分すぎる破壊力だ!


「ドラクル・ディストゥッジェ(竜公の破壊)!!」


 ヴラドの一撃を受け止めた瞬間、文字通りの直撃を受けたゲンジの視界が真っ暗になった!全身がバラバラになると錯覚するほどの衝撃が、頭上で交差させた両腕から胴体を伝わって足に抜け、地面に届いて衝撃波となりゲンジの周りの地面にクレーターを作る!

 それでも、ゲンジは倒れない!・・・しかし。


「大した闘志だ、女戦士・・・いや、戦士ゲンジよ!

 出来る事ならば、敵として出会いたくなかった!

 だが、其処までだ!もう良い、寝ろ(倒れろ)!」


 ゲンジは立ったまま意識を失っていた。ヴラドは、動かなくなったゲンジの肩を軽く押す。全く抵抗する事無く、両膝を地に落とし、俯せに倒れ、ゲンジの変身が解除されて紅葉の姿に戻った。


「・・・桐・・・藤・・・さん」


 セラフは、現実を認める事が出来ず、倒れたままの美穂を見つめている。しばらくして、徐々に、目の前で何が起きているのか把握する。


「美穂・・・さん?・・・紅葉・・・

 う・・・うわぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 セラフの中で何かが切れた!

 雄叫びを上げた途端に全身から光が発せられて、一筋の閃光となって天を突く!胸プロテクターが展開して両肩に移動!腕当てと脛当てが変化をして、全身が金色に輝いた!セラフ・インドリヤ発動!


「ばるっ!美穂っ!生きてるんでしょ?大丈夫なんでしょ?返事をするばるっ!」


 バルミィが、ヘイグとの戦闘を放棄して、美穂に駆け寄って懸命に呼び掛ける。美穂は手も足も動かないが、僅かに反応を示した。


「セートカイチョーさん、落ち着くばる!美穂か生きてるばるっ!」


 バルミィは大声で美穂の生存を伝えるが、既に攻撃に移っているセラフには届かない!


「ぐぅぅぅぅ・・・!な、なんだ、この力は!?」


 ジャンヌは、セラフ・インドリヤ(以後、セラフ-i)に警戒をして、数歩後退をしながら6本の黒炎の小悪魔達を放つ!セラフ-iが気合いを放つと、金色のオーラが周囲の拡散をして、黒炎の小悪魔達を飲み込み、込められた念を消滅させた!ただのナイフに戻った6本は勢いを失って地面に落ちる!ジャンヌは苛立ちを募らせ、フィエルボワソードを構えて刀身に黒炎を纏わせて、セラフ-i目掛けて突進!

 だが、セラフ-iは、まだ気合いを放ち終えてない!セラフ-iの気合いに呼応して、背中からオーラの翼が発生!ベルトのバックルの蓮華が開いて発した眩い光が、4つに分離して曼荼羅に変形!奥義・ブラフマン発動!セラフ・ブラフマンは、曼荼羅を手足に纏ってジャンヌに急接近!目にも留まらぬ速さのパンチとキックを連続で叩き込んだ!その一撃一撃の全てが重く、防戦一方になったジャンヌのプロテクターが砕けていく!


「くっ!憎き神の力・・・神は、またも、私を鞭打つかっ!!」


 見かねたヴラドがセラフ・ブラフマンに突進して、巨大杭を振り下ろした!しかし、セラフ・ブラフマンは微動だにせず、片手で楽々と受け止め、撥ね除け、ヴラドの腹を渾身の拳で抉った!


「ぐはあっ!」


 ヴラドは、と呻いて吐血しながら、苦しそうに蹲る!


「この者は・・・一体?」


 ヘイグがジャンヌとヴラドを援護する為に硫酸のビームを放つ!しかし、金色のオーラが阻んで、セラフ・ブラフマンには届かない!ヘイグの妨害を煩わしく感じたセラフ・ブラフマンは、掌に膨大な理力を溜めて、ヘイグ目掛けて金色の光球を放った!ヘイグは慌てて回避をする!


「じょ、冗談じゃね~ぞ!こんな怪物共、どうやって倒せば良いんだ!?」


 グラウンドの片隅で戦況を眺めていたユカリは、最初はセラフ・ブラフマンの変化に驚き、冷や汗を流したが、やがて落ち着きを取り戻して肩を揺らして笑い始めた。


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