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16-1・真奈と弁才天ユカリ~麻由と魔術の本

 その日は、リバサイ鎮守のフードコートに、紅葉&美穂&麻由&バル&真奈&亜美が集まって、紅葉のお誕生日会を開催していた。ただし、特別な事をするわけではなく、紅葉の食費を皆でおごる以外は、普段の女子会と同じ。19時に解散の予定だったが、紅葉がマシンガントークを続けるので、20時頃に解散になった。美穂は原チャを、真奈は自転車を押して並んで歩き、美穂のアパート付近で挨拶をして別れる。


「それじゃ、また明日」

「おうっ!」


 真奈は、このグループが好きだ。普通なら似た価値観同士で友達グループは形成される。こんな様々な個性が仲良く集まる事は無いだろう。一般人では経験できない事を経験したからこそ集まっているグループだ。

 だからこそ不満もある。美穂は変身して、バルミィは宇宙人。多分、紅葉と麻由も一般人ではない。紅葉が「皆が知ってる事」みたいな雰囲気で、一般人では解らない事を隠そうともせずに話題にするので、何となく解る。だけど、美穂や麻由が慌てて口止めをするので、詳しくは解らない。紅葉&美穂&麻由&バルだけの共通話題から取り残されてしまう。


 以前は楽しく騒ぐだけのグループだったが、麻由が加わってからは勉強の話題もするようになった。勉強嫌いな美穂が、真奈や麻由に授業で解らない事を質問する。美穂に頼られるのは嬉しいけど、このグループで自分だけが2学期末の成績を落とした事を考えると、気が重くなる。


 美穂達は“真奈には解らない事”をしている。美穂達みたいになりたい。自分にも、特殊な能力が欲しい。

 真奈は、自転車のペダルを漕ぎながら、何気なく進行方向の防犯灯を見つめていた。


パリンッ!

「えっ?」


 突然、防犯灯のカバーが割れて、明かりが消えた。真奈は、首を傾げ、暗くなった防犯灯に近付く。暗いので「どう壊れたのか」はよく解らない。


「防犯灯の破壊・・・貴女ね?」


 背後から声がする。真奈が振り返ると、知らない女性が立っていた。少し年上の美しい女性だ。だけど、真奈が防犯灯に近付いた時、彼女の脇を通過した覚えはない。


「わ、私が、どうやって防犯灯の破壊なんて・・・」

「あら?自覚せずに破壊したってこと?

 防犯灯は貴女の攻撃的意志で破壊されたのよ」

「・・・え?なんのこと?」

「正確には、貴女の中に眠っていて、

 貴女自身は、まだ無自覚な力・・・かしらね」

「・・・え?え?」


 女性は、真奈を見つめる。真奈は、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、女性を見つめる。女の名は、天界の反逆者・弁才天ユカリ。


「その才能・・・まだ傷の癒えぬ私の手足となって役立てなさい!」

「え?え?」


 真奈に向けて掌を翳し、小声で何かを呟く(呪文詠唱)ユカリ。真奈は、何かに軽く押さえ付けられているような圧迫感に支配をされる。ユカリは、微笑を浮かべながら真奈に近付き、真奈のアゴに手を添えて、そっと唇を重ねた。

 目を見開いて驚く真奈!途端に、まるで、心臓が握りしめられたかのように苦しくなる!蹲り、胸を押さえ、呻き声を上げて苦しむ!


「強制契約・堕天使の口吻。

 ふふふっ、オマエを殺そうってワケじゃないから安心して良いわよ。

 ただし、オマエの魂に契約の楔を打ち込んだ。これでオマエは私の物」


 真奈の意識が遠のいていく。




-朝・井伊桔いいけつ町・杉田邸-


「わぁぁぁぁっっっっっ!!」


 ベッドから飛び起きる真奈。周囲を見回して「夢だったのか?」と安堵の表情を浮かべる。気が付いたら自宅だった。気が付いたら朝だった。昨日は、紅葉の誕生日会をして、美穂と一緒に帰宅して、その後の事は、あまり覚えていない。

 真奈は、ベッドの上に座ったまま、机の上にある卓上鏡を見つめる。美穂は鏡の中に出入りできる異獣サマナー。初めて見た時は驚いたけど、その一件以降、美穂とは親密になった。


パリンッ!

「えっ?」


 突然、卓上鏡の端に亀裂が入った。ベッドから下りて近付いて確認をすると、間違いなく割れている。

 昨日のことを思い出す。帰宅途中の防犯灯が割れた出来事が、夢なのか現実なのか確かめたい。真奈は、素早く登校の身支度をする。


「ん?何、この本?」


 鞄の中に、見慣れない一冊の本が入っていた。表紙に六芒星が描かれている。手に取って開いてみると、英語の文章が印字をされていた。


Welcome to the chosen one person

「なにこれ?

 ようこそ・・・選ばれし者よ・・・・・かな?」


 英語は苦手。解らない単語を調べればそれなりに読むことはできるが、かなり時間が掛かりそうだ・・・が、間違いなく、真奈の持ち物ではない。

 学校で、誰かの本を間違えて持ってきた?少々気味の悪い本だが、間違えて持ってきたなら返さなければならない。真奈は、本を鞄に詰め直すと、部屋の扉を開けて、1階に駆け下りる。




-浜丹生アパート-


 美穂は真奈からの着信で目を覚ました。面倒臭いので「寝てたから気付かなかった」と言い訳しようと思ったけど、無視もしにくいので、寝ぼけ眼で起きて通話に出る。


「なんだぁ?こんな時間に?」

「美穂さん、おはようございます!

 ちょっと相談したい事があるので、朝、部屋に行っても良いですか?」

「相談?・・・まぁ、いいけど」

「ありがとうございます!今から行きますね」

「・・・はいよっ」


 通話を切り、大あくびをする美穂。真奈の家からだと、5~10分くらいで、ここに到着するんだろうか?手早く着替えて、雑然とした部屋を少し整頓しておこうと思いながら立ち上がったら、呼び鈴が鳴り、ノック音と、真奈の挨拶の声が聞こえる。


「あんにゃろう・・・アパートの前から電話したのかよ?」


 美穂は、扉の鍵を開けて、真奈を招き入れた。真奈を卓袱台の前に座らせて待たせ、ブレザーに着替える。真奈は、美穂の「バストは残念だが、戦い慣れして全体的に引き締まった体」に見惚れてしまうが、視線を感じた美穂が真奈の方を見ると、慌てて目を逸らす。


「どうしたんだ?こんな朝早くから。紅葉達が居たら話しにくい事か?」

「いえ、そういうワケじゃないんですけど・・・

 美穂さんて、睨んだだけで、物を壊した事あります?」

「・・・はぁ?」


 美穂は、ガンを飛ばして相手をビビらせた経験なら幾らでもあるが、ガンを飛ばして物を破壊した経験はない。突飛な質問に首を傾げてしまうが、ただ事ではなさそうなので、もう少し詳しく聞く事にした。

 だが、相談内容は、美穂の予想を遥かに振り切っていた。防犯灯を見つめていたら壊れて、綺麗な女性にワケの解らないことを言われて、キスされて、気か付いたら朝になっていて自分の部屋で寝ていた。そして、見覚えの無い気持ち悪い本を持っていた。

 表紙には六芒星が記されていて、確かに少し気味が悪い・・・が、美穂にとっての難関は、其処ではなかった。


Welcome to the chosen one person


「う・・・うぇる・・・かむ・・・・

 え~~~っと・・・いらっしゃい・・・だっけ?

 とぅ~・・・ざ・・・え~~~~~~~~~~~っと・・・ちょうせん?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 わん・・・・・・・え~~~~~~~~~~~~~~っと・・・ぱーそん?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「か、葛城にでも相談してみな!アイツなら、ちゃんと訳せるんじゃね?」


 桐藤美穂、最初のページの表題で脱落。まさか、全部英語で書かれた本を読まされるなんて思いもしなかった。

 おそらく、偶然、目の前で防犯灯が故障したので、変に気にしすぎているのだろう。女性はたまたま歩いていただけ、または、少し話しかけられただけ。キスは、睡眠中に見た思春期の娘らしい夢と解釈すれば、話の辻褄は合う。

 ただし、本については何一つ美穂なりの解釈が出来ない。




-優麗高-


 真奈は、早々と登校して、教務室にいる麻由を訪ね、謎の本について相談をした。麻由の“天界人としての感知力”が、本に宿っている妙な雰囲気を感じ取る。恐る恐る触れてみると、本から何らかの“力”が感じられる。それは、天界の理力や地獄界の妖力とは違う。


「全部英語で書かれていますね。」

「うん・・・何の本なのか解る?」

「魔法について書かれた本みたいです。

 差し支えが無ければ、昼休みまで貸していただけませんか?

 大きな字で書かれていて読みやすい本なので、

 速読で大筋を把握するくらいなら可能だと思います」

「なら、お願いしていいかな?」


 真奈は、麻由に本を預けて教務室から去って行く。一方の麻由は、朝の業務を手早く済ませて、早速、本を開いて読み始めた。解らない単語はスマホで調べる。各ページの文字数は大きくて少ないが、解りやすい現代文ではなく、少し古くさい言い回しで書かれているらしく、英語が堪能な麻由でも理解に苦労をする。




-昼休み・校庭-


 真奈がベンチに腰掛けて、グラウンドを眺めながら、タマゴサンドを食べている。


「隣・・・良いかしら?」

「あぁ・・・うん」


 真奈に声を掛けてきたのは麻由だった。隣に腰をかけて本を差し出す。


「昼休みまでに把握できるなんて言ってごめんなさい。

 想像以上に難しい表現の本で、半分程度しか読めませんでした」

「そ、そう・・・私の方こそ、変な本を預けてしまってごめんね。

 どんな本なの?読んでいて面白かった?」


「面白くは・・・ありませんでしたね。

 『ようこそ、選ばれし者よ。

  汝、我を所有する意志があるならば、その血を持って契約を示せ

  汝、その魂をもって、我と結ぶならば、我、汝の求める剣となる

  我、汝の魂を媒体として、汝に応ずる ゆえに汝、その器を我に証明せよ』」

 最初に書かれた文章を要約すると、ざっとこんな意味になります。

 ちょっと解りにくい表現ですね。

 この単語は、直訳すれば“生命力”ですが、

 それでは全体がシックリこないので、あえて魂と訳しました。

 その先のページには“我”の召喚方法や、契約方法が細かく書かれています。

 召喚に適した時間や適した場所、触媒となる物、魔方陣の作り方・・・。

 私がまだ読めていないページには、

 “我”との契約後の接し方が書かれているようです。

 これは魔術か何かについて書かれた本ですね。こんな本、一体何処で?」


「わ、解りません。いつの間にか鞄の中に・・・。」

「確か、熊谷さんのご自宅の家主は、大学の教授でしたよね?考古学か何かを?」

「いえ、確か、心理学です」

「なら、教授の資料が紛れ込んだワケでもなそうね」

「う、うん」

「申し訳ありませんが、明日、もう一回、その本を貸していただけませんか?

 最後まで訳せれば、その本の意図が、もう少し理解できると思います」

「は、はい、お願いします」

「妙な本ですが、あまり気にしない方が良いですよ。

 魔術なんて非現実的な物が、この世に存在するわけがありません。

 おそらく、この本は、何処かの物好きが、暇潰しに書いただけの似非書物です。

 それを誰かが、リサイクルショップか何かで手に入れたんだけど、

 内容が理解できずに持て余して、適当な鞄に忍ばせた。

 持ち主が見付からないのは、そんな理由でしょうね」

「そ、そうなのかな。ありがとう。おかげで、少し気が楽になったよ」


 2人は互いの顔を見て微笑み合う。しかし、真奈から視線を離した途端に、それまで笑みを浮かべていた麻由が真剣な表情になる。麻由は、真奈に「魔術なんて無い」と言い聞かせて安心させたもが、「この奇妙な本が、いい加減な物ではない」と気付いている。自分自身の出生が非現実的で、仲間達(紅葉&美穂&バル)も非現実世界に身を置いている。何よりも、本に触れた瞬間に感じたプレッシャーが「この本は本物だ」と示している。

 一方の真奈も、麻由の手前、安堵をするフリはしたが、麻由&美穂&紅葉&バルミィが、非現実的な何かをしている事を知っているので、現実の中に非現実が存在していることに気付いている。




-放課後・2年A組-


 真奈が教室から出たら、先にホームルームを終えた美穂が廊下で待っていた。真奈は「何の用か?」と笑顔で寄って行く。


「美穂さん、どうしたんですか?」

「あぁ・・・ちょっと、葛城に用があってな」


 美穂の待ち人は麻由だった。真奈は、教室内で生徒会資料の整理をしていた麻由を呼ぶ。美穂は、部外者の真奈から離れて、麻由とコソコソ話を始めた。真奈は自分が外される理由は解っているが、少し不満だ。


「忙しいところ、呼び出して悪いな」

「いえ、どうしたんですか?」

「ちょっと質問なんだけどさ。

 オマエの事だから“カマイタチ”の使い道は、既に決めてあるんだろ?」

「はい・・・それが何か?」

「やっぱりね。ならさ、今日の夜8時、文架大橋西詰めの河川敷に来てくんない?」

「・・・え?なんで河川敷に?」

「今ここで、カマイタチの使い方を見せろとは言えないだろ。

 だから、人がいない時間帯に、人がいない場所なんだよ。説明しなくても解れ」


 以前、麻由は、絡新婦のスキルを予習していた。そして、封印妖怪を「武器として使用できる」と言った。

 美穂には、麻由がカマイタチの力をどう使うか、だいたいの察しが付く。セラフ(麻由)の武器は、小太刀と薙刀と弓矢。飛び道具の矢に、飛び道具の空気カッターを付加するとは思えない。


「あたしが対戦相手に成ってやるから、カマイタチの能力を試しみな」

「そ、そんな乱暴なっ!」

「乱暴じゃね~よ。使えるかどうか解らない技を、実戦でいきなり使う気か?

 そっちの方が乱暴だろ?」

「ま・・・まぁ・・・確かにそうですが」


 麻由は、美穂から信用されてないように思えて、少々不満だ。一方の美穂からすれば、「実戦で使い物にならない技を発動されるの困るから事前確認をしておく」という目的もあるが、以前の紅葉の“初冥鳥”の時みたく「予告無しでとんでもない大技を発動されて、巻き添えを喰らいたくない」って理由もある。


「わ、解りました。20時に河川敷ですね」

「んぁっ!?ミホとマユがケットウすんの!?」

「へっ!?」 「えっ!?」


 いつの間にか、紅葉が会話に参加をしていた。しかも、途中から話を聞いたせいで、紅葉の脳内では「美穂と紅葉が決闘をする」ことになっている。


「チゲーよ、バカっ!オマエには関係の無い話だっ!」

「んぁぁっっ!?なんでなんで!?ミホとマユだけの秘密なの!?

 なんでなんでなんで!!?」

「・・・うっぜ~。」


 美穂は、「帰るぞ」と言って、生徒玄関の方に向かって歩き出す。紅葉が付いて行って、「決闘すんのか?」と訪ねるが、美穂は「紅葉には関係無い」「世界経済について意見交換をしていた」と、話をはぐらかし、生徒会活動と部活動がある麻由は、苦笑いで2人を見送る。

 そして、同じ場所に居たのに会話に参加させてもらえなかった真奈は、美穂&紅葉と麻由を、寂しそうな表情で交互に眺めていた。


 真奈が手に入れた本は、パラレルワールドになる『妖幻ファイターザムシード』で退治屋本社が保管して、夜野里夢が欲した本と同じ内容の本。

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