15-3・体験入部(フェンシング・なぎなた・剣道)回想
麻由は、美穂に「戦いで役に立っていない」と言われた事を気にしていた。頑なに「1人で行く」と言い張って、単身で図書館から飛び出していく。
一方の美穂は、麻由に言いすぎた事を自覚していた。以前から、麻由が焦っていたことを見抜いていた。それなのに、売り言葉に買い言葉で、戦力外通告をしてしまった事を反省する。
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-回想・ツヨシ戦の3日後-
「戦いに必要なスキルを身に付けたいのでお付き合いいただけませんか?」
「面白そうっ!」
「面倒臭そう。見学だけなら付き合ってやる」
麻由の提案に付き合い、紅葉と美穂はフェンシング部が活動する体育館に顔を出した。
事前学習をした麻由に、最低限のルールを聞く。フェンシングには「フルーレ」「エペ」「サーブル」という形式があり、優麗高のフェンシング部は「フルーレ」式らしい。
剣の扱いを習い、早速、模擬戦開始(実際には、体験入部で、いきなり試合なんてしないだろうけど)。フェンシング部員達が、「生徒会長が入部すれば、我が部に箔が付くな!」「源川が入部してくれたら、毎日楽しくなりそう!」と希望を語り合いながら見守る。
ピストと呼ばれる試合用の細長い台(幅1.5m~2m、長さ14m)の上で、紅葉と麻由が剣をぶつけ合う!紅葉が果敢に突きを放って、麻由は身を引いて回避!紅葉が一歩踏み込んで更に突きを放ち、麻由は更に身を引いて回避!3度目の紅葉の突きを麻由は読んでいた!一歩踏み込んで、すかさず刀身で払い、攻撃権を獲得して、更に一歩踏み込んで、紅葉に突きを放った!しかし紅葉は鍔でカードをしてから、刀身を滑らせて麻由の剣を払い、攻撃権を奪い返して、麻由に突きを放つ!すばやく身を引いて回避する麻由!
「さすがは、紅葉・・・攻撃に無駄が無いわ!」
「ん~~~・・・マユに隙が無くて攻撃しにくいっ!」
フェンシング部員達は「そこだ!」「突け!」「下がれ」などと試合中の2人にアドバイスを送っているが、美穂は黙ったまま、紅葉と麻由の動きを見ている。紅葉が攻撃7割、麻由が攻撃3割くらいで、ピスト上での攻防が続く。
「ばるばるっ!な~んか迫力に欠ける戦いばるね~。」
話を聞いて様子を見に来たバルミィが、美穂の横に立って紅葉と麻由の試合を観戦する。
「わかる?」
「もちろんばるっ!」
「だよな・・・あんな戦いじゃ、いつになっても決着が付かない!
眺めるだけのつもりだったけど・・・仕方ない。
ちょっと、横槍入れてくるかな!」
美穂が溜息をついて、身近にあった剣を持ち、試合中の紅葉と麻由に足早に近付き、切っ先を交えている2本の剣の間に、自身の剣を叩き付けた。
「・・・ん?」 「・・・え?」
「面白くも何ともない。試合中止」
「ど~ゆ~こと?」 「面白くないって・・・そんな理由で中止って?」
「2人がやってるのは、ただの仲良しごっこ。
これ以上、2人で戦っていても得るものは何も無い。
だから、選手交代。どっちでも良いから、あたしと代われ!」
「んぁ?ミホ、見学って言ってなかった?」
「気が変わった。どっちか、交代しろ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
試合を妨害してまで「交代しろ」ってのは、少々わがままな気がする。紅葉は「決着が付くまで、もう少し待って!」と言いかけたが、麻由が不満の表情を顕しつつ「わかりました」とアッサリと引き下がった。
すれ違い際に、美穂が麻由にポツリと呟く。
「ふぅ~ん・・・あたしが言った意味、少しは理解できたってことか?」
「貴女が、超攻撃型の紅葉と、どう戦うのか、ジックリと見せていただきます」
防具を着けた美穂がピストに立ち、紅葉と向き合って試合開始!
「・・・ジックリと見る余裕があったらねっ!!」
紅葉が美穂目掛けて果敢に突きを放つ!美穂は剣を振り上げて、紅葉の剣を軽く弾いた!攻撃権移動!今度は、美穂が紅葉目掛けて剣先を伸ばし、紅葉は半歩退きつつガードをして美穂の剣を弾き、攻撃権移動!紅葉は一歩踏み込み、美穂目掛けて体重を乗せた突きを放つ!しかし美穂は、今度は素早く剣を振り上げて、紅葉の剣を力一杯弾いた!そして、ガラ空きになった紅葉の胴体を一突きする!吹っ飛ばされて尻もちをつく紅葉!
観戦をしていた麻由は目を見開いて驚き、バルミィは「当然こうなる」と言いたげに頷く。
「・・・え?もう終わり?」
「んぇ?」
「フン!こんなもんだろ!」
瞬殺だった。試合開始から僅か10秒。麻由に対しては優勢に戦っていた紅葉が、美穂にアッサリと敗北をした。美穂は、2度目の防御で紅葉の体勢を崩す為に、1度目の防御ではワザと弱い力で紅葉の剣を軽く弾いた。美穂の一回目の攻撃は、突く為ではなく、紅葉を下がらせて次の攻撃で踏み込ませる為の攻撃。その結果、紅葉の攻撃は体重が乗り、剣が弾かれたことで力が分散し、防御の姿勢になる前に美穂の一撃を許してしまった。
観戦中のフェンシング部員達までもが、美穂の快勝に目を疑った。
「ん~~~~~~~~~~・・・ミホに負けたぁ!悔しぃ~~~~」
「はい、次!アンタ(麻由)もやるんだろ?」
「は、はい!よろしくお願いします。」
麻由が、紅葉と入れ替わってピストに立ち、美穂と向き合って試合開始!美穂は素早い突きで、麻由を後退させつつ攻撃権を得た!そのまま勢い任せの連続突きで、麻由は防戦一方になる!しかし、麻由は守ってばかりで手が出ないわけではない。美穂の突きを回避しながら、体重の乗った重たい突きと、小手先だけの軽い突きを見極める!そして、軽い突きが放たれた瞬間に剣を交えて弾き、攻撃権を得て、美穂目掛けて突きを放った!美穂は、麻由の攻撃に息を合わせるようにして、腕を伸ばし、手首を軽く振って、剣先で麻由の剣を弾き、攻撃権の奪取と同時に、そのまま麻由の胴を突いた!
「ミホ・・・強っ!」
観戦をしていた紅葉は呆気に取られ、バルミィは「当然こうなる」と言いたげに頷く。
「反撃のチャンスだと思ったのに!」
「悪いけど、今の戦いで、アンタにチャンスなんて無~よ」
「・・・くっ!」
紅葉ほどの瞬殺ではなかったが、完全なワンサイドゲームだった。美穂は攻撃の手数を増やして、麻由が積極的な攻撃をできないように仕向けた。その上で、ワザと隙を見せる攻撃をして、麻由に剣を弾かせて攻撃権を譲渡して、麻由が攻撃の為に手を伸ばして胴がガラ空きになるように誘い込み、腰の引けた麻由の一撃を軽く弾いて攻撃権を奪い返して、有効打となる一突き叩き込んだ。
観戦中のフェンシング部員達は美穂の一方的な勝利に驚いて息を飲む。その後、麻由が2度、紅葉が5度ほど挑んだが、美穂には全く敵わなかった。
「き、君・・・是非、我がフェンシング部に・・・」
「パス!ルールで縛られた戦いは窮屈!」
フェンシング部員達は、即戦力の美穂を勧誘しているが、美穂は歯牙にもかけない。紅葉&麻由は2人で試合をしていた時は「ちょっとくらいは剣技が上達したんじゃね」なんて思っていたが、美穂に惨敗して、グゥの根も出ない。
「く、悔しいけど完敗です」
「んぁ~~~~!!ミホ、ズルい!!
フェンシングの剣、ネメシスの武器だから使い慣れてるっ!」
「だったら、明日は、別の部活に体験入部して、試合するか?」
「も、もちろんっ!」
「おぉぉっ!明日もやるばるか!?なら、明日も見に来るばるっ!」
「悔しいって思うなら、今日の敗因を分析して、明日に臨むんだな」
美穂の課題に対して、麻由は無言で俯く。麻由は試合中や見学中に敗因を分析していたが、勝つ作戦を立てることが全く出来なかった。その日は、あまり会話が弾まないまま、麻由は正門前で紅葉&美穂&バルミィと別れて帰路につく。
スーパーの駐車場で美穂が原チャに跨がり、文架大橋の袂で紅葉と美穂が別れると、バルミィは美穂の方にくっついてきた。
「ね~、美穂?」
「・・・ん?」
「美穂が、あんな“お遊び”に付き合うなんて、珍しいばるね」
「『お遊び』・・・ね。やっぱそう見えるか?
最初は、好き勝手にやらせとくつもりだったけど、見てらんなくて、
つい、手を出しちゃった。」
「紅葉とセートカイチョーさん、
今日みたいなトレーニングで強くなるって思うばる?」
「あれじゃ、あんまり強くなれないんじゃないかな?」
「ばるるっ!紅葉はルールで縛っちゃったらダメばるよね?」
「紅葉の底力みたいなのは、多分、ルールの枠を取っ払ったところにあるからな」
「セートカイチョーさんは?」
「バルミィにはどう見えた?」
「ありゃ、紅葉以上にダメばるかな~~」
「同意見!
アイツなりに努力はしてるみたいだけど・・・肝心なところが欠けてる」
「頭でばっか考えて、攻撃できないところばるっ?」
「ま~ね。でも、アイツは、もっと、根本的なことが解ってないような気がする」
「ふぅ~~~ん・・・
美穂って、怒りっぽくみえて、実はちゃんと考えていて優しいばるね!」
「ち、ちがう!そんなんじゃねー!
今のうちに上下関係をハッキリさせたいだけだっ!」
指摘をされた美穂は、赤面をしながら慌てて否定して、憎まれ口を叩く。
-翌日の放課後・なぎなた部体験-
剣道&なぎなた場で威勢の良い気勢が上がり、防具を着けた紅葉と美穂がぶつかり合う!なぎなた部の女子生徒達、そして、同室内の隣コートで練習をしていた剣道部員達が、物珍しそうに観戦をする。
「んぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!」
なぎなた(先竹製)の長さに振り回されつつ、紅葉が渾身の力を込めて振り下ろした!美穂はなぎなたを水平にして、柄で紅葉のシノギ(なぎなたの反ってる部分)を受け止める!衝撃が両手に伝わって、ピリピリと軽く痺れる!紅葉は、直ぐさまなぎなたを振り上げて、美穂目掛けて叩き込む!美穂は、再び柄で受け止めた!3回ほど同じ攻防が続く!美穂は、上段攻撃ばかりでガラ空きになっている紅葉の胴を狙おうとするが、紅葉は美穂のなぎなたの柄を叩くと同時に、半歩退いた!美穂のなぎなたの先端は、紅葉には届かない!
「相変わらず、すばしっこい!」
紅葉の動きは、昨日のフェンシングに比べると、かなりマシ。12m四方の広い試合場で「機動力を使いながら武器を振り回す方が、紅葉には向いている」と改めて実感する。紅葉の攻撃は、駆け引き無しの大振りばかりだが、相手が妖怪の場合、そして紅葉がゲンジの場合なら、妖気の込められた大振りの一撃で、たいていは決着が付くのだろう。
「だけどな、紅葉!それじゃ、技術を持った相手には、攻撃が届かないんだよ!」
「んぉぉぉぉっっっっっっ!!!」
紅葉は力強く踏み込んで、渾身の力でなぎなたを振り下ろす!美穂は柄で受け止める!衝撃で美穂の手が痺れ、防具の下で美穂が軽く顔を歪める!紅葉は「美穂は怯んだ!」と判断して、なぎなたを振り上げ、「美穂のなぎなたをへし折る」くらいの気合いを込めて、もう一度振り下ろした!美穂は、再び、なぎなたを水平にして、柄で受け止める・・・が、今度は、そのまま、先端側を床まで下げて、なぎなたを斜めにして、紅葉の力任せの一撃を受け流した!紅葉のなぎなたの切っ先が床を打つ!次の瞬間、美穂はなぎなたを回して、石突(なぎなたの後ろ側)で、紅葉の手元の柄を叩き上げた!衝撃で、紅葉の持つなぎなたが、紅葉の手から離れ、宙に飛ばされる!
「ハァァァッッッッッ!!!」
「んげぇっ!」
美穂の手は、なぎなたの打ち合いで痺れていた。だから、美穂よりも小さい紅葉の手も痺れて握りが甘くなっている予想して、なぎなたを弾き飛ばしたのだ。
武器を失ってガラ空きになった紅葉の胴に、美穂のなぎなたの切っ先が打ち込まれた!吹っ飛ばされて、尻もちをつく紅葉!(実際には、なぎなたを落とした時点で反則。反則2回で一本。)
観戦をしていたなぎなた部員&剣道部員達が静まりかえる。紅葉の超攻撃的な試合運びにも圧倒されたが、美穂の技術は、地区大会や県大会なら上位に位置付けられるレベルだ。
「き・・・桐藤さん・・・なぎなたの経験は?」
「無い!長物の振り回し方は、喧嘩(戦闘)で覚えたけどな!」
「ぜ、是非、我が、なぎなた部に入ってよ!
桐藤さんなら、直ぐにでも全国区に・・・」
「パス!興味なし!」
美穂は、会話をしながら両手のグーパーグーパーを繰り返し、しびれが収まってきたことを確認する。そして、麻由に、目で「いいよ」と合図を送った。試合場中央に進む麻由。美穂に「敗因を分析して臨め」と指摘されたことを噛みしめ、なぎなたを構え、相手を睨み付ける。
なぎなた部員が務める審判の合図で試合開始。
麻由は、美穂なぎなたの切っ先を、自身のなぎなたの切っ先で軽く弾いて、間合いを確認。直ぐさま、一歩踏み込んで美穂の胴を狙う!美穂は一歩後退して回避!麻由は、なぎなたの先端を下げて切り上げ、美穂のスネを狙う!美穂は、自身のなぎなたの先端で、麻由なぎなたの先端を叩いて回避!そのままの勢いで、なぎなたを切り上げ、麻由の面を狙った!麻由は上半身を反らせて回避!美穂は切っ先を反転させて、なぎなたを振りきる!なぎなたの先端が麻由の面を掠め、麻由は半歩後退して辛うじて回避するが、バランスを崩して転倒をして、尻もちをつく!
そこで、審判の「待った」が入って、麻由は立ち上がり、2人は開始線に戻る。
「あ~あ~・・・あの子、昨日に比べて、ちょっとマシになったと思ったけど、
もう、ダメばるね」
「ん?バルミィ、何の話?」
「セートカイチョーさんの事ばるっ!
多分、美穂の威嚇にビビっちゃって、積極的に攻撃できなくなったばるっ!
美穂、優しいくせに、意地が悪いばるよね~~」
紅葉の隣で観戦をしていたバルミィが呟いた。バルミィには、この先の試合結果が予測できた。案の定、その後は、美穂が攻め続け、麻由は防戦一方のワンサイドゲームになる。接近して柄での押し合いから、離れ際に美穂のなぎなたが麻由のスネを叩いて、一本となった。
「自己分析・・・甘かったみたいだな。」
「・・・くっ!い、言われなくても解っています。
もっと積極的に攻撃をしなければ・・・」
攻撃の手数が少ないこと。それが敗因と麻由自身は考えている。観戦中に「美穂に隙がある」と感じた場所も、実際に戦ってみると麻由の実力で突ける隙ではなかった。敗因は百も承知しているのに、勝つ為の作戦が全く見えない。
(積極的に攻撃・・・ねぇ。間違ってはいないんだけどさ。
でも、アンタにとっての核心、一番ダメな部分は、そこじゃないんだよな)
麻由の弱点は、戦闘中に考えすぎて体が動かなくなる事と、攻撃的な性分ではない事。根本的に容赦せずに攻めきる性格ではないのだ。
だから、優麗祭では、紅葉や美穂に対して、中途半端な妨害しかできなかった。麻由は「紅葉や美穂が出来る事を自分もやらなければならない」と焦っている。「他人が得意な事は他人に任せて、自分の得意な事をやるべき」と解ってない。
だけど、美穂は「麻由のダメな部分」を口に出して説明する気は無い。そこまで親切にするのはガラではないし、何よりも「麻由自身が気付かなければならない」と考えている。
「念のために聞いとくけどさ~・・・
なぎなたやフェンシングは、あたしが使い慣れてるから強いって思ってる?」
「思ってるっ!強いに決まってるっ!
ミホゎ、いつも、薙刀や
フェンシングの剣使ってるもん!」
「ふぅ~~ん・・・あっそう!・・・だったらさ!」
美穂は少しイラッとしつつ、同室内の隣コート(剣道の試合場)に移動して中央に立つ。
「どうせ、似たような防具だ。
今から、こっち(剣道)の試合で仕切り直さないか?」
「お~~~~~~~~!やってやるっ!」
紅葉と麻由は、美穂の挑発を受け入れて、剣道の試合場側に移動をする。
大雑把に説明すると、なぎなたの防具は脛当て有り、剣道の防具は脛当て無し。なぎなたは脛への攻撃が有効で、剣道は脛への攻撃は無効。なぎなたは有効カ所に物打(刃に該当する部分)を当てれば一本、剣道は当てた時の強さも判定対象になる。
「剣道ならば、桐藤さんも使い慣れた武器ではない!
もう少し互角の勝負が出来るはず!」
「ミホの頭を思いっ切りブッ叩けば良いんだね!
よぉ~~~しっ!今まで負けた恨み、全部返してやるぞっ!」
「はいはい・・・
敗北フラグ全開の台詞を吐いてないで、サッサと掛かってきな!」
-数分後-
防具を着けてるにもかかわらず、思いっ切りブッ叩かれて呼吸困難になった麻由が、武道場の隅に転がっており、たった今、美穂の渾身の力で面に突きを喰らった紅葉が、「ぐげぇ!」と、ヒロインとは思えない醜い悲鳴を上げて弾き飛ばされ、壁に激突して御臨終をした。
観戦をしていたなぎなた部員&剣道部員達が静まりかえる。2年生の美少女トップ2が、揃って美穂に惨殺された。美穂の技術はまだまだ粗っぽいところはあるが、キチンと鍛えれば地方大会や全国大会に進出できるレベルだ。
「き・・・桐藤さん・・・剣道の経験は?」
「無い!まぁ、喧嘩で、棒っきれを武器にして振り回したことはあるけど・・・。
てか、入部はパス。防具が臭い!」
麻由については、試合開始と同時に、2回ほど麻由の竹刀を思いっ切り叩いて威嚇したら、その後は攻撃できず防戦一方になったので、面に集中的に何発も攻撃をして防御を面側に集中させた上で、空いた胴を「防具が割れるんじゃないか」ってくらいの勢いで思いっ切りブッ叩いて一本を取った。
紅葉は、アクロバットに動き回りながら果敢に攻めてきたので、最初は手を焼き防御に集中をしたが、やがて紅葉が疲れて息が上がって隙だらけになったので、「首の骨が折れるんじゃ無いか」ってくらいの勢いで思いっ切り面をド突いてやった。
こうして、紅葉と麻由は美穂に対して全戦全敗で体験入部の三連戦が終わる。
「んぁ~~~~!悔しいっ!
最後の戦い(剣道)は、お腹が空いてなきゃ絶対勝てたっ!」
「ばるばるっ!どうだかね~~、美穂、だいぶ手を抜いてたし!」
「手を抜いたってか、
放っときゃ、そのうち自滅すると思って、疲れるのを待ってたよ」
麻由は紅葉達の会話を聞きながら無言で俯く。紅葉と美穂の戦いで、紅葉の動き回る戦法を見て、「紅葉が勝つのではないか?」と思っていた。しかし、動き回る弱点を読まれ、美穂は最小限の動きで勝った。考えながら戦うことは自分もやっている。だが、相手の利点を逆手に取る作戦なんて、全く思い浮かばなかった。
美穂は、俯いて表情を引き攣らせている麻由を見て、「こりゃ、ダメだな」「悪いクセが出てら」と呟き溜息をつく。
「よし!紅葉の言う通り腹減ったし、皆で飯を食いに行こう!
コイツ(麻由)のおごりでさ!」
「おぉぉっ!いいね~~~!」 「ばるっ!なに食べに行くばるっ?」
「えぇ!?なんで私が!?」
美穂の無茶ぶりで、麻由が驚いた表情をして、ようやく顔を上げる。
「みんな、オマエの提案に付き合ってんだからさ、たまにはおごれ!」
「ま・・・まぁ・・・確かにそうですが」
「おっしゃ~~~!いっぱい食べるぞぉ~~~!」
「コイツ(麻由)に払ってもらうのは、一人前だけ!
食い足りなきゃ、あとは自腹な!」
「え~~~~~~っ!ミホのケチッ!」
「払うのは、あたしじゃない!」
「あぁ、そっか!麻由のケチッ!」
「わ、私はなにも言ってませんよ!
足りないなら、大盛りでも2人前でも・・・」
「ばるばるっ!紅葉におごったら、一食分で全財産が無くなるばるっ!」
「そう言うこと!奢るのは一人前って、ハナっから決めといた方が良いんだ!」
4人は、文架駅周辺のファーストフードに行くことになった。それぞれが、セットメニューを注文して、麻由が一括で支払いを済ませ、皆でガールズトークをしながらハンバーガーに囓り付く。サッサと1人前を食べ終えた紅葉は、自腹追加でセットメニュー1つと単品100円バーガー3つを注文した。
「相変わらず凄い食欲ばるね~。きっと、これでも足りないばるね。
でも、科学調味料の味しかしないのに、よく、こんなに食べられるばるね?」
「バルミィ・・・世界の食文化を支えているジャンクフードの全否定はやめとけ。
それにしても、家ならともかく、外食でバカ食いかよ。
相変わらず女子力の欠片も無いな。
ところで、アンタ(麻由)は追加しなくて良いの?」
「わ、私は別に」
「ふぅ~~ん・・・あっそう、なら良いんだけどさ。
まぁ、格好ばっか付けて、あんまり無理はすんなよ」
「・・・む、無理なんてしてません」
麻由は否定をしたが、麻由の腹がグゥ~と鳴る。赤面をする麻由。認めたくはないのだが、光の力に覚醒して以降、紅葉と同じ大食の体質になってしまった。対面で大口を開けてハンバーガーを頬張っていた紅葉が、まだ手を付けていない1個を、麻由に差し出す。
「お腹減ってるの?食べてィィよ!」
「え?・・・でも」
「ィィのィィの!足りなかったら、また注文するからっ!」
「あ、ありがとうございます・・・なら、遠慮無く」
麻由は、紅葉が差し出したハンバーガーを恥ずかしそうに受け取る。その後、紅葉は、セットメニュー×1、100円バーガー×5、シェイクLサイズを注文していた。食った物が、小さい体の、何処に入っていくのか、とても不思議だ。




