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15-2・試験勉強開始~美穂は勉強が嫌い~麻由の正論

-文架市立図書館-


 その建物は、山頭野川の西側、文架文化会館の隣に建っている。

 この時期の自習室は、大学入試を控えた高校3年生や浪人生が大半を占めていた。その一角で、紅葉&亜美&美穂&麻由&真奈が試験勉強に励む。


「この問題はね、クレハ・・・先ずは、この数式を使って・・・」

「あ~~~そっか」


 いつもは暴れん坊の紅葉だが、亜美が監視をしていると比較的おとなしいので、亜美に任せておけば何とかなりそうだ。

 麻由は美穂と真奈を集中的に監視する。真奈は、得意不得意にムラがあるが、一定の知識は備えているので、少し補助をしてやれば本来の力を発揮してくれそうだ。


「熊谷さん、来年の特進クラス行きを目指しているなら、

 もう少し点数を上げて、確実な順位にしておかなければなりませんよ」

「う、うん、頑張るっ」


 問題は美穂。毎回、赤点スレスレ、追試、結果的に留年2回、勉強なんてまともにやった事が無いようで、教科書を眺めても直ぐに集中力が切れて、窓の外を眺めたり指でペン回しを始める。


「特進狙い・・・住む世界が違うなぁ」


 優麗高は、3年生になると、トップクラスの大学を目指す“特進”と一般的な進学をする“一般”にクラス分けをされる。優高生にとって“特進”とは“エリート”の証なのだ。


「あ~~~~~~・・・ダメだ、疲れた。外の空気吸ってくる」


 美穂はたびたび席を立ち、一度外に出ると、なかなか戻ってこない。どう贔屓目に見ても、勉強をする姿勢になっていない。


「クレハ、集中して」

「ん~~」


 美穂がいなくなるたびに、紅葉が美穂のことを気にして、ただでさえ低い集中力を乱すので、亜美が注意をする。




-図書館脇の公園-


 美穂はベンチに座ってスマホを弄っていた。ゲームをやっているのだが、楽しく感じない。時間つぶしの作業をしている気分だ。溜息をつきながら空を見上げる。


「くそっ!面白くないっ!」


 成り行きで図書館まで付いてきたが、これ以上は合わせてられない。優秀な成績を収めて進学をする気など無い。高卒後は適当に就職をしようと思っている。


「学年順位なんてどうでも良い。

 今やってる勉強なんて、社会に出たら役に立たねーだろ。」


 紅葉と組んで、バルミィが参加をした頃は楽しかった。しかし、最近は、妙に気を遣ってしまう。麻由が仲間入りをしてから窮屈になった。

 紅葉は、美穂のプライベートをあまり追求をしない。だけど、麻由は、美穂の行動を注意したり、勉強を押しつけて、「私が正しいんだから従いなさい」みたいな態度で、いちいち踏み込んでくるのが煩わしい。


「あ~~~~あ・・・腹痛でも演じて、先に帰ろうかな」


 空を眺めながら呟く。・・・すると


「それはオススメしません」


 背後からイケ好かない声が聞こえて、振り返った麻由が立っていた。麻由は一言断ってから、美穂の隣に腰を下ろす。


「息抜きは終わりましたか?」

「いや・・・もうチョットかかる」

「・・・そうですか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 麻由は、美穂の隣に居座ったまま動く気配が無い。美穂は、そんな麻由の態度を煩わしく感じる。


「・・・ねぇ?」

「はい」

「もう気付いてんだろ?あたしが何を考えてるかさ」

「そう・・・ですね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あたしさ・・・今更、勉強なんて頑張る気、無いからさ」


 麻由は、美穂の言葉を聞いても特に驚かない。ある程度は察している。


「だからさ・・・あたしになんて構わないで・・・」

「桐藤さんは、来年も2年生続けるつもりなのですか?

 今のままでは、危ないのでは?」

「・・・え?」

「当たり前のことですが、私や熊谷さんや平山さんは、

 来年の4月になれば3年生になります。

 紅葉だって、少し問題はあるけど、落第するほど酷いわけではありません。

 桐藤さんはどう思っているのですか?

 1人だけ2年生に残るつもりなのでしょうか?」

「・・・チィッ!」


 反論のしようが無い。「勉強なんてどうでも良い」って考え方を変える気はない。だが、以前はともかく今は「進級なんてどうでも良い」とは思っていない。紅葉達と一緒に3年生になって、紅葉達と一緒に卒業をしたい。1人だけ残されて、卒業する紅葉達を見送るつもりは無い。

 ピンポイントで図星を突かれすぎて言い返す言葉が無い。しかし、言われっ放しは癪に障る。


「だったら言わせてもらうけどさぁ・・・

 昨日の戦い(カマイタチ戦)で、自分が役に立ってないの、気付いてんのか?

 アンタは戦力外だから、勉強する余力があるんだろうけど、

 まともに戦ってるあたしはクタクタ。紅葉はガス欠。

 ・・・一緒くたにしてもらっちゃ困るんだよな」


 美穂は、今まで気遣って、あえて言わなかった「腹に溜まっていたこと」を、つい、吐き出してしまう。それが、こじつけの嫌味と解っていても、一度出てしまった言葉を止められない。


「紅葉は、確か、夏前に変身用のスマホが送られてきたって言ってたから、

 もう4ヶ月になるのかな?

 あたしの場合は、2年前からやってる!

 アンタみたいな、まだ何もできなくて、

 勉強する余力のあるド新人とは違うんだ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そう・・・ね」


 美穂の言う通り、麻由は、昨日の戦闘では戦力には成っていない。今の指摘は自覚していたが、他人から言われると言葉を失ってしまう。

 一方の美穂は、勉強と進級については論破されたが、戦闘経験値でやり返して、少しスッキリした・・・と言いたいが、「高慢ちきの鼻っ柱をへし折って気分が良い」ってより、少し「言い過ぎた」とも思っている。優麗祭のゲリラライブの時と同じで、「気分の悪い勝ち」だ。

 戦闘経験の浅い麻由が、戦闘で役に立たないのは当然のこと。美穂だって充分に理解している。


「さて・・・勉強に戻るかな」

「・・・そうですね」


 2人は、それ以上、会話をすることもなく図書館に戻っていく。席に戻った美穂は「もう落第は嫌だ」と、先ほどまでより少しだけ真剣になって、試験対策の予想問題に取り組み始めた。紅葉&亜美&真奈は「何があったのか?」と首を傾げて麻由を見るが、麻由は少し寂しそうに苦笑いをするだけで、特に何も答えない。


 19時まで図書館でグループ学習をして解散となった。明日(土曜日)は9時に待ち合わせをして、今日の続きの復習をする。言うまでも無く、紅葉&美穂には、「明日までにやってこい!」と大量の宿題が出題された。


「クレハは、今から私の家で補習ね。」

「ふぇ~~~~~・・・まだやるの?」

「このまま家に帰ったら、宿題放置するでしょ」

「これ以上使ったらノーミソ無くなっちゃうよ~~~」

「脳みそは無くならないよ」

「アミのオニ~~~~!!」

「美穂ちゃんも一緒にどう?」

「いや、亜美は、紅葉の面倒を見てやってくれ。

 あたしはあたしで何とかするからさ」


 文架大橋の西詰めで麻由が別れ、東詰めで紅葉と亜美は南側に、美穂と真奈は北側に別れる。美穂は、麻由に見下されたのが悔しい。見返すのは無理でも、見下されないくらいにはなりたい。


「なぁ、真奈。もうちょっと、一緒に勉強やらないか?」

「えっ?急にどうしたんですか?」

「う・・・うん、なんとなく・・・解らないところを教えて欲しくて。

 迷惑なら、別にいいんだけどさ」

「いえいえ、迷惑なんて、そんな事無いです」


 憧れの美穂の申し出が嬉しくて、ニンマリと微笑む真奈。その後、2人は、美穂のアパートで21時まで勉強をした。




-翌日-


 真っ先に到着した麻由が、開館前の図書館の入口で待つ。次に到着したのは、意外にも美穂だった。挨拶程度は交わすが、2人の間に特に会話は無い。開館後、すぐに、紅葉と亜美が到着をした。紅葉は巨大なリュックサックを背負っている。中身については、嫌な予感しかしない。


「おベント作ってきたっ!お昼になったら、皆で食べよっ!

 ミホの好きなカラアゲ、いっぱいあるよ~」

「おう!サンキュー!」


 麻由は「ピクニックにでも行くつもり?」「調理の時間を勉強時間に充てろ!」と言いたげに、額に幾つも血管が浮き出させている。察した亜美は「良く言い聞かせます」「明日は勉強道具だけにします」と麻由に謝罪をする。

 紅葉達の到着から10分ほどして、真奈がやってきた。

 図書館の自習室に入って、昨日と同じ一角を占領してグループ学習開始。先ずは、紅葉&美穂がやってきた試験対策の予想問題(理科、社会、選択科目)を、麻由が答え合わせする。紅葉は5割以下、美穂は3割以下しか正解をしていない。昨日の国数英よりはマシだが、それでもヒドい有様だ。紅葉は得意な範囲と苦手な範囲がハッキリしているので、まだ対策が可能だが、美穂は全般的に解っていないので、どの範囲を重点的に強化すれば良いのか迷ってしまう。


「やれやれ・・・面倒臭いけど、昼飯まで、チョット頑張るかな」


 美穂は返されたプリントを眺めながら、指先でペンを廻している。イライラした雰囲気は感じられるが、昨日とは違って頻繁に席を立ったりはしない。勉強はしたくないが、もう留年はしたくないというジレンマが、美穂の心を締めている。


「クレハは歴史は、なんとかなりそうだから、

 午前中は地理を重点的にやった方が良いかな。

 私は私で勉強するけど、解らないところがあったら聞いてね」

「うぃっす!」

「熊谷さんは、昨日やっていた英語の続きからですね。

 理系文系のどっちの特進狙いでも、英語は不得意のままではマズいですよ」

「はい!」

「桐藤さんは・・・そうねぇ、

 もう一度、予想問題に挑戦して、疑問点を質問してくれるかしら?」

「はいよ!」


 昨日と同様に、亜美が主に紅葉を担当して、麻由は美穂と真奈を集中的に監視する。個人差はあるものの、それなりに集中をして試験勉強に励んで、2時間が経過をした。


「・・・・んぁ!!?」

「近いっ!」


 紅葉と麻由が、同時に先日と同じ気配を感じ取って立ち上がる。


「ちょうど良い!一暴れして、気分転換すっかな!」


 美穂は、状況を察して「来たか?」と表情を引き締める。

 亜美と真奈は、「紅葉が真っ先に動き出すなら、妖怪出現かな?」「でも、なんで麻由まで?」って表情で眺めている。


「どうしたんですか?」

「ト、トイレです」 

「あっ・・・あぁ・・・ァタシゎトイレ!」 

「あたしもトイレ!」 

「3人同時に?」

「私1人で行きます。紅葉と桐藤さんは、熊谷さん達と勉強をしていて下さい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4


 これがホントに「トイレ」なら、「私は行くが貴女達はダメ」って麻由の言い分はムチャクチャなのだが、実際は「トイレ」ではない。


「マユっ!それゎちょっとっ!」

「オマエ、何言ってんだよ!?」


 紅葉は驚き、美穂は「足手まといのクセに一人前の事を言う麻由」に腹を立てる。


「桐藤さんは、時間を惜しんで勉強をして下さい。

 紅葉だって、前回よりは成績を上げなければならないんですよね?」

「はぁ?オマエ、何様のつもりで!?」

「私だって、1人でやれますっ!!」


 これがホントに「トイレ」なら、「私だって1人でやれる」なんて、おかしな言い分なのだが、実際は「トイレ」ではない事くらい、みんな解っている。

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