13-4・冥鳥変化~ツヨシ対峙
-工場内-
外部のあちこちから戦いの轟音が聞こえてくる。麻由は光の牢獄の中で俯いている。ツヨシ達は「向かってきたのは龍山の他に2人」と言っていた。彼女達には、別れ際に「構うな!」と言ったのに、何故、来てしまったのだろうか?もうこれ以上、彼女達を巻き込みたくなかったのに、何故、聞き入れてくれないのだろうか?麻由は目に涙を浮かべて、悲しそうな表情で呟き続ける。
「もうやめて・・・やめて・・・やめて・・・
もう、私の事なんていいから・・・」
大粒の涙が幾粒も落ちて、床を濡らす。
-天界-
広大な敷地内、整備された広い道が延びており、左右には美しく飾られた庭木が並んで、此処が財力を惜しみなく見せ付けようとする権力者の所有地であることを伝えている。所有者の命を狙って飛び込んでくる連中が車を暴走させられないように、噴水や彫刻像などが道の真ん中に建っており、意図的な障害物、兼、権力を魅せるアートの役割をはたしている。
その敷地の中心に立つ立派なお屋敷の上階にある一室・・・龍神うどん社長室を更に豪華にした部屋で、老人と女性秘書と若い女性達が、展望台から庭の池に映る映像=麻由の周辺で起きている戦いを眺めていた。カミヤマ如来と、剛太郎の元秘書の高島、友達として麻由を導いた弘子&鈴奈だ。
「見ちょられんっ!麻由っ!」
苦戦するヤク○やネメシス達、泣き続ける麻由を見て、耐えられなくなった鈴奈が、救援として地上界に降りる為に、部屋から飛び出そうとする。しかし、弘子が「行ってはダメ!」と止める。鈴奈は反発をするが、今度は高島が丁寧に諭すように止める。
「今は、若頭(剛太郎の渾名)を信じましょう。」
「パパ(剛太郎の渾名)を?」
その場にいる誰もが麻由を助けたいと思っている。だが、カミヤマ如来から「天界は、この一件には手を出さない」と指示が出ている為に、部下達が独断で動く事は出来ない。剛太郎から要請があれば、救援を出すつもりだが、まだ何も言ってこない。勝手に援軍を送れば、カミヤマにとって最も頼りにしている部下・龍山剛太郎の面目を潰す事になるだろう。
カミヤマは、麻由と剛太郎に、自分たちの命運を託すつもりだった。ここで麻由達の命運が尽きるなら、カミヤマもそれに殉ずるつもりだ。
「だが、望みはある。」
その望みは、もしかしたら、今後、もっと大きな希望になるかもしれない。属性が相反する光と闇。決して相容れるはずのない2つの存在。本質的に、光の生命は闇の生命を、闇の生命は光の生命を、生理的に受け付けない。
だが、闇の住人が、光の後継者たる麻由に手を差し延べた。それは、カミヤマ如来には想像を出来ない事だった。
「もし、闇が差し延べた手を、光が受け入れる事が出来りゃあ・・・
未来に繋がる新たなる希望になるかもしれん。」
麻由の祖父は、麻由の事は人間界にいる者達に託して様子を見守る。
-明森町・工場近くの廃道路-
「ぬぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっ!!!!」
工場に向かって猛スピードで突っ走る人影がある!それは、工場前で戦っているネメシスとバルミィを見付けると、力強く地面を蹴って宙高く跳び跳ねた!そして、スマホを取り出して、画面に「冥鳥」と書き込み、正面に発生した巨大八卦先天図に飛び込む!
「んぁぁぁっっっっっ!!!!ウルティマバスタァァッッッッッッ!!!!!」
いつもの“光”のウルティマバスターよりも一廻りほど巨大な‘闇’のウルティマバスターが、上空から急降下をして、婆藪仙&摩尼跋陀羅が立っていた地面に激突!周囲に地獄の炎が洪水にように広がって、婆藪仙&摩尼跋陀羅を問答無用で焼いた!婆藪仙&摩尼跋陀羅は何が起きたのか理解を出来ないまま、断末魔の悲鳴を上げながら地獄の炎の中で消滅をする!
「んっへっへっへっへっ!」
地面を焼く炎を徐々に薄れ、その中心で、妖幻ファイターゲンジが見得を切る!
「ァタシ、登場っ!」
その上空、鞭が絡まったバルミィを担いだネメシスが、キグナスターにしがみついて空に退避をしていた。耳を劈くような奇声が近付いてきた時点で、嫌な予感しかしなくて、慌ててキグナスターを召喚して、バルミィを救出して空に逃げたのだが、まさか、いつもの数倍のオーバーキルで婆藪仙&摩尼跋陀羅を瞬殺するとは思ってなかった。
「・・・あの馬鹿っ!
相変わらずオーバーキルすぎるっ!
一歩間違えば、あたし達まで死んでいたぞっ!
しかも、来るなって言ったのに来やがった!
色んな意味で、どんだけ馬鹿なんだっ!!」
地面に着地をしたネメシスは、拘束されたバルミィを地面に寝かせレイピアで鞭を切り裂いてから、肩を怒らせて足早に歩き、格好良くポーズを決めている最中のゲンジの尻を思いっ切り蹴っ飛ばした!
「ヘラヘラすんな、アホンダラ!」
無防備だったゲンジは顔面から地面に突っ伏す!
「んぁぁっっ!!イッタイなぁ、もうっ!!ボーリョク、反対っ!!」
「この、ノータリン!!どっちのが暴力だっ!!あたし達まで殺す気かっ!?」
「てへへっ!そのことかぁ~」
「『てへへ』じゃない!笑って誤魔化すな!!」
「だってぇ~・・・ミホなら気付いて避けてくれると思ったんだもんっ!
さっすが、ミホ!わかってるぅ~~っ!!やるねっ!!」
「・・・そ、そりゃ・・・まぁ・・・・あ、あたしなら・・・」
マスクの下で顔を赤らめるネメシス。ゲンジは作為的にネメシスのプライドを持ち上げたわけではないが、天性の“人たらし”が発揮されてネメシスの方が良い気分になったので、殺されかけてた一件はめでたく落着をした。
「だけど、言いたい事はそれだけじゃない!
オマエ、馬鹿なのか!?なんで来た!?
アイツ等の攻撃が、あたし達にはどうって事無くても、
オマエにはヤバいってのが解ってないのかよ!?」
「わかってるわかってるっ!ちゃんと、気を付けるからっ!
だけどさ、ァタシ、ぁのぁと考えたんだけどさ、
ァィッ等の攻撃が、ァタシに効ぃちゃうって事ゎ、
ァタシの攻撃もァィッ等に効くって事だょね?
それって、すごくね?ァタシって頭良ぃょねぇ~~!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オマエ・・・さぁ」
ゲンジが自画自賛してる件については、ゲンジ以外の全員が気付いていた。気付いてた上で、戦闘経験が豊富なツヨシと素人同然な紅葉では実力差がありすぎて、紅葉が致命傷を受けるのが怖くて置き去りにしたワケで、今更、そんな基本中の基本に気付かれてもねぇ・・・。
「それでね、ァタシが光の攻撃の弱いっての初めてワカッテ、気付ぃたんだけど、
ァタシのウルティマバスターって、ヨーカイを倒す為に光の攻撃ぢゃん!!」
「そう・・・なの?あたしに聞かれても、よく解らないんだけど・・・」
「だらさ、だからさっ!
試しに、闇の攻撃のまんまでウルティマバスターやってみたら、
ぃっもょりも、スッゲー大きくなったの!
これってスゴくね!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいおい」
ゲンジが自画自賛してる件については、素直に「凄い」と認めるしか無さそうだ。ネメシスの背中に、冷たい汗が流れる。
「・・・へぇ~、いつものウルティマバスターですらオーバーキルな攻撃なのに、
得意な属性で放てば、破壊力が数倍に跳ね上がるんだ?
逃げ遅れてたら、確実に死んでたな。」
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闇属性の妖怪にダメージを与える為には、光の力が効果的。ゆえに、Yスマホで妖力を光の力に変換している。ゲンジが『10の力』をウルティマバスターに使用した場合、自動的にリミッターがかかり、『3』を光の力に変換して、『3』を紅葉では扱えない光の力の維持に、『2』を光の力とゲンジの間に通してゲンジ自身がダメージを受けないように、残る『2』は各変換時のロスとして失われる。攻撃が『3』で、ゲンジの防御が『2』なので、ゲンジ自身が、自分の奥義でダメージを受けてしまう。しかし、変換をせずに闇の状態で使用すれば、『10』の力の全てが攻撃力に向けられる。相手が闇属性以外なら、闇属性のままで攻撃をした方が破壊力があるのだ。
ちなみに光の場合は「神鳥」、闇の場合は「冥鳥」とYスマホに書くが、これは紅葉の気持ちの問題で、何を書いても(例えば光ならハト、闇ならカラス)、紅葉がキチンとイメージできれば奥義は発動可能。
なお、紅葉はどちらの場合も「ウルティマバスター」と呼んでいるが、正式名称は神鳥の場合が「ウルティマバスター」で、冥鳥の場合は「ヘルズノヴァ」になる。
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「まぁ・・・来ちゃったもんは仕方が無いか」
「ぅん!仕方無いねっ!」
「自分で言うなっ!」
最も有効な属性攻撃で婆藪仙&摩尼跋陀羅を瞬殺したのも事実だ。ゲンジが光属性の攻撃で致命傷を負わないようにフォローしつつ、ゲンジにツヨシへの有効打を撃たせるのが、現時点では一番確実な戦法だろう。
「もし、光のダメージを喰らった時は、
直ぐに闇で洗い流せるように、ある程度の準備はしておけよ。
さっきみたいに動けなくなったら、即、手詰まりになるからな」
「あぁ・・・それ?・・・ん~~~・・・・」
「なんだよ、その口籠もりは?
まさか、闇で洗いながさなければならない可能性を、考えてなかったのか?」
「ん~~~・・・そ~ぢゃなくてね・・・
闇で洗ぃ流すのゎ、やり方が解らなぃの」
「・・・はぁ?」
「ょくわかんないケド、直っちゃった。」
「・・・・・・・はぁ?え~っと、オマエ・・・さぁ?
アイツ(ツヨシ)の攻撃に対する防御や回復の手段が一切無いまま、
ここに来ちゃったのか?」
「うぃっす!でも気を付けるからダイジョブ!」
「・・・大丈夫じゃねーだろ」
ゲンジがあまりにも楽観しているのが、ネメシスは不安で仕方がない。やがて、バルミィが無事に鞭の拘束解いて合流してきたので、3人は互いの眼を見て頷き合い、工場内に入る為に走り出した。
「チッ!」
工場内で苛立ちを募らせた舌打ちが鳴る。直後に周辺の大気が振るえ、まるで圧縮されるように工場内に向かって集まっていく。
「なんだぁっ!?」
「ヤバくねーか!?」
「やばいばるっ!」
ゲンジ&ネメシス&バルミィは、風で煽られるようにして大気と一緒に工場内に吸い寄せられそうになるが、腰を低く落として足を踏ん張らせて踏み止まる!
2~3秒をおいて、大気の圧縮が止まった。周辺が、不気味な静寂に包まれる。
「来るばるっ!」
「紅葉は、あたしたちの後ろに隠れろ!」
「んぁっ!」
圧縮をされた大気が、光を添加されて解き放たれた!工場内全体が眩しい光の洪水に包まれ、廃材が風で煽られて転がり、窓ガラスが強風に耐えきれずに次々と割れ、正面のシャッターがひしゃげて脇のレールから外れる!
ネメシスとバルミィで、ゲンジを庇うようにして防御姿勢で踏み止まるが、衝撃が強すぎて足が舗装の地面を滑る!やがて、正面シャッターがシャッターボックスから外れて、ネメシス達3人目掛けて飛んできた!
「げっ!」 「マジばるっ!」 「んぉぉっ!」
吹き飛んできたシャッタースラットがネメシス&バルミィに激突!自分の体一つくらいなら衝撃波の強風を凌ぐ事も出来るだろうが、面積の広いスラットが引っかかって煽られると流石に体勢が維持できない!背後にいたゲンジも巻き込んで十数mほど吹っ飛ばされた!
「面倒くせ~なぁ・・・たかがザコ相手に、俺の出番かよ!」
工場内・・・放たれた光の中心。掌を向けたツヨシが立っている!




