13-2・バルミィの登場と不満~居残り紅葉
紅葉はYスマホを、美穂はサマナーホルダ掲げて、変身ポーズを決める!妖幻ファイターゲンジ&異獣サマナーネメシス登場!ベランダの麻由に駆け寄る!
「あ、貴女たち・・・なんで?」
「こんなこったろうと思ってた!
手を差し延べた相手を頼れって、前にも言ったよな!?
それは、そいつの手じゃない!オマエは、そんな事も解らないのか!?」
「行かせなぃょ!ァタシ達ゎ、そのために来たンだもんっ!!」
「だ、だけど!!」
「オマエが拒むってなら・・・力尽くでも行かせない!!」
ツヨシは面倒臭そうに舌打ちをして立ち上がり、掌をリビングに向け光の衝撃波を放った!
「・・・くっ!」 「わぁぁぁっっっっ!!」
瞬間的に、リビング内は眩しい光以外に何も見えなくなった!テレビや家具などが倒れて床を転がる!光の衝撃波に突進を阻まれ、足を踏ん張らせて踏み止まるネメシス!一方のゲンジは、衝撃波に吹き飛ばされて、リビングの壁に叩き付けられる!
「ザコは引っ込んでろ」
2発目、3発目の衝撃波が、立て続けにゲンジとネメシスに浴びせられる!身を低く構えて踏み止まり続けるネメシス!1発目の不意打ちは焦ったが、冷静に対応すれば大した攻撃ではない!ただ単に、接近を妨害されているだけ!隙を見て麻由に近付けそうだ!・・・しかし!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
耳を劈くような悲鳴が、ネメシスの背後から上がる!振り返ると、ゲンジが壁に張り付いたまま苦しそうに悶えている!大した攻撃ではないのに、ゲンジがダメージを受けている。
「ぁっぃ・・・ぁっぃ・・・わぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!!」
あっという間に変身が解除され、紅葉の姿に戻ってしまった。今まで幾度も隣でゲンジの戦いを見てきたネメシスは知っている。ゲンジはこんなに弱い戦士ではない。しかし今は、「貧弱なド素人が初めて変身をした最弱戦士か?」と思ってしまうほどに弱々しい。
「闇は光に弱い。光の攻撃の前に、闇で編まれた鎧は何の役にも立たない」
「や、やめてっ!彼女には手を出さないと言ったはずよ!」
「やめますとも。
アンタが、彼女達の無駄な抵抗を諦めさせて、俺の招きに応じてくれればね。
彼女が命を失うのと、アンタが素直に従ってくれるのと、どっちが早いかな?」
「・・・くっ!」
ツヨシは4発目の衝撃波を放とうとするが、麻由が間に立って妨害をする。その間にネメシスが紅葉に駆け寄って抱き起こす。紅葉の体は炎で炙られたように熱くなっている。
「何だよ、この熱?紅葉、しっかりしろっ!!」
「ぅぅぅぅっっっっっっっっ・・・・だ、大丈夫。マユ・・・いかせなぃょっ!」
「源川さん!私の事はもう良いからっ!!構わないでっ!!」
「ぃ・・・ぃやだ・・・ァタシゎ・・・マユを」
立ち上がり、覚束ない足取りで麻由に近付く紅葉。「今の紅葉のダメージは異常」と感じたネメシスが、紅葉を止めようとする。しかし紅葉は、弱った腕力でネメシスを退けて、麻由に近付く。
「マユゎ・・・友達なんだ!だから・・・助けなきゃ・・・」
見ていられなくなった麻由が、奥歯を噛みしめ、意を決して、足早に紅葉に近付いた。
「マユっ!」
戻ってきてくれたと感じた紅葉が、麻由に手を伸ばす。
「・・・源川さん!」
だが麻由は、紅葉が伸ばした手を受け止めず、平手で紅葉の頬を思い切り叩いた!室内に小気味の良い打音が鳴り響く!
「いい加減にして!!目障りだって言ったでしょ!
私と貴女は友達なんかじゃない!変な勘違いをしないでっ!」
踏ん張る余力が無く、蹌踉けて尻もちをつく紅葉。麻由は踵を返して足早にベランダに戻っていく。そして、ツヨシに頷いて合図をする。ツヨシは品の無い笑みを浮かべて頷いた。
「・・・マ、マユ・・・ダメ」
「さようなら」
「ふっ!友達じゃないってよ!あばよ、カトンボども!」
ツヨシが体内から発した光が麻由を包む。眩しさに溺れて目を細める紅葉とネメシス。光は勢い良く飛び上がり、空の彼方に飛んでいった。
「ふざけるなっ!『友達じゃない』だと!?『目障り』だと!?
マジでムカつく!!」
ネメシスはベランダに飛び出して、光の行き先を目で追った後、悔しそうに手すりを叩く。紅葉は、自分の力不足を悔やんで俯いている。
「ち・・・違ぅょ、ミホ。それ、マユの本心ぢゃなぃ。
マユ、ァタシ叩ぃた時、泣ぃてぃたょ。
きっと、ホントゎ、行きたくなぃんだょ。
・・・でも、行くしかなくて・・・。」
「そんなの解ってる!!だからムカつくんだ!!
頼れって言ったのに、また頼らない!!
あたし達は、そんなに頼りないって言いたいのか!?
いつまでも1人で泣いてんじゃねーよ!」
ネメシスの脳裏に浮かぶのは、後夜祭の時に独りで泣いていた麻由の姿。
「チクショー!ムカつくったらありゃしないっ!!」
主が居なくなったマンションの一室。
夜明け前の町中に、変身を解いた美穂がベランダの手すりを何度も叩く音だけが鳴り響く。紅葉は、美穂の叩き鳴らす音を耳障りに感じるが、ツヨシから受けたダメージが重くて、注意をする気力も無い。
「お嬢様っ!」
室内に、けたたましい足音が鳴り響く。紅葉が振り返ると、剛太郎が踏み込んできた。ベランダに飛び出し、悔しそうな表情で空を睨み付ける。
「チィィ!なんてこった!遅かったか!!」
ツヨシは周到だった。麻由を連れ出す為に、最も障害となる剛太郎に配下を嗾けて現場から引き離したのだ。剛太郎は「麻由に気付かれない為に、自ら、戦場を誘導した」と考えたが、実は、まんまとツヨシの誘導に乗せられてしまった。剛太郎が捨て駒を全滅させるまでに、麻由と接触できれば良かった。ツヨシからすれば、麻由の傍にいた紅葉と美穂などは、ハナっから眼中に無い。
「不動明王めっ!」
ツヨシと麻由を包んだ光は、天には昇って行かなかった。ツヨシが何処に行ったのかは解らないが、少なくとも天界ではない。人間界の何処かにいるはずだ。光属性の気配を索敵しながら廃屋やひとけの無い場所を虱潰しに探せば、必ず何処かにいるはずだ。
剛太郎は、麻由を捜索する為に、マンションから立ち去ろうとする。
「・・・ん?」
そこでようやく、室内で蹲っている紅葉に気付く。今まで、頭に血が上りすぎていて、周りの出来事に気付かなかった。美穂は別状は無さそうだが、紅葉の様子がおかしい。触れてみると、全身に“光”が軽く纏わり付いている。
「・・・・これは?」
人間ならば、この程度の光など受け流す事が出来る。闇属性の妖幻ファイターの場合は、闇で編まれたプロテクターは紙防御と化して貫通されるが、肉体へのダメージは、それほど大きくないはずだ。光で焼かれるのは闇の生物だけ。
「何故、人間がダメージを受けている?」
興味が湧くが、今は探究する時ではない。麻由の救出が最優先だ。
「君が妖幻ファイターって事は、
麻由お嬢様の護衛をしとる時に、なんべんか見たけぇ知っとる。
この程度の光なら、闇で洗い流せるはずだ。
妖幻ファイターなら、それくらいは出来るんじゃろ?」
「・・・んぁ?ヤミで、ぁらぃながす?」
「あぁ、そうだ。それで、体を灼いとる痛みは治まるじゃろう」
剛太郎は立ち上がり、今度は、ベランダに戻って、美穂に話しかける。
「巻き込んでしもうて、すまんな。お嬢様を守ろうとしてくれた事、感謝する。
不動明王の光は、どちらの方に飛んでいったか、見とったかね?」
「ごめん、眩しくて、まともに目を開けてられなくて・・・
でも、多分、あっち(南東)の方だと思う。」
美穂が指をさした方向には、リバーサイド鎮守と鎮守の森公園があり、その先には、明森町が広がっている。明森町の一帯は、以前は古い住宅地と田園だったが、土地開発区として、領地買収を受けた住民は立ち退き、今は取り壊しと造成を行う為の工事区域になっている。確かに、土地開発区ならば、人目につかず、持ち主の居なくなった建物に身を潜める事が出来る。
更にその先は、須弥山がそびえている。文架市で最も標高が高い山だ。須弥山に潜まれると少々厄介だが、行く必要があれば、迷っている時ではない。
※須弥山
古代インド、及び、バラモン教や仏教の世界観の中で、中心にそびえる聖なる山。
『愉快な仲間達』の世界観では、羽里野山と並んで、一般的な山の一つ。
「東の須弥、西の羽里野」「太陽が須弥から上って、羽里野に沈む」的な感じ。
「龍山さんには、須弥山をお願いしても良いか?
あたしは、明森町に行ってみる!」
「い、いいや、これ以上の深入りは危険じゃ!」
「一刻を争うかもしれないんだろ?
だったら、深入りだのなんだの、考えてる余裕は無いんじゃないか?
それに、旧住宅地なら、あちこちに“映る物”が有るだろうから、
異獣サマナーの特性を活かして隠れながら探せる!」
「すまん。頼む。
じゃが、奴等を発見したら、単独行動はせず、直ぐにわしを呼んでくれ」
「解った!あたしだって、奴等のヤバさは何となく解るからね!」
頷き合って、部屋から飛び出そうとする美穂と剛太郎。
「ふぅ~ん・・・あきらかに余計な事なのに、首を突っ込む気ばるっ?」
いつの間にか、ベランダの手すりにバルミィが腰を掛けて、首を傾げて不満そうに美穂を見つめている。美穂は、バルミィの突然の登場と不意の質問に戸惑った表情をしたが、2~3秒の間を置いて意図を掴み、深く頷いた。
「そうだよ、余計な事に首を突っ込むつもりだ!」
「アイツ(麻由)、勝手に付いて行ったんでしょ?
なのに、なんで助けるばるっ?」
「アイツ(麻由)の態度がムカつくから!」
「意味が解らないばるっ!ムカつくのに助けるの?
アイツ(麻由)、ボクの事も、嫌ってるばるよね?態度見てれば解るばるっ!」
「だからさ、アイツ(麻由)を連れ戻して、
ビンタの一つもくれてやらないと気が済まないんだ!」
「美穂は、口では、アイツ(麻由)を否定してるけど、
表情は、助けようとしてるばるっ!
解らないな~!地球人の感情が解らないばるっ!」
「バルミィに“嫌いなヤツをワザワザ助ける戦い”の強制をするつもりは無い。
これは、あたしが、勝手にやりたいだけだからさ!」
バルミィは「美穂は以前にも、友達でもなんでもない生徒(真奈)を救う為に戦った」と思い出す。あの時の美穂の行動がキッカケになって、バルミィと紅葉や美穂達との交流が始まり、後に救出した生徒(真奈)も合流したと考えると、今の美穂の判断を全否定することはできない。
バルミィは、軽く溜息をついて、明森町の方角を指でさした。
「見ていたから、アイツ等が隠れた建物まで解るばる!
この先にある、煙突のある廃墟になってる広い建物ばるっ!
3個並んで立ってるうちの真ん中の建物ばるっ!」
互いの眼を見て頷き合う美穂と龍山。バルミィが示した場所は、文架市で育った一定以上の年齢層なら誰でも知っている。おばけ煙突のある廃工場。確かに、町から近く、ひとけは無く、身を潜めるには絶好の場所だ。
「やれやれ、仕方ないばるな!乗って!美穂がやるってなら手を貸すばる!
アイツ(麻由)を助ける義理は無いけど、美穂を助ける義理ならあるばるっ!」
「サンキュー、バルミィ!
バルミィなら、そう言ってくれると期待してた!」
「ボクを嫌ってる子に貸しを作るのも面白そうばる!」
バルミィがベランダの内側で仰向けになって、床上50cmの高さで浮かぶ。美穂は慣れた仕草でバルミィの背中に跨がった。続いて、許可したつもりは無いのに、剛太郎も跨がった。
「すまんな、バルミィとやら!お嬢様のところまで頼む!」
「ば、ばるばるっ!龍山のおっちゃんも乗るんかいっ!?
ちょっ・・・くすぐったい!腰にしがみつくなっ!」
「おぉ・・・すまん!」
「わゎっ!だからって、あたしにしがみつくなっ、変態!」
「す、すまん!重ね重ねの猥褻行為を詫る!」
「猥褻とか言うな!」
準備が整ったので、ツヨシと麻由が居るはずの廃工場に向かおうとしたら、蚊帳の外に放置されていた紅葉が、力無い足取りで立ち上がってベランダに出てきた。
「ま、まって!3人で勝手に決めなぃでょ!ァタシも行くっ!
ゴータロー、そこ退ぃて!ァタシの乗る場所が無ぃぢゃん!」
「はぁ?オマエ、そんなにフラフラなのに行く気なのか?」
「も、もちろんっ!」
「行って、何をするつもりだ?今回は留守番してな!」
「いやだっ!行くっ!」
「ハッキリ言うけど、さっき程度の攻撃で動けなくなられちゃ足手まといだ!」
「だ、大丈夫!ゴータローが言ぅよ~に、闇で洗ぃ流すからっ!」
「まだ出来てないじゃん!オマエ『洗い流す』って方法が解らないじゃねーの?」
「悪い事はゆわん。君はここで待ってろ。
例え、今のダメージを洗い流せても、
君にゃあ、ツヨシの攻撃を防御する手段が無い。
光の攻撃は、闇の防御を貫通する。
我々にゃあ軽いダメージでも、君にとっては致命傷になりかねんのじゃ」
「だ、だけど、マユを助けなきゃ!」
「さっきみたく、戦いが始まった途端に変身が解除されちゃったら、
ボクでもフォローできないばる!
ボク、アイツ(麻由)の事は好きじゃないし、助ける義理も無いばる!
だけど、紅葉の代わりにボクが行くばるっ!
だから、温和しく待ってるばるよ!」
「フォローしなくてイイ!代わりなんて頼んでないっ!」
理路整然と説明をするのだが、紅葉は全く受け入れない。美穂は、苛立ちながら溜息を付く。
「コイツと話していても進展しない。サッサと行ってくれ、バルミィ!」
「了解ばるっ!」
美穂に促され、バルミィは上空高く飛び上がった!背に乗っている美穂と剛太郎が振り落とされないギリギリのスピードで、明森町の廃工場を目指して飛んでいく!
「ま、まってっ!!」
紅葉は、その光景を、悔しそうな表情で見送る事しか出来なかった。脱力をして、その場に腰を下ろす。足手まとい扱いをされてしまったのは悔しいが、それ以上に、自分の手で麻由を助けに行けないのが悔しい。
「マユ・・・泣いてた。」
光のダメージが重くて動けない。剛太郎は「闇で洗い流せば良い」と言っていたが、美穂に指摘された通り、どうやれば洗い流せるのか解らない。言われた通りに温和しく待つ以外に、出来る事は無いのか?Yスマホを握る手に力がこもる。




