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13-1・麻由の部屋に集合~不動明王ツヨシ登場

 その日は、麻由が「気分が悪くなった」と言って、紅葉と美穂の弓道の練習は打ち切りになった。紅葉は「マユの護衛をしたい」と言うが、「剛太郎が何処かから守ってくれている」と言って、体よく断る。

 正門前で、「また明日」と挨拶をして、紅葉と美穂は南側へ、麻由は北側に歩き出す。しばらく歩いてから振り返り、紅葉と美穂の背中を見つめる麻由。自転車を引く紅葉と、徒歩の美穂の背中に、深くお辞儀をして小声で呟く。


「今日は久しぶりに楽しかった。でも、・・・・・さようなら」


 一方の紅葉と美穂は、麻由の様子がおかしい事に気付いている。麻由から一定の距離を遠ざかったタイミングで、美穂が口を開いた。


「なぁ・・・どう思う?」

「マユ・・・きっと、また、この前のヤツの仲間に狙われる」

「・・・だよな」

「守ってぁげなきゃ!」

「そう言うと思った。

 だけど、いつ狙われるか解らない。

 今みたく、あたし達が一緒の時とは限らない。

 親と一緒に住んでるオマエは、夜中までアイツに張り付く事は出来ないだろ?」

「ぅん・・・きっと、そんな事したら、ママに怒られる」


「しゃ~ない!一人暮らしの、あたしがやるしか無さそうだな!

 勉強を教えて欲しいとかなんとか、適当な理由を付けて、

 しばらくは、アイツのマンションに転がり込むよ!」

「ん!ぉ願ぃね!

 マジでヤバそうな時ゎ、ママに怒られるの覚悟で、ァタシも行くからっ!」

「了解!そんじゃ、早速、転がり込む準備しなきゃ!」


 そうと決まれば行動有るのみ。美穂の原チャが停めてある駐車場まで来ると、2人はそこで別れて、美穂は原チャのスピードを上げて一人で帰って行った。




-19:00・麻由のマンション-


「・・・・・・・・・・・・はぁ?・・・・・・・・なんで?」


 麻由が自宅でTシャツにハーフパンツ姿でリラックスをしていたら、部屋の呼び鈴が鳴った。対応をしたら小荷物を背負った美穂が「よう!」と軽く挨拶をして、さも当然のように部屋の中に上がり込んでくる。


「今日の授業で解らないところがあったから、教えてくんないかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「家では豪華なガウンでも着てるのかと思ってたけど、普通の格好してんだな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 美穂の事は少し認めるようになったが、いきなり家に押し掛けられるほど親密とは思っていない。定期試験は常に赤点スレスレだと言うのに、「今日の授業で解らないところ」なんてどのくらいあるのだろうか?「解るところ」の方が少ないような気がする。しかも、「教えて」と言うわりには教材をロクに持ってきていない。

 ただ、まぁ、明朝の一件がある為、本日はボーイフレンドとのデートや宿泊の予定を入れてなくて良かった。

 美穂は、「とりあえず飯にさせて」と言って、リビングに座り、勝手にテレビを点けて、買ってきたパンを頬張る。


「お食事をするなら、こっち(キッチン)に来ていただけないかしら?」

「はいはい・・・優等生は、家でも真面目だね~」

「コーヒーかお茶でも煎れましょうか?」

「あっ!飲み物なら買ってきた!」


 麻由に注意をされた美穂は、キッチンのテーブルに着いてパンの続きを頬張る。向かいのイスに麻由が腰掛け、事前に買って置いたコンビニ弁当とサラダを食べ始める。学校では“如何にも金持ちのお嬢様”ふうの麻由が質素な夕食を食べる姿は、美穂には意外に見えた。


「へぇ~・・・案外、寂しい夕食なんだね」

「余計なお世話です」

「てっきり、毎日、豪華外食ディナーかと思ってた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「自分で作ったりしないのか?家事は苦手?」

「苦手ではありませんが、作っている時間が無いのです」

「へぇ~・・・意外に思えるかもしれないけど、

 アイツ(紅葉)はそ~ゆ~の、結構得意なんだよ。

 外見以外は女子とは思えないようなヤツなのに、

 変なところだけ女子力が高いんだよな」

「知ってますよ。家庭科がAB合同ですから」

「なんだ、今まで、全然興味が無い感じにしてたけど、結構、見てたんじゃん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 返す言葉が無い。所々で存在感を発揮する紅葉には注目をしていたし、だからこそ警戒をしていた。

 目の前に居る美穂も、今でこそ、紅葉と連んでいるけど、最初の頃は紅葉をあからさまに避けていた。「なにがキッカケで仲良くなったのか」と尋ねてみる。


「良く解んね。

 強引なアイツに絡まれてるうちに、いつの間にか仲良くなってた」

「ああ・・・そうなんですか?」


 あきらかに説明不足な回答なのだが、麻由には何となく理解ができた。今まさに、麻由は「その立場」にいることを自覚している。


ピンポ~~~~ン

 呼び鈴が鳴ったので、麻由が夕食の手を止めて対応をする。インターホンの画面には、紅葉のドアップの顔が映っていた。


〈こんばんゎ!遊びに来たょ!〉

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 何故、狙われている紅葉が遊びに来たのだろうか?でも、来たものは仕方が無いので、招き入れる。紅葉は、後ろに大きなリュックを担いで、前にも大きなリュックを抱えて、両手にボストンバッグを持って、部屋に上がり込んできた。背が小さいので、リュックの塊が動いているようにしか見えない。


「おうちに帰ったら、ママがぃなかったからさ~。

 一人ゎ寂しくて、差し入れ作って遊びに来ちゃったぁ!

 今日ゎパパとデートで、明日の夕方まで帰ってこないんだって~。

 ずるぃよね~」


 紅葉が背中に担いできたリュックには教材一式、右手のボストンバッグには着替え数着とタオルと歯磨きセット、左手のボストンバッグには遊ぶ道具、背中のリュックには料理が詰まったお重とオヤツが入っていた。美穂が早速、お重の蓋を開けると、3人で食べて何日分?てくらいの量がギュウギュウに詰まっている。


「美味そう!唐揚げ、食べて良い?」

「いいよ~!た~んと召し上がれっ!」

「あ・・・あの・・・遊びに来たのよね?これは、どう見ても泊まりに・・・」

「気にしなぃ気にしなぃ!朝まで遊ぼぉ~~!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 帰って欲しいのだが、「泊まるのが当たり前」くらいのノリで、ここまで堂々と居座られると、どう言えば帰ってくれるのか全く解らない。明日の朝には、天界の使いが麻由を迎えに来るのだが、事情を説明するわけにはいかない。もちろん、紅葉が駆け引きの対象にされて狙われている事など、言えるわけがない。彼女の事だからそんな事実を知ったら、退くどころか進んで首を突っ込んでくるだろう。

 しかし、考えようによっては、紅葉が此処にいれば、麻由が見えないところで紅葉が狙われる心配は無くなる。明朝に麻由が去れば、紅葉の安全は保証される。彼女が傍にいる方が、安心を出来るのかもしれない。




-22:00-


 美穂はテレビでバラエティ番組を見て大笑いしながら宿題をやっている。紅葉が風呂に行ったっきり1時間も戻ってこないので、心配になって麻由が見に行ったら、既に浴室には居なくて、寝室のベッドで、スェット姿で寝息を立てていた。


「あ、あの・・・」


 高校生の就寝時間には早すぎる。起こそうとしたが全く起きないので、溜息をついてリビングに戻る。僅か5分程度しか目を離さなかったのに、美穂が机に突っ伏して眠っていた。


「き、桐藤・・・さん?」


 宿題はノートに二行くらいしか書いていない。揃いも揃って、がさつすぎる。麻由の今までの交友履歴に、こんないい加減な連中は存在しなかった。

 クローゼットから毛布を出して、美穂の背に掛けてやり、自分で使う毛布をソファーの上に置き、紅葉と美穂が散らかした遊び道具を整頓する。

 いつもならば、日が変わる前に宿題を終えて、翌日の授業の教材を準備してから自学に励むのだが、今日は本日の教材を棚に戻すだけ。明日の準備には手を付けない。

 明日以降は、学校に行くつもりが無い。


 しばらく、小さなボリュームでテレビを見て、読んでいる最中の小説を数ページ読み、いつもより早いが、日付が変わる頃に消灯にする。いつも目覚ましにしているオーディオのタイマーはセットしない。アラームをバイブ機能でセットしたスマホを抱えて、ソファーで毛布を被る。

 誰も口には出さなかったが、紅葉と美穂が心配して来てくれことを、麻由は知っている。だからこそ、内心では嬉しくて、追い返す事が出来なかった。毛布の中で目に涙を浮かべ、小声で「ありがとう」と呟く。




-マンションの外-


 有紀が、明かりの消えた麻由の部屋を見上げている。旦那とのデートなんて嘘。紅葉が気兼ねせずに友達の護衛に行けるように、不在を演出した。

 天界人が相手では、かなり厳しい戦いになるだろう。今回は「娘の正念場」と考えている。




-翌日・4:45-


 マンションの屋上に剛太郎が待機をしている。嫌な気配が町全体を包んでいる。昨日の弓道場の出来事は、遠くから麻由を見守っていた剛太郎も承知していた。近いうちに何かを仕掛けてくると警戒はしていた。変身アイテム・ヤク○フォンを取り出して構える。


「来たか・・・不動明王の手下共!」


 天より2つの光が降ってきて、屋上に着地!先日取り逃がした満善車鉢まんぜんしゃはつナガオと、毘舎闍びしゃじゃサンマだ!剛太郎はヤク○フォンを展開して、【8-9-3】の順番でボタンをプッシュ!右腕に出現した手甲(ヤク○ドライバー)にセットした!


「幻装!!」


 剛太郎の背中から生えた光の翼が剛太郎を包み、中から聖幻ファイターヤク○が登場をする!同時に、ナガオとサンマも、聖幻ファイター満善車鉢&毘舎闍に変身!戦闘開始!ヤク○は、喧騒を麻由に悟られない為に、満善車鉢&毘舎闍を河川敷側に誘導する!




-5:00-


 アラーム(バイブ機能)で目覚めた麻由は、机で伏して寝ている美穂に悟られないように忍び足でベランダに出る。周囲はまだ薄暗く肌寒い。町のあちこちに明かりが灯っており、道路を走る車は少ない。

 改めて思い返すと、辛い事も沢山有ったが、良い故郷だったように思える。でも、もう、これで見納めになるかもしれない。感傷に浸りながら薄暗い景色を眺め続ける。


「流れ星?・・・いや、違う」


 上空の一点が輝き、薄明るい空から光の玉が降りてきて、麻由の立つベランダに着地をする。


「お待たせしたな、お嬢さん。

 俺は不動明王ツヨシ。よくぞ、俺の申し出を受け入れてくれました」


 光が薄れ、中から、無精髭で、高級スーツを着崩したチンピラふうの男=不動明王ツヨシが出現。片膝をついて遜ったまま、麻由を見上げて品の無い笑みを浮かべる。


「よく言うわよ!汚い手段で、応じなければならないように、仕向けておいて!」

「ふふん!ずっと探してたよ。お会いできて光栄です。天の巫女よ」


 初対面の男だが、彼が発している光の闘気は、数日前に自分が発したものと同じ。つまり同族の人間。卑しそうな男だが、会話が出来ない者ではなさそうだ。剛太郎から聞いた時は、もっと怖そうな風体を想像していた。


「貴方が、お爺様の政敵なの?」

「いえいえ、カミヤマ如来様と政敵だなんて滅相も無い。

 少し意見が違うだけ。

 俺も、アンタの爺さんも、天界を良くしたいって気持ちは同じです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さぁ、行きましょう。

 ご安心下さい。お嬢さんに手荒な事をするつもりはありませんから」

「約束よ!私が応じたんだから、源川さんには危害を加えないって!」

「くっくっく・・・もちろんですとも」


 ツヨシは、丁寧に遜りながら、麻由に手を差し伸べた。麻由は、その男の見え透いた言葉を疑いつつ、応じる素振りを見せる。・・・その時!


「マユ、ダメェッッ!」 

「オマエ、コソコソとなにやってんだ!?」


 麻由がリビングを振り返ると、紅葉と美穂が構えている!2人とも、嫌な気配を感じ取って目を覚ましたのだ!


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