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12-2・剛太郎の過去~麻由出生の秘密

-数年前-


 祖父の死後、麻由は、独りで祖父の家に住んでいたが、ある日、不動産屋が「土地を買ってマンションを建てたい」と訪ねてきた。麻由は「家が無くなるから嫌だ」と断るつもりだったが、「土地代と、マンション一室(最上階)購入費+旧家の取り壊し費用」を相殺すると提案され、大人の知人(小学生時代の後見人)に相談をしたら「悪い話ではない」とアドバイスされたので承諾した。

 相変わらず、月に一度の「ポストに100万円が投函される現象」は続いており、気持ちが悪いと思っていたので、むしろ防犯設備の整ったマンションに住むのも良いとも考えた。


 しかし、マンションに住んでからも、月初めの100万円投函は終わらなかった。始めて投函された日から全ての100万円を保管している。気が付くと、タンスの中には数千万円が貯まっていた。友人の鈴奈に相談したら「気にせずに使っちゃえ」と言われたが、やはり根拠の解らないお金を使うのは怖い。


 高校1年の春になると、祖父が残してくれた貯蓄は殆ど残っていなかった。積もり積もった数千円万に手を付けなければ、生活が出来ない。


「確かめるのは怖いけど・・・理由が知りたい」


 月終わりの深夜、麻由は部屋の電気を消して寝たふりをして、マンションの外の物陰に潜み、100万円投函の犯人(?)を見張った。23時58分、マンションの前に一台の車が停車して、助手席から降りた細身の人影が、周囲を警戒しながら足早にマンションのエントランスに入って、ポストに封筒を投函する。


「・・・・・・・・・・・・え?高島先生?」


 明かりで照らされた人影は、麻由がよく知る人物だった。小学校時代の恩師・高島麗子先生。彼女は、麻由が小学校を卒業した年に国絡小学校を離任した。遠巻きとはいえ、会いたかった恩師の顔を見る事が出来て、張り込みの緊張感が少し薄れる。


「だけど、なんで、高島先生が?」


 先生は周囲を警戒しながら助手席に戻り、車は発車をする。麻由は「相手が高島先生」と知った安心感も後押しをして、理由を聞く為に、自転車に跨がって夢中で車を追いかけた。


「りゅうじん・・・うどん?」


 高島先生を乗せた車は、全国的に有名な、うどん屋チェーン本店ビルの立体駐車場に入った。今は0時15分。5階の事務所らしい部屋の電気は点いているが、店舗の営業は終わっている。興味は尽きないが、さすがに、この時間に訪問するのは拙いだろう。麻由は、翌日に訪ねることにして、その日は帰宅をした。


 翌日の放課後、麻由は弓道部を休んで目的地に向かった。唾を一飲みして、うどん屋=龍神うどんに飛び込む。


「・・・・・・・・・・・・・・え?」

「げっ!麻由!?」


 店内には、憧れの坂上弘子先輩と、友人の坂上鈴奈が従業員として働いていた。弘子と鈴奈は、麻由を見るなり「ヤバい」って表情になる。


「ま、まだ部活中のハズじゃ・・・?」

「・・・どういう・・・こと?」


 目の前に居るのは、麻由が中学を卒業した時に転校して、文架市から居なくなったはずの坂上姉妹。麻由の中に、いじめられていた頃の記憶が蘇ってくる。


(騙されていた?私が嫌いで、転校したフリをして縁を切った?

 信頼していた皆に裏切られた?)


 祖父の遺した土地を購入してマンションを建てた会社は、『龍山不動産』って名前だった。ただの偶然だろうか?『龍神うどん』と『龍山不動産』はどちらも名前に『龍』が付く。


「一体、何がどうなっているのよっ!!?」


 ただ一つ言えることは、自分は騙されていた。きっと、祖父の土地は騙し取られたんだ。騙されるのは嫌だ。馬鹿にされるのは嫌だ。もう、いじめられたくない。脱力し、その場に腰を下ろして、目に涙を浮かべる。




-同ビル5階の事務室-


 防犯カメラで1階店舗の様子を見ていた男が大きく溜息をつく。


「頃合いか。まだ15歳・・・もう少し伏せときたかったが、仕方があるまぁ」


 直ぐ目の前には、高島先生が立っており、男に深々と頭を下げて謝罪をする。


「申し訳ありません。おそらく、昨日・・・私が尾行をされてしまったんですね」

「いや・・・わしの采配ミスじゃ。

 彼女の年齢を考えりゃあ、もうちいと慎重に対処するべきじゃった。

 むしろ、オマエ達は良うやってくれたよ。

 幼い頃は消極的じゃったお嬢様が、

 ここまで積極的になったことを喜ぶべきかもしれんな。

 麗子・・・スマンが、お嬢様を、此処にお連れしてくれ」

「かしこまりました」


 麻由が案内されたその部屋には、高級そうな絨毯が敷かれ、葉巻とアートチックなお洒落なライターが置いてある豪華なテーブル、フカフカなソファー、ニホンカモシカの剥製、防弾ガラスの窓、確実に後ろに拳銃が隠してありそうな棚、堂々と飾ってある日本刀等々・・・誰がどう見ても、うどん屋の事務所ではない。だが、一番話しやすい鈴奈に「一体ここは何なの?」と訪ねたら、鈴奈はキッパリと「うどん屋の社長室や」と返答した。

 麻由はソファーに座らされ、高島麗子先生と坂上姉妹は畏まった姿勢で、麻由の前に並んで立っている。


「・・・・あ、あの」

「す、すまんかった!お嬢様を騙して悲しませるつもりはない!」


 目の前で、見知らぬ中年男性が深々と頭を下げる。龍山剛太郎。それが彼の名前だった。

 子供の頃から、喧嘩っ早く、腕っ節と統率力には自信があったが、勉強はからきしだった。神山うどんに弟子入りをした剛太郎は、寝る間も惜しんで、うどんの腕を磨き、やがては師の神山を超えるほどのうどん名人になった。そんな剛太郎も年頃になり、嫁取り話が、あちこちから舞い込むようになる。しかし、師の神山権造は、どの見合い話も、剛太郎に話を通すことなく独断で握り潰した。その頃になると、老いた神山より、剛太郎の方が組織内での発言力を持っていた。しかし、剛太郎は勝手なことはせず、どの組織と抗争をする場合でも、どんな小さな会場での出店の運営でも、常に神山を立て、報告を怠らなかった。神山権造には、剛太郎より少し年上の娘が一人居た。彼は、剛太郎を娘の婿にして、そろそろ、神山組の全てを任せようと考えていたのだ。


「あ、あの・・・途中から、うどん屋さんのお話じゃなくなってます。

 うどん屋さんなんですよね?」

「あ・・ぁあ・・・すまん。うどん屋じゃ」

「お話中に申し訳ないのですが、

 龍山さんの昔話と、私を騙していたことと、何の関係があるんですか?」

「あぁ・・・そのことか。少々、経緯を端折るが、まぁええじゃろう。

 お嬢様は、母上の旧姓はご存じなのじゃろうか?

 今までの話を聞いてピンと来んちゅうこたぁ、

 お嬢様のご両親やお爺様は・・・お話にならんかったようじゃのぉ」

「・・・・・・・・・・え?」


「神山志麻様・・・それが、葛城に嫁ぐ前の、お嬢様のお母上の名じゃ。

 わしゃ、オヤジに志麻お嬢様との結婚を勧められた。

 志麻お嬢様にゃあ憧れとったし、この縁談はぶち嬉しかった。じゃが、断った。

 わしみたいな何処の馬の骨とも解らん者と、志麻お嬢様じゃ立場が違いすぎる。

 わしにゃあ、志麻お嬢様の為に命を捨てる覚悟はあったが、

 志麻お嬢様を幸せにする自信がないじゃった。

 ・・・じゃが、それが全ての間違いの始まりじゃった」

「・・・間違い?」


 志麻は、元々、父親の家業を嫌っていた。「所帯を持つ相手が、唯一信頼できる剛太郎ならば、家業の相続を考えても良い」が、志麻が父に出した条件だった。しかし、破談になった為、志麻は家業を捨てる決心をする。剛太郎は、志麻を好いているが故に、「志麻お嬢様がカタギに成ることを望むなら応援する」と、志麻の意思を尊重した。そして、麻由の祖父の一人息子と出会い、父親の反対を押し切って、駆け落ちをした。


「あ・・・あの・・・うどん屋さんてカタギじゃないんですか?」

「あぁ・・・もちろんカタギじゃ」

「お母さんは、なんで、そんなに、うどん屋さんが嫌いだったんですか?」

「お母上にゃあ、血生臭い抗争は合わんかったんじゃろう」

「うどん屋さん・・・なんですよね?」


 数年後、風の噂で「志麻に長女が誕生した」と聞いた。剛太郎は「志麻お嬢様が普通の幸せを掴んでくれた」ことを喜んだ。しかし、更に数年後、一人娘を残して、父親と志麻は、車の事故で死んだ。たまたま龍神うどんに預けられていて、事故を免れた一人娘は、その後、父方の祖父に預けられた。


「それが・・・私・・・なんですか?」

「はい、貴女は、志麻お嬢様に似て、お美しゅう育っていらっしゃる。

 きっと、葛城翁に、珠のように大切に育てられたのじゃろうね」

「なら、毎月の100万円は?」

「葛城翁がお亡くなりになってから、

 麻由お嬢様の養育費として、投函させていただいた。

 通帳に振り込むのでは、麻由お嬢様と、

 我々極道の繋がりを証明することになってしまうけぇのぉ」



-一時的に回想終了-


「あれれっ?ゴータローって、うどん屋さんなんだよね?」

「もう、いちいち確認するのが面倒臭い。

 うどん屋経営を隠れ蓑にする極道ってことで良いだろ」

「いいや!真っ当なうどん屋でがんす!」

「龍山さんの職業はどうでも良いから、話を先に進めてくれ」



-再び回想-


「お爺様の土地をマンションにしたのは?

 やっぱり、龍山さんが絡んでいるのですか!?」

「ロクな防犯も無い古い家に、珠のような麻由お嬢様を、

 いつまでも、たった一人で住まわせることやら出来んじゃった。

 じゃけぇ言うて、お嬢様一人の為に莫大な資金を動かすことも出来んじゃった。

 じゃが、わしにゃあ、葛城翁の土地ならば、

 再開発をすりゃ、それなりに客を引ける自信もあった。

 じゃけぇ、麻由お嬢様の安全の確保と、

 龍神会の資金確保の一石二鳥で、高層マンションに建て替えたんじゃ」


 徐々に、ここ数年間に麻由の周辺で起きた出来事と、剛太郎の活動内容が繋がっていく。あと一つ、確かめなければならないが、真実を聞くのが怖い。だけど、ここまで来たら、勇気を持って確認しなければならない。


「・・・だったら、高島先生や、弘子先輩や鈴奈は?それも、龍山さんが?」

「出過ぎた真似をしてすまんかった。

 学校で、寂しい思いをしとると聞き、居ても立っても居られず、

 裏から手を回して、麻由お嬢様のサポートに努めさしていただいた」

「急に高島先生が担任になったのも、鈴奈達が、私と仲良くしてくれたのも、

 全部、龍山さんの指示だったんですか!?

 私は、そんなことも知らずに、喜んでいたの!?」


 麻由の問いに対して、剛太郎が無言で頷く。


「ずっと、龍山さん達の掌で転がされていたなんて・・・私、バカみたい!」


 大粒にお涙が、麻由の頬を伝う。小学校の頃と同じだ。自力では何も達成できていない。今まで信じてきた物が音を立てて崩れ落ちていく。自分自身が情けなくなってくる。

 しかし、泣き崩れようとする麻由を見て、鈴奈が寄ってきて優しく抱きしめる。途端に、麻由の中で“幼い麻由”が“今の鈴奈”に抱きしめられている奇妙なイメージが発生する。


「麻由は覚えちょらんやろうけんど、

 麻由が小っちゃい時から、私と麻由は友達やったんちゃ。

 私は、剛太郎パパに言われたけ麻由の友達になったんじゃない。

 私が望んで、麻由の友達になったの」


 続けて、高島先生と弘子先輩が寄ってきて、鈴奈に抱きしめられている麻由の頭を撫でる。


「私、言ったよね。何か一個で良いから、自信の持てる物を作りなって。

 麻由はどうだったの?

 勉強もスポーツも、みんなに認められるくらい頑張ったんじゃないの?

 それも全部、私たちの掌で転がされていたって言いたいの?

 事実が解った途端に無くなっちゃうほど、薄っぺらな努力だったの!?」

「・・・違う。私は、先輩みたいになりたくて、いっぱい頑張りました」

「確かにキッカケは、組長の指示だったかもしれません。

 でも、それを足掛かりにして這い上がったのは、麻由さん自身なのよ。

 自分にもっと自信を持ちなさい!」


「う・・・うあぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」


 麻由は大声で泣いた。ずっと独りぼっちだと思っていた。味方なんて誰も居ないと思っていた。だけど、ずっと、見守ってくれた優しい眼が有った。ただ、それに気付いていないだけだった。幼い頃から数えて、泣くのはこれで何度目だろう?もしかしたら、嬉し泣きをするのは初めてかもしれない。


 龍山剛太郎は、「これからも、ずっと見守り続ける」と約束をしてくれた。




-今に至る-


「だけど・・・剛太郎は嘘をついた。

 剛太郎も、鈴奈も、弘子先輩も、高島先生も、

 みんな私の前から居なくなった・・・」


 約1年前、龍山剛太郎は、麻由の前から忽然と姿を消した。時を同じくして、高島先生や弘子先輩や鈴奈も消息が解らなくなった。龍神うどんは売却されて経営者が代わり、いつの間にか、麻由の預金通帳には、億単位の龍山剛太郎の全財産が振り込まれていた。

 その頃の麻由には、皆から認められるだけの地位があったので、自然と周りに人が集まり、小学校時代のような孤独に追いやられることはなかったが、鈴奈のように本音で話せる仲間はいなくなった。


「確かに、わし等は、麻由お嬢様にゃあ何も告げられんで、この世界を去った。

 しかし、信じんさい。そりゃ、麻由お嬢様への裏切りじゃのうて、

 断腸の思いじゃった言う事を!」

「ばるばるっ!この世界を去った?変な表現するばるね?」

「んぁ~~~~~・・・話が難しぃょ~~!

 でも、一個わかったけど、マユゎ騙されたんぢゃなぃんだねっ!

 良かったね、マユ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 紅葉は、無意識なのだが、初めて「生徒会長」ではなく、「麻由」の名を口にした。美穂とバルミィは、「ん?」と違和感を感じて、麻由は少し恥ずかしそうに表情を引きつらせたのち、気付かないふりをする。


「麻由お嬢様が、天の理力を覚醒さした今、全てを打ち明ける時なのじゃろう。

 権造お爺さまの事・・・いえ、カミヤマ如来の事を!」

「・・・にょらい?如来って神様だっけ?」

「神じゃのうて仏じゃ。

 麻由お嬢様のお爺様は、天に召されたが亡くなったわけじゃない。

 文字通り、天に召されたんじゃ。

 カミヤマ様は、天の後継者として、社会勉強の為に人間界に来とられた。

 ほいで、天の皇太子となるべく、麻由お嬢様が幼い頃に極楽浄土に戻った。

 ただ、心残りは、志麻お嬢様が遺した麻由お嬢様の存在じゃった。

 じゃけぇ、麻由お嬢様の事は、わしが責任を持つ事にしたんじゃ」


「・・・な、なんか、いきなり話が突飛な方向に進んでない?」

「ばるばるっ!先代のうどん屋が、極楽浄土の跡継ぎ候補ばるっ!?

 それで、この子(麻由)が孫で、ママさんはもう居ないから、

 次の後継者候補ばるっ!?」

「そか!だから、ジョローグモをやっつける光を、体から出したんだねぇ?」

「はい、そう言うことになる」

「すげぇ~!うどん最強、すっげぇ~!」


 その後の話を要約すると、神山権造が天に召された数年後、腹心の補佐が必要になり、剛太郎&麗子&弘子&鈴奈は極楽浄土に呼ばれて人間界から去った。

 しかし、剛太郎は、「ずっと見守り続ける」と言う麻由との約束を違える事が出来ず、天から戻って、麻由に気付かれないように護衛を続けていたのだ。剛太郎が麻由の前に姿を現さなかった理由は、カミヤマ如来の反対勢力から、「まだ理力が覚醒しておらず、自分の身を守る術を知らない麻由」の存在を隠す為。


 その反対勢力の一人が、不動明王ツヨシ。

 極楽浄土での長き抗争に勝利をしたカミヤマ如来は、不動明王を拘束して反対勢力を解体した。しかし、不動明王と配下の数人が脱獄をして、形勢逆転の戦力を蓄える為に人間界に降りた。そして、麻由の覚醒によって存在に気付き、人質にする為に動き出したのだ。


「それが、マユを襲って、ゴータローにやっつけられた変なヤツ等なんだねぇ?」

「はい、奴等が、不動明王の部下達じゃ。

 さすがに、奴等の介入まで『見守り続ける』事は出来んかったけぇ、

 わしが、助太刀の為に姿を現した」


 一連の説明が終わったところで、皆が無言になる。急に極楽だの不動明王と言われても直ぐにはピンと来ないが、紅葉&美穂&バルミィは一般社会では認識を出来ない戦いに身を置いている為、剛太郎の言う世界が存在する事は納得が出来る。


「桐藤さん・・・休ませてくれて、ありがとうございます。

 おかげで、少し楽になりました。

 布団のクリーニング代は請求して下さい」


 麻由は力なく立ち上がると、玄関に行って靴を履き始めた。紅葉と剛太郎が呼び止めるが、「1人になりたい」と言って聞き入れない。止められないと判断した剛太郎は、ポケットから金ピカのスマホを取り出して、麻由に差し出した。


「お嬢様・・・これを持ってつかぁさい。

 お嬢様ならば、必ずや、使いこなせるようになると信じとる」


 スマホなんて持っている。2台持ちにして、「こっちは剛太郎との連絡用」とでも言いたいのだろうか?麻由は、無言でスマホを受け取ると、美穂の部屋から出て行ってしまった。


「マユっ!」

「追わないでやれ、紅葉」


 紅葉が心配をして追おうとするが、美穂が「察してやれ」と呼び止める。麻由には、今日一日で色々な事がありすぎた。少し気持ちの整理が必要なのだろう。去り際の台詞からして、麻由はまだ心を開く気は無さそうだ。今、紅葉達が追っても、神経を逆撫でするだけになってしまう。

 麻由ほどではないが、紅葉と美穂とバルミィも、今日はちょっと疲れたので解散をする。紅葉&バルミィ&剛太郎を見送った後、美穂は、麻由と剛太郎の会話を思い出して、大きな溜息をついた。麻由の事は「英才教育を受けた金持ちで、他人を見下しがちな人間」かと思っていた。しかし、それは間違いだった。後夜祭の時に麻由が独りで泣いていた姿を思い出す。


「なんだよ、アイツ・・・いつもいけ好かない優等生面してるけど、

 あたしなんかより、ずっと長い間、独りぼっちの寂しい思いしてたんじゃん。

 くそっ!・・・聞かなきゃ良かった」


 一方、帰路につく紅葉の足は重たい。気持ちが滅入っていた。紅葉は、麻由の事をキチンと理解しようとしていなかった。


「ァタシが、怖がらないで、直ぐにジョローグモをやっつけてたら、

 セートカイチョーゎ悪いヤツに見付からずに済んだのかな?」


 彼女は、恵まれた環境で育った紅葉や亜美とは違う、多分、美穂よりも恵まれていない過去を育ち、だからこそ、勝つ事に貪欲だった。


「・・・セートカイチョーに何かしてぁげたぃ」


 紅葉は、独り言を呟いて空を見上げる。空は高く、秋風が少し冷たい。

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