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11-3・美穂の指摘~子妖の発生と浄化

-2年D組-


「何だ、アイツ(麻由)・・・だいぶ、こじらせてね~か?」


 授業なんて上の空で、プレハブ教室の窓から紅葉達の1000m走を眺めていた美穂だけが、先ほどの一悶着は麻由に非があると見抜いていた。優麗祭の後夜祭で、独りで泣いていた麻由を思い出す。


「はーい!先生!」

「おぉ!桐藤さん、珍しく挙手を・・・」

「トイレ行って良いですか~」


 教師は、美穂がマジメに授業に取り組んでくれたと喜んだが、0.2秒後には期待を裏切られた。




保健室プレハブ


「ァィテテテテテッ!」

「ごめんなさいっ!」

「ぃ~の、ぃ~の!気にしなぃでくださいっ!

 ァタシもムチューになりすぎましたっ!」


 痛々しく擦りむいた膝を手当てしてもらってる最中の紅葉に、麻由が深々と謝罪をする。付き添いの真奈と亜美、他のクラスメイトまで、畏まってしまう。皆は「紅葉の自爆」と思っているが、当事者の2人だけは「麻由の妨害」と知っている。


「歩けそうにないのですか?」

「ダィジョブ!疲れちゃってて、転んだ後、動けなかっただけですっ!

 ヘーキ!直ぐ歩けるですっ!」

「この子(紅葉)、もう少し周りを見てくれると良いんですけどね。

 葛城さんは、大丈夫でしたか?」

「え?・・・えぇ、私は何も・・・」


 紅葉が麻由にぶつかったのではなく、麻由が紅葉を突き飛ばそうとして、避けた紅葉が転んだのだから、麻由が怪我をするわけが無い。もしかしたら、友人達には「麻由に邪魔された」と話したかと思っていたが、まだ誰にも話していないようだ。

 微笑む紅葉を見ていて辛くなる。笑顔の裏に、どんな思いを隠しているのだろう?麻由は、自分が作り出した重苦しい空気に押し潰されそうになり、もう一度、紅葉に謝罪をすると、「授業に戻らなきゃ」と保健室から退出をした。



-保健室の外-


「よぉ」


 美穂が、保健室プレハブの外壁に、もたれ掛かっていた。今はまだ授業中だ。2年C組の生徒がウロチョロ出来る時間では無い。不真面目な生徒など相手にしたくない。無言のまま、美穂の前を通過する。


「紅葉が心配で見に来たのか?

 紅葉がアンタの事を喋ってないか心配で確認に来たのか?どっちだ?」

「・・・えっ?」

「まぁ、どっちでも良いや!優等生の考えなんて、あたしは興味ないからさ。

 心配しなくても、あのノータリン(紅葉)は、アンタの事なんて喋んないよ。

 アイツ、バカで、人を疑うって事を知らないからさ、

 多分、アンタに妨害されたって認識すらしていない」

「・・・・・・・・・・・・・・・み、見ていたの?」

「あたしも喋んない。人の悪口を面白おかしく喋れるほど、友達いないからさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「だけどさ・・・あとは、アンタ自身の問題なんじゃねーか?」


 麻由は何かを尋ねようとしたが、美穂は一方的に言いたい事だけを言うと、麻由に背を向けて保健室の中に入ってしまう。美穂には、麻由が“溺れかけている”ように見えたが、自分を嫌ってる相手に手を差し伸べるほど、お人好しになる気は無い。


 立ち止まり、しばらく、保健室の扉を眺め続ける麻由。だんだんと焦点が合わなくなる。目が回り気分が悪くなって吐きそうになる。我慢が出来なくなり、手で口を押さえてトイレに駆け込んだ。

 麻由の影から、今朝よりも大きくなった八本の足が出現をして、全身から湧き出た“誰にも見えない黒い靄”を吸収する。



-保健室-


「・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?なに??」


 紅葉は、突如、周囲が闇に包まれるような感覚になった。アホ毛がピクンと震える。学校を覆ったまま静かに息を潜めていたモノが、急に起き上がるような感覚。窓から外を見て、妖気の発生場所を探すが、学校全体に闇が蔓延しているので、何処が中心(本体)なのか解らない。


「この感じ・・・ヨーカイが出たっ!

 また、学校が大騒ぎになっちゃぅ、どぅしょ!・・・え!?」


 紅葉は、振り返って保健室内を見て青ざめた!美穂や真奈や亜美が俯いており、眼は虚ろで顔色は青白い!背中に黒い渦が出現して何かがモゾモゾと動いている!


「ぇ!?ちょっ・・・」

「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


 紅葉の眼前、仲間達の背中にある漆黒の歪みから、毛の生えた巨大で醜い8本の節足が出現!一斉に紅葉に襲いかかる!紅葉は、足の痛みを堪えて、咄嗟に窓から飛び出して回避!


「みんな・・・憑かれてる?」


 この妖怪は用意周到だ。無造作に闇を溜めて、自然発生的に出現する妖怪とは違う。本体を隠して、紅葉ですら感知できないほどの細かい妖力を校内に振り撒き、生徒達に分身(子妖)を憑依させ、一斉に決起したのだ。そんな芸当が可能なのは、依り代の持つ力が余程潤沢だからだろう。




-グラウンドの隅-


 なにやら騒がしい。トイレ付近のベンチで蹲っていた麻由が顔を上げて眺めたら、生徒達が暴れ回っている。皆、青白い顔で俯いており、背中から8本の節足を生やしている。


「な、何なの・・・一体?」


 麻由を見付けて突然襲いかかってきた!




-グラウンド-


 紅葉は変身して応戦したいのだが、たくさんの生徒達に押し寄せられた状況では、変身プロセスを整える余裕が無い。


「ばるばるばるばるっっ!!紅葉、ボクに掴まってっ!!」


 空からバルミィが猛スピードで飛んできて、紅葉を救出して空に逃げた!紅葉は、バルミィにしがみついた状態から、バルミィの体をよじ登り、背中に跨がって体勢を整える。

 8本の節足を生やした生徒達は、地上からバルミィと紅葉を見上げながら、呻き声を上げている。


「ありがと~!バルミィっ!でもなんで!?」

「美穂から『紅葉が派手に転んだ』ってメッセージもらって、

 様子を見に来たばる!

 ヤツら、宇宙人には憑けないみたいだね!」

「すげ~!ウチュージンすげ~!」

「だけど、ゴメン!ボクの方も、オカルトは専門外!

 憑かれた人ごとブッ殺すなら簡単だけど、

 直してあげるのは、ボクらの科学力じゃ無理ばる」

「そかっ!でも、それなら大丈夫!

 バルミィが逃がしてくれたお陰で、準備するヨユ~が出来たょ!

 バルミィにも手伝ってもらうけど、い~よねっ!?」

「もちろんばるっ!」


 紅葉がYスマホに指を滑らせ、画面に『ハリセン』と書き込むと、『邪気退散』と書かれたハリセンが現れる。そのハリセンはバルミィに渡して、もう一回、Yスマホに『ハリセン』と書いて出現させる。


「ばるばるっ?・・・これは?」

「邪気祓ぃのハリセンだょ!

 この前(火車戦)貸した、邪今剣(小刀)と同じ感じ!

 ヨーカイを祓う時ゎ、クジゴシンホーでハリセンに力を与ぇなきゃなんだけど、

 アイツ等ゎ、ただのザコだから、叩くだけで祓えると思ぅ!」


 紅葉は、更に三本目のハリセンを用意して、バルミィに「美穂と真奈のところに行ってほしい」と指示をする。バルミィは紅葉に言われた通りに急下降!超低空飛行で美穂と真奈に迫る!

 8本の巨大節足を背負った美穂と真奈が、紅葉とバルミィに襲いかかる!紅葉は、ハリセン2刀流を構え、痛めていない方の足を軸にして、バルミィの背中から勢い良くジャンプ!美穂と真奈の間に飛び込んだ!


「うぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」


 ハリセン2刀流が、美穂と真奈の顔面に炸裂!2人が背負っていた8本の巨大節足が空気中に蒸発するようにして消滅!闇を祓われた美穂と真奈は、脱力して膝から地面に落ちる!

 それを見ていたバルミィは「なるほど」と理解して、預けられたハリセンで生徒達を叩き始めた!


「・・・ん?」 「あれ?」


 数秒の間をおいて、美穂と真奈が意識を取り戻した。紅葉は、追加のハリセンを召喚して、1本ずつ渡して、「手伝って!」と依頼をする!真奈は「了解!」と直ぐに場に馴染み、水を得た魚のような活き活きとした表情で、手当たり次第に生徒をブッ叩き始める!逃げ出すヤツは、追って取っ捕まえてバンバンとブッ叩く!


「アイツ(真奈)・・・だいぶストレス溜まってんな」


 美穂もこ~ゆ~のは得意な方だけど、真奈の豹変&暴れっぷりに、ちょっと引き気味。でも、ボケッと眺めてるわけには行かないので、邪気祓いを始める。


「ん~~~~~~~・・・本体ゎ!?」


 この場は、美穂&真奈&バルに任せておけば、それなりに納まりそうだ。余裕が出てきた紅葉は、周囲を見回して妖怪の本体を探す。雑魚ばかり倒してもキリが無い。本体を倒せば雑魚は静まる。これだけの騒ぎが起きているんだから、必ず何処かに存在しているはずだ。


「きゃぁぁっっっっっっっ!!!なによ、これぇっっ!!やめてぇっっ!!」


 咄嗟に、叫び声のする方を見る!半壊して立ち入り禁止の校舎側に、子妖に憑かれた校長&教頭&ジジイ教諭&その他の生徒達が群がり、麻由が追い詰められている!


「ヤバぃ!セートカイチョー助けなきゃ!!」


 何故、麻由は憑かれていないのか?そんな事を疑問に思う余裕なんて無かった!紅葉は、ハリセンを振り回しながら、麻由に群がる校長&教頭&ジジイ教諭&その他の生徒達に突進!渾身の力で叩く!

 その間に、麻由は立ち入り禁止のロープを潜って、非常階段を上がって、半壊した校舎の中に逃げていく。紅葉は、麻由を追って守りたいのだが、足を痛めた状態では思うように動けず、憑かれた先生や生徒達に行く手を阻まれて、なかなか追いつけない。

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