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外伝②-8・ゲンジvsルナティス(必殺技~玉兎浄化)

 巴薙刀を装備したゲンジと、魔王剣を装備したルナティスが激突!

 ゲンジの攻撃は、相変わらず技もヘッタクレも無い力押しの一辺倒。しかし、息が上がり始めているルナティスでは凌ぎきれなくなっていた。

 ルナティスの攻撃は、ゲンジに当たるが、ゲンジの防御力が高くて致命打には成らない!このまま体力の削り合いは不利と判断したルナティスが、数歩後退して間合いを開け、魔王剣を逆手に構え直す!


「魔王剣っ!!ルーンキャリバー!!」


 バイク戦は互いの同意で禁止をした。乱舞の太刀は無駄な動作が多すぎるハッタリ奥義なので、圧倒的に劣る相手にしか使えない。紫電一閃は、火象戦で、ゲンジとの破壊力の圧倒的な違いを見せ付けられた状況では使いにくい。つまり、魔王剣を起点にして使える奥義は、ゲンジの視覚では捉えられないルーンキャリバーしか無いのだ。

 だが、ルナティスは気付きかけていた。ルーンキャリバーは、浅い打ち込みに特化させて、攻撃の手数を増やす奥義。ルーンキャリバーの破壊力では、ゲンジの防御を貫けない。


「んんっっ!!」


 ルナティスの姿がゲンジの眼前から消えて、次の瞬間には側面に出現!ゲンジに魔王剣の一撃を与えて、直ぐに姿を消す!やはり、峰打ちではゲンジの防御力を貫通できない!これではルナティスが体力を激減させるだけで、ゲンジを倒す事はできない!

 状況を変化させるには、深い打ち込みを入れるしかない。だが、それでは、足を止めて、一撃に体重を乗せなければならない。つまり、素早い動きはできなくなる。しかも、ゲンジに凌がれてしまったら、直後に足を止めたルナティスが、カウンターを喰らうことになる。


「くっ!決定打を与えるにはっ!」


 足を止めて一撃に体重を乗せる以外に、ゲンジに致命打を与える手段は、もう一つだけある!ルナティスは、瞬足でゲンジの死角に回り込みながら、魔王剣の刃を返す!峰ではなく刃を叩き込めば、確実に今まで以上のダメージを与えることが出来る!

 一方のゲンジは、ルナティスの動きに違和感を感じていた。目でルナティスを追えないのは同じだが、「動き回る気配」が先程より遅い。一回目のルーンキャリバーは、何処から飛んでくるか解らなかったけど、今のルーンキャリバーは、ルナティスがどっちの方向に居るか何となく解る。ゲンジは、意識を集中させて、ルナティスの発する妖気を追跡する。


「うおぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」


 ゲンジの死角にルナティスが出現!魔王剣の峰ではなく、刃をゲンジに振るう!


(これで・・・良いのか?これで勝って、俺は満足できるのか?)


 暗黙の了解で「殺意は無い」と決めたルールを破るのか?正義の為ではなく、相手を屈服させる為に非日常の力を使った結果、ただの人間に多数の重傷者&重体を出してしまった。


(正義の味方・・・正義を大義名分にした暴力者・・・俺は、どっちなんだ?)


 僅かに戸惑うルナティス!皮肉にも、峰を振るっていた時よりも、攻撃に勢いが無い!そして、ルナティスの妖気を追跡していたゲンジは、ルナティスの遅れを見逃さなかった!


「てえええええええええええいいいいいいいいっ!!!!!」


 ゲンジが横薙ぎに振るった巴薙刀の石突きが、ガラ空きになっていたルナティスのボディにヒット!


「・・・ぐあっ!」


 カウンターで強烈な一撃を受けてしまったルナティスは、弾き飛ばされて地面を転がる!数秒間の呼吸困難に陥りながら、どうにか立ち上がるが、脇腹を押さえて地面に片膝を落とす!

 ルナティスは、ゲンジに散々剣打を与えたのにダメージが通らず、ゲンジに一撃を喰らっただけで、ルナティスはこの有り様。今更ながら、ウサの言っていた「妖力が桁違い」を実感する。


「ちぃぃ・・・彼女の底力だけでなく・・・俺の迷いもあるか」


 魔王剣を杖代わりにして、ダメージを堪えながら立ち上がるルナティス。

 今のルーンキャリバーが、一回目のルーンキャリバーほどの効果を発揮できなかったのは、ルナティスも把握していた。発動させた直後に「体力が枯渇して足が意識に追い付いていない」と感じた。これ以上の体力の削り合いはマズい。「妖力が桁違い」と聞いておきながら、心の片隅では「相手は素人の女の子だから、自分が負けるわけが無い」って慢心があった。このままでは負ける。こうなったら、残った体力の一点集中をして、奥義で一気にケリつける。


「・・・・・・・・・・はああああああああああっ」

「げっ!?必殺技で来るっ!?」


 ルナティスが八卦先天図を召喚したのを見たゲンジが慌てる!火象を一発で仕留めたバニングバスターの破壊力を知っている!


「獣化転神っ!!!」


 ルナティスが八卦先天図を通過して変化した炎獣が、ゲンジを撹乱するように動き回る!


「げげげっ!なんでっっ!!?」


 構えたゲンジは、更に慌てた!俊敏、且つ、不規則に動き回る炎獣が、幾つもの残像を生み出したのだ!これでは、何処から攻撃をしてくるか解らない!


「火象は動けなくなっていたから、撹乱をする必要がなかった!

 だけど、キミは違うだろ!

 これが、真のバニングバスターだ!」


 ルナティスは本気だ!今までのような、峰打ちや小手先の様子見とはワケが違う!凌ぐには、回避か、同程度の技で対抗するしか手段が無い!


「逃げるなんてイヤだ!真っ向勝負で勝ぁつっ!!」


 バニングバスターに対抗できる技なんて無い。だけど、きっと、巴薙刀や☆綺羅綺羅☆のように、ちゃんとイメージをすれば出来るはず。

 ゲンジがイメージするのは、初めてバニングバスターを目の当たりにして見惚れた時の高揚感!ルナティスが、残像を発しながら俊敏に動き回る獣になるなら、自分は、残像諸共蹴散らす大きな獣に・・・いや、空から強襲して複数の獣を纏めて吹き飛ばす大鳥になってやる!


「んおぉぉぉっっっっっっっっ!!!」


 ゲンジの迫力に圧倒されて、僅かに怯む炎の獣(ルナティス)!イメージを整えたゲンジが、左腕手甲のスマホ画面に「鳥」と書き込んで、気合いを発しながら左腕を突き出す!Yスマホから放たれたエネルギーが八卦先天図に変形!


「しんっ!!ちょぅっ!!へんっ!!げぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 ゲンジが八卦先天図に飛び込んだら、オーラを放つ火の鳥と化した!そのままの勢いで空に舞い上がり、大きな翼を広げて旋回をする!

 炎獣ルナティスが残像を発しながら神鳥の隙を狙う!対する火の鳥(ゲンジ)が、一呼吸して腹に気合いを溜め、地上の炎獣に向かって急降下を開始!


「どれが残像で、どれが本体かなんて関係無いっ!全部纏めて吹っ飛ばすっ!」


 急降下した真紅の火鳥と、地を駆けてジャンプした真紅の炎獣が、空中で激突!


「最終奥義っ!!バニング・バスターっ!!」×2


 激しい閃光が辺りを照らす!ぶつかり合ったままの状態で、激しい押し合いになった!ライバルを越えたいゲンジと、真のヒーローになりたいルナティス!互いの意地を賭けて一歩も譲らない!「自分の全てを叩きつける」言わんばかりに押し合う!


「負けないっ・・・・ぅぅぅぅにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

「なにぃ!!?パワーが増したっっ!!?」


 ゲンジの気合いと共に、真紅だった火の鳥が一回り大きくなって、色もフラッシュの如き白に変わった!最大出力の神鳥が、炎の獣を押して崖へ磔にして更に押し込む!ルナティスは残った力の全てを注ぎ込んで奥義を発動してたが、ゲンジのパワーは理屈抜きに圧倒的だった!力負けをして、炎獣のオーラが掻き消され、露わになったルナティスが崖に押し込まれていく!

 このままトンネルでも掘るような勢いで押し込んでた神鳥は、ルナティスのパワーが目に見えて減ってきたのを確認すると、自分もパワーを徐々に弱める。そして一旦離れ、崖から剥がれて地面に落下するルナティスを受け止めて、一緒に軟着陸をした。


「・・・・・・・・・・ぐうううっ・・・・」


 片膝ついて激しく喘いでいたルナティスは、震える脚に力を込めて魔王剣を杖に立ち上がった。


「はぁ~・・・・こ、これが“正当派”の実力か・・・・」

「ちょっ、無理しちゃダメだょっ!!ぉ祓ぃするから、もぅ寝ててっ!!」

「最後の意地だけ、張らせてもらう・・・・・このまま受け止める・・・・」

「・・・・・・・・・・・ゎかった」

「これが限界なんだから、象の時みたいに何発も喰らわせないでくれよ・・・

 可能なら一発で頼む」

「ぅん、頑張る」


 ゲンジは、大きく頷いてから、【邪気退散】と書かれたハリセンを召喚。九字護身法を舌ったらずな発音で唱えた。


「りんっ!びょぅっ!とぅっ!しゃっ!

 かぃっ!ぢんっ!れっっ!ざぃっ!ぜぇ~~~~~んっ!!」


 ハリセンが白く淡く光り、それを掴んで高々と振り上げて、さらに気合を入れたら、ハリセンの輝きが増した。パワーの安定が難しいらしく、両手で持ち直して、ハリセンにシッカリと妖力を伝えながら、改めて振り上げてルナティスの脳天に叩きつける。最後の意地で、それを仁王立ちのまま受けるルナティス。


「清めのハリセン最大出力っ!!

 ぢゃきっ!!たぃっ!!さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」

「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 眩い光がルナティスの全身を包み、玉兎が可愛らしいウサギのぬいぐるみになって良太と分離をした。そこで限界を迎えた良太は、大の字に寝転がって空を仰ぎ見る。苦しそうに呼吸してるけど、その顔は「全て出し尽くした」満足感ある笑顔も浮かべてた。


「ウサが消えちまう前に・・・・1つだけ良いか?」

「・・・・ぅん」


 ウエストポーチのファスナーを開いて手を突っ込んで、大きなニンジンを1本取り出しながら玉兎を呼ぶ。すると、Yスマホに飛び込もうとしてた玉兎が、振り返って良太を見つめた。


「ウサ・・・・一緒に過ごした日、短いけど楽しかったぞ」

「キュキュ」

「ありがとな・・・・これ、俺から最後のプレゼント・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 玉兎は、差し出されたニンジンとゲンジとを交互に眺める。ゲンジが頷いて許可を出したら、良太の元へ駆け寄ってニンジンを受け取り、半分ばかり齧って嬉しそうに鳴いて、良太に背を向け、Yスマホのモニターに吸い込まれた。


「はぁ~~~~~~、疲れたぁ~~~~~~~っ!!」


 任務完了を見届けたゲンジが変身解除。良太と並んで地面に座り込んだ。


「ルナティス、強かったね~・・・・一時ゎ、どぅなるかと思ったょ」

「いや・・・俺の完敗だ。それに俺は、もうルナティスじゃない」

「あぁ、そっか・・・なら、今度から、リョータって呼ぶね」

「い、いきなり呼び捨てかよ?」


 良太は、少し戸惑いながらも、「噂通りの紅葉の馴れ馴れしさ」に苦笑する。


「リョータゎァタシの、先輩でラィバルだょ」

「・・・光栄だ。だったらさ、1つだけ先輩風を吹かせてもらっても良いかな?」

「んっ!」

「君の奥義・・・まんま、俺の奥義名と同じじゃなくて、

 『ウルティマバスター』って名前でどうかな?

 究極の退治者・・・

 バニングバスターの上位奥義を思い付いたら名付けるつもりだったんだけどさ。

 もう、俺には必要無くなったから、代わりに引き継いで欲しいんだ」

「おぉっっっ!ィィぢゃん!亡きライバルが命名ってのもィィねっ!

 『ウルティマバスター』にするっ!」

「俺は死んでね~よ!」

「あぁっっ!そうだった!リョータの遺言として受け止める事にするよ!」

「だから、俺は死んでね~って!何が何でも、俺を殺したいのか!?」

「にぃっ~ひっひっひ」

「笑うところじゃね~!」


 屈託の無い笑顔を見せる紅葉。良太は疲れた表情で軽く微笑む。


「ぉ腹空ぃちゃったから行くねっ!」

「・・・・・・ああ・・・」


 紅葉は笑って手を軽く振り、自転車に跨って走り去っていく。見えなくなるまで見送った良太は、また寝転がって、大きく呼吸をして、空を眺めた。玉兎と会えなくなるのは寂しいけど、貴重な体験を送れて楽しかった。負けても悔いは無い。体力の限界で、しばらく動けそうにないから、もうちょっとだけ完全燃焼の余韻を味わう。


 殺風景な採石場の崖に、1本だけ小さな松の木が生えていた。良く見たら丸い穴が開いていて、有紀の顔が覗いてる。こんな不自然なカモフラージュでも2人に気付かれないとは、見事なまでの気配の消し方だ。


(共闘で火象を倒す。

 公私混同しないで、自分なりに考えて妖幻ファイターとしての任務を果たす。

 バイクと武器と必殺技を、自力で使えるようになった。

 紅葉にしては上出来だったわね。

 きっと、大事な何かを掴んだはず・・・。

 これから先、もっと色々な壁が立ち塞がるでしょうね。

 手助けするのは簡単だけど、私は見守るだけよ)


 母として紅葉の行動にはハラハラさせられっぱなしだけども、あえて助ける事はしない。ゲンジの力は教わる物でなく、自分で掴み取る物なのだ。


 しばらく良太の様子を眺めていたが「あの子なら大丈夫ね」と呟き、槌の部分に“忘却”と彫られてる巨大ハンマーをバッグにしまってから、そっと崖から離れて採石場を後にする。




-サンハイツ広院・源川家-


 玄関扉を開けた有紀が、眉間に青筋を立てる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 有紀が帰宅をしたら、紅葉が、片方の靴だけ脱いだ状態で、玄関に転がったまま爆睡をしていた。


「前言撤回!我が家の娘は幼児か?

 いい歳した女の子が、自室に行く前に力尽きるとは何事?

 今日は、塾と宿題は免除するつもりだったけど、やっぱダメ!

 ノルマはキッチリこなしてもらうわよ!」


 ついさっきまでは「上出来」と讃えていたが、根本的に成っていない!きっと、娘に甘いパパは「今日は大目に見なよ」と紅葉を庇うだろうけど、知った事では無い!パパが娘を庇うなら、パパを家から追い出すだけだ!

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