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外伝②-3・巴薙刀~モトコンポ~ルナティス共闘

―翌日・火象が出現したコインパーキング―


 有紀が現場を調査していた。地面の僅かな痕跡を眺め、目を閉じて精神集中して残留思念を探り、昨夜、此処で発見された仁京寺にんきょうじ住職の焼死体が、火象に襲われた事を確認する。そしてガラケーを取り出して、粉木に通話をした。


「昨夜のアレは、火象ね」

〈被害者は、焼死体になった2人か?〉

「・・・おそらくは」

〈残留思念から、依り代の類いは追えるか?〉

「現時点では何とも言えないわ。依り代の意思は関係無く、

 単に、餌の匂いに釣られた可能性もあります」

〈そうか。引き続き調査を頼む。

 お嬢の様子はどや?火象の発生を感知したんやろ?〉

「ええ・・・言葉で確認はしていませんが、ハッキリと感知していたわ。

 紅葉のことは、こちらでなんとかフォローします。

 それよりも、玉兎は?」

〈本部からは『様子見』の指示しか通達されてへん。

 ワシも、今のとこは、黙認でええ思てる〉

「・・・ですね。私も、それで良いと思います」


 通話を終えた有紀は、現場を後にしてアーケード街を歩き、紅葉が入館中の“あやかゼミナール”の前を通って見上げる。昨夜の紅葉は、確実に、有紀よりも的確に“火象の出現”を感知していた。潜在能力の高さには驚かされてしまう。だが、火象は、川熊と比べるとワンランク強い。初陣を終えたばかりの紅葉には、少々厄介な相手だろう。やがて戦うことになると思うと、少し心配になる。



-文架ゼミナールの一室-


 紅葉は、講義など上の空で、昨日の自学の復習(?)をしていた。ネットで検索をした巴御前が格好良かった。薙刀には、身幅が広く反りの大きい巴形薙刀と、刀身の身幅が細く反りが少ない静形薙刀があるらしい。ゲンジが武器に使うなら、どっちが似合うだろうか?巴御前は実際に戦場に出て戦ったらしいが、静御前は戦場に出た記述は無い。そうなると、戦う女子としては、巴御前に習うべきか?


「次の設問・・・源川さん、答えられますか?」

「はいっ!巴御前です!!」


 指名をされた紅葉が、自信を持って答える。だが、今は数学の講義中。どう間違っても、「巴御前」が答えになるような設問は無い。並んで座っていた亜美と優花が呆気に取られ、美希は必死で笑いを堪える。




―夕方―


 文架市の川東郊外に星翌寺せいよくじと言う寺がある。その現住職が、愛人になった檀家の未亡人の所へ通う為に玄関から出て来た。突然、地鳴りみたいな音がして、前方に黒い巨大な渦が湧いたので、何事かと立ち止まって首を傾げる。


「パオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」

「なっ、なんだあっ!?」


 渦の中から、火象が出現!耳まで裂けた口を開いて、啼きながら迫る!そして、状況を飲み込めずに火象を見つめている生臭住職に向かって、口から火を放った。




―源川家―


「!?・・・・・・・・・・・出たっ!!」


 自室のベッドに寝転んでいた紅葉が“象”のヴィジョンを感知して立ち上がった。一目散に玄関を飛び出して、屋上に出て、Yスマホを翳す。


「げ~んそうっ!!!!」


☆☆☆ぽわ~ん キラキラ きらきらりぃ~ん☆☆☆

 背景がピンク色になり、虹が現れ、お星さまが飛び交い、派手なエフェクトが発生。全身が眩しい光を発して、何処からともなくクマのぬいぐるみが現れて、手にしたザルから色とりどりの紙吹雪を撒き散らし、それが渦のように舞いながら紅葉の全身を包み込んだ。中から鎧武者が出現。Yスマホを左手甲にセットして、妖幻ファイターゲンジへの変身完了!


「遠いっぽいからチャリで行こうっ!とぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 高々とジャンプをして手摺りを飛び越え、地面に着地!駐輪場で自分の自転車に跨り、「チェーンが切れるんじゃね?」って勢いで、ペダルを漕いで爆走をする!時速何キロくらいのスピードが出ているのか良く解らないけど、とりあえず、前方を走っている車3台をオーバーテイク!搭乗者が驚いているのが、横目に見える。


「うへぇっっ!」


 ピンクの鎧武者が自転車に乗って、車を追い抜いていく。驚かれて気付いたけど、これは異様な光景だ。なら、変身を解除して、紅葉の姿で自転車を爆走させるか?いやいや、女子高生が自転車で、普通に走る車を追い抜いても変だろう。ゲンジは自転車を爆走させながら思案する。


「んぁっ!そうだっ!」


 ルナティスはバイクに乗っていた。アレが、バイクじゃなくて自転車だったら、凄く違和感がある。つまり、バイクが正解。バイクで真っ先に思い出すのは、数日前に見た西陣織と九谷焼の付いたバイク。機械は苦手な紅葉だが、あのバイクは、もの凄く格好良かったので、鮮明に覚えている。


「・・・んっ?」


 途端に、左手甲のYスマホが点滅をする。自転車を止めて確認したら、「ERROR 本機では、そのイメージは具現化できません」と表示されていた。ゲンジは知らない事だが、燕真の駆るマシンOBOROは、妖怪が憑いたバイクだ。Yスマホでは、妖怪を生み出す事は出来ない。


「ちぇ~・・・格好良いのにダメなんだ?ケチィ~~!」


 次にイメージしたのは、パパとママの部屋で見た“車のプラモデル”の横に添えてあった可愛いバイクのプラモデルだった。



-回想-


 両親の部屋は、落ち着いた雰囲気で、基本的には余計な物が無い。だけど、落ち着きのある部屋に不釣り合いな、車のプラモデルが一つだけ飾ってあった。


「これ、なんて車?パパの車とゎ違う形だよね?」

「40年くらい前の車だよ。希少価値の高いプラモデルだから飾ったんだ。

 興味あるのかい?」

「んにゃ・・・全然」


 デザインが古くて全然可愛くない車になんて、全く興味が無い。紅葉が興味を持ったのは、車の手前に並んでるオマケみたいな小さなバイク。箱みたいな四角いボディからハンドルが伸びていて、小さなタイヤが付いている。


「このバイクゎ?」

「ああ、これはモトコンポって言うんだ。

 ハンドルとステップを畳んで、この車に積めるんだよ。

 出かけた先で足にするってコンセプトで作られて云々・・・」


 パパが細々と説明をしてくれたが、紅葉は全く聞いておらず、興味深く小さなバイクを眺め続けていた。



-回想終了-


 左手甲のYスマホが点滅をする。確認したら「ENTRY 具現化できます」と表示されていた。今度は大丈夫らしいので“ENTRY”をタップする。Yスマホ画面から光が発せられ、ママチャリが呼応して輝き、モトコンポに変形!

 赤く塗装された箱みたいな四角いボディー。そこから突き出たハンドル。ボディー下に小さなタイヤ。ちゃんとドリンクホルダーと、ハンバーガー置けるトレーも装備。シートの後ろに買い物カゴ。


「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?まぢすかっ!?ゃったぁ~~~~っ!!

 すっげ~!チャリがバイクになったっっ!!

 ぇ~と~、キラキラ輝いてバイクになったから、

 名前ゎ・・・☆マシン綺羅綺羅☆!いっくぞぉ~~!!」


 桃色の鎧武者が自転車を爆走させてたら違和感あるけど、バイクを爆走させるなら、ルナティスもやってるから大丈夫だろう!(いや、ダメだろ)

 ゲンジは、弾丸の如き勢いで、☆マシン綺羅綺羅☆を飛ばした。【原動機付自転車は30km/h】を知らないので仕方ない。それどころか、ウインカーは出さない(そもそも、何なのか知らない)。片側1車線道路で低速走行をする車がいたので、追い越し禁止車線を無視して追い越す(黄色いセンターラインの意味など知らない)。


「んぁっっ!?」


 後方から、可愛らしい排気音が近付いてくる。ゲンジが振り返ったら、ルナティスの駆るギャグだった。ゲンジは、こんな所で会うとは思わなかったので驚いてしまう。

 一方のルナティスも、自分の他にもヒーローがいたことを驚いている。最初は「ただのコスプレ」かと思ったが、近付いたら、クオリティが高いし、こんな小さいバイクが(モトコンポ)が、アホみたいに速く走れるなんて、レプラスと同じで“非日常の力”を燃料にしているとしか思えない。


「ぁりゃっ!?ぢゅ~きしょ~ルナティスっ!?」

「その声と喋り方・・・キミ、源川か!?」

「うへぇぇっっっっ!!?・・・・・・・・・しっ、知らなぃょ、誰それ?」


 喋った瞬間にモロバレなんだけど、どうやら「源川紅葉が変身ヒロインなのは秘密って設定」らしいから、ルナティスは「知らないフリ」をすることにした。


「・・・解った、キミと俺は初対面だ」

「そぅそぅ初対面っ!!」

「こんな所で何をやっているんだ?」

「んっ!もうチョット先にゾウのヨーカイがいるのっ!ルナティスも解るの?」

「あぁ!俺の相棒ウサが教えてくれた!」


 ルナティスは、ウサから「害がある妖怪が発生した」と聞いて現地に向かっている。


「もしかして、キミは、これまでに何度も妖怪退治をしているのか?」

「んっふっふ・・・まぁ~ね!」←今回で2回目です


 ルナティスは、玉兎以外にも妖怪がいる事にも驚いたが、犯罪者にお仕置きをする自分とは違って、妖怪退治をするヒーローが存在している事には、もっと驚かされた。正統派ヒーローみたいな感じがして、緊張と武者震いをする。




―星翌寺―


 住職は境内を逃げ廻って丸焼きにされるのを凌いでいた。しかし、塀際に追い詰められて逃げ場無し。腰を抜かして座り込んだところで、立ち塞がった火象が、口の中に火を溜める!


「やれやれ・・・時間稼ぎが必要かな?」


 墓石に隠れて、紅葉の父・崇が成り行きを見守っていた。有紀からは「紅葉は出動した」と聞いたが間に合いそうに無い。星翌寺住職は、褒められた人間ではないが、「紅葉の到着が遅れたからゴメンね」と見殺しにも出来ない。

 崇は、足元の石つぶてを拾い上げ、指で真上に弾いてから手の平で掴んだ。あくまでも、注意を逸らして住職を逃がすのが目的なので、火象の耳に風穴を空ける破壊力で充分だろう。

 狙いを付けて石つぶてを投げようとしたが、寸前で動きを止めた。


「・・・ん?この気配、ギリギリセーフ・・・かな」


 馴染みのある気配が近付いてきた。崇は、気配を消して、墓石の後ろに隠れる。


「待てぇ~っ、きょーぁく妖怪めっ!!」

「邪悪なる存在は、我が魂のやいばが斬り捨てるっ!!」


 ゲンジの駆る☆マシン綺羅綺羅☆と、ルナティスの駆るギャグが、境内を疾走して接近してくる!

 ルナティスは、ヒーローの様式美に従い、バイクを駐めて、口上を発しながらポーズを決めて、戦闘を開始するつもりだったが、ゲンジはお構い無し!


「んぉぉぉっっっっっっっっ!!!綺羅綺羅アターックッ!!!」

「あっ!おいっっ!!」


 猛スピードで突っ込んできた☆マシン綺羅綺羅☆が、火象に体当たりをした!巨体ゆえに“派手に弾き飛ばされる”事はなく、踏み止まった火象が、長い鼻を振り回して叩き付け、ゲンジと☆マシン綺羅綺羅☆を弾き飛ばした!その間に星翌寺住職が逃げる!


「おい、大丈夫か、ゲンジ!?」


 少し離れた場所にギャグを駐めたルナティスが援護に向かう!一方、獲物に逃げられた火象は、苛立ちながら火炎を吐いた!更に突進をしてきて、構えていたゲンジ&ルナティスを弾き飛ばし、巨体に合わぬ俊足で、たちまち遠ざかっていく!


「んぇっ?逃げたっっ!!」

「追うぞっ!!」


 ゲンジとルナティスは、それぞれの愛車に飛び乗って追いかけた!


「玉兎と共闘?乗り物がモトコンポ?・・・何があった?」


 監視役の崇は「些細な想定外だらけ」の状況に驚きつつ、影ながらゲンジ&ルナティスを見送る。




―数分後・文架市街地付近の採石場―


 逃走する火象の正面には、切り立った崖が立っている!「追い詰めた」と判断したゲンジとルナティスは、愛車から降りて、火象に向かって突進!一方の火象は、ターンをすると同時に、手頃な石を鼻で掴んで投げつけた!想定外の反撃をされたゲンジとルナティスは横飛びで回避をする!


「あんなの当たったら、マスクの上からでも痛そうっ!」

「悠長に感想を言ってる余裕は無いぞ!」


 立て続けに飛んで来る石を、必死で回避するゲンジとルナティス!さっきまで居た場所は、回りが墓石だらけで狭くて動きにくかったが、ここは程よく広いので、火象は存分に戦える!ゲンジとルナティスは、まんまと誘き出されてしまったのだ!


「パオオオオオオオオオンッ!!」


 唸りを上げて飛んで来る石を、ゲンジとルナティスは必死で避け続けた!回避を続けるうちにゲンジとルナティスの距離が開き、いつの間にかゲンジの背後には断崖絶壁が立ちはだかっている!


「パオオオオオオオオオンッ!!」


 火炎を吐き出す火象!ゲンジは火炎を避けて、背に絶壁が接するほどに追い詰められる!それを見た火象は、今までよりも二廻り大きな石を飛ばした!大きくて重い分、飛んでくるスピードは遅い!ゲンジは落ち着いて脇に避けて回避!石は絶壁に着弾する!


「今のはキミを狙ったんじゃない!逃げろっ!」

「んぇっ!?」


 絶壁に激しい振動が伝わって崩れ、浮き出していた直径3mくらいの巨大岩が、ゲンジ目掛けて転がり落ちてきた!


「ふんぎゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 思いきり下敷きになった。ルナティスが慌てて駆け寄って退かそうとするが、簡単に押して動かせる重さではない。動かすのは諦めて切り刻む事にして魔王剣を構える。


「魔王剣・・・・乱舞っ!!ハアアアアアアアッ!!!!」


 数秒で何十回も切り刻み、巨岩を小石の山にする。そして名前を呼びながら小石の山を退かして、ゲンジを引っ張り出した!


「んぁ~・・・・・死ぬかと思ったぁ~!」

「・・・巨大岩の下敷きになって、ノーダメージかよ?」


 ゲンジは盲目的に火象に突進しようとするが、ルナティスが止める。迂闊に近寄ればリーチの長い鼻と怪力で攻撃をして、離れたら投石と火炎放射が飛んでくる。なかなか厄介だ。


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