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外伝②-2・銀行強盗~火象出現~巴御前

―数日後・塾の休み時間―


「カツアゲされそうになってたとこ助けられたよ」

「マジ!?見たの!?」

「アタシの学校の3年の人が助けられたんだって」


 塾生達が仲間同士で集まって世間話をしている。ルナティスの話題で持ち切りだ。あちこちで人助けしているらしい。紅葉と亜美もルナティスとは接触しているので、友人の美希&優香に「こんな事があった」と説明している。


「ちょっと、銀行に行きたいな」

「あっ!私もお金を下ろそうと思ってた」

「一緒に行くっ!!・・・ずっと教室で、息が詰まるょ」


 紅葉&亜美&美希&優香は、塾を後にしてアーケード街を歩き、駅前通りの文架銀行に行った。日中の銀行は、近隣の会社員や主婦などで混雑してる。亜美と美希がATMの順番待ちで並び、紅葉と優花は離れたベンチに座って辺りを見回した。


「んぉ?」


 サングラスとマスクで顔を隠した「如何にも」って2人組が、入ってきて窓口に直行。1人がジャンパーの懐から拳銃を出して威嚇をしながら怒鳴る。


「両手を頭に乗せて、壁に並べっ!!」

「バッグに金詰めろっ!!」

「ひいいいっ」

「ぇぇぇ~~~~~~~~っ!?マヂすかっ!?」


 拳銃を突き付けられた窓口の銀行員は、泣きそうな顔でボストンバッグに現金を詰め込む。客は揃って言われた通りにして壁に並んで両手を頭の上に乗せた。紅葉&優花はベンチに居たため、亜美&美希とは離れている。2組に分かれたまま、他の客と一緒に壁に並んで頭に両手を乗せた。




-文架大橋-


 スズキ・ギャグに乗る良太が、駅前商店街がある西へと向かう。法定速度は時速50キロの道路だが、ギャグのスピードは時速58キロ。法定速度をキッチリと守るほど“生真面目ではないが、意味も無く超過するわけでもない”程々のスピード’で走っている。

 追い越し車線から、エンジンの爆音が近付いてきて、どう見ても法定速度を楽々と無視しているバイク2台が良太のギャグと並んだ。バイク本体に付いたスピーカーからは派手な洋楽が、まるで“好みの押し売り”のように聞こえてくる。2人のバイカーは“小さなバイクに乗る哀れな少年”を見下すようにして追い越していった。


「・・・バ~カ」


 だが、良太は特に気にしない。デカいバイクが「羨ましくないか?」と聞かれれば「羨ましい」と答えるが、愛車のギャグを不満とは思っていない。ギャグは、父親が高校時代に乗ってた物だ。排気量アップ・マフラー交換・6速ミッション化・足回り強化・ブレーキ強化etc.かなりチューニングされており、形は原動機付自転車だが、中身は別物。90ccのバイクとして登録してある。

 抜き去っていったバイカー達と同じ事は出来るが、「意味の無い力の誇示はバカバカしい」と思っているのでやらない。


「・・・ん?」


 文架大橋の西詰めを通過したら、何台かのパトカーがサイレンを鳴らしながら商店街の方に走っていった。良太は「駅周辺で事故か事件があったのかも?」と考えながら、バイクを走らせる。




-駅前通りの文架銀行-


 銀行の外には警察官達が集まっているが、中の様子が解らないので、手を出せずに対応策を練っている。店内は2人組の銀行強盗に占拠され、紅葉&優花と、亜美&美希は、他の客と一緒に壁に並んで頭に両手を乗せていた。


(ん~~~・・・ゲンジに変身すれば、こんなヤツ等、よゆーなのにっ!)


 変身して悪を成敗したいが、説明書によれば「ゲンジに変身できることは、周囲に秘密しなければならない」らしい。だけど、堪えきれずに、Yスマホを握りしめて立ち向かおうとした時、紅葉がアホ毛を反応を示した。


「んんっ!この気配ってっ!?」


 直後に、閉鎖されているはずの裏口ドアが力任せにこじ開けられて、ルナティスが入ってきた。ブーツの踵が床を打つ音だけが、静まり返った店内に反響する。最初は驚いた強盗だったが、直ぐにルナティスに銃口を向けた。


「『勇気』・・・それは、悪に屈せず、恐怖と戦う力!」

「なっ、何だっ、てめえはっ!?」

「貴様等に名乗る名前はないっ!!」


 紅葉&亜美&美希&優花や、怯えていた銀行員や客が、「噂に聞いた、正義のウサギ仮面」を生で見て、安堵の息を漏らす。


「また来たぁぁぁぁぁっ!!ぢゅ~きしょ~ルナチクスだぁ~っ!!!」


 テンションの上がった紅葉が超音波みたいな声を発し、頓狂な声援を受けたルナティスは軽くずっこけた。


「え~と、キミちょっといい?・・・・・・

 俺、たった今『貴様等に名乗る名前はないっ!!』ってキメたじゃん。

 あと、ルナチクスじゃなくて、ルナティスな。ここは絶対に間違えちゃダメ」


 懸命に考えたカッコいい登場シーンだったのに、紅葉の所為で台無しだ。


パーン!!パーン!!パーン!!

 強盗が、ルナティスに銃を向けて3発立て発砲!ルナティスの手足や身体に命中した!しかし、ルナティスは「何、今の?」って言いたげに悠然と突っ立ち、焦る強盗達に近付く。


「闇に踏み込んだ愚か者に、明日があると思うな!」

「うっ・・・・・うわああああっ!!」


パーン!!パーン!!パーン!!

 強盗は、動揺しながら3連射!6発リボルバーの拳銃だったので、後は幾らトリガー引いても、もう弾は無い!強引にルナティスの脇を走り抜けようとしたが、捕まって軽々と放り投げられてベンチに激突!ルナティスは、腰に帯刀した剣の柄を逆手で握って構える!


「魔王剣・・・・・ルーンキャリバー!!」

「う、うわあああああああああっ!!!!」


 強盗の周囲を疾風のように駆けながら抜刀。瞬く間に何十回と剣を振るった!


「オマエ等にあるのは“朽ちた今”のみ!!」


 ルナティスが刀を鞘に収めたのと同時に、切り刻まれた服が散って、パンツ一丁になった強盗が腰を抜かす。


「ひぃぃぃっっっっ!!!」


 もう1人の強盗が、ルナティスのこじ開けた裏口から逃げ出す!直ぐ近くのコインパーキングに駐められた車の助手席に飛び込むと、待機をしていた運転担当が車が急発進させ、自動精算機を無視して駐車場から脱出!止めようとする警察官達を無視して逃走をする!

 外に出たルナティスが、逃走車を睨み付ける!喧騒に紛れて外へ出た紅葉達が、ルナティスを見守る!


「トオオッ!!・・・・・・ウェイクアップ!!レプラスっ!!」


 ルナティスは、高々とジャンプをして、路駐していたギャグに飛び乗った!妖気を受けて禍々しい姿に変形したレプラスが走る!たちまち逃走車に追いつき、後方で追尾!魔王剣を腰から外して、鞘に収まった状態で構えて気合いを込める!抜刀をした瞬間、刀身が輝いて刃が巨大化!鞘を空高く投げ、レプラスを加速させて、逃走する車の助手席側で並走する!


「はああああああっ・・・・・魔王剣っ!!乱舞の太刀っ!!」

「ひえええええええええええええええっ!?!?」×2


 逃走車に巨大剣を振るうルナティス!


「・・・・・・・・・・・成敗っ!!!」


 逃走車のボンネットが切断されて、エンジンルームの機械が飛び散り、左側のフロント&リアタイヤが外れ、助手席のドアが脱落して、走行能力を失ってガードレールに激突!

 警察官達は、犯人を確保する為に逃走車に寄っていく。どんな斬られ方をしたのかは不明だが、強盗達は無傷のまま、服だけが弾け飛んでパンツ一丁になり、エアバッグと座席で挟まれて動けなくなっていた。


「すげぇ~~~~~っ!!!!ルナティスすげぇ~~~~~~~~っ!!!!」


 一部始終を眺めてた紅葉は興奮をして跳び跳ね、美希はミーハー気味に声援を送り、亜美と優花は安堵の表情で目を合わせる。4人は、ルナティスの勇姿を撮影しようとスマホを取り出したが、いつの間にかルナティスの姿は消えていた。




―数分後・アーケード街の一画―


 雑居ビルの2階に、玩具屋があった。『玩具屋』と言っても、扱う商品は大きな友達向けの高額でマニアックな物ばかりの店だ。


「こんちは~っす」

「おうっ・・・・・なんか騒がしいな」


 出入り口が開き、鈴木良太が入って挨拶をして、40代くらいの店主が応える。


「銀行強盗みたいっすよ。未遂で捕まったけど」

「マジかよっ!?」

「噂の【ウサギ仮面】が来て捕まえたんだとか」

「えええ~~~~~っ!?いいな~、俺も本物を見たいな~~~~~っ!!」

「そうっすね~っ」


 良太は店主と話しながらレジへ入り、その奥のドアを開けて物置に荷物を置いて、店名のロゴをプリントしたエプロンを引っ張り出して付け、「入りま~す」と挨拶してから入荷した商品の陳列作業を開始する。




―同時刻・あやかゼミナールの一室―


 教科書とノートを広げたものの、紅葉は全く上の空で物思いに耽ってた。隣の亜美が「授業に集中しなよ」と肘で突くと、我に返るけど、しばらくすると、また上の空になる。


(ゃっぱ、バィクと必殺技ゎカッコぃぃ!ァタシも使ぃたぃ!

 ・・・でも、どぅしたらぃぃのかなぁ?)


 説明書をキチンと読めば即時解決するのだが、川熊を撃破してからは全く手つかずで放置している。紅葉の両親からすれば、看取り稽古をさせてくれるザムシードが出向してしまったのが、チョッピリ痛い。




―夜・駅前繁華街の一画―


「ありがとうございました~!」


 挨拶を背に受けながら、すっかり御機嫌な2人の男が焼肉屋を後にする。でっかい方はスキンヘッドで、ジャージにサンダル。金のチェーンが、首で輝いている。御機嫌伺いをしながら斜め後ろを歩いてるのは“如何にも太鼓持ち”な雰囲気を醸してる小男。2人はゲラゲラ笑いながら通りを歩く。


「がっはっはっはっ!!バカだらけで、チョロいもんだぜ・・・

 『俺が経を唱えた高額な仏具を買えば、

  極楽浄土での平安が約束されます』ってだけで、大金ポンだもんよ」

「片手間のお経なのにねえ。美味しい商売っすね先輩」

「全くだぜ・・・がっはっはっはっ!!」


 かなりタチ悪い坊主だ。御機嫌な2人は次の店へ向かうべく、コインパーキングへ入る。飲んでるにも拘らず、黒光りするベンツに乗ろうとしたが、不意に地鳴りみたいな音がして、前方に黒い巨大な渦が湧いたので、何事かと立ち止まって首を傾げる。


「パオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」

「なっ、なんだあっ!?」


 渦の中から現れたのは、どう見ても象なんだけど、目が吊り上がり、口が耳まで裂けて尖った歯が生え、口の中で炎が燃え盛っていた!妖怪・【火象かぞう】が迫り、驚いて腰を抜かした2人に向かって、口から火を放って丸焼きにする!


「パオオオオオッ!!」


 火象は、丸焼きから浮いてきた魂を息を吸うよいうにして飲み込み、満足そうに啼いてから、再び黒い渦の中に消えるのだった。




―紅葉の部屋―


「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

「何事?」

「ぁ・・・・・・・・・・・・ぃゃ、その・・・・・・難しくて」


 母親に付き添われて日本史の問題集をやっていた紅葉が、いきなり奇声を発しながら立ち上がる。頭に“象の妖怪のヴィジョン”が飛び込んだのだ。だが、ママに悟られちゃ拙いので、何事も無かったフリをして「宿題に苦戦する娘」を演じた。有紀も何となく事情を察知したが、表情に出さず「宿題に苦戦する娘に呆れる母親」を演じる。そのうち“気配”が消えたので、宿題を優先する事にした。


 今は平安時代の治承・寿永の乱(源平の争乱)をお復習いしてるつもりなんだけど、「初めて習ってんじゃね?」ってくらい、紅葉の頭の中には記憶されてない。


「ふぇ~~~・・・昔の事なんて覚えて、なんの役に立つのぉ~?」


 出たよ、やる気の無い子の言い訳。古文や数学の公式なんて社会に出たら使わない。英文や漢字なんて覚えなくても検索すれば良い。相対性理論なんて知らなくても大人になれる。確かにその通りなんだけど、本やテレビを見ても基礎知識が無さ過ぎて解らないことだらけになるし、大人になってから、何でもかんでも「解らない」では呆れられてしまう。学生時代の勉強は、知識を得るだけではなく、変な表現だけど“学ぶ”とか“応用する”ってスキルを鍛えている。脳みそが若いうちに鍛えておかないと、大人になってから、必要なことが頭に入ってこなくなるぞ。


「平氏と源氏くらいは解るわよね?」

「んぁぁっっっ!?ゲンジっっ!!?何でママが知ってるのっ!?

 ゲンジゎァタシが変しっ・・・・」

「はぁっ!?」

「あぁ、いや違った!ゲンジ知らないっ!」


 慌てて誤魔化す紅葉。「ゲンジ」って聞いて、思わず、ママに「自分が変身してる」って事をバラしそうになった。・・・てか、今のは、有紀の方が焦った。大声で発言を制していなかったら、「ァタシ、変身して戦ってます」と喋っていたぞ。


「鎌倉幕府を開いた源頼朝の源氏。それくらいは解るわよね。」

「んっ!源川家の遠いご先祖様。

 でも、お兄ちゃんのクセに、牛若丸(義経)をやっつけたんだよね?

 だから、あんまり、好きくない」

「好き嫌いで終わりにしちゃダメよ」


 有紀はタブレットを持ってきて、「紅葉が少しでも日本史に興味を持つように」と、様々な武将の肖像画を見せて、源平の争乱の説明を始める。源頼朝、源義経、平清盛等々の知名度の高い歴史上の人物に混ざって、源義仲(木曽義仲)という人物、その恋人の巴御前って女武者も紹介された。


「んぇぇっ?女の子なのに戦ってたの?格好ィィっ!」

「史実か脚色か曖昧なんだけどね」

「ほへぇ~・・・・」


 紅葉は少し興味を持ったようだ。タブレットを借りて、巴御前の関連から源平時代の歴史を調べ始める。有紀は、どんな経緯であれ、興味を持って知識を得るのは悪いことでは無いと考え、黙って見守ることにした。


(トモエゴゼン・・・どっかで聞いたことあると思ったけど思い出したっ!

 ゲームの中にそんな名前のキャラが居たんだっ!

 へぇ~・・・ご先祖様のイトコのカノジョだったんだ)


 肖像画の巴御前は薙刀を構えていた。「なんで、ヤリじゃなくて、ナギナタを持ってるんだろ?」なんて思いながら薙刀を調べたら、巴形薙刀と静形薙刀って種類があるらしい。


「集中っ!!」

「・・・・・ぃけねっ」


 日本史と関係無いことを調べてるのが、ママにバレてしまった。紅葉は、慌てて源平の争乱に戻って調べなおす。


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