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外伝①-6・動き出した未来

―翌朝・源川家―


 テーブルに放置された空っぽの土鍋を前に、有紀が腕組み。その正面で、叩き起こされ引っ立てられた紅葉がパジャマ姿のまま小さくなってた。


「これは何かしら?」

「・・・夜に、ぉ腹空ぃちゃって」

「パパがビーフシチュー好きなの、知ってるわよね?」

「・・・ぅん」

「多少の摘み食いは見逃すとして、食べ尽しちゃダメでしょ」

「ごめんなさぃ」

「鍋も洗わないで放置してるし」

「次から、気ぉっけます」


 昨夜の戦闘後、異常な空腹になった紅葉は、「一杯だけ食べる」つもりで止まらなくなり、ビーフシチューの残りを全部食べてしまった。

 有紀は、紅葉の事情は知っている。だが、もう少し思いやりやエレガントさを身につけて欲しいので、あえて厳しく接する。がさつに育ってしまった紅葉を、将来的に誰に託すかは、何となくイメージできてるが、それまでに少しくらいは女子力を身に付けてもらわないと困る。




―放課後・文架大橋―


 桃代は今日も現場を訪れ、花束を添えて手を合わせながら泣いてた。その様子を、少し離れた所で烈人の霊が心配そうに眺めてる。桃代が早く自分を振り切ってくれないと、心配で成仏できない。

 遠くに目を向けたら、学校帰りの紅葉が、自転車を懸命に漕いで接近する姿が見えた。前カゴに見憶えあるプレゼントが積まれてる。約束通り探してくれたようだ。


「ぁの、すぃません・・・・えっと・・・佐倉桃代さん・・・ですょね?」

「えっ?なんで私の名前を?」

「えっと・・・これに、見憶ぇぁりますか?」

「・・・・・・・!?」


 差し出された物を一目見た桃代は、驚愕で目を真ん丸にして駆け寄った。


「これを何処で!?」

「川に沈んでたのぉ、見っけて拾ぃました・・・。

 んで、事故ぉ思ぃ出して、もしかしたらって思って。

 ぉ姉さん、何度も来てますよね?

 ひょっとして、亡くなった人の彼女さんですかぁ?」

「・・・うん」


 桃代は愛おしそうにプレゼントを抱きしめながら礼を述べる。「ありがとう」の部分は、発音するのがやっとみたいで聞き取れなかった。我慢の限界を迎えたのか、崩れるように座り込んで泣き出してしまう。紅葉は、大切な人を失った経験が無いから、桃代の気持ちは、よく解らない。「ァタシゎ誰も失いたくない」と思いながら、少し感情移入をして、涙ぐみながら桃代を見つめる。



-数分後-


 泣き止んで落ち着いた桃代が、高欄に凭れ掛かりながら、山頭野川の遠くを見つめる。


「これね、事故の日に、私が烈人に渡したプレゼントなの。

 もう一回、渡さなきゃ」

「・・・えっ?」


 桃代は、「空に届け」と言わんばかりに、山頭野川に向かって、プレゼントを思いっ切り投げた!そして、川に向かって大声を上げる!


「烈人のバカァァッッッッッッッッッッッッッ!!!」


 川に落ちたプレゼントは、今度は何処にも引っ掛からず流されていく。

 この一連には、紅葉の方が面食らってしまった。そして、ドン引きをする。せっかく取り戻したプレゼントを、何故、また、川に投げた?何で、亡き恋人の事を「バカ」呼ばわりしてる?意味が解らない。だけど、烈人の全身が、優しく暖かな光に包まれ始めた。少し寂しそうだけど、桃代を見て微笑んでいる。


「んぇっ!?なんでっ!?逝っちゃうの!?桃代さんに嫌われたから!?」

「いや、違うよ。桃代が、立ち上がる決意をしたからさ」


 今すぐに烈人を忘れて別の未来に向かって歩き出す事なんて、桃代にはできない。だけど、いつまでも、事故現場に縛られず、未来に向かう努力を始めたので“桃代の心に捕らわれていた烈人の霊”が解放されたのだ。


「桃代の心を解放してくれてありがとう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 光に包まれた烈人が浮かび上がり、笑顔でサムズアップをした。紅葉は、天に昇っていく烈人を、呆然と見送る。そして、呆然とした表情のまま“流されていくプレゼントを見つめている桃代”を見つめる。

 結果オーライなんだろうけど、紅葉には、なんで、プレゼントを捨てられて、桃代から「バカ」と言われたのに、烈人が成仏をしたのか・・・大人の恋愛が全く理解出来ない。




―2日後の朝―


 今日は終業式で、明日からは夏休みになる。鎮守の森公園の入口で、制服姿の亜美がベンチに座ってスマホを触ってた。頻繁に・・・てか毎朝、紅葉は待ち合わせ時間より遅れて来る。紅葉が遅刻ギリギリって事は、必然的に亜美も同じ状況だ。モニター上端に表示された時刻を見て「あと3分経っても来なかったら電話してみようかな」と思っていたら、亜美の名を呼ぶ甲高い声が聴こえる。顔を上げたら、紅葉が必死に自転車を漕いで向かって来た。


「おっそ~い!!」

「ごめぇんっ!!」

「急ぐよっ」


 2人の目の前の道路を、妙な装飾のホンダVFR1200Fが通過していく。妖幻ファイターゲンジの変身と初陣を見届けた燕真は、昨日、正式に辞令が出て、次の任務に就く事が決まった。退治屋に就職して4ヶ月間を過ごした文架市から“出向”という形で離れる。

 自転車にブレーキをかけて、マシンOBOROに見取れる紅葉。亜美が首を傾げて声を掛ける。


「んぁ~~・・・・すっげ~!

 彼岸花の模様とか、西陣織のカバー・・・格好いいバィクだねぇ!

 ァタシもあんなバィクに乗りたぃなぁ~」

「ど、どこが?クレハのセンス、おかしくない?

 ・・・えっ?クレハ、どうしたの?」


 紅葉は無意識に涙を流していた。あくびをした自覚も、眼にゴミが入った違和感も無い。亜美に指摘されて気付き、「あれ?なんで?」と涙を拭う。

 紅葉はまだ「大切な人が離れていく寂しさ」を知らない。だが、紅葉の本能は知っていた。紅葉を変えてくれた“憧れの60番”が、直ぐ傍に居て導いてくれた事、そして、しばらくお別れになる事を。

 2人が出会い、それが初対面ではなく再会と知るのは、今から、約2年後になる。


 亜美に催促をされた紅葉が、優麗高に向けて、自転車を走らせる。

 外伝①に登場する佐波木燕真は、『妖幻ファイターザムシード』の主人公と同一人物です。

 紅葉の父・源川崇は、『妖幻ファイターザムシード』では故人ですが、本作では生存しています。

 怪士対策陰陽道組織(通称・退治屋)は『妖幻ファイターザムシード』に登場する組織と同一です。ただし、『妖幻ファイターザムシード』では、文架支部、及び、支部長の粉木は上層部から「目障り」と扱われていましたが、本作では一目を置かれています。

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