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外伝①-3・Yスマホゲット~桃代と烈人~川熊

―7月下旬・午後の源川家―


 紅葉が帰宅をしたら、誰も居なかった。鞄を放り出し、手洗い&うがいを済ませて、制服のままキッチンへ行き、冷蔵庫から麦茶を引っ張り出してコップに注ぎ、ガブ飲みをする。


「ん、ァタシ宛てだ・・・・・・(株)パゥダーゥッド?」


 喉が潤ったところで、テーブルに置かれた小包が目に留まり、伝票を見たら『源川紅葉様』と書いてあったので、早速開けてみる。


「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?まぢっすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 新品のスマホが入っていた。前々から欲しくて、母親にねだっていたんだけど、「試験の学年順位で5位以内」と無茶ぶりをされて諦めていた。


「んっへっへ!」


 瞳を輝かせながら電源を入れ、現れたデフォルトのホーム画面を眺めて感嘆の声を漏らす。設定画面を開いて電話番号やメアドを見たら、今までのメアドが引き続き使えるようになっていた。誰が何時の間に契約したのか?ここまで至れり尽くせりだと、さすがに楽天家な紅葉も不安になった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 最新スマホを欲していることは、両親と数人の友達しか知らない。友達がプレゼントしてくれるとは思えないので、親が買ってくれた?気になって、破いた梱包紙を繋げて差出人を確認するが、名前や住所に全く心当たりない。個人でなく会社らしいけど、懸賞に応募した覚えは無い。もしかして、ママが家族の名前を使って懸賞に複数回の応募をして、紅葉の名前で当選したのかも。


「・・・・・・・・・ま、ぃっか」


 考えても解らないから考えるの止めた。例え、応募をしたのがママだったとしても、紅葉の電話番号とメアドが登録されているんだから、ママには使う権利が無い。


「・・・ん?」


 小包の中に、【重要書類】と書かれた説明書が入っていた。だけど、読む気無し。

 ゲームソフト買えば、操作方法もロクに読まずプレイして途中で行き詰まる。何かの弾みでプラモデルに興味湧いて買った時は、説明書ガン無視でパーツ切り取って、どれがどこのパーツか解らなくなって放置。今回も同じ。先ずは弄って、解らない事があったら、説明書を見れば良い。

 紅葉は、自室に行って、説明書の入った箱を机の上に放り投げ、エアコンを付けてベッドに寝転がって、新スマホを弄くり回す。




―文架大橋の下―


 数人の小学生がサッカーボールを蹴って遊んでいた。パスされたボールをキャッチし損ね、フリーになったボールが川辺に転がり、手前の草むらで止まった。1人の少年がボールを拾いに行く。


「グオオオオオオオ・・・・・・」


 川面からボコボコと大量の泡が湧いて、泡の中から黒い毛むくじゃらの異形が現れた!不気味な唸り声を発し、流れを掻き分けながら男児に迫る!

 身の丈は2mくらい。異形の名は【川熊】という。


「うわ・・・・・わ・・・・・・・・・わあああああああああっ!!!!」


 身の危険を感じた小学生達は、ボールを放り出したまま慌てて逃げていく。



―紅葉の自室―


「・・・・・んぁっ!?」


 紅葉が、起き上がってサッシを開けてベランダに飛び出した。『割と近くに、熊みたいな変な奴がいる』ってヴィジョンが脳裏を掠める。


「近い・・・文架大橋の辺り?」


 何なのか解らないけど、文架大橋の周辺に何かが居る。気になった紅葉は、スマホを持って、家から飛び出していく。

 紅葉と入れ違いで帰宅をした母親は、「何も知らない一般的な母親」のフリをして紅葉の背中を見送ったが、全てを把握している。紅葉は、山頭野川に出現した川熊の気配を追ったのだろう。想定よりも早い覚醒に合わせて、【ゲンジ】システムを前倒しでロールアウトをして紅葉に贈った。素人なりにキチンと【ゲンジ】を扱えば、川熊は初陣にはちょうど良い相手だ。


「えっ?・・・あの子?」


 有紀は、開けっ放しにされた紅葉の部屋を覗いて呆れ返った。部屋の片隅の小包の中に、赤マジックでデカデカと【重要書類】って書かれた箱が置かれてる。その真ん中に『真の取り扱い説明書』が鎮座してる。ここまで目立たせれば「読まなきゃダメな物なんだな」と察してくれると期待をしたが、読んだ形跡が無い。紅葉は、【Yスマホ】の【真の機能】を把握しないまま、出動をしてしまったのだ。

 紅葉と川熊には、それぞれ頼れる監視者が付いているので、初陣でいきなり戦死って事は無いだろうけど、まさか、戦う術を知らないまま、川熊と接触する事になるとは思っていなかった。



―文架大橋の下―


 逃げる少年達!吼える川熊!数発の光弾が飛んで来て、川熊の背中に炸裂!川熊は仰け反って雄叫びを上げる!

 橋脚に身を隠すようにして、弓形の銃を構えた“人型の異形”が立っていた。マスクのゴーグルの中で複眼が輝いて、川熊を見ている。

 川の中から咆哮を上げる川熊!少年達が去ったことを確認した“人型の異形”が、川熊に向かって行こうとしたその時、彼の左手甲にセットされた腕時計型アイテムに通信が入った。


〈燕真、ソイツは倒さんで良い!追い払って終わりにしろ!〉

「はぁ?」

〈オマンなら楽勝の下級クラスや。被害者が出んように、監視は付けてある。

 ソイツは、オマンの後輩の初陣の相手にするよって、オマンは手を出すな〉

「・・・後輩?まさか、崇さんと有紀さんの娘の事か?

 じいさん、あんな幼い子に、妖怪退治をやらせる気かよ!?」


 通信に気を取られてる間に、川熊は川に沈んで姿を消してしまった。人型の異形は「やれやれ」溜息をついて、左手甲にセットされた腕時計型アイテム【Yウォッチ】の解除ボタンを押して変身解除。装甲が弾け飛んで、中から佐波木燕真が出現する。


「やぁっ!お疲れ様!」

「ん?」


 脇から缶コーヒーが差し出されたので、燕真は、差し出した相手に視線を移す。紅葉の父親・源川崇だった。


「川熊の監視者って、崇さんだったんすか?」

「まぁね。窓際族の僕には、ちょうど良い任務だろ?」

「アンタのどこが窓際族なんすか?」

「僕のことより、君は、任務を放棄して、こんな所でどうしたんだ?

 今の任務は不満かな?」

「妖怪討伐の方が優先です。

 女子高生のストーキングが任務なんて不満に決まっているでしょう。

 崇さんほどの人が監視者って事は、

 川熊と娘さんを戦わせるってのは、本気なんですね?」

「あぁ・・・本気だ」


 崇は、彼が「紅葉を変えた張本人」と知っている。燕真からすれば、理由はよく解らないが、源川夫妻に一方的に気に入られ、就職活動時に、同じ職場(退治屋)に熱烈リクルートをされた。また、直属の上司となる粉木に才能を買われ、先代の妖幻ファイターハーゲン(有紀)の後継者・妖幻ファイターザムシードとして育てられ、今に至る。

 ちなみに、燕真は、監視をしている源川夫妻の娘が、数年前に会った少女であり、彼女の初恋の相手が自分だという事を知らない。


「コーヒー・・・冷えてるから、生暖かくなる前に飲めよ」

「あぁ・・・どうも」


 燕真は、軽く頭を下げて礼を言って、缶コーヒーを受け取り、橋脚に凭れ掛かる。崇は、燕真の隣で橋脚に凭れ掛かり、自分で持っていた缶コーヒーのタブを開けた。


「なぁ、崇さん。俺の次は、自分の娘を退治屋に引っ張るつもりなんすか?」

「ん?燕真君は不満かい?」

「そりゃそうでしょう。まだ高校生だろうに」

「紅葉には才能が有るからね。燕真君だって、見ただろう?

 紅葉が、チンピラ達を伸した姿を」

「は・・・はい」

「紅葉は、望む望まないにかかわらず、妖怪を引き寄せる才能を持っている。

 早めに組織に入れるのは、彼女を守る為でもあるのさ」

「才能・・・ねぇ」


 話を聞きながら、やや不満そうに缶コーヒーを飲む燕真。妖幻ファイターの力を手に入れた彼は、今の任務が終わり次第、別の任務で文架市から離れる事が決まっている。新しい任務に不満は無いが、幼い少女に、文架市を守る後継を託す方針は気に入らない。


「霊感ゼロゆえに、全てを受け流し、

 妖怪に気付かれずに接近をできる君とは、別の才能。

 紅葉の場合は、全てを受け入れ、受け止める才能ってところかな」

「だからって・・・保護するってなら解るけど、戦場に駆り出すのかよ?」

「才能は、使ってこそ磨かれるものだからね」


 紅葉の両親では、一般人には見えない物に対して「紅葉が積極的に働きかける行動力」を与える事が出来なかった。崇は、燕真こそが、紅葉の「才能の最初の一磨き」をして喜怒哀楽という形で、妖怪から紅葉自身を守る術を与えてくれた事を知っている。

 霊感ゼロの才能と、霊感が強すぎる才能。彼等が出会ってしまえば、凸と凹が噛み合うかのよう、惹かれ合ってしまうだろう。だが、紅葉の才能が開花していない今は、まだ早すぎる。愛娘は、才能の全てを、燕真の為に使ってしまうだろう。だから、もうしばらくは、燕真にも紅葉にも、その事実を伝えるつもりは無い。・・・と言うか、崇曰く「まだ幼い愛娘をやるつもりはない!」ので、「紅葉の初恋相手が燕真」は最重要機密扱いだ。


「さて・・・噂のご本人登場だ。見付からないように隠れよう」


 堤防の南側をチラ見した崇が橋脚に身を隠したので、燕真も不満そうに続く。



―文架大橋―


 紅葉が到着した頃には、川熊の気配は無くなっていた。だけど、代わりに“別の人”が橋の上にいた。地覆に花束や菓子が積まれてる。1週間前に、車道に飛び出した人を避けたバイクが転倒して、乗っていた大学生が命を落とした場所。紅葉より少し年上の女性が花束を置いて手を合わせていた。あの花束、毎日新しいのが置かれている。きっと、あの女性が、毎日、ここに花束を手向けているのだ。眺めていると胸が痛む。


(・・・・今日もぃる)


 女性の傍らに“普通は見えない青年”が立って、女性を見つめてる。悲しそうな、それでいて愛しそうな表情だった。女性は気付いていない。しばらく手を合わせてから顔を上げ、ハンカチで溢れる涙を拭いている。青年は何やら懸命に訴えてるけど、全く伝わらない。

 女性は、涙を拭いながら立ち去っていく。途端に“普通は見えない青年”も“思念”だけを残して、その場から消えようとしたが、紅葉が近付いて話しかけた。


「お兄さんが事故の人?」

「俺が見えてるのか!?」

「ぅん・・・ァタシ、源川紅葉」

「・・・・俺は、明石家烈人あかしや れつと


 死後の自分に初めて声かけてくれた少女に、烈人は興味が湧いたらしい。


「魂ってね、成仏しなきゃなんだょ・・・

 そぅでなきゃ、ューレィだらけになっちゃうの」

「・・・・・まあ、そうだよな」

「さっきの女の人が、気になってるの?」


 幽霊が呼吸するのか知らないが、烈人は溜息を吐くような仕草してから答えた。


「あいつは、桃代・・・・・・恋人だった」

「そっか。桃代さんが気になって、成仏できなぃんだね。

 ァタシに出来る事あるなら協力するょ」


 烈人は欄干にもたれかかり、しばらく遠くを眺めてから重い口を開けた。


「あの日は、交際1周年記念日だった・・・

 デートしてプレゼント交換して・・・別れた後で事故に」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「貰ったプレゼントが、どっか行っちまった・・・思ったより遠くへ飛んだかな?

 でも俺は、ここを動けない」

「そっか、思ぃ出のプレゼントが心残りだったんだ・・・ゎかった、探してみる」

「そりゃ有難い、助かるよ」

「プレゼント戻ったら、成仏できそぅ?」

「いや・・・それを彼女に返して欲しい」

「?」

「毎日ここ来て泣いてるのを見てられない・・・

 もし出来るなら『俺の事は振り切って、自分の幸せを掴め』って伝えたい」

「・・・・・・ぅ~ん・・・・」


 探して渡すまでは何とかなるとして、突然失った彼氏を吹っ切る事が簡単に出来るだろうか?紅葉は、彼氏いない歴=年齢なので『彼氏を喪う悲しみ』が解らない。でも自分が彼女の立場だったら、きっと簡単に忘れるなんて無理だと思う。反対に死んじゃった方の立場だと、そんな気持ちになるのだろうか?


「プレゼント探してみるね」

「うん・・・」


 辺りを隈なく捜し歩いたが、プレゼントらしき物は発見できなかった。欄干を越えて河原へ落ちた?もし川に落ちていたら、下流に流されてしまったかも。そうすると、かなり厄介だ。

 でも、約束は守りたい。自転車に戻って跨り、堤防経由で川辺に行ってみた。


「ぉ~ぃ、何処まで行っちゃったんだぁ~っ?」


 視線を這わせながら河原を歩き回る。やがて文架大橋の下まで辿り着き、ふと流れに目を向けたらキラキラした物が沈んでるのに気がついた。近寄って眺めたら、ラッピングされた箱に見える。桃代のプレゼントの可能性が高い。川に落ちたけど、障害物に引っかかって流れなかったようだ。発見できた事を素直に喜び、転がっていた長い木の枝を引っ張ってきて、プレゼントを手繰り寄せようとする。


「グオオオオオオオ・・・・・・・・・」

「ぇっ!?」


 川の中から黒い毛むくじゃらの異形が現れた!

 度肝を抜かれる紅葉。幽霊だったら、小さい時から何度も見たり交信している。でも、こんなバケモノとの遭遇は初体験。突っ立ってる間にも、川熊は迫る。


「グオオオオオオッ!!!」

「ゃべっ!!」


 我に返り、木の枝を手放して逃亡を試みたが、石に躓いて転倒してしまった。起き上がりながら、ポケットのスマホを引っ張り出す。こんな時はどうすれば良い?警察、親、学校の先生、誰に連絡すれば助けてくれる?誰に連絡をすれば、怪物をやっつけてくれる?

 さらに迫る川熊!高々と片手を振り上げて、今にも爪の一撃喰らわせようとする!


「グオオオオオオオオオオッ!!!!」

「ゎゎぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


☆ピカピカピカピカピカピカ~☆ 

 「助かりたい」と強く思いながらスマホを握りしめたら、紅葉の全身が眩く輝き、異形のシルエットに包まれる!


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