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10-1・優麗祭開幕~ハーゲン~麻由の予想~中庭のナンパ

―優麗高―


 9時から体育館で優麗祭の開会式が行われた。校長の長い話の終了後、葛城麻由が壇上に立って『開催宣言』をして、優麗祭が始まる。体育館には、午前中のステージ部門の生徒達が残り、皆それぞれの場所へ散って行った。


 グラウンドでは、招待された高校のサッカー部が既に到着して準備運動に励んでいた。優麗高サッカー部もジョギングを開始する。両校の応援が集まってきた。


 やや離れた場所に設置されたテントでは、模擬店をやるクラスの生徒達が黙々と支度してる。模擬店特別枠の2Bは、プレハブ内で作業開始。


「ぢゃ、張り切って行きましょ~!!」

「お~っ!!」×いっぱい


 各模擬店は10時に開店をする。2Bでは、紅葉を含めた調理係&接客係1斑が残り、宣伝係1班が看板を担いで担当場所へ向かう。残りの生徒達は、交代時間まで優麗祭を楽しむべく散って行った。調理係1斑は、早出をして揚げたトンカツをホットプレートで保温したり、焼きそばの材料の下拵えをして、狭い厨房で忙しなく作業を続ける。


「お待たせしました~っ!」


 10時になり、2B『焼きそば&カツ丼屋』が開店された。接客係が注文を聞いて料金を受け取ったり、紙コップのお冷やを運んで忙しなくも笑顔で動き回る。


「紅葉~!来たよっ!」

「ちぃ~っすっ!ミキ、ユウカ!来てくれてありがとっ!」


 1年生の時に仲良くなった友達2人が、冷やかし半分で顔を出す。


「サービスするよっ!2人とも、焼きそば大盛とカツ丼でイイかなっ?」

「朝から、そんなに食べないって!」

「焼きそば並盛りとウーロン茶でお願いね」


 2人の友人は苦笑をしながら、紅葉に案内をされて席に通される。


「相撲部体験入部っ!参加者受付中ですっ!

 そこの父ちゃんっ!運動不足解消に、どうですかいのうっ!?」

「吹奏楽部が、11時から体育館で演奏しま~すっ!!

 是非、聴きに来て下さいね~っ!!」

「3年B組っ!!自主制作コメディー映画の上映会やってま~すっ!!」


 正門前では、訪れる客への呼び込み合戦が始まっている。Nジョルナーレの葵怜香が、何食わぬ顔で正門を通過した。言うまでもなく、学園祭を楽しむ為ではない。


「あの高校生達は、きっと、まだ何か隠している・・・」


 学園祭の見学を口実にして、バルミィと友好関係にある生徒に接触をする為だ。




―2C展示室―


 亜美は12時までやる事がない。2年C組のプレハブを覗いたら、美穂は、掲示物&展示物が並んだ教室の片隅で暇そうに座っていた。C組の展示のテーマは【文架市に伝わる妖怪伝説】である。

 部屋のど真ん中に2mの“典型的な鬼”の模型が鎮座しており、【絡新婦】【鎌鼬】【鵺】【縁障女】etc.文架市の各所に伝わる妖怪伝説を纏めて文章にしたり、イラストを描いたり、紙粘土で作ったフィギュアが整然と展示されていた。『お化け屋敷』程じゃないが、黒幕で遮光して照明を落として、それなりなクオリティーの自作フィギュアに下からスポットライト当てあり、ちょっと怖い雰囲気を醸している。

 肝心な客入りは少ない。妖怪を楽しむ世代=子供達が優麗祭に訪れるのは、もう少し遅い時間帯なのだろう。「とりあえず、誰か1人いるように」って事で美穂が残ったが、やる事が無い。漫画でも読んでいたい気分だが、こんな薄暗い場所では無理。暇を持て余した美穂は、今にも居眠りをしそうだった。


「おつかれっ」

「う~っす」

「当番やってたんだ?」

「あれこれ見て回るほど関心無~し、

 これが1番楽そうな係だったから選んだんだ。

 見ての通り、誰も来ないから座ってるだけ。おかげで、ノンビリできるよ」


 美穂が両手を頭上に伸ばして大欠伸するのを見て、亜美は苦笑をする。


「来ましたよ、桐藤さん!

 ・・・あっ!平山さんもいたんだ!?ちょうど良かった!」


 真奈が顔を出した。麻由と同じクラスゆえに、なかなか接触が出来ない真奈だが、今は生徒会は校内のパトロールに追われている為、真奈にまで気が廻らないのだ。


「うちのクラスの演劇は14時20分からで、

 2Aの体育館への召集は14時です。

 2Aの後に3年D組の演劇と軽音部のライブがあって、

 ステージ部門は終了になります」

「つまり、14時から、葛城は動けなくなるわけだ。

 ライブの準備をするなら、その時だな。

 なんなら、アイツを体育館に足止めさせ続ける為に、

 『あたし達が体育館でゲリラライブをやる』ってミスリードをするべきかな」


 ライブを強行してしまえば、あとは成り行き任せ。だけど、準備中に見付かってしまったら、何も出来ずに敗北をする。どのタイミングで楽器を校内に運び入れるか?美穂の‘生徒会女帝への挑戦’は、既に始まっていた。




―山頭野川の支川の上流―


 文架市の中心部まで行くと広い流れになるが、支川の上流だと狭くて流れが幾らか早くて、水が澄んでいる。中心部は賑やかな文架市だが、ここは山が目前で辺りは緑に包まれ、民家も少ない。

 川のせせらぎと野鳥の声くらいしか聴こえない静かな河原で、中年男性が1人で釣りを楽しんでた。今日は、なかなか調子が良い。傍らに置いたバケツの中では、釣ったニジマス数匹が泳いでいる。


「・・・・ブモオオオオオオオオ」

「えっ!?」


 川の中から現れたのは、人間の顔に牛の体をした異形・くだん!ギョロ目で中年男性を睨み付け、大きな口を開き、巨体を揺すって迫る!

 どんなに楽観的な人でも「友達が欲しくて姿を見せたんだね」とは思えない。


「ひええええええええええええええええええっ!?」


 食い殺す気満々で迫るくだん!常軌を逸した出来事を目の当たりにして腰抜かす中年男性!そこへ、女性的な体型で青い鎧に身を包んだ異形が出現!くだん目掛けて、刀身が光り輝く日本刀を振り下ろした!くだんは前足にダメージを受けて動きを止める!


「早く逃げてっ!!」

「は、はっ、はひっ!!」


 鎧の異形は、妖幻ファイターハーゲンという。刀を構えて立ち塞がり、逃げていく中年男性をチラ見してから戦闘開始!怒り狂ったくだんが突進をしてきたが、ハーゲンは寸前まで引き付けて垂直ジャンプ!その背中に飛び乗って頭の2本角を斬り飛ばし、渾身の力で刀を振り下ろして肩に深々と刃を突き刺した!


「邪気退散!!」

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 ハーゲンが発した浄化の光が、日本刀を通してくだんの中に流れ込んで内側から破壊!くだんの身体が闇の霧となって空気中に溶けていく!

 妖怪退治終了。ハーゲンが左腕から携帯電話型アイテム=Yケータイを外したら、装甲が消えて、中から紅葉の母・源川有紀が出現をした。有紀は一息吐いてから、Yケータイを耳に当てた。


〈粉木や〉

「有紀です。討伐、完了しました。被害者はゼロ」

〈ご苦労さん。通常業務に戻ってや〉

「了解しました」


 有紀は、ニジマスを川に戻してから、街の方角を眺めて苦笑をする。


(これだけ距離あって学園祭に夢中じゃ、さすがに感知できなかったようね。

 まだまだ未熟だわ・・・

 まあ、今日だけの特別サービスよ。

 1度きりの青春を謳歌して、学園祭を楽しみなさい)


 急斜面を身軽に駆け上り、停めといた愛車ホンダCBR1000RR に跨ってヘルメットを被り、エンジン始動。街へ戻っていく。




-昼前・体育館-


 麻由が、風紀委員の女生徒と一緒に巡回する。今のところ、特に風紀上の問題なし。体育館を覗いたら他のクラスが演劇やっていた。2Aと比べたら全く相手にならない。目の上のタンコブとなるのは、演劇部の『ハムレット』くらいだろう。


「この期に及んで、源川さん達が“余計な事”を出来るとは思わないけど・・・

 演劇に集中する為にも、不安要素は取り除いておくべきね」


 紅葉や美穂のやりそうな事は、徹底的に潰したつもりだ。想定外の要素があるとすればバルカン人だろう。麻由は、風紀委員に「少々待っていてください」と待機をさせて、体育館裏に出てスマホで通話をする。発信先は文架警察署だ。


〈はい、文架警察署です〉

「優麗高生徒会長の葛城と申します。

 少々、お訊ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」

〈はい、なんでしょうか?〉

「本日は、バルカン人の宇宙船が飛ぶ予定はありますか?

 学園祭で、無線部が通信を行うので、

 電波障害が発生するか、事前に確認をしたくて・・・」

〈確認しますので、少々お待ちください〉


 優麗高に無線部など無い。情報を引き出す為の方便である。記者会見の時、「宇宙船を飛ばす際は、航空法を遵守する」と言っていた。つまり、事前の飛行計画が提出されなければ、バルミィは宇宙船を飛ばせないのだ。そして、作戦実行中の軍用機ならともかく、公の飛行機の情報は秘匿する事は無い。


〈お待たせしました。飛行計画はありますよ〉

「何時頃ですか?

 その時間帯は、通信が乱れる事を無線部に伝えておきたいので」

〈14時頃です。飛行経路は文架市内です〉

「ありがとうございました」


 麻由は、通話を切り、ほくそ笑む。「まさか」とは思っていたが、不穏分子は、バルミィの科学力に頼るようだ。グラウンドに不時着をさせて、格納庫が開いたらステージになってる?それとも、想像も出来ない“とんでも科学”でライブをする?バルミィの宇宙船にどんな性能があるのかは、流石に解らない。だけど、妨害なら出来る。


「13時45分になったら、

 生徒会と風紀委員、そして教員数名を、外に待機させて下さい。

 そして、宇宙船を発見次第、学校敷地内への着陸を妨害して下さい。

 場合によっては、パイロットを拘束をしても構いません。

 優麗祭を守る為・・・大義は、こちらにありますからね!」


 宇宙船が、全く関係の無い方向に飛んでいくなら、取り越し苦労で済ませば良い。だが、生徒会の女帝は、不安要素を徹底的に取り除くことを選択して、指示を出す。




―2年B組―


 昼の12時が近づく。亜美が所属する2班と交代する時間だ。5分前には身支度して教室へ来た。他のメンバーも次々集まる。厨房を覗いたらエプロン姿の紅葉&1班メンバーが、せっせと調理に励んでいた。片隅に積まれたダンボール箱や保冷ボックスを覗いたら、材料が残り僅かである。


「クレハ、材料これだけ?」

「ぅんっ!買ぃ出し係がスーパーに行ってるょぉ~っ!もぅすぐ帰ると思ぅっ!」

「お肉は?」

「ぇ~とぉ・・・残り27個」

「解った・・・・交代だよ。」

「ぁりがとっ!これだけ、ゃっちゃぅっ!」


 鉄板で良い感じに炒められた焼きそばに味を付け、手際よく皿に盛りつけて接客係に渡して、紅葉の任務が終了。2班のメンバーにバトンタッチをする。




―1時間後・校庭―


 美穂が紙コップのジュース(蓋付き)をストローで飲みながら、立ち入り禁止の校舎に近付いたら、死角になる場所で数人の男女が何やら揉めていた。何処にでも転がってるナンパ風景なんだけど、少しばかり男達のガラが悪いというか、女の子達が幼い。


「彼女~。

 俺にぶつかって、たこ焼きで俺の服を汚したのは、

 俺に一目惚れして気を惹きたかったからなんだろ?

 お望み通り遊んでやるよ。何処に行く~?」

「違いますっ!そっちからぶつかってきたんでしょ!」

「君たち何処の学校?優高じゃなさそうだね」

「ひびき~!ヤバいってっ!まずは謝ろうっ!」

「そ、そうですよ!

 ぶつかって、相手の服を汚してしまったのは事実ですからっ!」

「謝らなくて良いからさぁ~。遊びに行こうよ。」

「そうそう!俺たちバイクで来てるからさ!遊びに行こうよっ!」


 ナンパかと思ったら、アホウがガキに絡んでいるらしい。ガキの1人は、やけに威勢が良いが、取り巻きは怯えている。アホウの着ている学生服から察するに、渡帝辺の連中。ガキは私服だからよく解らないが、まだ表情に幼さがあるから中学生かな?


「ねぇ、そこのイケメンくん!」


 美穂の呼び掛けに対して、アホ面で特にイケメンでもない3人組の男が振り返る。スタイル的には残念だが、そこそこ可愛い女子が逆ナンをしてきた?


「喉渇いたでしょ?差し入れ、あげるっ!」


 美穂は、満面の笑みを浮かべて、持っていたジュースを、真ん中の男向かって、軽く投げて渡した。男は「モテる男は辛いぜ」みたいな表情をしながら、格好をつけてワンハンドでキャッチするのだが、事前に蓋が外してあったので、中のオレンジジュースが溢れ出して、服にブッ掛かってしまう。


「あははははっ!たこ焼きのシミだけじゃなくて、ジュースまみれっ!

 こりゃ、早く帰って洗濯しないと、大変だな!」


 美穂の表情が、作られた満面の笑みから、素の挑発的でドエスの笑みに変化。逆ナンではなく喧嘩を売られたと知ったアホ面達は、頭に血を上らせて美穂に掴みかかった。しかし、この後の“処理”は早かった。一人目と二人目の男に対しては、美穂は素早く突進を回避をして、足を引っ掛けて転倒させ、3人目に対しては楽々と攻撃を回避しながら誘き寄せて、立ち上がった一人目に激突させる。


「ばーか!同世代じゃ相手にしてもらえないから、ガキをナンパか!?

 そんなヘタレじゃ、あたしの相手にゃならね~んだよ!

 刃禍魔琉堕死と大して変わんね~な!」


 美穂は、ギラついた攻撃的な眼で男達を睨み付ける。男達は刃禍魔琉堕死の末路を知っている。チーム自体は警察に壊滅させられたが、リーダーとメンバーの1人は“何者か”に襲撃されて、警察に突き出されたのだ。まさか、その“何者か”が、目の前の女!?


「ひぃぃっっっっ!!!」 「お助けくださいっっ!!!」 「逃げろっ!!!」


 美穂を別格と感じた男達は、一目散に逃げていった。絡まれていた中学生らしい女子達が、美穂のところに寄ってきて礼を言う。


「サッサと、人が多いところに行け。

 いつまでもこんな所に居ると、さっきの奴が仲間を連れて戻ってくるぞ」


 美穂は、軽く脅して女子達を追い払った。美穂の目的は、女子中学生の救出ではない。この場所から人払いをするついでに、彼女達を助けただけである。


「今のガキ共のうちの1人・・・どっかで見たことあるような気がするな?

 知り合いの誰かの妹か?・・・まぁ、どうでも良いけど」


 美穂が、今の少女達と本格的に絡む事になるのは、今から半年後、少女達が優麗高に入学してからになる。


 今回発生したガラの悪いナンパは、パラレルワールドになる『妖幻ファイターザムシード』の『番外③・盗難バイクの里心』で発生したナンパと同じ。ナンパをされている少女達も同一キャラ。ただし、絡むキャラが変化をしているので、その後も展開も変わります。


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