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5-2・カラオケ行こう~ライブの提案~紅葉のベース

 バルミィは、紅葉達を見て嬉しそうに微笑み、ピョンと跳んで、軽やかに地上に着地をした。


「バルミィ、ァタシ、力になれなくてゴメンっ!」

「気にしないばるよ!先生の言う事が正しいばる。

 思い付きで無理言って困らせちゃってゴメンばるっ」

「あたしは、バルミィが学校に来るのは大歓迎なんだけどさ」

「これが、地球の文化なんだから、仕方ないばるっ!

 ボクが勉強不足だったばるっ!」

「でも・・・やっぱり、ゴメン。」

「そんなに何度も謝らないでほしいばる。

 そもそも、ボクが会いに来たのは‘学校に通いたい’とは別の目的ばる。

 紅葉達にお願いがあって会いに来たばるよっ!」

「なに?」 「なんだ?」 「私達に出来る事なら!」

「ボク、地球の歌を歌ってみたいばる!」

「歌?」 「なんで歌?」

「バルミィ、歌が好きなのぉ?」

「歌、大好きばる!

 地球の街には、皆で歌えるカラオケって言う場所があるばるよねっ?

 でも、地球のお金が無いと入れないばるよね?

 だから、連れていって欲しいばるっ!」


 紅葉&美穂&亜美は、互いの顔を見合って微笑む。紅葉は、ムシャクシャしていて、スッキリと気分転換をしたかった。美穂と亜美からすれば、カラオケでバルミィが喜んでくれるなら、お安いご用である。


「よし、カラオケ行こうっ!!」

「4人で盛り上がっちゃおうか!」

「カラオケなら、ダイトーリョーの許可、いらないよね!」

「もちろんだ!」

「っっしゃぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 4人で並んで歩いて、美穂が原チャリ停めてるショッピングセンターへ向かう。同じ敷地に『カラオケの館・文架2号店』があって、優麗高の生徒達も頻繁に利用してる。


「ところで、バルミィ?

 てっきり宇宙に帰ったと思ってたけど、何処で何をしてたんだ?」

「ちょっと、地球のあちこちを観光してたばるっ!」

「・・・・・・へ!?」

「日本・・・じゃなくて地球?」


 聞き間違いではないんだろうけど、話のスケール大きすぎてピンと来ない。


「先ずは、サハラ砂漠!

 サラッサラの綺麗な砂が、ず~っと広がって雄大ばるっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3

「それから街に行って観光したばる・・・

 万里の長城は、飛んで見て廻ったけど、結構時間が掛かったばるね」

「ばんりのちょうじょって、サハラ砂漠にあるんだっけ?」

「クレハは、もう少し、地理の勉強をしなさい!」


 会話をしているうちに、『カラオケの館・文架2号店』に到着。2時間でソフトドリンク飲み放題のコースで受付して部屋へ行く。ソファーとテーブル。モニターとマイクとリモコンとタンバリン。何の変哲もない部屋だけど、カラオケ初体験のバルミィは興味津々で眺めてる。バルミィを除く3人は、ブレザーを脱いでハンガーに掛けてリラックスモード。リモコンを手にして、「誰がトップバッター?」って話になった。


「バルミィの歌、聴ぃてみたぃっ!」

「そうだなっ」

「地球の音楽は、いっぱい調べたばる~っ!

 じゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・・・元気が出そうな歌を唄うばる~!」


 バルミィはリモコンをチラと見るなり使い方を理解したらしくて、慣れた手つきで画面をタップして目的の曲を探す。間もなく、選択した曲が流れだした。


「ひゅ~ひゅ~っ!」


♪~♪~♪~ 

 『軍艦マーチ』である。「元気が出る」ってよりは、勇ましい曲だった。紅葉&美穂&亜美は、手拍子しつつ「何でこの曲?」と顔を見合わせ、首を傾げてしまう。


「♪~♪~♪~」


 バルミィの歌は、とっても巧かった。音程・声量・息継ぎ・感情の込めっぷりetc.プロ並みだった。ただちょっとばかり、文化的なズレが生じてた。確かに、ある意味で元気が出る曲だが、3人がイメージしていた「元気が出る曲」とはだいぶ違った。


(せっかくだから、次は流行りのJ-POPとかを歌って欲しいなぁ~)

(・・・てか、歌唱力ヤベーだろ。

 軍艦マーチで、ここまで聴き入っちゃうなら、

 流行の歌ならどれほど上手に歌えるんだ?)


 やがて歌が終わり、バルミィは満面の笑みでペコッと頭を下げ、3人は拍手を贈る。

 次は、バルミィが歌ってる間に予約を入れておいた美穂の曲が始まり、やけにヘヴィなサウンドが流れだした。アニメの主題歌に使われた日本のロックバンドの曲だ。美穂は、マイクを手にするなり立ち上がってテーブルにドンと片足を乗せ、激しくヘッドバンキングして長い髪を振り乱して歌い出した。


「♪~♪~♪~」


 やがて終盤となり、美穂は獣のような大声で締め、息を切らせながらマイクを置いて、グラスのコーラを一気に飲み干す。 


「あ~~~~~~、カロリー消費するっ!!・・・次は誰の歌だ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3

「・・・ん?どうした?」


 美穂が3人を見たら、皆ドン引きしていた。カラオケで叫んだり大騒ぎする女子高生はいるだろうし、先輩と一緒に来て“接待カラオケ”や、異性と来て“乙女モードで気を惹く”状況ではないとはいえ、これはチョット酷い。


「ミホ・・・マイク握ると別人になる種類の人?」

「ちょっと怖かった」

「地球の文化を知らないボクが言うのも変だけど、2曲目のノリではないばるね」

「・・・へ?」


 このメンバーでカラオケをするのは初めてだ。ぶっちゃけ、場が暖まって何でもアリになる中盤以降ならともかく、アイドリング状態の序盤でコレはアウトだろう。


「チョット、ペース配分をしくじったかな?」


 美穂は、苦笑いをして、「もう少し一般的な曲をマスターしよう」と心に誓う。


「次ゎァタシね!」


 次に始まった前奏は、つい最近、学校の朝のホームルーム中に聴いた“3人組テクノポップユニットの曲”だ。紅葉がマイクを握って立ち上がる。


「♪~~」


 唄い出して間もなく、バルミィが隣に並んで一緒に踊り出した。この2人、自分が歌ってる時も連れが歌ってる時も変わらず賑やかだ。美穂と亜美も、紅葉の楽しさが伝染をして自然と笑顔になる。やがて歌い切り、何度も飛び跳ねて「ぃぇ~~っ!!」っと叫んでマイクを置いた。美穂と亜美は拍手を贈り、バルミィは歓声で盛り上げる。1曲目と2曲目は“会場を暖める”に失敗をしたが、紅葉の曲のおかげで、「楽しく騒ぐ」空気が作られたようだ。


「♪~~」


 その後もバルミィ→美穂→紅葉→亜美の順番で、賑やかにカラオケタイムが続く。 バルミィは、デスメタルだの、民謡だの、演歌だの、ちょっとばかり選曲が滅茶苦茶で、聞いてる方の調子が狂ってしまう。だが、後半になるにつれ、紅葉が「バルミィに歌って欲しい曲」を選曲するようになり、バルミィは見事にリクエストに応えた。 紅葉と亜美は、如何にも女子高生らしい流行の曲を楽しむ。美穂は場の雰囲気に合わせて、「自分が歌いたいけど皆が知らない曲」ではなく、紅葉や亜美に「あのCMの曲、誰が歌ってる?」「あのドラマの曲ってなんてタイトル?」と聞きながら、聞いた事のある選曲をした。


 やがて時間になって、『カラオケの館』を後にして駐輪場へ。歌唱力がダントツなのはバルミィだった。ジャンルも言語も関係なく器用に歌いこなし、皆を聴き入らせた。


「バルミィの歌声・・・ァタシ達だけで独り占めゎ勿体ないね。

 歌で、皆を幸せにするなんてスゴい。

 学校の皆にも、バルミィの歌で、幸せば気分になって欲しいなぁ~」

「喜んでもらえて、嬉しいばるっ!歌は、宇宙共通の素敵な文化ばるっ!」

「でも、優麗高の生徒全員でカラオケをするってか?そりゃ、無茶だろう」

「んぁっ?ミホ、今なんて行った?」

「優麗高の生徒全員でカラオケは無理って・・・」

「ぅんにゃぁっ!それだぁっっっ!!」

「クレハ?一体何を?」

「ミホ、あったまイイ!優麗祭で、ラィブゃろぅっ!!!!

 それなら、バルミィの歌を、皆に聴いてもらえるっ!

 バルミィが手伝うのを、本番まで内緒に出来るっ!」


 紅葉の突然の提案に、皆は、キョトンとしてしまう。


「・・・・・・へ?」

「・・・・・・・・・・・・ライブか」

「ボクは、何時でも何処でもOKばるっ!!」

「ちょっ!?待ってクレハっ!!幾ら何でも、それは拙いでしょっ!!」

「いや、そうとも言えない。

 確かに、先生の言う『学校に通うのは不可能』は覆せない。

 でも、生徒会長の言う『優麗祭に参加できない』は引っ繰り返せるんじゃね?

 文化祭に客が来るのは当たり前だ。もちろん、国籍チェックなんてしない。

 なら、『バルミィは、ゲストで来て飛び入り参加をした』で押し通せるぞ!」

「ミホのクセに、冴ぇてるぢゃんっ!!その作戦で行こぅっ!!」

「オマエ、あたしをバカにしてるのか?」


 世間的には『屁理屈』もしくは『とんち』と言うんだろうけど、常識人ポジションな亜美以外の3人は一致団結をしてしまった。


「それで決まりっ!!それぢゃあ、楽器の担当ぉ決めょぅ!!」

「・・・楽器?カラオケで良くね?」

「それぢゃダメっ!

 ァタシ達の演奏でバルミィが唄えば、

 皆に『星が違っても仲良しになれる』って伝わるぢゃんっ!」

「素敵な企画ばるね~!」


 紅葉のクセに、たまに的を射た事を言う。だが言いたい事は解ったけど、大きな問題があった。


「そりゃまあそうだけど・・・・・あたし、楽器は未経験だ」

「ァタシもっ!!」

「おいコラっ!?言い出しっぺがそれかよ!?」

「パート決めて、明日から練習しょうっ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「ァミゎピァノ出来るぢゃんっ!!差し当ってギターとドラムだねっ!!」

「え、私も加わってんの!?」

「当たり前ぢゃんっ!!」

「諦めろ亜美。こうなっちまうと、紅葉は絶対に引かないから」

「・・・・・・・・・・・・・・う~ん」

「あたしギターは無理・・・・・・あんま器用じゃないんで」

「ぢゃあ、美穂ゎドラムねっ!!ァタシゎギターゃるっ!!」


 紅葉はスマホを取り出して時間を確かめてから暫し考え、よしっと決意した表情するなり駆けだした。


「今なら、ギリ間に合ぅねっ!!ちょっと楽器屋で買って来るっ!!」

「あっ、クレハっ!?」 「さっそくかよっ!?」

「明日、学校で見せるからねっ!!ばぃばぃっ!!」


 止める間もなく満面の笑顔で手を振りながら走り去り、自分の自転車に跨ると楽器屋を目指して突っ走って行ってしまった。亜美と美穂は、ただ後ろ姿を眺めるばかり。こんな展開になるのは予想外だった。


「あの行動力は凄いばる~っ」

「面白そうだな・・・ちょっと、大人や優等生共の鼻を明かしてやろう」

「・・・・・・・こうなったら、付き合うわよ」

「頑張ってねっ!ボク、出来るだけの協力するばるっ!!」


 3人はその場で解散をして、飛んで帰るバルミィを見送り、美穂と亜美は、それぞれのペースで帰路につく。

 美穂は原付を走らせながら、「クソつまんない奴等に、ちょっと刺激を与えてやろう」と心を躍らせて笑う。




―翌朝(優麗祭まで、あと22日)・優麗高―


 紅葉と亜美が登校をしてきたら、美穂が生徒玄関前で待っていた。昨夜の時点で、紅葉から「ギター買った」ってLINEメッセージをもらっていたから、紅葉が背負ってる革のギターケースを見て、「へぇ~」と感心しながら寄って行く。女子高生が即金で買えるギターって、どんな物なんだろ?かなり興味深い。さすがに1万円以下では買えないだろうから、2~3万てところかな?まぁ、それでも、女子高生の小遣い事情を考えれば、かなりの大奮発だろう。


「ギター見せろよ」

「んっ!見せたげるっ!」

「見せたいから、ワザワザ学校まで持ってきたんでしょ、クレハ?」

「んへへっ!」

「いくらしたんだ?」

「中古だけど、7万円もしちゃったぁ~っ!

 ホントゎもっと高ぃけど、ちょっとキズがあるから7万だって!

 ぉ得ぢゃね!?」

「はぁ?」 「ななまんっ!?7千の間違いじゃないのか?」

「音ぉ出すのに、ァンプっての要るんだね~。

 どれが良いか知らなぃから、店員さんに勧められたの買ったよ。

 『出力が高いから、最低このアンプじゃないとダメ』って言ゎれて、

 でっかいの買っちゃったっ!!

 ぁとチューニングってのに必要な機械とヘッドホン・・・

 貯金ほとんど遣っちゃったぁ~っ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 前々から、紅葉って、ちょっとバカなんじゃね?と思ってたけど、やっぱりバカだった。女子高生で、楽器の為に、即金7万は有り得ない。金銭感覚が、かなりおかしい。

 美穂と亜美は、表情を引き攣らせて互いの顔を見る。なんとなく軽い気持ちで「ライブやろう」って決めたけど、さすがに紅葉が7万の楽器を購入した状況で「やっぱり面倒臭そうだから止めようか」は無理だ。もう、前に進むしか選択肢は無い。


「まぁ・・・なんとかなるだろう」

「何とかするしか無い・・・というべきかも」


 3人は、ブルーシートと足場で覆われた校舎を通り過ぎて、体育館の裏へ到着。紅葉は背負ってたケースを地面に下ろし、「でゎ注目~っ」なんて勿体ぶりながらファスナーを開けて中身を出した。既に“7万”でドン引き中だった亜美と美穂は、紅葉が得意気に取り出したギターを見て無言になる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ややあって美穂が、「おまえ、大丈夫か?」って言いたげな感じで質問した。


「なあ紅葉・・・・どんな理由で、これ選んだ?」

「にっひっひっひっ・・・・ピンクで可愛ぃからっ!!」

「色はどうでも良い。この形を選んだ理由は?」

「弦が2本少なかったからっ!

 これなら楽ぢゃねっ!?本番まで、ぁんま時間なぃし!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2

「何で黙ってんの!?どぅかしたっ!?」


 長~~~~い沈黙が続いた後、亜美が申し訳なさそうに切り出した。


「これ、ベースギターだよね」

「・・・・・・べえすぎたー?弦が少なぃ他に、何か違うの?」

「全くの別物だよ」

「ぇっ!?ぇっ!?だって、形が同じぢゃん!?弦が少なぃだけぢゃんっ!?」

「ベースギターってのはね・・・

 簡単に言えば、ドラムと一緒にリズムをキープする楽器だよ」

「ぇ・・・・ぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~っ!?聞ぃてなぃょっ!!

 て~ことゎ・・・間奏でカッコょくギターソロできなぃの!?」

「うん、無理」

「まぢかぁ~~~~~~~~っ!?」」


 紅葉は頭上に『ガビ~ン!!』って文字が浮かんでそうな表情で、頭を抱えて慌てふためく。


「何の説明もしなかった店員もクソだな」

「説明されたけど、クレハが聞いていなかったとか?」

「ゎぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!!!どぅしょぅっ!?どぅしょぅっ!?」

「買ったばっかりだから、返品は出来るだろうけど、どうする?

 実際のところ、ベースギターもあったほうが良いんだろうから、

 美穂ちゃんと2人で、リズム担当する?」

「ぅ~~~~~~~~~・・・・・・そぅするっ!!」

「ギター無し?誰か、もう1人誘わなきゃって事かな?」


 出航早々、行く手に暗雲が立ち込めたと言うべきか、スタート直後の一歩目で、いきなり落とし穴に落ちたと言うべきか・・・前途多難としか言い様が無い。

 美穂はバンド結成の為の“不足”をどう補うか思案をする。


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