5-1・文化祭企画&バルミィ登場~優高生になれない
優麗高の生徒会役員は10月に交代をする。この時期の交代は進学校としては遅く、3年生からすれば、本腰を入れて受験勉強に取り組む時期まで生徒会に拘束される為、トップクラスの大学を志望する生徒の大半は、生徒会役員を敬遠する。反面、希に、生徒会に従事しながら上位の成績を維持する天才児も出現する。
生徒会3役の立会演説会が行われ、1年生の10月から生徒会長に就任していた2年A組の葛城麻由が、引き続き生徒会長に就任をする。2年連続での生徒会長は、優麗高始まって以来。葛城麻由の名は、優麗高の歴史に名誉を刻むことになった。
旧生徒会のバックアップを受け、新生徒会が主導する初めての学校行事が優麗高の文化祭=優麗祭になる。
-優麗高・2年B組(プレハブ教室)-
中間テスト終了日の6限目。本来の授業時間が予定変更でホームルームに宛てられ、今から約3週間後の11月の上旬に開催される≪優麗祭≫での、クラスの催し物を決める。
「ァタシ達のクラスゎ何をしようか?」
文化祭実行委員の紅葉が教壇に立って発議をして、クラスメイト達が希望を発言する。それを学級委員が黒板に書き連ねた。北村先生と三波先生は、窓際で椅子に座って成り行きを眺めている。
大半の生徒の希望は‘模擬店’である。「合唱や演劇は嫌だ」って事で、第2希望は展示に決まった。
優麗祭では、体育館での演劇や合唱、自主映画製作、展示やアトラクション、そして模擬店が有り、毎年、文化祭の花形である模擬店に希望が集中する。
「でも、何のお店をやる?」
「喫茶店!」
「定番のたこ焼き屋!」
「クレープなんてどう?」
「からあげ屋!」
定番な案が幾つか出たけど、毎年、必ず何処かのクラスがやるので、面白味が無くてピンと来ない。
「どぅせなら他に無いメニューゃろぅょ!!
特製焼きそばとか、特製タレカツ丼っ!!」
「特製焼きそば?普通の焼きそばと違うの?」
「ァタシのオリジナルだょっ!味噌で味付けしてんの!」
「あっ!なるほど!」
タレカツと同じ味噌ダレで、焼きそばを味付けするのだ。想像した事が無かったけど、聞く限り美味しそう。他に良い案も無い。多数決で、紅葉の意見が通った。
だけど、紅葉も、クラスメイト達も、肝心な事を忘れている。模擬店は文化祭の花形。言うまでもなく、毎年、希望するクラスが多いので、抽選で‘当たり’を引かなければならないのだ。
「でも、秘伝の味噌ダレなんて作れるのか?」
「んっふっふっふっ!タレカツなら任せてっ!
同じくらいの味で、おうちで何回か作ってるよ!
焼きそば用は、もう少しアッサリ系にすれば出来ると思うっ!」
誰も見ていない教室の後ろで、エメラルドグリーンの美しい髪が、風で靡いた。
「すっごい美味しそうばる~~~っ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん
「ボクも、食べたいばるっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん
「地球の食べ物って、美味しい物ばっかり!
ユーレイサイっての、楽しみばる~~~~~っ!!!」
「えっ・・・ええええええええええええええええええええっ!?!?」×いっぱい
何時の間にかバルミィが潜入しており、教室の後ろにあるロッカーに腰かけて足をブラブラさせながら、さも当然と参加していた。
羽里野山遠足から2週間が経過。あの日、警察の捜索で、無人の大型宇宙船は発見されたけど、バルミィと小型宇宙船は発見されなかった。捜索が入る前に、羽里野山から離れたのだ。
紅葉は、「バルミィにまた会いたい」と思っていた。だけど、何処に行ったか解らなくて会えなかった。だから、自ら顔を出してくれたのが嬉しい。満面の笑みを浮かべ、慌ただしく駆け寄っていく。
「来てくれたんだねぇ~」
「セートカイチョーが‘優麗高’って言ってたからね。
探して、遊びに来たばるよっ!」
「うれしぃ~~~!宇宙に帰らなかったんだねぇ!?」
「ばるっ!ずっと地球に居たばるっ!」
「今、何処に住んでるのっ!?文架市に居るのぉ!?」
「宇宙船は、羽里野山とは別の、地球人が来ない山に着陸させたばるっ!」
「へぇ~・・・そうなんだぁ~?」
「ところで、ユーレイサイって何ばるか?地球の食べ物ばるか?」
「違ぅ違ぅ!ユ~レ~サイゎ、ァタシの学校のお祭りの事だょっ!
今ゎ、お祭りで食べ物屋さんやろぅって決めてたのっ!」
「ばるぅ~!ユーレーサイ楽しそうばるっ!!
ボクも、お手伝いしたいばるっ!!」
「えぇっ!?手伝ってくれるノォ!?
バルミィと一緒にユ~レ~サイなんて、絶対楽しぃっ!!」
北村先生と三波先生と、亜美を含めたクラスメイト達は言葉を失い、ロッカーに腰かけて微笑んでいるバルミィを呆然と眺めるばかり。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん
「・・・ばる?」
「ん?・・・・・・ねぇねぇ、皆どぅしたのぉ?
何で黙ってるの?バルミィと一緒にユ~レ~サイ、楽しくね?」
教室が静まり返り、クラスメイト達は、紅葉の提案には反応できずに、黙って俯いている。誰も何も言わないので、見かねた北村先生が、徐に口を開いた。
「・・・・あのな、源川」
「はぃっ!」
「源川の気持ちは、まあ解る。彼女が根は良い子だって事も知っている」
「はぃ」
「でも残念だけど、学校行事に部外者を参加させるわけにはいかないんだ」
「ぅ~ん、そっかぁ・・・・ぇ~とっ、そしたらそしたら・・・・
編入試験っての受けて合格したら、バルミィも生徒になれますょねっ!!
ぅん、そぅしょぅっ!!」
「いや、編入試験を受けるにしても色々と手続きが」
「そこゎ先生の権限でっ!!」
「俺に、そこまでの権限はない。
もちろん、校長や教頭にも決められない。ここは公立高校だからな。
公立高だけでなく、例え私立高でも、
日本国籍や住民票を持たない者を、入学させる手段など無いんだ」
「ぇぇぇぇぇぇ~~~~・・・だったら、誰に頼めばぃぃんだろ?そーり大臣?
ところで、今のそーり大臣て誰だっけ?古泉?石橋?」
バルミィが優麗高の生徒となるには、何が必要?総理大臣が命令してくれれば、優麗高の生徒になれる?でも、その為には、入学試験を受けなきゃなのかな?紅葉は困った顔で考え込んでしまう。
「ありがとう・・・・でも、ボクの所為で皆が気まずくなっちゃ嫌ばる」
傍らで成り行きを見ていたバルミィが、紅葉の肩をポンと叩いて呟いた。
「・・・バルミィ」
「先生の言ってる事は正しいばる。ユーレイサイに参加するのは諦めるばる」
「・・・・・・・・・・・・・」
バルミィは微笑み、教室を見回してチョコンと会釈しながら「お邪魔しました」と挨拶して扉へ向かう。紅葉はかける言葉が見つからなくて、ただ去り行く背中を見つめてた。
(ゴメンね・・・バルミィ)
♪キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
終業のチャイムが鳴ったので、日直の号令でホームルーム終了。北村先生と三波生は教室を去り、クラスメイト達は安堵した表情して、仲良し同士で喋ったり、教室から出て行く。紅葉はしばらく突っ立って考え事をしていたが、何かを思い付いたらしく、急いで教室から飛び出していった。
-2年A組-
紅葉が覗き込むと、ホームルームが終わる直前だった。2Aの文化祭実行委員が「各自、何の演劇をやりたいか、次のHRまでに考えて下さい」と締めの挨拶をして解散になる。黒板には‘ステージ部門’と‘演劇’に○が付けられており、2Aの優麗祭での催し物が決定したことを示していた。
「セートカイチョーさ~ん!」
入口で紅葉に呼ばれた麻由が振り返る。麻由は、紅葉が2Bの文化祭実行委員と知っている。優麗祭絡みの相談だろうか?紅葉の‘和を乱す行動’には一定の不満を持つ麻由だが、それとこれとは別の話。求めに応じて紅葉に近付く。
「セートカイチョーさんって偉いですよね?」
「はぁ?・・・まぁ、一定の権限はありますが、それが何か?」
「セイトカイチョーのお願いなら、校長先生ゎ聞いてくれますか?」
「・・・なっ!?」
生徒会には、学校に対して、生徒総会で可決されたことを提示したり、一定の要望を提案する権限がある。そういう意味では、紅葉の言う「校長には、生徒会長の意見は通りやすいか?」の回答は「通りやすい」になる。だが、それとは別で、個人的関係により、「水戸英治郎(校長の名前)は、麻由の意見を受け入れてくれるか?」という質問なら「大抵のことは受け入れてくれる」になってしまう。麻由と校長は、部外者には知られてはならない内密の関係を持っているのだ。
「き、急に何を?何の証拠があって?」
「んぇ?セートカイチョーって偉いから、校長先生ゎ聞いてくれますよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
麻由は、いつもの凜とした雰囲気を乱して露骨な動揺を見せるが、紅葉の質問が「その件ではない」と気付き、小さく咳払いをして落ち着いた態度に戻る。
「『ユ~レ~サイにバルミィが参加してもイイ』って許可を貰えませんか?」
「はぁ?何の話ですか?」
「バルミィです。羽里野山遠足でお友達になったバルミィ。
セートカイチョーさんも知ってるよねぇ?
一緒にユ~レ~サイやりたいから、校長先生にお願いしてくれませんか?」
麻由は、紅葉に対して一定の不満を持っていたが、同時に紅葉の人望と行動力は評価をしていた。だが、今の紅葉の要望を聞き、「この程度の子か」と落胆をして、大きな溜息をつく。
「・・・・あの、源川さん
申し訳ありませんが、部外者を学校行事に参加させるわけにはいきません」
「北村センセーにも同じ事を言われました」
「だったら、私に尋ねなくても解るのでは?」
「セートカイチョーさんなら、何とかしてくれないかな~って思って。
ユ~レ~サイに、ちょっと参加するくらいイイぢゃん」
「不可能です」
「なら、誰に頼めばイイかな?そーり大臣?」
「総理大臣に談判する手段などありませんし、
例え話が出来たとしても、総理大臣でも不可能です」
「えっ!?そ~なの!?一番偉いのに!?」
「少しは考えてから発言をして下さい。
彼女は宇宙人です。地球に密入国をした不法滞在者なんですよ。
一地方都市の文架市どころか、日本一国でも対応は不可能なんです。
黙認そのものが大問題になるんです!」
「!?」
一般常識に疎い紅葉でも、不法滞在が拙いことくらいはニュースで見て知っている。警察は、発見された宇宙船の関係者を探している。だから、バルミィが住民票を得る為に公に顔を出せば、警察に掴まってしまう。バルミィは、この地球では、息を潜めてひっそりと暮らす事しかできないのだ。
「ん・・・そうですね。」
紅葉は、俯いて悔しそうに小さな拳を震わせ、自分の教室へと戻っていった。
(フン、冗談じゃないわよ。
運営側の苦労も知らないで、勝手なことばかり言って・・・)
一方の麻由は、遠ざかっていく紅葉の背中を睨み付ける。優麗祭にトラブルを招き入れるつもりなら、見過ごすことは出来ない。危険分子の芽は、根こそぎ摘み取ってやる。
―放課後―
紅葉と亜美が教室を出て正門を通過したら、フェンスに凭れ掛かって、美穂が待っていた。6限目の2Bの騒ぎを、噂で聞いたのだ。美穂は、しかめっ面の紅葉を見て、「こりゃ、直球の質問はマズいかな?」と空気を読み、当たり障りの無い会話から始める。
「オマエ、確か、文化祭実行委員だよな?・・・何やるか決まったのか?」
「んっ!模擬店にした。ミホのクラスゎ、何ゃるの?」
「知らね・・・」
それきり話が途切れ、3人は無言で黙々と歩く。文化祭の話題から、ホームルーム中にバルミィが顔を出したって話題に繋がるかと思ったが、紅葉は切り出そうとしない。美穂は、様子見の会話では埒が開かないと判断して、今度は直球で確認してみる事にした。
「水くせーぞ、紅葉!」
「んぇっ?」
「バルミィが、オマエのところに顔を出したんだろ!?何で、黙ってんだよ!?
アイツの事を心配してたのは、オマエだけじゃね~んだぞ!」
「んぁっ!・・・ご、ごめん。・・・でもっ!」
「『でも』じゃね~よ!
真っ先に喋りそうなオマエが、その事を喋ろうとしない。
一体何があったんだ!?話してみろよ!」
「んえぇっ!?ァタシが黙ってるだけで、そこまで解っちゃうの!?」
亜美がフォロー入れながら、6限目の出来事を説明する。美穂は頷いて耳を傾けた。紅葉がバルミィを想う気持ちと、微笑みながら去ったバルミィの寂しさが、痛いくらい伝わる。
「なるほどな。確かに難しい問題だな」
「ミホも、バルミィが優麗高の生徒になるの反対なの?」
「いや、賛成!アイツが学校に通ったら、スゲー面白くなりそう。
だけど、生徒の何人かが賛成したらどうにか成る簡単な問題じゃない事も解る」
「ミホの浅知恵で、どうにかなんない?」
「オマエ、あたしをバカにしてんのか?」
「ク、クレハっ!浅知恵の意味解ってる?」
「テンノー様を説得すれば、何とかなるかな?」
「その前に、どうやって、天皇様に話を聞いてもらうつもりなの?」
「天皇でも無理だろ。
大国の大統領にでもならなきゃ、
宇宙人を学校に通わす許可なんてできね~よ!」
「なら、ミホがダイトーリョーになってよ」
「クレハー・・・それは、バルミィが学校に通えるようになるより難しいよ」
「心配してくれてありがとうばるっ!でも、ボクは大丈夫ばるよっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んっ?」×3
頭上から声が聴こえたので、3人が揃って見上げたら、バルミィが電柱の天辺に立っていた。