4-4・vsバルカン司令官~バルカン人の生態~帰還
-山の北側のUFO内-
バルカンアーマード③&④&⑤&⑥&⑦は弱かった。皆そろって、ウルティマバスターで伸されて、ゲンジの足元に倒れている。UFOの一部がブッ壊れ、外壁が破れて、黒煙が上がっている。
だけど、戦いは終わりではなかった。他のバルカン人♂よりチョット偉そうな雰囲気のバルカン司令官が、ゲンジの前に立っていた。
「地球人のくせに強いな。名はゲンジと言ったか?
バルカンの、地球人に関するデータでは、地球人はバルカン人より、
遥かに弱い生命のはずなのだが・・・データに誤りがあったらしい。」
「オマエゎ何だっ!?」
「私は、バルカ・ンノシ・レイ・カーン。
地球語で訳すなら、バルカン軍の司令官のカーンと言う意味だ。」
「オマエも、ミホやクマガヤさんを知らないのか!?」
「そんな物は知らぬが、先程、部下から、地球人を拉致したという報せが入った。
ソレの事ならば、もうしばらく此処で待てば、到着するだろう。」
「んんっ!ソレだっ!返してっ!」
「それは聞けぬ相談だ!」
「んぁっっ!?」
「てっきり蛮族と思っていた地球人に、私は興味を持った。
解剖して、我が兵に圧勝できる地球人の生態を調べてみようと思っている。
解剖する対象は、ノコノコと迷い込んできたオマエもだ!
・・・アーマードバルカン!」
バルカン司令官が、両腕をクロスさせて頭上で翳す!同様に両手のブレスレット&両足のアンクレット&頭のサークレットが輝きを放ち、胸当て、肩当て、腰当て、脛当て、ヘッドギア(顔は見える)、砲門の付いた腕当て等のプロテクターが実体化して装着される!ミドル・アーマード・カーン登場!
「カイボーなんてされてたまるかっ!表ぇ出ろ~~~~っ!!」
怒鳴りながらジャンプし、最寄りの外壁を体当たりで破壊して外へ飛び出した!バルカン司令官が後に続く!共に地面に立って身構え、戦闘開始!
へっぴり腰で巴薙刀を振り回しながら突っ込んで来たゲンジを、バルカン司令官は楽々と回避して、拳を頭に叩き込んだ!ゲンジはバランスを崩しつつ、苦し紛れに薙刀を振るうが、アッサリと束を掴まれて投げ飛ばされる!素早く体勢を立て直して突進するが、足元の地面に光弾を撃たれて踏み込みを妨害され、素早く接近されて蹴りを喰らって弾き飛ばされる!
「フン!パワーもスピードもスタミナもあるが、まるで活かしていない!
動きはド素人だな!」
バルカン司令官は、余裕の表情を見せて、倒れているゲンジに向かって「掛かってこい」と挑発をする。殺す気だったらトドメ刺されてたかもしれないが、司令官の目的は、解剖の為の生け捕りなので、ゲンジに傷を負わせないように心掛けながら、戦闘不能にするつもりだ。
「ふんぬぅ~っ!!ムカっぃたぁ~っ!!」
巴薙刀で突っ込んでも、バルカン司令官のスピードには対応できそうにない!スピードにはスピードで対抗って言いたいが、ヤツには、ゲンジの出鼻を挫くトリッキーさもある!そんなヤツと戦うには、どうすれば良い!?
「そうだっ!イイ事思い付いたっ!」
数日前の雲外鏡事件の後、鏡の中に入れるネメシスを羨ましく感じた紅葉は、自室のベットに寝転がりながら、ゲンジシステムの中に、「美穂を驚かせられる性能が無いか?」とYスマホを弄くり廻した。そして、封印した妖怪と合体をして、能力を使える事を知った。
「アイツをやっつけるにゎっ!」
ゲンジは、Yスマホに指を滑らせて『うさぎ』『合体』と書き込む!【兎】と書かれたメダルがYスマホの画面に浮かんで実体化!掴んで、ベルトの帆の部分に嵌め込んだ!兎型の妖怪が召喚され、ゲンジと重なって、基本の姿は変わらないんだけど、足が白色の毛皮で覆われ、頭にウサ耳が出現!【ゲンジ・うさぎフォーム】に変身!
「ぴょんぴょんぴょ~~ん!!」
「ぬぅぅっ!?」
途端に、バルカン司令官の周りをピョンピョンと跳び回るゲンジ・うさぎフォーム(以後、ウサゲンジ)!司令官は、ゲンジが接近するのを待って攻撃をしていたのに、ウサゲンジが飛び回ってばかりで近寄ってこないので、対処が出来ずに目で追うばかり!徐々に苛立って、手甲の砲門から光線を連射するが、ウサゲンジは地面を蹴って跳び跳ねるばかりでなく、木の幹や枝を蹴ってトリッキーに動き回るので、光線は全く当たらない!
バルカン司令官にとって‘後の先’のスタンスを崩したのはミスだった!「パワーもスピードもスタミナもある」という評価は正しい。だからこそ、司令官は、ゲンジの稚拙な攻撃を待ってから攻撃をしていたのに、自ら先手の攻撃をしてしまったのだ。攻撃の動作によって、ウサゲンジのトリッキーな動作に遅れ始めて、ついには死角に回り込まれた!
「んぉぉぉっっっ!!うさぎキィィ~~~~~ック!!」
ウサゲンジは、バルカン司令官の背後に回り込んで、力強く跳び跳ね、司令官の背中に渾身の跳び蹴りを叩き込んだ!弾き飛ばされて、UFOに激突するバルカン司令官!ウサギを解除してノーマルフォームに戻ったゲンジが、バルカン司令官に向かって突進!左手甲のYスマホに‘神鳥’と書き込んで掌を正面に向け、八卦先天図を発生させて通過!光輝く大鳥に変化して、バルカン司令官に突っ込んでいく!
「ウルティマバスタァァァァァァッ!!!!」
「ぐおぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!」
ウルティマバスター炸裂!直撃を喰らったバルカン司令官が、頭と胸と腰のプロテクターを砕かれながら吹っ飛ばされ、地面を転がる!着地してバルカン司令官を眺めるゲンジ!司令官は、大ダメージを受けたようで、倒れたままピクリとも動かない。
「ありゃ?死んじゃった・・・かな?」
ゲンジがバルカン司令官の生死を確認する為に近付こうとしたら、上空から怒鳴り声が聞こえてきた。
「こらあ~っ!!ドアホっ!!」
「やっぱり、ここに居たばるっ!!」
「んんん~~~~~?・・・・・・・・ぁぁっ!!ミホとバルミィだっ!!」
背中に美穂を乗せたバルミィが飛んで来て傍らに着地。ゲンジはバルカン司令官の確認を後回しにして、美穂&バルミィに駆け寄り、バルミィはゲンジの姿を物珍しそうに眺め回し、怒って呆れてる美穂がゲンジの後頭部をパ~ンと叩く。だけど、マスク越しに素手で叩かれた程度じゃ、さすがに何ともない。
「ぃぃなぃぃなっ!!ァタシも、バルミィに乗って飛びたぃな~!!」
「今は、そんな悠長な事を言ってる余裕はね~だろっ!」
「1人でUFOに乗り込むなんて無謀ばるよ!
「だいたい、キミは、バルカン人の生態を知らないばるよね?」
「ばるかん人のセータイ??」
「バルカン人は、簡単には死なないばるよっ!」
3人が会話してる間に、幾らかダメージ回復したバルカン司令官が、倒れたフリをしながら手甲の砲門をゲンジに向けていた。地球人如きからダメージを喰らって、エリートを気取っていたプライドがズタズタである。
「おのれ・・・解剖は、オマエ以外の地球人で実行する!死ねいっ!!」
ゲンジの頭に狙いを定め、出力最大で光線を放った!リラックスモードになっていたゲンジは、咄嗟に反応できない!
「危ないばるっ!!」
「・・・んぁっっ!?」 「バ、バルミィ!!」
間一髪!バルミィが割って入って盾となった!出力最大の光弾が、その腹を無慈悲に貫く!バルミィは呻いて腹を両手で押さえて崩れ落ちた!事の重大さに気がついて慌てて駆け寄るゲンジと美穂!バルミィの腹には、大きな穴が開いており、どう考えても即死レベルの傷だ!
「バルミィっ!?バルミィっ!?・・・・
ゥソ・・・・ァタシを庇った所為で・・・・」
「こんなのって無いだろ!」
「これから・・・・ぉ友達になるとこだったのに・・・・・」
「目を開けろ、バルミィ!宇宙人が、こんなんで、死ぬんじゃね~よっ!」
「バルミィっ!!バルミィっ!!バルミィ~~~~~~っ!!!!」
必死で名を呼びながら揺さぶるゲンジと美穂!次の瞬間、バルミィが立ち上がって軽やかに飛び跳ね、バルカン司令官のところに行って、容赦なく首を刎ねた!
「・・・ん?」 「・・・ほへぇ?」
目が点状態のゲンジと美穂が、バルカン司令官の生首を冷凍中のバルミィを眺める。バルミィがゲンジを庇って死んで、死んだバルミィが司令官を斬首した。
「スゲー痛いばるっ!」
今は、腹に致命傷を受けたのに元気いっぱいなバルミィが、文句を言いながら司令官の首から下をガンガンと踏みつけている。
「えぇぇぇっっっっっっっっっっ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!?」×2
驚嘆の大声を聞いたバルミィが、ゲンジと美穂の方を見て、氷り漬けの生首を抱えたまま、笑顔で寄ってきた。その腹には、シッカリと風穴が空いたまま。
「腹の傷、大丈夫なのか?」
「ん?凄く痛いばるよ!」
「てっきり、死んじゃったと思っちゃった!」
「あっ!そっか!地球人だと、こ~ゆ~傷を受けたら死んじゃうんだっけ!?
バルカン人の体は、地球人とは、ちょっと違うばる!」
「どうなってんだよ、アンタの身体?」
「バルカン人は、体がいくら破損しても、コアが破壊されなければ死なないばるっ!
傷付けば痛いけど、この(お腹の)傷くらいなら、半日もあれば直るばるっ!」
「スッゲー!バルカン人、スッゲー!!」
バルミィの説明を聞いていた美穂が、今までバルミィを野蛮って思ってた事に、違和感を感じた。
「コアって頭にあるのか?
もしかして、ソイツ(司令官)や、
さっき倒したヤツ(①&②)は死んでないのか?」
「ばるっ!よく解ったばるねっ!みんな生きてるばる!
そのうち再生して暴れちゃうから、
強制的にコールドスリープ状態にしてるばるっ!」
「マジかよ?見た目はソックリなのに、まるっきり違う生態なんだな。」
「金星も、バルカン星も、地球よりも過酷な環境ばるからね。
きっと、その星で生きる為に、生命が進化したばるよっ。」
「スッゲー!金星、スッゲー!!」
「さて、きっとみんな心配してるばる!皆のところに帰るばるよ!
ボクに乗ってばるっ!?」
「頼んでも良いか?」 「ゃったぁ~~~っ!!」
浮かんだバルミィの背中に紅葉と美穂が跨り、戦場を後にした3人は、皆が待つ頂上へと帰って行く。
―羽里野山・頂上―
先に戻った真奈が、美穂が変身した事を上手く隠したまま、「美穂達に助けてもらった」と皆に説明をしている。皆は、「あの桐藤が人助け?」等と戸惑いながらも、「桐藤って喧嘩が強いんだっけ?」等と考え、全体的には「案外、桐藤ならやるかも」なんて雰囲気になっている。
そこへ、バルミィに乗った紅葉と美穂が帰還。先日の学校火災で逃げ遅れた尾名新斗を助けた名コンビ(?)が、今度は熊谷真奈を助けた。亜美や真奈、そして、興味を持った生徒達が一斉に駆け寄って、本日のヒーローを祝福する。紅葉は喜々として経験談を語り、美穂は少し照れくさそう。しかし、紅葉が余計な事を言いそうになったので、美穂が制して、当たり障り無く説明を始める。
ただし、緊急事態だったとはいえ、集団行動を乱したあげく、危険に首を突っ込んだのは事実。紅葉と美穂は、先生に呼び出されて、コッテリと説教をされるのだった。
もちろん、皆を心配させた事は反省はしている。だけど、「宇宙人と友情を育む」って貴重な体験をした紅葉と美穂は、先生の小言など、大して堪えていない。説教が終わった後、紅葉と美穂は眼を合わせて「にひひ」と笑った。
通報を受けた文架警察署のパトカーが、サイレンを鳴らして山頂に上ってきた。続けて、トレーラーが停車して、中から、緑の装甲服を着た5人の隊員と、角が一本ある赤い装甲服の部隊長が降りてきて、サブマシンガンを装備して駐車場に整列。紅葉&美穂&真奈から事情を聞き、女性指揮官の指示で、山の北側に向かうべく、山道に踏み込んでいく。もう事件は終わっているのに、ご苦労な事だ。頑張って捜索すれば、山の北にある巨大宇宙船くらいは発見できるかな?
いつの間にか、バルミィの姿は何処にも無かった。サイレン音を聞いた時点で、面倒ごとを避けて姿を消したのだろう。
麓までの帰路は、スッカリ有名人になった紅葉や美穂の周りに、武勇伝を聞きたがる生徒達が集まって一緒に歩く。事件に巻き込まれただけの真奈の周りにも、感想を聞く為に生徒達が集まっていた。
真奈と同じグループの葛城麻由は、真奈が「桐藤さんが格好良かった」と説明するのを、不満そうな表情で聞き流している。
正しいのは自分のはずだ。皆の弁当を盗んだ不審者に対して、生徒代表の責務を全うして、勇気を持って問い質した。それなのに、皆は、集団行動を放棄した紅葉や美穂をヒーロー扱いしている。
自分は、バルミィの言い分を全く信用しなかった。信用できないのは当然だ。だけど、「彼女を信用した紅葉や美穂が正しかった」みたいな雰囲気になっている。何故、あんな協調性の無い連中が評価されている?麻由は不満で仕方が無い。
「・・・んぁ?」
武勇伝を説明中の紅葉が、ふと木々のざわめきを感じて振り返ったら、少し離れたところから、空に向かって、光が飛び立っていくのが見えた。きっと、今の光が、バルミィのUFOなのだろう。紅葉はUFOが消えた方向を眺め、「また会いたいな」と独り言を呟く。