4-2・麻由の詰問~拉致された真奈 ~追跡
あんなに不味い飲み物を盗まれたからって、こんなに怒るとは思わなかった。あのビールとか言う飲み物は、地球人にとって大変に貴重なモノだったのか?それとも、この子が例外なのか?
「ば・・・ば・・・・ばるぅ・・・・・」
「やってくれたなぁ・・・クソ面白くもねえ遠足での、数少ない楽しみを・・・」
「ばる・・・・・・い、命だけは・・・・・・」
バルミィに殴りかかろうとした美穂を、紅葉が押さえつける。
「ミホ、だめぇ~~~~~~っ!!!」
「はぁ~~~~~なぁ~~~~~せぇ~~~~~~~っ!!!!」
紅葉が背に飛びついておんぶして腕を掴む。「一発だけでも殴らせろ」と暴れ狂ってた美穂だったが、さすがに思うように動けない。紅葉に、「他の人達と違って、弁当が取られたわけじゃないのに、なんでそんなに怒っているのか?」と訪ねられると、美穂は上手い回答が見付けられない。まさか「ビールを取られたから」なんて言えるわけがないので、「自業自得」と反省して、徐々に大人しくなる。
紅葉&美穂の横を、今度は、眉間にシワを寄せた葛城麻由が通過して、謎の少女の前に立ち、如何にも「アナタのことを信用してませんよ」って雰囲気で、腕を組んで険しい表情で見おろした。
「私は、優麗高生徒会長の葛城麻由です。・・・あなたは?」
「・・・・ば、ばるっ!」
「どのような目的があって、我が校の遠足を妨害したのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「皆さんのお弁当を奪って、困る顔を見て・・・何が楽しいのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
謎の少女は、麻由の質問に対して、答えることが出来ない。正確に言えば、答えたくない。ムスッとした表情で、麻由から目を逸らす。生徒会長と名乗る娘は、自分のことを全く信じる気が無いと解る。おそらく、謎の少女が何を言っても、1つも信じてくれないだろう。それが解っているから、何も答えたくない。
「黙秘ですか?あなたがその気なら解りました。
文架警察署に連絡をして、あとは、警察の方にお任せしましょう。」
「・・・ばるっ?ケーサツ??」
生徒会長が言うのは正論である。例え、弁当とは言え、窃盗をしたんだから、警察に突き出されるのは当然だ。しかし、眺めている生徒達の間では、「そこまでしなくて良いのでは?」って空気が流れる。その気持ちは紅葉も同じだった。きっと、何か事情があるに違いない。既に「ごめんなさい」をしてるんだから、どうにか救いの手を差し伸べてやりたいと考えて、大人しくなった美穂から離れ、麻由の隣に進み出て、ちょこんとしゃがんで、座っている少女と同じ高さの視線になる。
「ァタシゎ源川紅葉っ!よろしくっ!」
「・・・・・・・・・・・」
「ユーレイ高の子ぢゃないよね?どこの学校の子?文架市?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「髪の毛が緑色だけど、外国人?」
「バ、バルカン人ばる。・・・み、みんなからは、バルミィと呼ばれてるばるっ!」
「へぇ~、バルミィって名前なんだ?バルミィゎ、ばるかんって国から来たの?」
「う、宇宙から来たばる。バルカンって言うのは、惑星バルカンのことばるっ!」
「うぉっっっ!!わくせーばるかんっ!?バルミィて宇宙人なのっ!?
スゲー!バルミィスッゲー!何しに地球へ来たのぉ?」
「か、観光ばるっ!」
「へぇ~・・・ァタシ達ゎ遠足だよ。一緒だねぇ。
さっき透明になって、ァタシ達の周りをチョロチョロしてたょね!?」
「やっぱり気がついてたばる・・・キミ只者じゃないばる」
‘宇宙人’と聞いて、生徒達がざわめく。宇宙人は存在すると考えていた者が2/3くらい。だけど、その場に居る皆が、「宇宙人はホントに居たんだ?」って目でバルミィを見ている。直ぐには信じがたいんだけど、頭に変な触覚があって、着色とは違う綺麗なエメラルドの髪で、少し変わった服を着ている理由が、彼女が‘宇宙人’なら、何となく理解出来た。
「ふざけないでください!その様な虚言を信じるわけがないでしょう!」
バルミィの発言に対して、麻由が高圧的に声を荒げた。自分が質問しても何も答えず、紅葉の質問に対して、ようやく、しおらしい態度で答え始めたと思ったら、今度は平然と電波を飛ばしている。
「私達が無学と思ってバカにしているのかしら!?
惑星バルカンは、19世紀には存在すると言われていましたが、
20世紀に存在が否定された惑星です!
アナタは、宇宙人でも何でもない!
おかしな格好をした、ただの大嘘つきです!!」
「嘘じゃないばるっ!バルカン人ってのは本当ばるっ!
ボクたちのご先祖様の時代に星が寿命を迎えちゃったから、
移住をして、今は金星に住んでいるばるっ!」
「バルカン星が存在しないとバレたら、次は金星ですか!?
嘘を嘘で塗り固めるって事ですね。
ですが、この際、アナタの出生について、私は興味がありません。
その虚言は、警察で話して下さい!
私は、アナタの事よりも‘これ’について教えていただきたいのです!」
麻由は、転がっていたビールの缶を拾い上げて、バルミィの目の前に差し出す。
「アナタが奪ったのは我が校の生徒達の所有物ですね。」
「・・・ばるっ!?」
「つまり、このアルコールも、生徒の誰かが持参した物になります。
遠足にアルコールを持ち込むなんて、由々しき事態です!
一体、どなたから奪ったのでしょうか!?
尤も、先程の、うちの生徒の対応を見れば、だいたいの察しは付きますが!」
麻由の問いに対して、後ろで聞いていた美穂が青ざめる。言うまでもなく、遠足にビールを持ってきたのがバレたら、処分をされることになる。・・・てか、半分バレてる。「あの人の荷物から盗った」と美穂を指さしたらアウトだ。バルミィがキョロキョロと生徒達の方を見ているのを、美穂は「こっちを見るな」と目を逸らした。
「その水分は、キミたちが来る前に、
キミたち(優麗高のジャージ)とは別の格好の雄から拝借したばるっ!」
バルミィは、咄嗟に美穂を庇って嘘をつく。誤魔化しようが無いと思っていた美穂と‘腫れ物’を校内から追い出せると考えていた麻由が、同時に驚いた。
「そんなバカなっ!このビールは、桐ふ・・・・・・
い、いえ、他の男性とは何処のどなたですか!?」
「解らないばるっ!もう何処かに行っちゃったばるっ!」
「・・・くっ!」
何処に行ったか解らない男性・・・というか、存在しない男性に「ビールを盗まれたか?」と確認するなんて不可能。麻由は、「また、バルミィが嘘をついた」と腹立たしく思ったが、これ以上の追及ができなくなる。一方では、美穂が、ビールを盗まれた怒りと、ビールの所有を誤魔化してくれた安堵で、複雑な心境になった。
その時・・・。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「ぇっ!?」 「何事?」
悲鳴が響き渡り、声の方を見たら2年A組の若干ふくよか体型な女生徒=芽田保太子が尻もちついて、怯え切って震えている。麻由が、慌てて歩み寄り、抱き起こして事情を訊ねた。
「真奈ちゃんが・・・・真奈ちゃんがっ!!」
「落ち着いて。熊谷さんが、どうしたの?」
「へ、変な男の人達が・・・・
そこに居る、宇宙人の女の子と同じような格好の奴が急に出てきて・・・
真奈ちゃんを連れてっちゃった!」
「何ですって!?」
麻由は頭の中が真っ白になる。他のグループなら良いってワケではないが、自分が謎の少女を追及している間に、よりによって、自分のグループのメンバーを拉致されてしまった。班長の麻由自身がグループ行動を逸脱した結果である。このままでは、責任問題になってしまう。
その他大勢の生徒達も動揺して、取り返した弁当を食うのも忘れて立ち尽くして中で、紅葉と美穂だけが「荒事の解決なら自分達の出番」とばかりに互いの眼を見て頷き合う。
「そいつ等、きっと、ボクと同じバルカン人ばるっ!
ボクを捕まえる為に、追い掛けてきたヤツらばるっ!」
心当たりがあると発言したバルミィに対して、麻由が苛立ちを募らせて詰め寄る!
「この期に及んで、またそんな嘘をっ!?
どうせ、熊谷さんを連れていった連中とグルなんでしょうに!」
「グルじゃないばるっ!ボクを信じて欲しいばるっ!」
「信じられるわけがありません!
皆のお弁当を盗んだり、熊谷さんを拉致したり、魂胆は一体何なの!?」
その場に居る大半の生徒が、麻由と同意見だ。バルミィの事を怪しいと思っている。だけど、麻由の気持ちや行動を理解するのと同時に、大半の生徒が「今は少女に詰め寄っている場合か?」「熊谷真奈を救出するのが優先じゃないのか?」「教師や警察に連絡するべきではないのか?」と感じてしまう。
「なぁ、オマエ!
グルじゃないって話だけど、アイツ等の事は知っているみたいだな!」
麻由の感情的な聴取では埒があかないと感じた美穂が、麻由を押し退けて前に出て、バルミィに訪ねる。
「ちょっと!今は私がっ!」
「アンタじゃ話にならないんだよ、優等生!
バルミィ・・・って言ったっけ?
オマエ、アイツ等が何処に行ったのか解るか!?」
「だいたいの見当は付くばるっ!奴等の宇宙船が着陸したのは見ていたばる!」
「どっちの方向だ!?」
「山の北側ばるっ!アイツ等には、ボクも恨みあるばるっ!
ボクを解放してっ!お詫びに、さらわれた子を助けるばるっ!」
凛々しい表情で立ち上がったが、酔いが完全に醒めてないらしくて軽くフラついてしまう。そんな様子を見たら、安心して任せられるか甚だ疑問だ。
「解放ねぇ・・・。それは無理かな。
悪いけど、アンタを信用してないのは、あたしも同じだ。
信用して解放した途端に逃げられたんじゃ、こっちは、ただのマヌケだからな!」
「キミの名前は美穂だっけ?・・・・・・・・だったら、一緒に来てばるっ!!」
「はぁ?あたしが一緒に?」
「目の前で、アイツ等をやっつけて、さらわれた子を助けるばるっ!
そうすれば、信用してくれるばるよね!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ふ~ん、そこまで言うか。」
美穂は、ジャージのポケットの中に、サマナーホルダ=変身用のカードケースと、携帯用の鏡がある事を確認する。まだ、バルミィを信用したわけではない。だけど、もし、裏切られても、対処を出来る自信がある。
「解った。本当だったら、信じてやるよ。」
話が纏まったので、紅葉と亜美が縄を解いてやる。自由の身になったバルミィは、ちょっと屈伸運動してから「それっ!」っと軽く気合い入れてジャンプ。俯せで手足を伸ばして、地上50cmばかりの高さでプカプカと浮かんで「ボクに乗って!」と美穂に呼びかける。
紅葉以外の生徒達はバルミィを「単にコスプレマニアの痛い子」だと思い込んでたので、いきなり特殊な能力を見せられて呆気に取られた。
「美穂、急いでばるっ!!」
「あ・・・・・・・ああ・・・うん」
驚いたのは美穂も同じ。成り行きで、言われるまま背中に跨る。
「飛ばすからシッカリ捕まってるばる!!」
「えっ?わぁぁっっ!!」
バルミィは、背に美穂を乗せたまま、数十mの高さまで上昇!加速して、男達が逃げて行ったと方角を目指して飛んで行く!
「ぃぃな~っ!ミホぃぃな~っ!!今度ぁたしも乗せてもらぉうっ!!」
紅葉だけが興奮気味に跳ねているが、他の生徒達はポカンと呆けて2人が飛び去った方の空を眺めるばかり。そして、バルミィの「宇宙人」って言い分を真っ向から否定していた麻由は、苦々しい表情で、空のバルミィ&美穂を睨み付けていた。
―山道―
2匹のバルカン人が、暴れて喚いてる真奈を担いで母艦へ向かう。彼等は、バルミィを探して頂上まで来て発見をしたのだが、原住民(地球人)達に囲まれていて、拉致をできなかった。隠れて様子を見て「まさか、原住民を味方に付けるつもりなのか?」と困惑をしていたところを、真奈に発見されてしまったのだ。その後は、パッと見で、容姿が整っていて、スリムで運びやすそうな雌を、人質扱いで緊急的に拉致して今に至る。
「やだあっ!!離して~~~~~っ!!」
「静かにしろ、地球の雌!」
「やだやだやだやだ~~~~~~~~っ!!助けてええ~~~~~~~っ!!」
必死で助けを求める真奈。だが、ここは山の中。真奈の声は、誰にも届かず、周囲に虚しく響き渡るだけだった。
―上空―
美穂は、バルミィと2人きりになった機会に、聞きたい事があった。だけど、まさかこんなに早く、2人きりに成るとは思ってなかった。バルミィの背に乗ったまま話しかける。
「なぁ?」
「どうしたばる?」
「どうしてさっき、ビールの持ち主があたしって言わなかったんだ?」
「ビールって・・・あのマズい水の事ばるか?」
「本当の事を言えば、生徒会長は、少しはアンタの言い分を信じただろうに。」
「・・・ばるっ!だって美穂、言って欲しくなかったばるよね?
言われたら困るって顔をしてたばる。」
「うん。暴露されなくて、かなり助かった。
ビールをパクられたのは許してないけど、嘘をついてくれた事は感謝してる。
でも、なんで?」
「紅葉って子。美穂の友達ばるよね?あの子だけは、ボクの事を信じてくれたばる。
だからボクも、紅葉の友達のキミを困らせたくなかったばるよ。」
「・・・そっか。」
「それに」
「・・・ん?」
「セートカイチョーだっけ?あの子には、ちょっとムカ付いてたばる。
あの子は、ボクが何を言っても信用しないって顔をしてたばる。
だから、あの子が欲しがってる‘答え’は教えてあげなかったばるよ。」
「あははっ!学校で1番の優等生にムカ付いてたってか!?
こりゃ、良い!アンタ面白いな!」
「アンタじゃなくて、バルミィばるっ!
故郷の皆からは、ボクは、そう呼ばれているばるよ。」
「あぁ、そっか。あたしも‘バルミィ’って呼んで良いか?」
「うん!その方がボクも気が楽ばる!」
「本名は、バルカ・ヴィナ・タン・ミーメ・・・。
バルカニアン(バルカン人)の・金星に住んでいる・お姫様の・ミーメって意味。
皆からは、バルミィって愛称で呼ばれてるばるよ。」
「え~~~っと・・・バルミィで、バルカン人のミーメ?
お姫様なんだ?すげーな!
熊谷を拉致した連中に狙われてるってのも、お姫様だからか?」
「まぁ・・・そんな感じばるね。」
「でも、何で、高貴なお姫様とやらが、皆の弁当を盗んだんだ?」
「ボクの星と違って、地球の食べ物は美味しいって話を聞いてたから、
つい、食べたくなって・・・」
「なるほどな。でも、それなら、ちゃんと事情を説明して分けてもらえよな。
さすがに盗むのは拙い。皆、怒って当然。
地球と敵対する為に来たワケじゃないんだろ?」
「ばるっ・・・・ごめんなさい。もうやらないばる。」
何となく、美穂とバルミィの気持ちが通じ合う。話してみて、互いに悪い奴じゃないってのが解った。特に、美穂は、「葛城麻由が気にくわなかった」ってのが、チョッピリ気に入った。ビールの件は残念だけど、持ってきた自分も悪いと反省して、バルミィを許す事にした。
一方、空から地上を捜索していたバルミィの眼に、一定の方向に向かって揺れる草木を発見する!
「あ、いたいた!あんなとこ走ってるばるっ!」
「え・・・・・・・何処?」
「スーツが保護色になっているから、きっと、地球人には見えにくいばるねっ!」
美穂が目を細めてバルカン人を探してる間に、バルミィが下降体勢になった。
「このまま奇襲しちゃうばるっ!!」
美穂も目視で確認。バルミィと同じような格好をした2人組が、熊谷真奈を担いで走ってるのが見えた。どうやら、羽里野山の北側を目指してるらしい。美穂が先の方を見廻したら、『千石釜池』と言う小さな池が見える。
「あそこに池あるだろ。奴等が、あの池の傍へ行ったら仕掛けてくれ!」
「何でばる?」
「説明すると長くなるから後・・・あの場所だったら、あたしも戦力になれる!」
「ふ~ん・・・・良く解んないけど解ったばる!」
納得したバルミィは、やや高度を落として後方から追跡。襲撃のタイミングを計る。美穂はポケットに手を突っ込んでサマナーホルダを握りしめた。場数を踏んでると言え、相手は宇宙人。どんな能力か?未知の敵に対して、ちゃんと戦えるか?さすがの美穂も、軽く不安になってしまう。




