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外伝③-6・酒呑消滅~次代の希望

 人は、この世に生まれて短い人生の中で、何かを成そうとする。有紀は、僅か二十数年の人生で何を成した?彼女の役割は、きっと、鬼の首領・酒呑童子を人間界に導く事だったのだろう。

 何処まで成し遂げられたのかは解らない。彼は人間界で学んだ事を活かしてくれるのだろうか?できる事ならば寄り添って見守りたかった。だけど、それはできそうに無い。だから、あとは、酒呑童子に託す。


 有紀の意識がゆっくりと深淵の彼方に落ちていった。



「約束だょっ、ミツナカ!源氏の子孫としてなら生まれてもィィんだよねっ?」

「武士に二言はない。約束は守る。オマエの妖怪の血は、源氏の血で抑えてやる」

「寂しい思いをさせたな、紅葉。さぁ、我が血族に来るが良い」

「ツネモトさま~~!ヮラヮゎ寂しかったぞょぉ~~~」


 鬼女紅葉と、紅葉を成敗した源満仲、そして満仲とよく似た老武将が、仲良く互いの顔を見合って微笑む。老武将の名は源経基。鬼女紅葉を側室に迎えて愛した人物だ。



 不思議で懐かしさの有る夢だった。有紀の目がゆっくりと開く。上空には星空が広がっており、酒呑童子が有紀の顔を覗き込んでいた。酒呑の背後には茨城童子と四天王の姿も有る。

 ただ一つの違和感。有紀が意識を取り戻した事に安堵をする酒呑の体が半透明に透けている。有紀が眠っている間に何があった?そもそも、何故、生きていられる?

 有紀は上半身を起こして酒呑の体に触れる。しかし、酒呑に実体は無く、有紀の手は、酒呑の体を通過してしまう。


「崇・・・さん・・・?」

「良かった、死なずに済んだんだね、有紀」

「一体何が?」

「何も無いさ。ただ、君の命は助かった・・・それだけだよ」


 有紀の眼を見て穏やかに微笑む酒呑。しかし、酒呑の後ろに控えていた茨城童子が、堪えきれずに口を開く。


「お館様は、有紀様の命を繋ぐ為に、大半の妖力を有紀様にっ!」

「茨城っ!余計な事は言わなくて良いよ」

「いいえ、言わせてください!

 もはや今のお館様では、人間界で実体を作るだけの妖力も残されていません!」

「・・・・・え?」

「言っちゃったかぁ~・・・まぁ、そう言うこと。

 今の有紀の体は、僕の妖力で、無理矢理、命を繋ぎ止めている状態なのさ。

 妖気は人間の体に根付く物ではないから、次第に抜けてしまうけど、

 それまでに傷が癒えれば、君は今まで通りの生活ができる様になる」

「その代わりに、お館様は冥界に戻り、

 妖力が回復するまで長き眠りにつく事になります!

 有紀様には手を貸していただいた借りもあり、

 このたびのお館様の行動には異論はありませぬ!

 ですが有紀様・・・貴女には、お館様に紡がれた命を、

 大切に使う義務がある事を、お忘れ無き様に!」

「ったく!お堅いんだよ、茨城童子はっ!

 ねぇ有紀、僕はチョット眠るだけ。死ぬわけじゃないんだ。

 君に人間界の色んな事を教えてもらって楽しかった。

 でも君は、僕と出会わなければ、致命傷を受けずに済んだんだ。

 だから、僕の妖力で君の命を繋いだのは、僕からのお礼とお詫びの気持ちさ」


 有紀は腹に空いたはずの風穴をさする。傷が完治したわけではないが、実体化をした妖気が傷を塞いで流血を止めている。酒呑のくれた妖気が暖かい。そして、それとは別に、有紀は腹の中に暖かみを感じた。


「僕が実体を失ったからかな?それとも、彼女の意志かな?

 僕が君に妖力を注ぐ過程で、

 僕の腹の中にいた紅葉も、君の中に移ったみたいだね」

「紅葉が・・・私の中に?」

「おそらく、将来、君に新たなる生命が宿れば、

 それは紅葉もみじの生まれ変わりになるだろう。

 君の中に新しい生命を宿す役割は僕がやりたかったんだけど・・・

 チョット、無理・・・かな。

 実体を得るだけの妖力を蓄えるのに、何年か何十年か・・・

 君を待たせるわけにはいかないからね。」


 酒呑の体は先ほど以上に薄くなっている。今にも消えて無くなりそうだ。これが、普通の女性なら、泣きながら酒呑の消滅を見送るのだろう。

 だが、有紀は、眼に涙を浮かべるどころか、凜とした表情をして立ち上がる。酒呑は「それでこそ有紀」と笑みを浮かべた。


「そうね。何十年も、貴方の復活は待つ事はできないでしょうね。

 でもね、崇さん・・・私も同じ気持ちよ。

 私は、貴方との間に新しい生命を育みたい。

 お腹に紅葉が居るなら、父親として命を与えるのは貴方以外には考えられない。

 ・・・だからっ!」


 有紀は、Yケータイを取り出して正面に翳し、妖幻ファイターハーゲンに変身をする!そして、腰に装備された妖刀を抜刀して、刀身を寝かせて酒呑に差し出した。


「この妖刀に宿って、崇さん!

 そうすれば、私が成敗した妖怪の妖力が、刀の中に居る貴方に蓄積される!」

「・・・有紀?」

「貴方に必要な妖気は私が集める!」

「はははっ!君って人は大した物だね。

 ・・・やはり、僕が、唯一、心に留めた女性だよ」

「お館様!

 差し出がましいようですが、お館様のその気持ちを『愛』と呼ぶそうです!」

「ホントに差し出がましいなぁ~、茨城童子は。

 でも、きっとそうなんだろう。

 今、僕が有紀に抱いている想いが、愛という物なんだろうね」


 消え入りそうな酒呑が、ハーゲンの差し出した妖刀に触れて念を込める。


「愛してるよ、有紀」

「愛しているわよ、崇さん」


 酒呑は妖刀に吸い込まれる様にして消滅した。同時に、ハーゲンは妖刀に酒呑の妖力が宿った事を感じ取る。

 それを見た茨城童子と四天王が、ハーゲンの前で膝をついて頭を垂れた。


「お館様が、その身を貴女に託された以上、

 お館様が復活するまでの間、我らが主君は貴女になります!

 どうか、我らを手足の如くお使いください!」

「へぇ、そうなんだ?

 なら、崇さんが早く復活できるように、協力してもらわなきゃね!」


 妖刀を鞘に戻し、空を見上げるハーゲン。

 妖幻ファイターハーゲンと鬼の従者、今までの退治屋の歴史では考えられなかった組合せが、此処に誕生をした。




-数日後-


 ホンダ・CBR900RRを駆る有紀が小学校のグラウンドに到着!Yケータイを翳して妖幻ファイターハーゲンに変身をして、暴れている妖怪2体に突進をする!

 どちらの妖怪も、ダメ人間を画に描いた様なクソガキのワガママを叶える為に、真面目な他者を平気で踏みにじるクズ妖怪だ!その存在を見逃すわけにはいかない!


「ぎゃぅぅぅぅっっっ!!」


 交戦の後、妖怪達は「敵わない」と悟って逃走を開始する!

 しかし、行く手を遮る様に茨城童子と鬼の四天王が出現!ハーゲンは妖刀・酒呑を抜いて、退路を断たれた妖怪達を次々と切り伏せた!妖刀・酒呑は、妖怪達の妖気を取り込んで脈打つ!

 あと何匹の妖怪を倒せば、酒呑が目を覚ますのか?それは何日後?何ヶ月後?何年後?見当も付かない。だけど、有紀の手が届かない冥界で眠るより、こうして傍にいて、有紀の手で妖気を与え続ける方が、何万倍も希望が持てる。


 変身を解除して有紀に戻り、腹を軽くさする。そして、酒呑から託された“紅葉”に「未来のパパが目覚めるまで、もう少し待ってね」と優しく語りかける。


「いくわよ!茨城君、熊君、金熊君、星熊君、虎熊君!」

「ははぁっ!有紀様!!」×4


 彼女は、人間界に馴染もうとしている妖怪まで倒すつもりはない。しかし、人間界に害を為す妖怪は容赦なく切り捨てる。

 連戦連勝の妖怪の退治屋・妖幻ファイターハーゲン!二十数年後の次代に越えられるまで、彼女は歴代最強の名を保持する事になる。



-現代・源川家のリビング-


「うふふっ、懐かしいわね」

「うん、懐かしいね。有紀には感謝してるよ。

 君のおかげで、僕は、僕が想定してたよりも、

 ずっと早く、眠りから覚める事ができた」

「だって・・・ノンビリしていたら、私、お婆さんになっちゃうもの」

「何を言っているんだい?君は、何十年先も、ずっと綺麗なままさ。

 そして、もちろん今も美しい」

「あはははっ、ヤダ、パパったらぁ」


 バカップルは、ソファーでアルコールを楽しみながら思い出話に花を咲かせる。

 有紀も、今の紅葉と同じように、自分の特殊な出生に悩んだ時期はあった。有紀には見えて感じられる物が、周りの人間には見えないし感じられない。誰も自分と同じ物を共有出来なかったので、心の拠り所となる親友は存在せず、若い頃の有紀は意図的に周囲から距離を置いていた。酒呑童子と出会うまでは。


 愛娘の紅葉は、有紀以上に重い物を背負っている。ゲンジに変身したばかりの頃は、心配で仕方が無かった。だけど今は大丈夫だろう。ここ数ヶ月で、彼女の周りに、気持ちを共有できる仲間達が集まったのだから。




-翌朝・優麗高校-


 自分の出生について悩んだ紅葉は、結局、2時間くらいしか眠れずに朝を迎えた。寝ぼけ眼のまま、一緒に通学した美穂&真奈と共に、麻由&ジャンヌ&バルミィが待つ【美穂さんと愉怪な仲間達】部が集まる多目的室に顔を出す。


  「んぁ~~~眠い」

「おはようございます」 「おはよばるっ!」 「ういっす」 「ぉはょぉ~」

  「んぁ~~~~~~眠い~~~」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


 美穂&麻由&バルミィ&ジャンヌ&真奈は、紅葉を眺めて小さく溜息をつく。麻由達は、紅葉がこの部屋に入ってきてから、美穂&真奈に至っては通学する時点で気付いていたが、今の紅葉は“かまってちゃん”だ。露骨に「眠れなかったアピール」をして、「何があったの?」と聞いて欲しいようだ。

 美穂は、紅葉のアピールをウザく感じたので、一緒に登校しておきながら、一切、何も聞かなかった。バルミィ&ジャンヌ&真奈は、紅葉の悩みなんて「夕食で楽しみにしていた料理を食べ損ねた」とか「見たいテレビを見逃した」程度だろうと、ウザアピールをスルーしようとする。・・・が。


「どうしたのですか、紅葉?何か悩みでも?」


 真面目な麻由が聞きやがった。

 しかし、紅葉は「何でもない」「気にしないでっ」と誤魔化す。そして、また「眠い~~」とか言いながら何度も溜息をつく。あ~~これは、「心配しないで」と気丈に振る舞いつつ、実は聞いて欲しいって超ウザアピールだ。本人が「何でも無い」って言ってるうちに、「あっそう」と受け流すべきだろう。・・・が。


「全然『何でもない』ようには見えません。何がどうしたの?

 話してみてください。」


 クソ真面目な麻由が、更に踏み込んで聞きやがった。

 紅葉は、今度は「ぅん、そこまで言うなら、ぢゃあ・・・」って雰囲気で話し始める。典型的な“かまってちゃん”のウザアピールに引っ掛かってしまった。


「・・・実ゎさ、ァタシ・・・自分が人間ぢゃない様な気がして・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


「ミホ達と違って、マユの光の攻撃にスッゲー弱いし・・・

 ご飯もいっぱい食べちゃうし・・・

 アミみたいに、おっぱいおっきくないし・・・」

「胸は『人間じゃない疑惑』とは関係ないばる」

「頭もあんまり良くないし・・・」

「それは自業自得ね。学力を上げたいのならば、私が指南しますよ」

「背もちっちゃいし・・・」

「牛乳を飲め!」

「ジュニアプロテインも効果あるよ」

「マナみたいな綺麗なお尻してないし・・・」

「臀部も『人間じゃない疑惑』とは関係ないな」


 「光の攻撃に弱い」と「大食」以外は「自分が人間ぢゃない様な気がして」には該当しない。胸や尻の貧弱さに悩んで眠れなかったのだろうか?そんな事で悩んだら、美穂は一生眠れなくなる。


「今更何を?」

「・・・んぁ?」

「紅葉は、自分が人間だと思っていたばる?どう見ても、人間じゃないばるよっ」

「ほぇぇ?」

「以前、く~ちゃんに尋ねましたよね?『私と同じ種族なのか?』と。

 く~ちゃんの根源からは、私と似た物を感じます。」

「えぇぇ?言われたっけ?」

「私、自分が人間ではなく神族と知った時には、少なからず動揺をしました。

 しかし、紅葉やミーメさん等、周りに人非ざる者がいてくれて、

 特に悩まずに生活をしているのを見て、

 美穂さん達が変わらずに接するのを見て、

 自暴自棄にならずに済んだのですが・・・」

「んぁぁぁぁっっ???」


  「あれ?麻由って自暴自棄にならずに済んだっけ?」

  「自暴自棄になってたばるよね?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


「・・・で、悩みって何?」

「胸が小さい事?」

「それもあるけど、それぢゃなくてっ」


 案の定、大した悩みではなかった。ってゆ~か、今まで気付かなかったって、どんだけ鈍感なんだ?


 美穂&麻由&バルミィ&ジャンヌ&真奈は、とっくに気付いていた。その上で、誰も、紅葉の事を特別視はせず、仲間として接している。

 それが、紅葉の悩みの先にある答え。紅葉が人間かどうかなんて関係ない。「紅葉なんだから大切な仲間」という明確な意思表示をしている。


「そろそろホームルームの時間ね。教室に行きましょうか」

「そうだね」

「えぇ!?ちょ、待って!ァタシの悩みゎっ!?」

「悩む必要無し!オマエはオマエのままで良い!」

「うへぇぇぇぇっっっっ!なんでなんでなんでっ!?」


 ジャンヌを背に乗せたバルミィが窓から空に飛び立ち、美穂&麻由&真奈は鞄を持って各教室に向かう。


「んぁぁっっ!チョット待ってよぉ~~!」


 紅葉が最後に多目的室から出て、仲間達の背中を追う。


 このストーリーでは酒呑童子は生き残ったけど、パラレルワールドの『妖幻ファイターザムシード』では消滅。源川紅葉の人間性は、父親が存在する『妖幻ファイターゲンジ』と、父を知らずに育つ『妖幻ファイターザムシード』で変化をします。


 ストーリー的には、第二部→第三部→第四部ファイナルと続きますが、こちらのサイトでは、現時点では第一部の投稿で終了予定です(理由は 、こちらのサイトでの現時点での主力を『モーソー転移』にしているため)。


 カクヨムでは『妖幻ファイターゲンジ』は1年近く先行しており、そろそろ最終回となります。

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