外伝③-1・紅葉の憂い~酒呑逃走~有紀との出会
このストーリーはの序盤は【妖幻ファイターザムシード】の「外伝Ⅲ・妖幻ファイターハーゲン」と、ほぼ同じですが、紅葉と父と母は同じ出会いを経て、違う交流をすることで徐々に変化をして、【妖幻ファイターザムシード】ではなく【妖幻ファイターゲンジ】のストーリーへと分岐します。
-広院町・紅葉のマンション-
紅葉に元気が無い。思い詰めた表情で、時折、箸を休めて溜息をつき、夕食を普段の1/3くらいの量しか食べずに、「ごちそうさま」と席を離れて自室に戻った。ベッドに仰向けになって、物思いにふける。
「ァタシって・・・人間なのかな?」
今まで「自分が人間かどうか」なんて疑問に思わなかった。だが、仲間達と一緒に戦ううちに、「自分は人間離れしている?」「もしかしたら、人間じゃない?」と、疑問を感じるようになっていた。
美穂→戦術面では天才的だが戦力面では弱い→人間
真奈→ジャンヌと融合しなければ非戦闘員→人間
亜美→非戦闘員→人間
バルミィ→メッチャ強いし空を飛べる→バルカン人
ジャンヌ→かなり強いけど契約を履行していないと消滅する→魔法生物
麻由→大食も含めて紅葉とほぼ同スペック→天界人
紅葉は、前者3人の部類ではなく、あきらかに後者3人の部類だ。もし、人間じゃなくても、皆、今までと同じように仲良くしてくれるのだろうか?心配で、ご飯が喉を通らず、いつもの1/3(常人の3人前)くらいしか食べる事ができなかった。
僅かに開いたドアの隙間から、崇と有紀がコッソリと紅葉の部屋を覗き込む。紅葉が悩んでいる理由は、だいたい察しが付く。・・・てゆ~か、「もう少し頭の良い子だったら、もっと早い段階で、気付くんじゃね?」と思ってしまう。
しかし、両親は何もアドバイスはしない。パパ的にはアドバイスしたいが、ママに「甘やかしちゃダメ」と釘を刺されている。先輩として、そして親として。心配で仕方ないけど、あえて手助けも助言もしない。教わるのではなく経験する事により、自分で掴み取るのだ。
それはそれとして、紅葉が悩む姿を見ていると、パパとママは、自分達が出会った頃、つまりは紅葉の出生の秘密を思い出す。
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-二十数年前-
真夜中の文架市の上空を高速で移動する物体が2つある。追われている方は、頭部に5本もの角を生やしている。世間一般で“鬼”と言われている生物だ。名を酒呑童子という。
「やれやれ・・・まさか、アイツが追ってくるなんて、参ったな」
追っ手をチラリと見る酒呑童子。追ってくる物体は、闇に紛れていて、その姿はハッキリとは見えない。
〈裏切るつもりか!?酒呑!!〉
「『裏切り』は、約束を反故にしたのはオマエだろうに!」
〈おとなしく“それ”をよこせ!廃棄をする必要がある!〉
「嫌だね!この前の族長会議で“これ”がどう育つにせよ、受け入れる!
・・・そう、決まったはずだ!」
〈それが目覚めれば、長きに渡り君臨をしてきた我らの地位は損なわれる!
それは邪魔だ!〉
「俺は、それで良いと思っている!他の種族と争うのは、もう飽きた!」
この世界には、人々が住む人間界、神が住む天界、人間界の裏側にある魔界、そして妖怪が闊歩する冥界(地獄界)が存在する。
鬼の頭領・酒呑童子は、空の見えない冥界を不満に感じ、空を求めて1000年以上もの長い間、幾度となく人間界へ侵攻を画策し、人間達の絆の強さに負けて撤退をした。若き頃は、首だけになって、冥界に逃げ帰った事もあった。
冥界に“異形”が発生した。輝く闇。形容しがたい物が、人間界に繋がる歪みの上に浮かんでいた。闇はくすむ物であって、輝く物ではない。矛盾する描写だが、その闇は輝いていた。何かの前触れなのか?冥界に住む誰もが、今まで、こんな現象を見た事が無い。
この不可思議をどうするべきか、妖怪の族長達が集まって“輝く闇”に対する方針を決める事になった。
「不吉の前触れに決まっている!即刻、処分をするべきだ!」
「いや、育成をするべきだ!
この現象が何を意味しているのか、確かめたいとは思わぬか!?」
「正気か、酒呑!?
そんな不気味な物を育てて、我らに害する物だったらどうするつもりだ!?」
「それならば、その時に処分をすれば良い!
もうしばらくは、様子を見るべきだ!」
族長会議で“輝く闇”を育成する事になった。しかし、反対派は会議の場で意見を引っ込めただけで、納得はしていなかった。即座に、武力による“輝く闇”の強奪と破壊を目論む。事態を察知した酒呑童子は“輝く闇”を持って人間界に逃げた。そして、追っ手に追われ、今に至る。
追っ手が、酒呑童子に向かって掌を翳し、炎を打ち出した!灼熱の地獄の炎が、宙を飛ぶ酒呑童子の真横を掠め飛ぶ!
「くっ!奴め・・・俺ごと“これ”を焼き払う気か!?
拙いな!これを持って、手が塞がったままでは戦えぬ!
仕方が無い!済まぬが、しばらく我慢してくれ!」
酒呑童子は、大口を空けて“輝く闇”を飲み込んだ。最も安全な場所に保護をして、両手を自由にして応戦をするつもりだった。
「うぐぅぅっっっ!!」
しかし“輝く闇”を腹の中に入れた途端に、酒呑童子は変調を来す。純粋な鬼が扱える代物ではなかった。満足に妖力を発する事が出来なくなり、真っ逆さまに墜落をしていく。
追っ手は、酒呑童子にトドメを刺すべく追撃をするが、地上を見て空中で停止をした。
「チィィ・・・人間の退治屋・・・妖幻ファイターとか言う奴か?
接触は避けたいな。
まぁ、いい。これで、少なくとも、自滅をした酒呑は退治屋に発見をされる。
愚かな奴め。腹に隠した異形ごと始末されるてしまえ」
追っ手は、闇のに紛れて姿を消す。
墜落中の酒呑童子は、途切れそうな意識で退治屋の接近を勘付いていた。酒呑童子の姿のまま意識を失ったら、間違いなく討伐をされてしまう。どうにか人間に化けてやり過ごさなくてはならない。
この当時、鎮守の森公園前の西側は田園と空き地のみ。大型ショッピングモールは、まだ存在していない。
公園前通りをホンダ・CBR900RRが疾走する。大柄なバイクの似合わない細身のライダーだ。不意にポケットの携帯電話がコールをしたので、バイクを路肩に停車させて、ヘルメットを脱いで、二十代前半くらいのショートカットの美しい女性が通話に応じる。
「どうしたの?粉木さん?」
〈有紀ちゃん、発生した2つ妖気のうち、片方は消えてもうたで!〉
「了解しました!妖怪同士の争いかしら?
もう片方と思われる物が墜落をしているのは、目視で確認できるわ。
亜弥賀神社に落ちそうね。引き続き捕捉をします」
〈ほな、頼んだで!くれぐれも、気ぃ付けるんやで!〉
有紀と呼ばれた女性は、通話を切り、同携帯(Yケータイ)の機能で妖気反応を探す。2つあった妖気のうちの片方は消えている。そしてもう片方の公園に落ちた妖気も消えかけている。
「もしかしたら、負けて消滅しちゃったのかもしれないわね?」
念のため、愛車で公園内に乗り入れ、低速で慎重に走る。亜弥賀神社前の大木に凭れ掛かった人影を発見。
「墜落した妖怪?それとも妖怪に襲われた人間?」
その者からは妖気は感じられない。ゆっくりと接近して、愛車のヘッドライトで人影を照らす。倒れていたのは、有紀と同い年くらいの男だった。あちこちに掠り傷があるが、致命的な怪我は無さそうだ。
「大丈夫ですか?どうしましたっ!」
男に駆け寄り、介抱をする有紀。しかし、男に触れた瞬間に、全身に電流の様な物が走る錯覚をして、触れた手を離す。男の持つ何かが有紀の五感を刺激した気がした。彼女はまだ、男の腹の中に保護された物が、生命を宿す願いを持っている事を知らない。
男は虚ろな瞳で有紀を見つめる。有紀も男を見つめる。
「・・・貴方は・・・一体?」
「・・・た・・・崇」
「崇・・・さん?」
男が好きな言葉は祟り(たたり)。人間が妖怪の力を恐れ敬う言葉だ。自分が鬼ではなく人間である事をアピールしたい男は、自分の好きな言葉を変形させた名を口にして、その後、意識を失った。
これが、源川紅葉の父と母の出会いになる。
-陽快町-
二十数年後の本編では住宅地として発展をしているが、この当時は、まだ、古屋と空き地が目立つ町並み。その一角に妖怪博物館(後のYOUKAIミュージアム)という看板を掲げた、各階100㎡程度の2階建の施設が建っていた。
その隣にある古びた木造一軒家に、有紀は気絶をした男を担ぎ込んだ。看板すら無いのだが、この一軒家は『粉木整形外科』を営んでいる。
「ごめんくださ~い!」
〈なんや、こんな遅い時間に?〉
「遅くにすみません!有紀です!」
〈ああ、有紀ちゃんか。鍵は開いとるから勝手に入りや~!〉
有紀は意識の無い男を担ぎながら上がり、慣れた仕草で奥の居間に入る。すると、隣の部屋から、家の主・粉木勘平が顔を出して、有紀が肩を貸している男の存在に気付く。
「崇さんって名前しか解りませんが、
妖気発生地点への到着が遅れてしまって、被害者が出ちゃったみたいなの。
妖力的な後遺症が無いか、診察してもらえませんか?」
「随分と弱っとるようやな。
とりあえず、診察してみるかいのう。診察室まで運んでもらえるか?」
居間の手前の右側の扉を開いて診察室に入った。事務机には数冊のファイルと医学書や薬学書がブックエンドで支えられて並んでいる。反対の壁際に寝台。奥の戸棚には、医療器具・漢方薬を調合する道具・薬草etc.が、それなり整理されて置いてある。
粉木は、男に手を当てて、しばらく確認したあと、「服を脱がせて、もう少し詳しく調べる」と言って、付き添いの有紀を診察室から追い出した。「帰宅して良い」と言われたが、有紀は「様態が解ったら帰る」と言って、しばらく居間でテレビを見て、待たせてもらう事にした。
診察開始から一時間弱が経過をした頃、診察室の扉が開いて粉木が顔を覗かせ、有紀に「こっちに来い」と手招きをする。しかし、有紀が診察室に入ると、崇の姿は何処にも無かった。
「あれ?あの人(崇)は?帰っちゃったの?」
「いや、まだ居るで。退院させるわけにはいかんらしい」
「・・・え?どういう事?」
「説明するさかい付いてきいや」
粉木が手に持っていたリモコンを操作したら、壁が横にスライドをして、地下に繋がるコンクリート造の階段が出現をした。古びた一軒家の一室に、なんでこんなハイテクが?有紀は目を丸くして驚く。
「そういや、有紀ちゃんに見せるのは初めてやったかいな?」
粉木が地下への階段を降りたので、有紀も後を追う。周りは全てコンクリート造り。階段が終わって少し歩き、いくつかの扉の前を通過して、ひときわ頑丈に作られた扉の前に到着をする。これまでの移動距離だけでも、古びた一軒家の敷地面積を超えている。一軒家と妖怪博物館は地下で繋がっているようだ。
頑丈な扉のセキュリティを解除して扉を開け、部屋の中を更に進む。
有紀によって保護をされた男は、地下の一室で休んでいた。室内にはベッドを除いて何も無く、男は拘束着を着せられ、監視用の窓ガラスを隔てて、有紀と粉木が男を眺める。
「粉木さん・・・なんで、こんな事を?」
「有紀ちゃんでも、気付かへんか?・・・まぁ、しゃ~ないかもしれんわな。
多分、この男が、墜落してったっちゅう妖怪やで」
「そんな、まさか?私、妖気は何も感じなかった」
「上級妖怪やで。
有紀ちゃんでも感知できへんほどに、上手く人間に化けとるんや」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「しかも、腹ん中に、変なモン飼うとる」
「え?もしかして赤ちゃん?」
「ちゃうわボケェ!妖怪の雄が妊娠なんかせんわ!」
「だったら何ですか?」
「退治屋や陰陽師が成仏させた妖怪が纏まったもんや」
「??????????」
検査の結果、男の腹の中に“浄化された妖怪が集まった光”が入っていると解った。
妖幻ファイターに倒された妖怪は、闇を浄化されて、邪気を失った状態で冥界に帰って行く。有紀や粉木、先代や先々代も、浄化された妖怪が、その後どうなるのかは知らない。たいていは、数十年~数百年を経て、また闇を孕んで、邪悪な妖怪として復活すると考えられていた。
「妖怪が、浄化された姿のままで、一カ所に固まるなんて事あるんですか?」
「いや・・・聞いた事がないで。
ハッキリしとるんは、この上級妖怪は、
そない“綺麗な妖怪”の塊を腹に入れてしまったもんで、
内側が浄化されて力が満足に使えんっちゅううこっちゃ。
腹ん中から妖力を発揮せなならんのに、その腹ん中が浄化されちょるなんて、
マヌケなこっちゃ」
「なら、安全って事なんですか?」
「今はな。せやけど、人に化けたら有紀ちゃんでも気付けへんほどの妖怪や。
いつ、腹ん中にあるモンを出すかも解らへんし、
突然変異をする可能性やかてある。
まだ解らん事ばかりなんや。
この妖怪は、しばらくは、ここで拘束させてもらうで」
意識を取り戻した男が、薄らと目を開け、虚ろな瞳で有紀を見つめる。改めて見ると、結構なイケメンだ。
あ り が と う
「・・・・・・・・え?」
男を拘束した部屋と、粉木や有紀がいる部屋とでは、分厚い壁と窓ガラスで仕切られていて、マイクとスピーカーの電源を入れなければ直接会話をする事は出来ない。だから、男の声は有紀には届かない。
だが、有紀には、男が有紀にお礼を言った様な気がした。
最初に男に触れた時の感触が手に残っている。全身に電流の様な物が走ったが、嫌な感じはしなかった。むしろ、電流の様な物は有紀を求めていた様に思える。




