表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/127

23-4・美穂到着~公園誘導作戦

 トレーラーがショッピングモールの地上駐車場に到着。美穂はトレーラーから降りて周囲を見回した。立体駐車場の上でHAバルミィが飛び回っているのが見える。

 後ろから付いてきたジャンヌは、状況を確認する為に、バイクをユニコーンに変形させて、空を駆け上がっていく。ジャンヌに偵察をしてもらって現状を教えて欲しいが、まだ美穂には、ジャンヌが敵か味方か解らない。美穂自身の目で現状を確認するしかないだろう。


「少しは休めたから、変身できるかな?」


 美穂はトレーラーの影でサマナーホルダを翳し、異獣サマナーネメシスに変身!思い切り地面を蹴って空中に飛び上がる!脇腹が痛むが、どうにか屋上が一望できるところまで飛び上がった!


「なんだ・・・あれはっ!!?」


 見た事の無い怪物が一体、間合いを空けて飛び回るバルミィ、塔屋の壁に凭れながら戦況を眺める弁才天ユカリ、あちこちに硬化をして転がっている一般人。紅葉と麻由の姿は確認できない。

 ジャンヌもユカリを確認したらしく、ユカリから死角になる場所に降りて、状況を見定めている。

 怪物は、時折、翼を広げて飛び上がり、バルミィに襲いかかる。バルミィは光弾で牽制をしながら、間合いを空ける。怪物は、しばらくは、バルミィを追い掛け廻していたが、バルミィが大きく離れると無理には追わず、立体駐車場に戻って翼を休めた。何も知らずに屋上に車を止めた一般人が塔屋から出て来て、気付いたバルミィに申し訳なさそうにフリーズ光線を浴びせられて、硬化して転がる。


「ばるばるっ!みんな、ゴメンばるっ!

 でも、アイツ(ドラキュラ)に噛まれちゃ困るから、

 しばらく固まってもらうばるよっ!」


 バルミィは体力が消耗して息が上がり始めている。

 跳躍が頂点に達したネメシスは、マントを翼のように広げ、ゆっくりと降下をして地面に着地をする。脇腹が痛い。


「くそっ!ジャンプをしただけで、この有様かよ?

 悔しいけど戦力にはなれないか」


 大雑把に状況の把握はできた。戦っているのはバルミィと怪物。ただし、バルミィは何らかの理由があって、積極攻撃ではなく現状維持を心掛けている。怪物も何らかの理由があって、建物から離れようとはしない。禍々しすぎて見違えたが、格好からして、おそらくヴラドだろう。ユカリは疲れ果てているように見えたが、ユカリが居て麻由の姿は見えないって事は、麻由は敗北したのか?紅葉の姿も無かった。紅葉も倒されたのか?総じて、かなり劣勢ってことだ。


「バルミィが消極的な理由と、怪物が建物から離れない理由が解らないと、

 作戦が立てられない。

 何よりも拙いのは、手札が全く無い。・・・どうする!?」


 紅葉と麻由は無事なのか?変身を解除して美穂に戻り、「頼むから通話になれ!」の願いながらスマホと握りしめ、先ずは紅葉に電話を掛けてみる。


〈んぁっ!?ミホ!?〉

「ん?無事だったの?心配して損したっ!今、何処!?」

〈ゴメンっ!ガス欠になっちゃって体力補充してたっ!

 今、リバサイに向かってるっ!

 ミホも早くリバサイに行ってねっ!バルミィだけぢゃヤバいかもっ!〉

「あたしは、もう来てる!麻由も一緒にいるのか?」

〈ァタシだけっ!マユゎ知らないよっ!〉

「・・・解った。サッサとこっちに来い!」

〈んっ!!〉


 紅葉の元気な声を聞けた美穂は、安堵の表情を浮かべる。麻由も同様に元気な事を期待しつつ、麻由に電話を掛けてみる。しかし、いくらコールしても通話にはならない。


「・・・チィィ!こっちはダメか!」


 安否不明な麻由を探したいが、今は屋上の怪物の処理を優先させなければならない。「バルミィが消極的な理由」と「怪物が建物から離れない理由」を把握する為にも、もう一度、屋上に行って、情報を収集する必要がありそうだ。

 美穂は傷を労りながら建物内に入り、手摺りを伝って、できるだけ早足で階段を上がり始めた。その間も、麻由の安否を確認する為に、麻由のスマホに着信を入れてみる。


 ♪~♪~

「・・・・・・・ん?」


 階段室の上の方から、聞き覚えのあるメロディーが流れてきた。美穂は「そんな出来すぎた偶然は無いだろ?」と思いながら階段を駆け上がって「出来すぎた偶然」に遭遇する。2階と3階の間の踊り場に麻由が転がっていた。

 近付いて確認したら意識は無いが呼吸はある。美穂は安堵をして、麻由の頬を軽く叩いて起こそうとする。しかし、深く失神しているらしく、目覚めそうにない。美穂は、いつまでも、麻由1人には構ってられないので、スマホで真奈に連絡を入れる。


〈どうしたんですか、美穂さん?〉

「女刑事さんに代わってもらえるか?」


 美穂は、通話を夏沢雛子に代わってもらい、現在地を説明して、麻由の保護&救出を依頼して、屋上へと駆け上がった。

 屋上の立体駐車場に顔を出したら、隠れて様子を見ていたジャンヌと目が合った。ジャンヌは駆け足で寄って来て、美穂の腕を引いて麻由が寝ている2階と3階の踊り場に降りてきた。


「ここは、怪我人がウロチョロして良い場所ではない。直ぐに退避をして下さい」

「・・・え?」

「あの怪物に近付くと、体力を奪われてしまいます!

 貴殿のように、満足に動く体力も無い者では、

 即座に“搾りカス”にされてしまうぞ!」

「どういう事だ?もう少し、解り易く説明してくれ?」


 美穂はジャンヌの説明を聞いてゾッとした。怪物は、建物内にいる全員から広く浅く生命力を吸収している。怪物に攻撃をすると、ダメージを回復させる為に、急激な生命力の吸収を行う。捕獲して、首筋に牙を立てて、直接、生命力を吸い取る事もある。


「まるっきり、ドラキュラだな」


 ジャンヌも、近付くと魔力を奪われてしまうので距離を空けて様子を見ていたのだ。


「だから、怪物は餌場になっているここから離れようとせず、

 バルミィは、ダメージを与える攻撃を躊躇っているんだな」

「怪物の体力は無尽蔵だ。このままでは、そのうち死人が出てしまう」


 ジャンヌは、再び様子を見る為に屋上に駆け上がっていく。

 ようやく美穂にも、手詰まりになりつつある現状が理解できた。この場に紅葉が合流しても何も解消はされない。


「どうすれば、手詰まりを打破できる?

 真っ先にやらなきゃならないのは、

 怪物をここから引き離すか、客の退避・・・だな」


 警察官3人が、麻由を保護するために階段を上がってきた。美穂は大雑把に事情を説明して、1人には麻由の移送を任せる。


「了解した。君達も早く退避したまえ」


 麻由を背負った警察官が、階段を駆け降りていく。


「アンタ達には、店内の客の避難を頼めますか?」


 残った警察官2人は、指揮官の雛子に無線報告をした後、ショッピングフロアに駆け込んでいく。だが、警察官の大声が聞こえるだけで、避難をする動きは見られない。美穂が覗き込んだら、警察官達は、1階と2階に別れて「ここは危険だ!」「避難しろ!」と大声で指示をしている。屋外に避難を開始する人が数人はいるが、大半は状況を把握できずに「何事?」と言いたげな表情で眺めているだけだ。


「まぁ・・・生命力を吸われてる自覚が無い人が大半だから、

 いきなり避難しろって言われても、危機感が湧くわけ無いか。

 仕方ないか!・・・いけ、キグナスター!!」


 美穂の指示で、窓ガラスから白鳥型モンスター=キグナスターが出現!突風を巻き起こしながら、猛スピードで2階フロアの天井を飛び回る!陳列された品物が飛ばされ、服を掛けてあるハンガーラックが倒れる!白鳥の怪物を見た客達は青ざめ、我先にと避難を開始した!


「慌てず騒がず、一列になって避難してください!

 お子さんとご老人を優先させてあげてください!」


 2階全域に焦燥が伝わった!店員達も避難誘導に参加をしている!キグナスターは適当な窓ガラスに飛び込んで姿を消し、今度は1階に出現をして客達の恐怖心を煽る!

 何人かがスマホを翳して動画撮影をしているが、美穂は、そんな連中の面倒まで見る気は無い。逃げ遅れてエナジードレインの餌食になって卒倒しても自業自得と解釈する。


「これで、建物内は、ほぼ空にできる。・・・さて、次は!」


 美穂はスマホをタップして、紅葉に電話を掛けた。


〈んぁっ!?ミホ!?ぁとチョットで、そっちに行くから、も少し待ってて!〉

「オマエは、こっちに来なくて良い!

 代わりに鎮守の森公園の真ん中あたりに行け!」

〈んぁ?なんで?〉

「説明はあと!あたしの言う通りにして、しばらく待機してろ!」

〈わかったっ!亜弥賀神社の辺りでイイ?〉

「うん、その辺でいい!出来るだけ急いでくれ!」


 通話を切り、その場で片膝を付く美穂。急激な体力の消耗を感じる。脇腹の痛みはあるが、それだけではない。軽い目眩と倦怠感がある。これがジャンヌの言っていた「強制的に生命力を吸収される」って現象だろう。建物内の客が避難を開始した事で、一人あたりからの搾取量が増えたのだ。


「他人の心配ばっかして、あたしがダウンしたら話にならん」


 屋上に行って状況の再確認をしたいが、体力が保ちそうにない。美穂は大挙して避難する一般客達に紛れて屋外への避難を開始した。避難をしながら真奈に電話を掛ける。


〈美穂さん?何処に行っちゃったんですか?〉

「説明はあと!女刑事さん、まだ近くにいるか?換わってくれ!」

〈あっ!はいっ!〉


〈もしもし!夏沢よ!

 さっき部下から『店内の避難誘導をする』と報告があったわ!

 何がどうなっているの?〉

「あたしが頼んだ!今、そっち(地上駐車場)はどうなってる?」

〈沢山の人が、外に出て来ているわ!〉

「建物の中に居たら危険なんだ!でも、これじゃ、外に出た人達が狙われる!

 だから、怪物を目の前の鎮守の森公園に誘き寄せるっ!

 警察の権力で、至急、公園を封鎖できますか?

 ついでに、公園に居る奴を、全員、追い出して欲しい!

 ただし、ツインテールのちっちゃい馬鹿面だけは例外。

 そいつは関係者だから、追い出さなくて良い!」

〈どういう事?解るように説明して!〉

「あとで説明する!」


 美穂は、通話を切ると、続けざまに紅葉のスマホに電話を掛ける。


「今、どこ!?」

〈公園の前に来たょ!〉

「そこから、リバサイの屋上は見えるよな?」

〈屋上?ん!見える見える!〉

「ヴラド(ドラキュラ)の動きは常に確認してくれ!」

〈ん!りょーかいっ!〉

「良いか、紅葉?ここからが重要だ!

 もし、公園の真ん中に向かう途中でも、怪物ドラキュラが動き出したら、

 その場で一瞬で良いから、闘気(妖力)を全開放しろ!」

〈んぁっ!?〉

「オマエが、そっちに怪物を誘き寄せるんだ!

 タイミングをミスったら、こっちで避難している客が襲われる!

 怪物の動きだけは絶対に見失うな!」

〈んっ!がんばるっ!〉

「あたしも、直ぐにそっちに行くから、

 それまでは無理に戦わないで、距離を空けて体力を温存してくれ!」

〈えっ!?戦っちゃダメなの!?〉

「この前(リベンジャー初戦)みたく勝手な事したら、また負けるぞ!」

〈んぁ!・・・うぃっす!〉


 美穂は避難者の列に並びながら、再び思案をする。突発的な作戦だが、これが上手く廻れば、これ以上の一般人への被害は阻止できるだろう。

 ただし、美穂が閃いた作戦は、まだここまで。怪物を倒す算段は何もできていない。今のままでは、紅葉が怪物に生命力を吸われるだけ。どう戦えば、とんでもない怪物を倒す事ができるか?追い払うだけではダメ。仕留めなければ、また大勢の被害者が出る。

 美穂は戦いには参加できそうにない。足手まといになって仲間に助けられるのが関の山だ。だけど、観戦だけで終わらせるつもりもない。戦えないなら代わりに知恵を使う。



-店外-


 美穂から“魂胆の解らない依頼”を受けてしまった夏沢雛子は、失神中の麻由と、真奈(緑ザックをマスク以外は装着済み)を乗せたまま、避難者の人集りで動けなくなる前に、トレーラーで公道に脱出していた。

 ユニコーンを駆って戻ってきたジャンヌが、カーゴの上に乗ってトレーラーを守るように構える。

 雛子は公園入口にある「車輌乗り入れ禁止」の看板を無視して、トレーラーで公園内に乗り込んだ。部下1人を降ろして規制線テープを張らせ、「入口で待機と一般人の立入禁止」を指示して、トレーラーを走らせ、幾つかある入口の脇を通過する度に同じ行動を繰り返した。


 ベンチに座るカップルや、照明灯下で遊んでいた若者や、犬の散歩中の男性や、ジョギング中の少年が、車が走るはずの無い場所を縦断するトレーラーに驚く。


〈ただいま、凶悪犯罪グループが、公園内に潜伏しています。

 危険ですから、無関係の人は、速やかに公園から退避をしてください。

 なお、5分以内に退避をしない場合は、

 犯罪グループの関与があると判断して、職務質問をいたします〉


 トレーラーのスピーカーから避難勧告のアナウンスが流れる。トレーラーの運転席で、マイクを持った雛子が退避勧告のアナウンスを繰り返す。公園から一般人を追い出せれば何でも良い、少々無理のあるアナウンスだが、効果てきめんだった。ある者は犯罪者を恐れ、ある者は職質を煩わしく感じ、足早に公園内から退避をしていく。


「見当違いな行動だったら、良くて始末書、最悪はクビかしらね!

 ・・・ん?あれは?」


 トレーラーの先を突っ走る人影がある。小柄でツインテール。馬鹿面かどうかは解らないが、おそらく、美穂が言っていた関係者だろう。トレーラーを駐めて事情を聞きたいが、今は一般人の避難が優先だ。雛子は、スピーカーを通じて一言だけ「頑張って!」と激励をして、ツインテールの少女を追い抜いた。


「んぁっ?」


 激励を受けた紅葉は、並走するトレーラーに視線を向ける。トレーラーの上にはジャンヌが乗っていた。2人は目を合わせるが特に言葉は無いまま、トレーラーは紅葉を追い越していく。


 公園の中央は、まだ先だ。美穂から「ヴラドの動きは常に確認しろ」と言われてるので、背後に聳え立つショッピングモールをチラ見する。夜間なので、屋上にいる怪物の姿が明瞭には見えなくなってきた。「何かが動いている」程度の認識しかできない。

 これ以上先行したら、目視では「ヴラドの動きは常に確認」ができなくなりそうだ。なら、ここで待機をして、怪物を誘き寄せる?いや、ダメだ。ここでは公道から丸見え。あまり頭の良くない紅葉でも「公園の中央へ向かえ」が「人目が無い場所に誘い込め」って意味と解っている。

 だから、紅葉は、怪物の気配を読む事にした。やや勘任せになるが、怪物の気配に意識を集中させ、「気配が変化をしたら誘き寄せる」と決めて、再び公園中央に向かって駆ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ