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3-2・一緒に弁当~亜美の帰り道

-昼休み・2年C組-


「ちぃ~~~~っす!ミホ、一緒におベント食べょっ!!」


 教室の入り口から、元気の良い金切り声が鳴り響いた。購買部で買ってきたパンの袋を開けようとしていた美穂は、「何事か?」と声の主を見る。正確には声に聞き覚えがありすぎて見たくないんだけど、見ないわけにはいかない。案の定、入口に、ウザ懐っこいチビッコが立っていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 美穂は「一緒にお弁当食べよ~!」「うん、いいよ~!」「あはは、うふふ」なんて展開は真っ平ゴメンだ。追い返しても、きっと・・・イヤ、絶対に帰らないだろう。今朝のような茶番は勘弁して欲しいので一計を案じる。


「おう!入ってきなよ!

 あたし、ちょっとトイレに行ってくるから、ここで先に食べて待ってて!」


 紅葉達を招き入れつつ、自分はパンと牛乳を持って席を立ち、トイレに行くフリをして教室から出て行く。ちんちくりんはノータリンだから、この策を見破れないだろう。体よくウザ娘は足止めして、校庭の木陰か運動部の部室の裏にでも行って、改めて昼食にしよう。美穂は、安住の地(?)を探して足早に歩き出す。


「トィレに行ってパン食べるのぉ?」

「バ~カ、そんなワケないだろ!」

「なら、どこで食べるのぉ?」

「それをこれから探し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


 ウザ懐っこい声で質問が飛んできたので、思わず答えてしまった。イヤな予感がして背後を振り返る。真後ろに、ちんちくりんがいた。


「ミホ、パン持ってトィレに行くのぉ?トィレでパン食べるのぉ?

 ミホって、そ~ゆ~のヘーキな人?フツーの場所で食べた方がオイシイょ!」


 パンと牛乳を持って席を立ったせいで、策はバレていないんだけど、不審に思われて付いてこられた。そりゃ、そうだろう。「トイレに行くから先に食べてろ」と言って、食料を持ったまま移動したら、あきらかに不自然だ。だが、パンを持たずに移動をしたらパンが食えない。なんで、こんな穴だらけの策を立てたんだろ?小っ恥ずかしくなってきた。


「そうだよ!時間がもったいないからトイレで食べるんだっ!!

 それの何が悪いっ!?」

「フツーに食べょっ!トィレの前で、トイレ終わるの待っててあげるからっ!」

「イヤだ!絶対にトイレで食べる!!」


 売り言葉に買い言葉でアホすぎる事を言ってしまう。周りに居た生徒達が、クスクスと笑う。素行の悪い美穂でも、トイレで本を読んだり、スマホを弄る事はあっても、さすがに、トイレで飯を食べた経験は無い。そんな場所で飯なんて食べたくない。自分はこんなキャラではない。ペースが乱れる。周りに壁を作ったクールなキャラのハズだ。


「あ~~~~~っもうっ!!面倒臭いっ!」


 赤面をして、紅葉達から逃げるように足早に歩き出す美穂。紅葉は弁当箱を抱えたまま、美穂の後ろから追っかけてくる。早歩きは、徐々に駆け足になり、やがてはダッシュになるが、ちっこくて身軽な紅葉は全く引き離せない。


「どこで食べるのぉ?あのベンチゎどう?」


 こんな状況でも、紅葉は状況を全く理解せずに、トンチンカンな事を言ってくる。美穂は、「あたし、なにやってんだろ?」と、だんだんと馬鹿馬鹿しくなってきた。


「一緒に食べれば良いんだろ!一緒にっ!!

 どこでも、好きな場所に連れて行きやがれっ!!」


 観念した美穂が息を切らせながら立ち止まる。はたして、こんなに息が上がっていて、飯なんて食えるのだろうか?昼休みに駆けっこをするなんて、小学生ぶりくらいだろうか?・・・まぁ、駆けっこがしたかったわけではないんだけど。


き~んこ~んか~んこ~ん・・・

「・・・・あ、チャイム」

「ぁりゃ!残念!お昼休み、終わっちゃったぁ!

 おベント、食べられなかったねぇ。」

(なんで、昼休みに飯を食べる為に、

 死に物狂いでダッシュなんてしなければならんのだ?

 もう、この学校内に、あたしの安住の地(?)なんて無いのだろうか?)

「んじゃ、またあとでねぇ!」

「二度と来るな!」


 2人は、昼食を食べる事が出来ないまま、午後の授業のために、教室に戻るのだった。ちなみに、2人とも、5限目の授業中に教科書に隠しながら遅弁をした。




-夕方・ファミレスDOCOS-


 美穂は、馴染みの店に来て、いつものお気に入りの席に座り、メニューも見ずに、インターホンで店員を呼ぶ。毎週、この時間帯にバイトをしている亜美が、美穂の顔を見て注文を受けに来た。一通りの注文を終えたあと、美穂が亜美に話しかける。


「・・・ねぇ?」

「は、はい」

「アンタと、あのチビ・・・昔から仲が良いのか?」

「・・・は、はい」

「アイツ、昔からあんな奴なの?」

「まぁ・・・‘あんな子’ですね。」

「ふぅ~~ん・・・あっそう。アンタも大変だな。」


 特に話が広がる事も無く、2人の会話は終了。亜美は、他の接客の為に、美穂から離れていった。

 20分くらい経過した頃、離れたテーブルで騒ぐ若者達の声が聞こえてきた。高校生?いや、大学生くらいだろうか?亜美に、「何処に住んでんの?」「連絡先教えて!」と馴れ馴れしく絡んでいるが、亜美は困惑しながらも、接客マニュアル通りに受け流している。顔見知りの常連客だろうか?


「まぁ・・・いくら、温和しいアイツ(亜美)でも、

 あんなバカ共程度なら、あしらえるか?」


 やがて、亜美は愛想笑いを浮かべながら若者達から離れ、その後は、別の男性店員が若者達のテーブル付近の担当になった。

 しばらくすると、店内から亜美の姿が見えなくなる。時刻はPM8時。先ほどのバカ共は、バイトの娘に避けられた事など、恥じる様子もなく、まだ店内にいる。


「そっか・・・バイトを上がる時間だっけ?」


 美穂が、窓から駐車場を眺めていたら、裏口から優麗校のブレザーに着替えた亜美が出てきた。先日は、同じ場所で、亜美がタヌキの怪物に襲われて、チビが助けに来て・・・そこから、美穂の中で、何かが変わり始めた気がする。

 もちろん、本日は、タヌキが出現する事も無く、亜美は駐輪場に止めてある自転車に跨がって帰って行った。


「・・・ん?」


 ふと店内を眺めると、先ほど亜美に絡んでいた若者達が、挙動不審な表情で、美穂と同じ方向に視線を向けていた。

 直後に、立ち上がり、会計を済ませて、へらへらと笑いながら店を出ていった。若者達を乗せた車は、ウィンカーを出して、亜美が帰宅したのと同じ方向に車を走らせる。


「考えすぎ・・・だよね?」


 美穂は‘嫌な予感’を感じて、席を立ってレジに向かった。取り越し苦労ならそれで良い。駐輪場に行って、愛用のスクーター(ホンダ・タクト)に跨がって、亜美の自転車が向かった方に走らせる。




-鎮守の森公園内-


 幹線道と新興住宅地を繋ぐ位置に存在する大きな公園の中心には、開発から取り残された古びた神社=亜弥賀あやか神社が在る。昼間は、その場所に在る事に「誰からも気付かれない」かのようにひっそりと建っているのだが、夜になり、町を静寂が包むと、その神聖さと不気味さを発揮しているかのような錯覚を感じる不思議な神社だ。その所為なのか、昼間は多くの人々の憩いの場として賑わう公園は、夜になると近道に使う以外の人は殆どいない。その日の夜も、いつもの様に、その場の雰囲気はピィンと張り詰めていた。


 亜美は、帰路を近道する為に、毎日、公園の遊歩道を通っている。防犯上の観点から、公園内には、いくつもの照明灯が建ち、遊歩道を明るく照らしているのだが、それでもやはり、ひとけの無い夜に通過するのは、あまり気持ちの良い物ではない。

 7割程度進んだところで、亜美は顔をしかめて自転車を止めた。照明灯に照らされたベンチに座って缶ビールを飲みながら騒ぐ数人の若い男が眼に入ったのだ。バイト先で亜美に絡んできた客達だ。


(偶然?まさか先回りをして待っていた?)


 ひとけの無い時間帯には係わりたくない連中だ。遠回りになるが仕方がない。来た道を戻って、公園を迂回しようと考えた亜美は、自転車の向きを変えて漕ぎ始める。 しかし、若者達は見逃す気は無いようだ。ニタニタと笑いながらベンチから立ち上がり、遠ざかっていく亜美に声を掛けながら、走って追い始めた。これは偶然ではない。彼等に待ち伏せをされたのだ。


「にゃっはっは!ねぇ、可愛い店員さん!こっち通んじゃねぇの!?」

「遠慮しないで、こっちにおいでよ!」

「別に襲ったりしないから安心しなよ!」

「そっちに戻るなら、ついでに一緒に遊びに行こうよ!」


 若者達を振り切ろうとした亜美は、進行方向を見て青ざめる。車輌乗り入れ禁止の公園なのに、車が亜美の進行方向に止まって障害物になっているのだ。同じグループの若者が2人で、車の前に立って、亜美を通せんぼする。


「え?え?なんで!?」


 パニックになり、脇の芝生に逃げようとする亜美。後ろから追ってきた若者に、自転車の荷台を掴まれてしまう。誘拐される?殺される?何が何だか、全く把握できない。自転車ごと倒された亜美が、大声で悲鳴を上げたその時!!


「ば~か・・・優等生のくせに、何も考えてないのか?

 アンタ、無防備すぎるんだよ!」


 若者達が乗り入れた車のボンネットの上・・・桐藤美穂が、腰掛けて、ジッと亜美を見つめている。


「あたし、何やってんだかね?

 なんだかんだ言っても、

 直線的にぶつかってくるチビのことが気に入ってんのかな?

 だから、アイツのダチのアンタまで、ついでに気にしちゃうのかな?」


「何だ、オマエ!?」

「この娘の知り合いか?」

「なに?オマエも遊んで欲しいの?」


「・・・桐藤・・・さん?」


 若者達の口調からして、美穂と若者達は、少なくても‘グル’ではなさそうだ。若者の一人が、品定めをしようと美穂に歩み寄るが、美穂は歯牙にもかけない。それどころか、足で思い切り車を叩いて威嚇をする!


「ふざけんな!そこから降りろ!!」


 今度は、マイカーを傷付けられた若者が、美穂をボンネットから引きずり下ろそうと掴みかかる!美穂は、若者の腕を取って捻り上げ、思いっ切り蹴飛ばし、その一撃が宣戦布告になった!

 そこから先は、まるでビデオの早送りを見ているようだった!状況が飲み込めずに突っ立っている若者達が、次々と美穂に叩き伏せられていく!頭に血が上った若者達が、立ち上がって美穂に襲いかかるが、まるで相手にならない!このような状況を経験した事の無い亜美が見ても、美穂が戦い慣れていることはハッキリと解った!か弱い女性よりも、筋力のある男性の方が強いという事実は、場慣れをしている美穂には、何の役にも立たない!的確に相手の体勢を崩し、鼻先や腹などの急所を叩き、倒れた相手を踏みつけて容赦なくトドメを刺し・・・あっという間に、若者達を伸してしまった!


「フン!弱い弱い、弱すぎてダイエットにもならない!

 ロクに喧嘩したことも無いバカ共が、いくら束になっても無駄!

 数で女の子1人を押さえ付けようとしたカス共なんて、所詮はこんなもんか!」


 美穂は、呆然とする亜美に近付いて、倒れていた自転車を起こすが、亜美に手を差し延べる気も、抱きしめてヨシヨシと宥めるつもりもなさそうだ。いつもの、クールで近寄りがたい美穂のままである。


「ガキじゃあるまいし、一人で帰れんだろ?

 まぁ、当分は、こんな、ひとけの無い道は避けることだな!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「また、コイツ等がバイト先にチョッカイ出しに来るようなら、締めてやるよ!

 あそこ(DOCOS)は、私のお気に入りの場所だからな!」


 亜美は小声で礼を呟き、呆けた表情で美穂を見つめている。美穂は、首を傾げて、亜美を見つめる。


「家まで送れってなら送るけど、ボディーガード代は請求するよ!」

「は・・・はい・・・だ、大丈夫です」

「だったら、サッサと立つ!コイツ等が生き返る前に帰るよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・ん?なに?」


「あ、ありがとうございましたっ!!」


 少し気持ちが落ち着いた亜美は、今度は美穂に聞こえる声でお礼を言った。クールに決めていた美穂が、少しだけ微笑んだように見える。


「・・・ところで、桐藤さん

 ‘直線的にぶつかってくるチビ’ってクレハのことですか?」

「・・・ん?」

「クレハが好きってこと?」

「あぁ、そのこと?まぁ・・・ね。

 好きってより、アイツ(紅葉)には、ちょっと興味持ってる

 アイツのバカで直線的なところ、昔、好きになった男に少し似ているんだ。」


 美穂は、そこまで言いかけて、「他人に過去を語るなんて自分らしくない」と、慌てて口を閉ざした。

 彼女には、過去に一人だけ、安心をして心を開けた男性がいた。美穂は、押しかけ女房的につきまとい、時にはデートをしたり、喧嘩をして、なんとな~く‘良い感じ’には成っていたが、明確な交際までは発展しなかった。姉が亡くなって、美穂がやさぐれはじめてからは、徐々に音信不通になり、噂で「男性は外国旅行中に死んだらしい」と聞いたが、真相はわからない。


「男の人?・・・付き合ってた人がいたんですか?」

「それ以上は言えない・・・秘密。」

「・・・そ、そうですか。」


 美穂は、それ以上は喋るつもりはなかったし、察した亜美は、興味はあったが追求しなかった。亜美がもう一度、美穂に礼を言い、美穂が「何度も言わなくて良い」と遮り、2人は別れて、それぞれの家に帰宅をする。

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