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22-2・バルミィvsヴラド

-杉田邸から少し離れた場所-


 セラフ(麻由)が屋根から屋根へと飛び回って逃げ、空を飛ぶ光球が追う!セラフは、時折、足を止めて振り返り、光の矢を射て光球を牽制するが、光球は自在に飛び回って矢を回避!逃走を続けるセラフは、広い敷地(伝武小学校のグラウンド)を見付けて着地!続けて光球が降りてきて、聖幻ファイターバレン(ユカリの変身体)が姿を現す!


「ふふふっ!『まんまと誘導に成功した』なんて思わないでね。

 私は誘き寄せられたのではなく、誘いに乗ってやったの。

 誰の邪魔も入らない場所で、最も憎いオマエを殺す為に!」

「経緯は『誘いに乗った』でも、

 結果が『誘き寄せられた』と同じなら問題はありません。」

「バルカン人殺害の連絡が来ないところをみると、

 警察の役立たず共は失敗をしたらしいわね。

 オマエが分身を作って逃走をした事と言い、

 小娘共が、随分と生意気な作戦を立ててくれたようね!

 少しは褒めてあげようかしら?」


 バレンは、たかが小娘共が相手なら、警察署長と赤ザック装着員を操り、バルミィを殺害させ、それ以外は確保させて、楽に真奈の拉致を成功させられると思っていた。


「いつ来るか怯えているだけではなく、

 それなりに作戦は立てさせていただきました!」


 麻由の「こうなったら困る?」「こうなったらどうしよう?」というネガティブな発想が活きた。杉田邸での打合せ時に、麻由は「ユカリが、知り合いを操るかもしれない」「無関係の人に襲われるかもしれない」と不安ばかりを口にしていた。今までの麻由ならば、「ならば誰の誘いにも乗らない」「全部敵だと考える」と対処していただろう。しかし美穂は違った。「分身を使って様子を探ろう」「誰に襲われても良いように、分身を作ってフリーに成れるように準備しよう」と考えたのだ。

 美穂は「敵がどんな手段で攻めてくるか」なんて考えていなかったが、麻由がネガティブな想定をしてくれたお陰で、対応策を考える事が出来た。

 結果、バルミィの分身で作戦を失敗させ、麻由の分身と揺動で捕縛から逃れる事が出来たのだ。


「だけどね、小娘!

 私が、最初の作戦が失敗しただけで手札を失う程度の、

 薄っぺらな女だとでも思っているの?」

「・・・え?」

「最初の作戦が成功すれば、私が楽を出来たというだけなのよ。

 作戦と言うのは、失敗しても次があるように立てる物なの」


 セラフ(麻由)は、動揺して周囲を見回した!バレン(ユカリ)が失敗したのは、警察を使った作戦だけ!バレンには、まだ温存されている最凶の武力がある!




-鎮守の森公園-


 バルミィは美穂達と合流をするつもりだったが、進路を塞がれて動けなくなっていた。公園の直ぐ北側に立っている学校(鎮守小学校。紅葉が通った学校)の屋上で、闘気を放ち、バルミィを見ている人影がある。

 ヴラド3世が、バルミィを待ち構えていた!


「アイツ等(冬條達)を洗脳して、ボクを殺させるつもりだったばるか!?」


 バルミィが上空から怒鳴り声を上げ、ヴラドが答える。


「フン!あの程度の連中に殺されるような汝ではあるまい!

 我が待っていたのは、あの程度の罠など、

 物の数にも入れずに突破をしてくるであろう汝だ!」


 このまま逃げても、ヴラドは必ず追ってくるだろう。脇腹を痛めたままの美穂を、ヴラドとの戦いに引き摺り込む事は出来ない。バルミィは「この場でヴラドと雌雄を決する」と腹を括って、ヴラドと同じ屋上に着地をする!


「覚えているであろうな、ミーメ?

 次に戦場で会う時は、汝を力尽くで獲得する!」

「獲得をされるつもりはないばるっ!ボクがヴラドを倒せば済む話ばるよっ!」

「良い覚悟だ!・・・では、行くぞ!」

「来いばるっ!アーマードバルカンばるっ!!」」

「マスクドチェンジ!!」


 ハイアーマードバルミィ(以後、HAバルミィ)、変身完了!マスクドヴラド、変身完了!

 ヴラドは、巨大杭・ツェペシュメイスを装備して、バルミィに向かって突進をする!バルミィは、若干ではあるが、マスクドヴラドに違和感を感じた。気にしなければ、大した違和感ではないのだが、変身に要した時間や、ツェペシュメイスを召喚した時間が、初回の戦闘時に比べて僅かに早い。


 マスクドヴラドが、巨大杭・ツェペシュメイスの一撃をHAバルミィ目掛けて打ち下ろす!バルミィは斜め後ろに飛んで素早く回避!次の瞬間、ツェペシュメイスが打ち下ろされた床面を中心に、激しい衝撃波=ドラクル・ディストゥッジェが発生をして、バルミィを弾き飛ばす!


「ばっ!ばるぅぅっっ!!」


 衝撃波に弾かれて床に落ちるHAバルミィ!

 いきなり、奥義が撃たれるとは思っていなかった。無警戒だったわけではないが、マスクドヴラドの奥義は魔力の“溜め”が必要なはずだ。今は“溜め”が無かったので、ただ武器を振り回しているだけと考えて、警戒はしていなかったのだ。

 バルミィが床に伏している間は、マスクドヴラドは攻撃をしてこない。初戦と同じように、体勢を立て直すのを待っている。バルミィが立ち上がって構える。


「次に戦う時は容赦しないって言ってたばるに、随分と余裕こいてるばるね!」

「フッ!容赦はせぬ!力尽くで汝を手に入れる!

 だがな、ミーメ!本日の我は、昨日までの我とは違う!

 ゆえに、汝に覚悟の上で戦いに臨むように、初手で手の内を晒したのだ!

 汝が、悔い無く敗北し、我が妃となるようにな!」

「ボ、ボクが負けるのが前提・・・ばるか?」

「もちろんだ!

 汝を得た後で『卑怯』だの『敗因は我が手の内を隠したから』と

 言われぬようにな!」


 マスクドヴラドは、相変わらずバカ正直なほどに堂々としている。何故、「昨日までとは違う」のかは解らないが、魔力の“溜め”無しで奥義が発動できるのは厄介だ。ヴラドが武器を振り回した時に、どの攻撃が“ただの攻撃”で、どの攻撃が“奥義”なのか解らない。




-回想・数十分前・廃墟-


 弁才天ユカリの指揮の下、操られた警察署長と署員(サック隊長)の秋川&冬條が並ぶ。3人には、「真奈の奪還と、取り巻きの捕獲」が命令されている。だがユカリは、「標的達が、おとなしく捕獲される」とは思っていない。必ず戦いになると想定しているが、その前に「真奈の奪還」を成功させれば良いのだ。労せずに戦力を補充する為に、警察署員を初手の駒として使う。


「なぁ、参謀?治安維持のトップを掌握する戦術は悪くない!

 だが、我が召喚主に過度な洗脳術を重ねて精神を破綻させた目的は何だ?」


 相変わらず、真島は瞳に光沢が無く、話しかけても何の反応も示さない。ヴラドには、真島が廃人になってしまったように見える。あきらかに、警察署長&秋川&冬條のような、指揮権だけを掌握された精神支配とは違う。


「ふんっ!・・・勝つ為よ」

「ぬぅ?召喚主を廃人に追い込む事に、何か策でもあるというのか?」

「もちろんよ」

「聞かせてもらおうか」


 召喚主3人の中で、真奈の才能は突出していた。

 真島や相良は、真奈ほど召喚主に適しているわけではない為、リベンジャーへの魔力供給に、かなりのロスが発生してしまう。更に、奥義の溜め~発動までに時間が掛かってしまう。これは、初戦ならともかく、互いの手の内を知る2戦目以降では致命的な隙となる。

 ならばどうするか?妖怪が依り代を体内に取り込んで1ランク強くなるように、リベンジャーと魔力の供給元を直接リンクさせれば良い。自我が邪魔になる可能性が高いなら、先んじて自我を潰してしまえば良い。要は、真島を、ただの貯蔵タンクにしたのだ。


「ほぉう・・・我が召喚主を取り込めば、我は更に強くなると?」

「そう言うことよ。今の王は、土に魂を宿して実体化させている状況なの。

 肉体を獲得すれば、おそらく今までの比には成らないほどに戦闘力が増すわ。

 真島も、王の覇道の礎となるなら本望でありましょう!」

「でかしたぞ、参謀!それは朗報だ!」


 ユカリは、ヴラドの前で片膝を付いて遜り、あえて臣下の礼を取るような素振りで、理由の説明をする。一方のヴラドは、ユカリの仕草を白々しく感じながらも、あえて追求はせずに、その態度を受け入れる。


「融合の為には、一度だけ、命令強制権の行使が必要になりますが、

 許可をしていただけますか?」

「ふむ!好まぬ手法ではあるが、我を貶める行為でなければ我慢しよう!」

「承知しました」


 ユカリが立ち上がり、廃人化している真島に向けて念を込めて手を翳す。すると、操られた真島が、ヴラドに向かって手を翳す。


「召喚者の代理人として、真島の名をもって命ず!

 ヴラド3世!召喚主に取り憑け!!」


 ヴラドが幽体化をして、真島の中に吸い込まれていく。そして、真島の全身から魔力が発せられ、真島の体よりも2周りほど大きな体を作って覆い、ヴラド3世の姿になった。

 両手両腕を動かし、手応えを確かめる。今までに比べて魂と体が馴染んでいるようだ。試しに地面に向けて掌を翳して軽く魔力を放出してみたら、小さい爆発が発生して土煙が上がった。魔力の発動がスムーズで、充填から放出までのタイムラグが全く無い。


「素晴らしい!我が肉体に、これまで以上の力のほとばしりを感じるぞ!」


 リベンジャーと召喚者を同一個体としてリンクさせる事で、魔力供給と変換のロスを無くし、攻撃力を上げるメリットがある。ただし、これまでは、リベンジャーのみが戦い、離れて観戦する召喚者の危険度は低かったが、融合後は召喚者も戦いの中心に身を投じる事になるので危険度が格段に上がるデメリットもある。


「さぁ、行くわよ!」


 ユカリの号令の元、警察署長&秋川は真奈の捕獲に、ヴラドと冬條はバルミィの討伐に、それぞれが、作戦行動の為に、各持ち場に向かって行軍を開始する!




-今に至る・鎮守小学校の屋上-


 HAバルミィが距離を空けるよりも早く、マスクドヴラドはバルミィの懐に飛び込んできた!そして、空に飛び上がって回避をしようとしたバルミィの腹に、巨大杭・ツェペシュメイスの尖端を突き立てた!しかし、ヴラドの眼前に居たバルミィは消滅!同時に上空にバルミィが出現をして光弾を放った!

 一方のヴラドは飛んでくる光弾に向かって、巨大杭を投げ飛ばす!光弾と巨大杭が衝突して、ドラクル・ディストゥッジェ(竜公の破壊)が発動!凄まじい轟音が鳴り響き、巨大杭の衝突点を中心に、激しい衝撃波が発生して周囲に広がる!


「ばっ、ばるぅぅ!!」


 バルミィは、為す術も無くドラクル・ディストゥッジェ(竜公の破壊)に弾き飛ばされて、グラウンドに向かって落下!


「言ったであろう、ミーメ!本日の我は、昨日までの我とは違うとな!

 魔力のロスと、魔力充填の無駄な時間が不要になった我に、もはや死角は無い!

 はぁぁぁっっっ!!奥義・カズィクル・ベイ(串刺し公)!!!」


 マスクドヴラドは、次の巨大杭を出現させ、HAバルミィの落下予想地点目掛けて放り投げた!バルミィの真下の地面に巨大杭が深々と突き刺さり、込められていた魔力が地表に溶け込んで、鋭利に尖った長杭が無数に出現!落下してきたバルミィを串刺しにした!


 しかし、マスクドヴラドは、まだ戦いの手を緩めない!屋上の床を蹴って飛び上がり、グラウンドに着地をすると同時に、串刺しにされたHAバルミィに近付き、バルミィに突き刺さっている杭を破壊して、杭から解放されたバルミィの首根っこを掴んだ!


「人類とは違う生態ゆえに、傷は直ぐに回復をする!

 初見では驚いたが、手の内を知っていれば、どうと言う事はない!

 傷が回復するまでの動けない間に捕まえてしまえば、

 華奢な汝では、どうにもなるまい!」

「ばるっ!強引すぎるばるっ!」

「こうでもせねば、すばしっこい汝を手に入れる事は出来まい!?

 さぁ、ミーメよ!我は汝を手中に収めた!

 愛を語らいながら我の懐に抱かれるか、

 力尽くで略奪されるか、好きな方を選ぶが良い!」


 マスクドヴラドは、片腕をHAバルたんの背後から細い腹に廻して抱きしめる!バルミィは抵抗を試みるが、後ろからヴラドの怪力に捕らえられてしまうと逃げる手段は無い!


「汝ほどの者ならば、既に詰んだ事を理解できるだろう?」

「ばるぅぅ!悪趣味ばるっ!」

「ふっはっは!何とでも言え!要は、汝を手に入れられれば、それで良いのだ!」


 マスクドヴラドは、HAの腹の廻していた腕に力を込めて圧迫をして、バルミィを脱力させてから力を緩める!力無く両膝を地面に着いて苦しそうに蹲るバルミィ!ヴラドは、バルミィの腕を掴んで仰向けに倒した!


「さぁ・・・観念して、我が夜伽人となれ」


 悔しそうに空を見上げるバルミィ。ヴラドの事は、ワガママな敵なので拒否しているが嫌いではない。むしろ、一定以上の評価をしている。だから尚のこと、こんな“略奪”は腹立たしい。


「ばるっ?あれは?」


 バルミィの瞳に、空に輝く光が見える!光は猛スピードで、マスクドヴラドの脳天に向かって落ちてくる!その光は、白色の翼を雄々しく広げている!


「んぁぁぁぁっっっっっ!!!バルミィを、いぢめるなぁぁっっっ!!!」




-杉田邸の前-


 ネメシスは、ザック部隊を広い空き地に誘導していた。

 戦闘中のネメシスの視界の先に、真下に向かって真っ直ぐに飛ぶ光の鳥が見える。鎮守の森公園の方角だ。その場所に誰が居て、光の鳥がなんなのか、ネメシスは咄嗟に理解をした。


「ナイスタイミング!」


 美穂は、麻由がイメージしたネガティブ思想を元にして、ユカリの初手を封じた。だがそれだけでは、策士のユカリを完全に抑える事は出来ない。自分には、まだ、ユカリの上を行く策を練るのは難しいと考えていた。だからこそ、意識的に「どうせ、指示通りに動かないジャジャ馬娘」を蚊帳の外に追い出して、自己判断でどうとでも動けるようにフリーにした。紅葉を自宅に帰らせたのは、その為だ。

 思惑通り、紅葉は、闘気の動きが最も激しい場所に乱入をしてくれた。

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