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22-1・洗脳された者達~任意同行からの脱出

-文架市南東の廃墟-


 ヴラドが物見遊山から戻ってきたら、長ソファーに弁才天ユカリと真島が並んで座っていた。真島は瞳に光沢が無く、ヴラドが話しかけても何の反応も示さない。


「これは?」

「洗脳術(堕天使の接吻)で精神を支配して、

 いつも通り、コイツ(真島)を操り人形にしただけよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私に何か言いたい事でも?」


 ヴラドは立ったまま、ユカリの顔を見つめる。ユカリが視線を逸らしたのでヴラドも視線を外し、向かいのソファーに腰を下ろした。


「なぁ、参謀?

 我は、汝の事を知らぬ。聞かせてもらえぬか?

 汝は、なにゆえ、この世界を恨む?」

「・・・フン!」

「我のマスターは其の男(真島)だが、指揮権は汝が握っておる。

 召喚主に意識があろうと、それは変わらぬ。

 なにゆえ、召喚主を廃人にまで追い込む?」


 ユカリは眉を顰めて立ち上がり、ヴラドの問いには一切答えずに立ち去る。王の器というのか?ヴラドの大人びた対応が癪に障る。

 リベンジャーを召喚する場合、召喚主の性格や精神状態に適した“歴史上の人物”が出現をする傾向にある。今回の場合は、召喚主達はユカリに精神を支配されていた為、ユカリの精神を反映したリベンジャーが召喚をされた。ヘイグは戦力面はともかく性格的にはユカリに合っていて、従順に従ってくれた。しかし、ヴラドとジャンヌはどうだ?神や民を恨むという点では適合しているが、騎士道を重んじ、卑劣を嫌う点では全く適合していない。ゆえに、ヴラドと接していると癪に障る。


 過去、行き場を失って途方に暮れていたユカリは、不動明王ツヨシに出会い、拾われた。彼は、いい加減でだらしない性格だったが、ユカリの存在を認めてくれた。ユカリには、ツヨシの行いが「正しいか間違っているか」など関係なかった。ただ、自分の認めてくれるツヨシの元で働き、ツヨシの為に死にたかった。

 だが、ユカリが命を掛けて従った最愛の男は、ユカリを残したまま死んだ。また行き場を失ったユカリには、もはや復讐以外の道は考えられなかった。


 遠目にツヨシの死を看取り、その場から逃亡した直後、戦いで体力を失っていたユカリは、力尽き、ひとけの無い道路で倒れた。そして、たまたま通りかかった真島と相良に保護をされる。保護と傷の手当ての見返りに、欲望を押し付けられた。初めは「まだ地獄に落ちるのか?」と抵抗をしたが、既に最愛を失っていたユカリは、やがて「既に地獄の底まで落ちている自分には、抵抗する意味すら無い」と考えた。其処にいるのは、生かす価値の無い男共、死んでも構わない男共。ユカリは、クズ共を贄にして、復讐を考えるようになった。


「くっ!口の減らない王めっ!イヤな事を思い出したっ!!」


 正々堂々を重んじるヴラドと同席をしていると、自分が小さく思えて苛つく。同様に、真っ直ぐに戦おうとする天の巫女や鬼の末裔を思い出すと苛立つ。

 ユカリは、ヴラドを避けて、廃墟内の別の部屋に移動をする。その部屋には、真島と同様に、洗脳術(堕天使の接吻)を受けて瞳の光沢を失った数人の男がいた。文架警察署に所属をする、ザックトルーパー装着員の姿もある。

 もう、リベンジャー召喚に使う材料は無い。だが、復讐相手を翻弄する手駒なら、いくらでも調達できる。




-杉田邸-


 紅葉が自宅に帰って30分が経過した頃、バルミィのスマホがコールをしたので、バルミィが画面を見て発信者を確認する。ディスプレイには、文架警察署員の「冬條」と表示されている。「緊急で確認したい事があるので、今から鎮守の森公園で会えないか?」という内容だった。


「ばるっ?こんな時間になんだろう?チョット、行ってくるばるっ!」


 ここ数日は宇宙船も飛ばしていないし、先日の落書き事件でもお仕置きは堪えたから、緊急で呼び出される理由など無い。だけど、いつも連絡は夏沢雛子(冬條の上司)から連絡が来るので、冬條から連絡が来るのは珍しい。しかも、「警察署ではなく公園に来い」だ。何かがあったのかもしれない。



-数分後-


ピンポォ~~~ン

 バルミィが退室をしてしばらくしたら、呼び鈴の音が鳴る。リビングにいた長男の昇一(大学生)が、「父さんが帰ってきたかな?」と玄関に出て対応をする。


「こんばんは!文架警察署の者です!」

「熊谷真奈さんは、ご在宅ですね?」


 刑事が警察手帳を出して、自分の身元を証明する。様子がおかしい。冷静を装っているが、目付きが攻撃的だ。昇一は「真奈はいる」と言うべきか「いない」と誤魔化すべきか迷ったが、刑事は昇一の目が泳いで動揺をした事を見逃さない。


「いるんですね!上がらせてもらいます!」


 刑事の動きは早かった。昇一を押し退け、階段を駆け上がり、美穂&麻由&真奈が「何事か?」と腰を上げるよりも早く、部屋に踏み込んだ!


「熊谷真奈!未確認生物への支援、及び、隠匿の容疑で、ご同行願います!」

「・・・え?私が?」


 「覚えの無い」と突っぱねたいが、残念ながら身に覚えはありすぎる。美穂=異獣サマナー、麻由=聖幻ファイター、ここには居ないが、紅葉=妖幻ファイター、バルミィ=宇宙人、ジャンヌ=リベンジャー、一般人から見れば、全て未確認生物。ただし、刑事達が、真奈とゲンジやネメシスとの繋がりを知っているのは、あきらかに不自然だ。


「君たちも、重要参考人として、一緒に来てもらおうか?」

「お断りをしたいのですが、拒否権は無さそうですね」

「真奈一人だけを連れて行かれるワケにはいかない。

 あたし等も一緒に行くしか無いだろな」


 刑事達は「真奈が容疑者」と主張するのみで、一緒にいる美穂と麻由が未確認生物って事には全く触れない。報されていないのだろう。確実に「警察組織とは別の思惑」が働いている。迂闊に抵抗をして、刑事達にワザワザ正体を晒すのはマズい。

 美穂達は、おとなしく「警察組織とは別の思惑」の誘いに乗る事にした。外に出て、パトカーのパトランプに照らされながら、「案の定」と溜息をつく。


「やれやれ、しつこいオバサンだっ!」


 外では、ご近所さん数人が眺めている。その野次馬の中に弁才天ユカリの姿がある。美穂達を見て、不敵な笑みを浮かべた。巨大組織を動かすのに、ワザワザ、全員の精神支配をする必要は無い。組織の主導権を握っているトップ数人を支配すれば、自己保身を優先させる部下達はトップの指示には逆らわない。あとは、せいぜい、組織内の最大戦力でも掌握しておけば、少しくらい理不尽な指示でも、反対できる者はいなくなる。


 パトカーの前では、銃を構えたザックトルーパー(特殊装甲)部隊が立っており、ザック用のトレーラーが配備されている。女子高生数人の任意同行にしては厳重すぎる。しかも、警察署長が指揮を執っている。警察署長の目は虚ろで瞳には光沢が無い。


 このバランスの悪い出動態勢については、ザック用のトレーラー内で様子を見ている雛子も「異常」と感じていた。拘束する相手はただの女子高生なのに、警察署長直々の指揮とザック部隊の出動。警察署長の指示を秋川と冬條が受け入れたので渋々出動したが、こんな歪な出動は有り得ない。しかも、冬條は別件で出動をして、ここには居ない。


「あの子達(美穂&麻由&真奈)に何か秘密があるって言うの?」


 ユカリは、警視総監とザック隊長の2人に「熊谷真奈を捕獲せよ」という命令しか出していないが、それで充分だ。彼等の部下達は、自分達が出世コースを踏み外さないように忖度をしてくれる。女子高生では、国家権力に逆らう度胸なんて無いだろう。形ばかりの事情聴取のあと、ユカリが身元引受人になれば、大した労力を掛けずに真奈を獲得できる算段だ。




-亜弥架神社-


 ひとけの無い公園内で、バルミィが、冬條の赤ザック率いるザックトルーパー部隊に囲まれている。


「ど、どういうつもりばるか?」

「悪いな、バルカン人!オマエには死んでもらう事にした!」

「ばるっ?」


 バルミィが見る限りでは、緑ザック×5人はバルミィ包囲作戦には消極的に感じられる。班長の命令に納得できないまま、渋々従っているのだろう。しかし、赤ザック(冬條)だけは違う。冬條はエリート意識が強くて融通が利かない堅物だが、こんな乱暴な行動が出来る人間ではない。あきらかにおかしい。


「撃てっ!」

「し、しかし、バルカン人は抵抗する気配はありません!」

「良いから撃てっ!」

「・・・くっ!」×5


 緑ザック×5人は、一応はバルミィに攻撃をする体勢を示すが、赤ザック(冬條)が発した「処刑命令」に戸惑う!バルミィは、その隙を突いて空高く飛び上がった!


「逃がすかっ!!」

「ばるぅぅっっっっ!!!」


 赤ザック(冬條)の持つグレネード砲が発射され、バルミィの頭を吹っ飛ばした!頭部を半分失ったバルミィが、地面に落下!ザック隊が囲んだ直後に、バルミィの姿が消滅する。


 公園内の大木の天辺で“バルミィ抹殺作戦”の一部始終を眺めていたバルミィが居る。たった今、赤ザック(冬條)に仕留められたのは事前に用意した分身で、本体は木の上に隠れて様子を見ていた。


「麻由のネガティブ思考も、使い方次第では役に立つばるねっ!」


 バルミィは、神社前に居るザック部隊に気付かれないように静かに飛び上がって、その場から離れる。




-杉田邸の前-


 刑事達から催促され、真奈&美穂&麻由がパトカーの後部座席に乗せられる。助手席には警察署長が乗り、春室が運転席に座ってハンドルを握る。パトカー内に閉じ込められた状況だが、真奈&美穂&麻由は後部座席でフリーになった。「たかが女子高生」と舐めすぎている。


「なぁ、真奈。衝撃に備えて、身を低くして踏ん張っときな」

「は、はいっ!」


 美穂と真奈は、パトカーの後部座席で、腰を折り、膝に顔を埋めるように身を屈めて、全身に力を込める。

 麻由だけは、無表情のまま、まるで人形のように座っている。

 理由は、刑事が杉田邸に踏み込んでくる直前に準備しておいた“コピー”に複雑な表情を与えるほど、麻由がまだ熟練をしていないから。そして、既に次の行動に移っている為に、コピーの管理をしている余裕が無い為。


 杉田邸の屋根の上に、弓を構えたセラフ(麻由)が立つ!2本の光の矢を出現させ、2本目を小指と薬指で持ち、1本目を弓に番えて引きしぼる!そして、矢に理力を込め、美穂&真奈&コピーが乗ったパトカーの真上の空に鏃を向けて射た!矢は光の尾を発しながら勢い良く飛び、パトカーの真上で曼荼羅に変化する!

ドォォンッッ!

 天の曼荼羅・法雨(縮小版)発動!美穂&真奈が乗ったパトカーの屋根に光の雨が降り注ぎ、衝撃波で車輌のサスペンションが伸び縮みして車内が激しく上下に揺れる!傍にいたザック部隊が、衝撃の余波で吹っ飛ばされて地面を転がった!


 後部座先の美穂&真奈は踏ん張って振動に耐えているが、それでも体が飛び跳ねて何回か天井に頭をぶつけた!運転席の刑事と助手席の署長は、想定外の振動を喰らって為す術も無く車内で七転八倒の勢いでバランスを崩す!ハンドル操作とアクセルワークを誤って、パトカーは低速で電柱に衝突をした!


 野次馬に紛れて成り行きを見守っていたユカリは、舌打ちをして、パトカーに駆け寄ろうとする!しかし、セラフが放った2射目の矢がユカリの足元の地面に刺さって、進路を妨害した!


「天の巫女かっ!?」


 ユカリは、屋根に立っているセラフを睨み付ける。一方のセラフもユカリを睨み付ける。どちらも、ぶつけたい恨みは、掃いて捨てるほどある。セラフは新たなる矢を準備してユカリに向ける。

 一方のユカリは、セラフを睨んだまま、最初は一歩一歩ゆっくりと、徐々に速度を上げ、やがて駆け足となって、屋根の上のセラフに向かっていく!弓を押してユカリに向かって矢を射るセラフ!ユカリは、矢の軌道を読んで素早く横に回避!


「舐めるな小娘!オマエ如きの矢で、私は討てない!!」


 セラフは素早く反転して、屋根から屋根へと飛び移って逃走開始!ユカリは、全身から光を発光して、光球に姿を変えて飛び上がり、セラフを追う!

 杉田邸の前には、ザック用トレーラーと、小破したパトカーと、近所の僅かな野次馬が残された。


「いってぇ~~!首が折れるかと思った!

 麻由の奴、もうちっと優しく調整できないのかよ?」


 後部座先に居た麻由のコピーは既に消えている。運転席と助手席の刑事は気絶をしているようだ。美穂が体を起こして、未だ身を屈めたままの真奈に「今のうち」と言って外に引っ張り出した。

 ザック用トレーラー内で待機をしていた雛子が、パトカーから脱出した美穂&真奈に駆け寄ってくる。


「貴女たち、これはいったい?

 パトカーを包んだ光(セラフの攻撃)とか、

 飛んでいった光(弁財天ユカリ)はなんなの?

 貴女たちは、いったい何を知っているの?」


 美穂は、この女刑事を知っている。火車を倒した後にザックトルーパーを指揮していた人だ。雰囲気的に「口八丁で誤魔化せない、面倒臭い人種」だと察する。ただ、信頼できる側の人間だという事は、バルミィから聞いて知っている。


「ゴメン、刑事さん。説明は、あとで余裕があったらします。

 コイツ(真奈)の事、しばらく預かって守っててもらっても良いですか?」

「守るって・・・なにから?」

「ここに居る、他の刑事達から。多分、何人かは、頭ん中を操られている」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 雛子は、美穂の目を真っ直ぐに見つめる。騙したり誤魔化そうとしている目ではない。雛子自身、上の命令なので従っただけで、納得をして出動をしたわけではない。


「『任せて!』とは言えないわね。

 警察官として、この子(真奈)に危害が及ばないようには守ります。

 だけど、貴女と同僚と、どちらが信頼に値するのか、今は判断できない。

 貴女たちの行為が、市民の不利益になる行為なら、私は貴女たちを見逃さない。

 その代わり、貴女たちが正しいにも係わらず、

 貴女たちの意見を一方的に切り捨てたりはしない。

 これが、今の私の立場で出来る精一杯よ!」

「上等!あたしは、自分が間違った事をしてるとは思っていない!

 そのセンで頼むよ!」


 美穂は、すんなりと「任せろ」と言われるより、余程、信頼できる言葉に感じた。自分達の行為が間違っていなければ、この女刑事は自分達を裏切らない。真奈を預けても良い相手だ。


「ところでさ、女刑事さん。

 アイツ(赤ザック)って・・・いつもあんな奴なのか?

 前に見た時は、もう少しマシな奴だと思ったんだけど・・・」


 美穂の指さす方向、赤ザックトルーパーが立ち上がり、部下の緑ザック達を従えて、こちら(真奈)に銃口を向けて歩いてくる。緑ザック達は動きに戸惑いが見られるが、赤ザックの動きには迷いが無い。連行の妨害をした美穂を「邪魔者」とみなしたようだ。


「秋川君は、『いつもあんな奴』ではないわね。まるで、人が変わったみたいよ」

「了解!秋川って人も操られてるって事か!

 アレ(ザックトルーパー)って警察の備品なんだっけ?

 ぶっ壊しちゃったら、あたし、罪になる?」

「あまり壊して欲しくはないけど、正当防衛なら罪には成らないわよ!」

「了解!それ聞いて、安心した!壊しても、停学には成らずに済むって事だな!」


 美穂は近付いてくる赤ザックを睨み付け、サマナーホルダを握りしめる!


「医者からは、激しい運動は、まだ禁止されてんだけどさ・・・

 やらないワケにはいかないっ!」


 美穂は、雛子以外からは死角になるように住宅と住宅の間に潜り込み、サマナーホルダを杉田邸の窓ガラスに向ける!乳白色に輝いたガラスにが飛び込んで、直後に異獣サマナーネメシスが飛び出した!住宅の間を飛び上がって屋根の上に立ち、ネメシスレイピアを構えてザック部隊を睨み付ける!


「え?・・・あの白い騎士は?」


 雛子は目を大きく見開いて、変身後の美穂を凝視した。数ヶ月前、警察署に怪物(火車)が出現した時に、ザック部隊やバルミィと一緒に戦った謎の戦士が数人いた。その一人が、あの白い騎士だった。


「来てっ!トレーラーの中に居れば安全よ!」

「は、はいっ!」


 本来、ザックトレーラーは警察の機密なので、一般人を入れる事は出来ない。だが、彼女(美穂)を「信頼する価値がある」と判断した雛子は、期待を裏切らない為に、真奈をトレーラー内で保護する事に決める。


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