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21-4・麻由の説得~串刺し公の本領

-優麗高・正門前-


 数分後、現場に到着したセラフは、寂しそうな表情で雑巾で塀の落書きを拭いているバルミィを発見する。やはり、紅葉のメールを受け取ったバルミィは、ここに来ていた。時折、手の甲で顔を擦って、涙目を拭っている。やるせなさが伝わり、セラフは拳を握りしめる。


「・・・ん?この落書きは?」


 違和感を感じたセラフは、一帯の落書きを眺める。現地には、紅葉に送られた画像には無い落書きがある。バルミィが拭いている落書きは、擦る度に目に見えて薄くなっている。


「まだ書いたばかりの落書き?

 紅葉の級友が通過した時には、まだこの場所にいて隠れていただけで、

 去ったあとで、また書き始めた?

 もしかしたら・・・まだ何処かに隠れている?

 ただの嫌がらせだけではなく、誘き出す為の罠?」


 セラフは電柱の陰に身を隠し、息を殺して周囲の確認をする。


「やぁ!また会ったな。」

「ばるっ!?」


 バルミィに眩しい光が浴びせられる。振り向きざまの涙目のバルミィが光で照らされる。スマホのカメラ機能で、フラッシュを焚きながらバルミィを撮影する3人組の男が現れた。一様にバルミィを嘲笑っている。相良&落垣らくがき日峰ひぼうだ。


「にぃっひっひ・・・まんまと釣られてくれたね」

「さっきは邪魔が入ったけど、今度はそうはいかないよ!

 さっきの大男は一緒じゃないんだろ?」


 男達を睨み付けるバルミィ。相良がスマホを取り出して、動画撮影を起動させて数歩後退をする。バルミィが、表情をしかめて「撮影をやめろ」と言わんばかりに相良に近付こうとすると、落垣&日峰が、持っていたスプレー塗料を吹きかけた。バルミィの顔が塗料でまみれ、細かい粒子が目に入る。


「・・・ばるぅぅっ!!」

「あっはっはっはっは!似合う似合う!

 宇宙人なんだから、体色だって宇宙人らしくしなきゃな!」

「にぃっひっひ・・・人間の格好なんてしてたら紛らわしいんだよ!

 凶悪な侵略者め!!」


 地球に来て今まで、どんな戦いでも理性を失う事はなかったが、もう我慢の限界だ!両手を広げ、若者達に向かって踏み込む!

 落垣&日峰は顔を引き攣らせて怯み数歩後退をする。しかし、既に間合いを空けている相良は、スマホで「怒れるバルミィ」を撮影しながらせせら笑う。


 次の瞬間、光の矢が飛んで来て、踏み込みかけたバルミィの眼前を通過!バルミィの突進を妨害して、塀に着弾して弾けて消えた!

 辛うじて踏み止まったバルミィの眼前を、2射の光の矢が通過!後退をして、矢の飛んで来た方向を睨み付けるバルミィ!屋根の上で、弓を構え、光の矢を番えたセラフ(麻由)が、バルミィに鏃を向けて構えている!


「いけません、バルミィさん!気持ちを落ち着けて退いて下さい!」

「麻由・・・なんで・・・ボクの邪魔を!?」

「もし、その者達への攻撃を踏み止まらないなら、

 アナタの足を射貫いてでも、アナタを止めます!」




-杉田邸-


「ねぇ、ミホ?なんで、バルミィが人を殴るのゎダメなの?

 悪い奴なら、ちょとくらいィィんぢゃね?」


 少しイライラが収まったが、まだ納得のできていない紅葉が、美穂に尋ねる。


「あたしやオマエは日本人だ。

 多少はヤンチャをしても、情状酌量とか、正当防衛とか、

 少年法なんかで守られて、マスコミにも名前が出ない。

 それでも、停学とかはあって、

 やり過ぎちゃえば、世間からは白い目で見られる」

「ふぇ?ミホ、詳しいねぇ?」

「まぁ、ダテに3回も高2をやってるわけじゃねーよ。

 何処までやっちゃうと少年法でもアウトか、

 何処までなら停学にならずに済むか、そのくらいは知っている。

 だけど、バルミィの場合、いくら文架の名誉市民と言っても宇宙人なんだ。

 守ってくれる法律は無い。

 バルミィが地球の滞在する為の制約があるだけ。

 ただでさえ、知名度が高くて、何をしても人目を引いて話題になっちまうのに、

 アイツを守る法律は何も無くて、制約を破れば地球には居られなくなる」


「で、でも、嫌な奴をギャフンと言わせるくらいなら1回くらいゎ大目に・・・」

「その『1回くらい』が大きな間違いなんだよ。

 どんな理由の『1回くらい』でも、ネットに拡散をしたら止める事はできない。

 我慢を続けるか、堪忍袋の緒が切れるか、ゼロか1、それが大きな差なんだ。

 1回くらいなら大目に見る、

 2回目だけどこれで最後にする、

 3回目だけど前に2回やってるから良いや、

 ・・・あとは、転がり落ちていくだけ。

 気が付いた時には引き返せなくなっている」

「ふぅ~ん・・・そうなのかなぁ?」

「ピンと来ないだろ?

 正直言って、あたしだって、口で言うほど上手く我慢できない。

 実際に現地に行って犯人と遭遇したら、頭に血が上る。

 『バルミィが怒り任せに行動しても仕方が無い』って見ないフリすると思う。

 でもそれじゃ、やがてバルミィは地球から去らなきゃならない。

 だから『1回くらい』って妥協を絶対にしない、クソ真面目な麻由が良いんだ。

 友達を失う事を誰よりも怖がる麻由が、バルミィを止めるには最適なんだよ」




-優麗高・正門前-


 落垣&日峰がポカンと口を開けて、バルミィとセラフを交互に見回す。宇宙人のバルミィよりも人間的要素の少ない黄色い怪人(?)が出現して、弓矢でバルミィを狙っている。最近、巷で噂のピンクの鎧武者ゲンジや白い騎士ネメシスとは形が違う。コスプレ好きの変なヤツなのか、人外なのか、判断が出来ない。

 相良だけは、それが何なのか理解をしている。先日の戦いで敵対するグループに居た奴だ。


「おいおい、邪魔をすんな!今は俺達が、その宇宙人と話してんだぞ!」


 セラフは、相良の苦情など相手にせず、弓を押して弦を限界まで引いて、バルミィだけを見つめている。


「拳を降ろして下さいバルミィさん!」

「・・・・・・なんで、ボクの邪魔を?なんで、コイツ等の味方を?」


 セラフが右手の力を抜けば、光の矢は直ぐにでもバルミィ目掛けて飛んでくるだろう。


「おい、無視すんなっての!日本語が解んねえのか!?」


 セラフは、苦情を飛ばす相良には見向きもしない。一方のバルミィは、「セラフは本気」と判断して、相良達を後回しにして、セラフと同じ屋根の上に飛び上がる。セラフは数歩後退して間合いを空けつつ、再び鏃をバルミィに向ける。


「何のつもりばるっ!」

「ハッタリではありません!私は本気です!

 それでもアナタは、その者達に攻撃をするつもりですか?」

「戦いたくなきゃ、麻由は引っ込んでるばるっ!でもボクの邪魔をするなっ!」

「いいえ!何を言われようとも、私はアナタの邪魔をします!」

「麻由は腰抜けだから解らないばるっ!

 ボクは、アイツ等にプライドを傷付けられてるばるっ!

 ボクには意地があるばるっ!

 このまんま舐められっぱなしで、黙ってる事なんて出来ないばるっ!」

「その意地やプライドと、紅葉達との絆や信頼と、

 アナタはどちらが大切なのですか!?

 今ここで、アナタが守ろうとしているプライドとは、

 それほど大切な物なんですか!?」

「・・・・・・・・・・・・・・ばるっ!?」


 民家の屋根の上で睨み合うセラフとバルミィ。セラフは弓矢を構えたまま、全く退く気配が無い。セラフとバルミィの間で、沈黙と緊張が流れる。


  『その様な下賤を相手に拳を振るったら、汝の名が汚れるぞ!』


 少し冷静さを取り戻したバルミィの脳裏に、羽里野山でのヴラドの言葉が過ぎる。ヴラドの「オヨメサン」に成る気はないが、自分を重んじてくれるヴラドをガッカリさせたくない。セラフの言い分は正論だ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わ、わかった・・・ばる。

 みんな(紅葉達)の方が・・・大切ばるっ。

 みんなと一緒に居られるなら、カス共の嫌がらせなんて、どうでも良いばる」


 振り上げていた両手を降ろし、深呼吸をするバルミィ。一方のセラフは、仮面の下で安堵の表情を浮かべ、構えていた弓矢を下げる。


「お願いを聞いていただけた事、感謝いたします」

「弓矢で脅しておいて、随分と乱暴な『お願い』ばるっ!」

「はい、『お願い』です。・・・さぁ、帰りましょうか?」

「・・・ばるっ?」


 踵を返し、3人の男達には目もくれずに、屋根の上を歩き出すセラフ。バルミィは、塀の落書きと3人の男を気にしつつ、セラフの後を追う。男達は、セラフとバルミィに汚い罵声を浴びせるが、セラフは「聞こえてないんじゃないか?」ってくらい全く相手にしない。

 やがて、屋根から学校とは反対側の路地に飛び降りて、男達が見えなくなったところで、人目が無い事を確認して変身を解除して麻由の姿に戻る。バルミィが高さ1mくらいの宙に浮いて、「乗れ」と合図をしたので、麻由はバルミィの背中に跨がる。麻由を乗せて空高く飛び上がるバルミィ。


「ねぇ、麻由?アイツ等はガン無視ばるか?」

「はい、無視です。あんな連中、相手にする価値は有りません。

 あのような下らない主張ばかりする連中は、

 相手をするから付け上がるのです」

「放っておいたら、また、ボクの悪口を書きまくるばるっ!」

「書きたければ、勝手に書かせておきましょう。

 他人の所有物に落書きをするのは立派な犯罪です。

 バルミィさんが目くじらを立てなくても、

 文架市全域が落書きだらけになる前に、

 自治体や警察が、しかるべき処置をしてくれますよ。

 相手にすれば調子に乗る、こちらがムキになれば面白がる。

 何をしても無駄なんですから放っておくのが一番なんです。」


「・・・ばるっ!

 そう言えば、ボクが怒ったところ、動画で撮影されちゃったばるっ!」

「自分達に都合の悪い部分をカットして、ネットに流出させる気でしょうね」

「・・・・・・・・・・・・・ムカ付くばるっ!」

「安心して下さい。一部始終は、私のスマホでも撮影しました。

 彼等が、都合の良い動画を流出させた場合は、

 こちらは全ての動画を、しかるべき機関に提出して、

 どちらに非があるのか判定してもらえば良いだけです。

 バルミィさんは怒りましたけど、暴力を振るっていません。

 間違いなく彼等が赤恥をかく事になりますよ。」

「ばるるっ!其処まで考えていたばるか?・・・麻由、ちょっと凄いばるっ!」


 麻由の話を聞いているうちに、バルミィの気持ちは晴れてきた。「物事が上手く噛み合わない時の麻由はヘタレだが、上手く噛み合った時の麻由は大した物だ」と少し見直した。

 麻由を背に乗せたバルミィは、空に浮かぶお月様を眺めながら、紅葉達の待つ杉田邸に向かって飛んでいく。




-杉田邸-


 戻ってきた麻由とバルミィは、羽里野山の一件も含めて、皆に報告をする。


「ところで、麻由?よく、スマホで一連を撮影する事なんて思い付いたな?

 あたしでも、カッカ来ちゃって、

 咄嗟の判断では、そこまでは出来なかったと思うぞ。」

「すげ~!マユ、すげ~!」

「さすがは葛城さんですね!」

「ばるばる!ガン無視ってのも大したもんばるっ!

 麻由の機転で助かったばるよ!」

「あら?そうですか?全然、大した事ではないと思いますが・・・。」

「いやいや、撮影もガン無視も大正解!

 どうして、そんな冷静に対処できたんだ?」

「簡単な事ですよ。

 相手は、直接手を汚さずに、

 バルミィさんを地球から追い出すつもりだったんですよね?

 ならば、先ずは、その人達の立場で物事を考え、

 その上で、その人達が困る手段を考えて実行すれば良いだけですからね」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へぇ~」×4


 麻由は、珍しく爽やかな笑顔を振り撒いている。・・・で、麻由を尻目に見ながら、美穂&紅葉&真奈&バルがコソコソと会話をする。


(アイツ・・・紅葉以上の天然だから、

 爆弾発言した事に気付いてないんだろうけど、

 その気になったら、いつでもバルミィを追い出せるって事・・・になるのかな?

 アイツって、優麗祭の頃は、あたし等やバルミィの事を嫌ってたっけ?

 もしアイツを追い詰めていたら、

 アイツがバルミィ追い出す作戦を実行してても不思議じゃなかったって事か?)

(こわっ!マユ、超こわっ!)

(葛城さんなら・・・もの凄く冷めた眼をして実行しそうですね)

(そうなる前に仲間になってくれて助かった)

(マユは、もうしばらくは、本領を発揮しないでヘタレのままで良いばる)


 バルミィは「物事が上手く噛み合わない時の麻由はヘタレだが、上手く噛み合った時の麻由は大した物だ」と少し見直した。・・・が、チョット怖いので、「麻由の場合は物事が上手く噛み合わない方が良い」・・・と、ほんのチョットだけ思ってしまった。




-郊外の道路-


 相良が運転して、落垣&日峰を乗せた車が、通りの無い農免道路を爆走する。行き先は、ユカリが待つアジト(廃屋)だ。既にユカリには「バルカン人を追い出す作戦がある」と連絡をしてある。

 笑いが止まらない。何度表情を引き締めても笑いが込み上げてくる。怒れるバルミィの動画はシッカリと撮影した。加工して、凶悪な宇宙人が、怯える一般市民を恫喝する動画をネットで拡散させれば、バルミィの評判は地に落ちて、地球には居られなくなる。当初は、バルミィを捕獲してユカリに差し出すつもりだったが、捕獲は出来そうにないので、地球から追い出す作戦に変えた。


 余程、浮かれているのだろう。3人の若者は、数十m先の路肩に立つ巨体の影には、全く気付かなかった。ヴラド3世が走ってくる暴走車を睨み付ける。


「嘆かわしい。どうにもならぬ愚民とは・・・いつの世にも存在するのだな。

 元同胞ヘイグのマスターゆえに一度は許した」


 ヴラドは、丹田に力を込めて気合いを発した!すると、首からぶら下げた懐中時計が反応をして禍々しい光を放ち、全身が鮮血のような紅い鎧で覆われる!マスクドヴラド変身完了!その横を、暴走車が通過をする!


「ミーメは見逃した。・・・それで良い!!

 咎人に手を下すのは、妃の仕事に非ず!妃が血で汚れる必要は無い!

 罪人を罰するは・・・王の努めなり!!」


 マスクドヴラドの手に巨大杭=ツェペシュメイスが出現!魔力を込め、遠ざかって行くテールランプに向かって、やり投げのようにして放り投げる!巨大杭は轟音を上げて飛び、暴走車が通過した直後の道路に突き刺さった!


 カズィクル・ベイ発動!!

 地面から無数の杭が出現して、暴走車に突き刺さって押し上げた!燃料タンクに致命的な穴を空き、車は爆発炎上!


 杭の山は消え、愚民の処刑を終えたヴラドが、穴だらけの車から上がる業火に照らされながら、アジト(廃墟)へと戻っていく。

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