からの井戸
蛙も詩的。
長いこと棲みついていた蛙を
大海を見てこいと送り出して
棲むものの居なくなった からの井戸
深くに湛えた水面を揺らす平泳ぎが
まあるく輪を描いた石壁に 響き渡る鳴き声が
懐かしくも恋しい
もう 戻って来るんじゃないぞと
きつぅく言い含めて 送り出したのに
心のどこかであの蛙が
大海の荒波にやぶれて
がっかりと肩を落としつつも
苦笑いを浮かべながら
いつの日か帰ってくるんじゃないかって
待ち焦がれてる
そのくせ 荒波に翻弄されながらも ちゃんと
ひとかどの海坊主にでもなって
クジラや大ダコと覇権を争ってほしいと願う想いも
嘘っぱちじゃない
きょうは やっぱり帰ってきて
また井戸に棲みつく蛙を
あしたは けっして帰ってこずに
むこうでよろしくやってる蛙を
かわるがわる想像しながら
ひとりぼっちの夜を幾つも明かす からの井戸
どっちにころぶにしろ
からの井戸のそんな親心を
蛙のやつも わかってることだろうさ
アマガエルみたいなのがいいな。