SF作家のアキバ事件簿203 萌えコン殺人事件
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第203話「萌えコン殺人事件」。さて、今回は秋葉原のミスコンのリハ中に出場者が死体で発見されます。
美女同士の嫉妬が渦巻く舞台裏で、何が起きたのか?捜査線上に浮かぶ、悪のホテル王、元クイーン、コンサルタント、俳優崩れのMC…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 萌えコン2024
"レコル・アクシヲム"。悪人が集い、身を潜める場所。人々は"悪の巣窟ホテル"と呼び、怯える。
だが、今宵は!
美しきメイド達が、コレオグラファーの指示で躍動美あふれるダンスを披露して、歓声が弾ける。
髪を振り乱し、腰を振り、歓声を挙げるメイド達をかき分け、蝶タイのMCがフロントに躍り出る。
"バロム'sオール秋葉原 萌えメイドビューティーページェント2024"atザ・秋葉原ヒルズのリハ中だ。
「OK。ココでシャンデリアを上げてくれ。スタンバイ…」
ボールホールの天井から照明器具が降りて来くるが悲鳴!顔を覆うメイド達。降りて来た照明器具に…
@ポエムのメイドの死体が載っている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「メイミン?確かに老舗の御屋敷だけど、店外交友が禁止ょ?お付き合い出来なくなっちゃう」
「スピア、誰と電話してルンだ?」
「シュリ、ちょっと待って。テリィたんが何か言ってる…秋葉原から出た方が良いわ。私も秋葉原を出たいし」
スピアは御屋敷のカウンターで長電話をしている。
「じゃ切るね。また後で。私も大好き。じゃ」
「スピア、アキバから出たいのか?」
「ううん。一生秋葉原にいるわ。テリィたんと一緒にココで暮らす」
どーやら彼女は寝不足らしいw
「今カレのシュリが、ジェラート音楽院に受かった」
「そりゃスゴい。名門だ」
「統計を調べたの。彼氏が秋葉原の外に行くと、高確率で別れルンだって。私も彼も離れ離れになるのは嫌。でも私のせいで秋葉原に縛りつけるのは、もっと嫌なの。どうすれば良いと思う?」
答えは簡単だ。
「確率が低くても賭けてみたらどうだ?」
「いつもメイドカジノでボロ負けしてるくせに、よく言うわ」
「きっとなんとかなるに賭けるんだ。いずれ答えが見つかる」
ココで僕のスマホが鳴る。スピアがコール。
「またスーパーヒロインが死んだ、に賭けるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
秋葉原ヒルズのホテルタワー35Fからペントハウスまでは、悪の巣窟ホテル"レコル・アクシヲム"が占めている。
「バロム・ワンダのホテルで殺人?秋葉原ヒルズのホテルタワーだろう?で、殺されたのはバロム自身か?」
「違うけど、がっかりしないで。テリィたん好みの事件だから」
「何が?」
殺人現場で万世橋の敏腕警部ラギィと落ち合う。
「被害者は"萌えコンテスト"の出場メイドで"覚醒"してる。弱度のテレパス」
「萌えコン殺人事件か。ソレ良いね」
「もっと頻繁に起きてもおかしくないわ…とにかく、今回も合同捜査だわ。よろしくね」
現場は"レコル・アクシヲム"最大のボールルームで、司会者や出演メイド達でゴッタ返している。
「お?秋葉原パパのボビル・スタクだ。なぜココにいるンだろう」
「え。萌えコンの司会者ょ。知らないの?まさか、彼のドラマを見てるとか言わないで」
「もちろん見てる。彼のドラマを見てヲタクの父親とは、どうあるべきかを学ぶんだ」
先行してたヲタッキーズのエアリ&マリレと合流。因みに彼女達もメイド服。ココはアキバだからね。
「状況はどう?」
「萌えコンのステージマネージャーに話を聞いた。被害者は21才のアンバ・ミベリ。萌えコンのメイド達は萌えコンのリハーサル途中で、照明器具を下ろしたところ、彼女の遺体が載っていたそうょ」
「それ衝撃的な降臨だな」
遺体にかがみ込むラギィ。
「パール・マタァ、どう?」
「よぉ警部さん…SF作家もな」
「死因は?」
「後ろからコンテストのタスキで首を絞められてる。死亡時刻は、恐らく夜の23時から正午だろう」
パール・マタァは万世橋のベテラン鑑識だ。
「なぜ死体があんなところに?」
「昨夜、照明器具はステージ上に置きっぱなしだった。きっと犯人は遺体を載せてから引き上げたんだわ」
「つまり、舞台機材を扱える奴が犯人ってコトだ」
「うーん。でも、操作はタッチパネルで誰にでも出来るみたい」
ヲタッキーズと意見交換。ラギィは質問。
「最後の目撃者は?」
「昨夜メイド達は、バロム主催の夕食会に参加してるわ。ホテルにリムジンで戻ったのは22時半。キーカードの記録だと、アンバは22時43分に自分の部屋に入って、今に至る」
「コレを見てくれ」
パールが、ビニールの証拠品袋に入った黒いスパンコールを見せる。
「これが遺体の髪についてた」
「殺された時に付着したのね。昨夜、このボールルームに誰が入ったかを調べて。あと誰がスパンコールの衣装を着てたかをステージマネージャーの彼女に聞いてみて。ソレから、アンバに家族はいたのかしら?」
「父親が来てるわ。あそこ」
マリレが指差す。激高スル禿げた父親を、ステージマネージャーと思しき女性が必死になだめている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「娘がミスコンを始めたのは9歳の時だった。私は最初は反対してたんだが、妻が熱心だった。その妻が亡くなっても、娘はミスコンを辞めなかった。妻を身近に感じるために続けていたんだと思う」
「娘さんに敵はいませんでしたか?」
「いない。みんなから愛されていた」
父親なら誰でもそう答えるだろう。
「出場メイドの中にライバルとかは?」
「ほとんどがコンテストの常連で、小さい頃からの付き合いだ。娘が準決勝に進んだ時も、みんなで喜んでくれたよ。萌えコンで勝つのが娘の夢だったんだ」
「最後に話したのはいつ?」
「昨日の朝だ。夕食会の後も頑張れと伝えたくて電話したが、娘は電話に出なかった」
「それは何時ですか?」
「23時ちょっと前だ。てっきり寝たのかと思ってたが、部屋を出てココに来ていたんだな。何か理由があって」
落ち込む父親を尻目に、ホテルオーナーのバロムが登場スル。殺人現場がグッと華やかな感じになるw
「お悔やみ申し上げるよ。犯人は必ず見つける」
「バロムさん、どうも」
「元気を出すんだ」
父親の肩を叩くバロム。
「警部さん達、ちょっと来てくれるかな」
金髪の美人秘書を連れて先を歩くバロム。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あぁ!栄光のバロム・ワンダの美人コンテストに悲しい歴史が刻まれてしまった!」
「バロム。なんて恐ろしい話なの!」
「妻のケイラだ。2019年の萌えコン優勝者だ」
すかさず握手。
「もちろん知ってるよ。接戦を制した」
「よろしく。警部のラギィです」
「こちらこそよろしくね。みんな悲しんでるわ。私達は家族だもの」
完璧な応答だw
「彼女とは親しかった?」
「モチロンだ。優しい子でバイオリンが上手かった」
「そうだったわ」
しかも、完璧な夫唱婦随。金で雇ってるのか?
「約束する。我等"レコル・アクシヲム"従業員一同は全力で捜査に協力する。必要なコトがあれば何でも言ってくれ。だが、お願いしたいコトもある。つまり、その、金曜日にコンテストの生放送があるんだ。出場者のためにマスコミ向けのリークを最小限にしていただきたい。出演者たちの名誉のためだ」
自分の名誉のためだろw
「それより被害者のことが第一です。ソレにマスコミと言えば、撮影を止めてください。殺人の捜査なので」
「いいや。こういうのも撮影しないと。コンテストの裏側も全て撮影してるんだ。きらびやかなメイド達の裏の素顔が見られるとなれば、視聴者は、もう大喜びさ。地上波の復権だ!」
「あぁ地上波の放映が待ち遠しいわ!」
相槌も完璧だ!さすが主催者に迎合No.1の萌えコン優勝者だな。ホレボレ見惚れてラギィに睨まれる。
「だが、今はやめといたほうが良いな」
空気を読んだバロムが親指でクルーを追い払う。
「出場者は全員このホテルに?」
「そうだ」
「アンバの部屋を調べます。あと防犯カメラの映像をください。昨夜の夕食会の映像はありますか?」
「もちろんだ」
「出場者達から事情も聴取します」
「わかった。ステージマネージャーのキャン・ディスに準備させよう」
ホテル王は両手を広げる。
「ありがとう。では失礼します」
手を振る金髪妻のケイラ。
「また来てね」
「おい。余り来てもらっても困ルンだ」
「そうだわ。もう来ないで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部に戻るエレベーターの中。
「アンバはおとぎ話を夢見て秋葉原に来たのに、最後はホラーで終わった」
「おとぎ話?萌えコンは人間の美しい部分と醜い部分を引き出す闘いなの。ものすごいプレッシャーのかかる総力戦の"戦争"ナンだから」
「詳しいんだな。まるで経験者が言うようなセリフだ。まさかラギィも出てたの?」
「出てません!萌えコンには…ルームメイトのデビラが出場者で、もうキャピキャピですごかったんだから」
エレベーターのドアが開く。
「これはこれは…懐かしい光景だろう?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に立ち上がったばかりの捜査本部が美人メイドで溢れてる。全員がお揃いのサテンのメイド服。店名入りのタスキ。
「猫背になってる!それじゃ勝てないわ!」
ステージママ同伴のメイドもいて、背中をピシャっと叩かれてる。まさか…事情聴取もママ同伴か?
「見て見て!みんなキャピキャピよ」
「デパートの香水売り場の匂いだ。普段ここには悪党しかいないのに」
「彼女たちも、ある意味、悪党よ」
コンテスト出場者をかき分けるヲタッキーズ。
「例のスパンコールがついた衣装を着てるメイドだけど調べてみたわ」
「エアリ、楽しそうだな」
「バッカじゃない?仕事ょ…夕食会の時の衣装も調べてみる。映像があるから」
メイド服の美女達の夕食会をチェック?大好物だ!
「ねぇ萌えコン出場者全員と話し終わったわ」
「マリレ、ホントに楽しそうだ」
「マジ?何言ってんの?昨日の夜のアリバイについて気になる話があるから来て」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
会議室にメイド服の黒ギャル。長い髪。
「ナタサ、夕食会後の話をして」
「ホテルで戻ってステージでダンスの練習をしようと思ってたの。ホラ、準決勝に進んだから、私のダンスが秋葉原中に流れることになったでしょ?」
「おめでとう、ナタサ」
「ありがと。ビッグバンドのリズムに合わせてセクシーにダンスを踊るの」
面白そうに僕の顔を覗き込むラギィ。ヨダレが…
「それで?」
「部屋でスウェットに着替えてステージに行ったら聞いちゃったの」
「何を?」
「喧嘩よ。控え室から聞こえてきたわ。アンバと男の声だった」
どーやら、重要参考人を発見だ。
「その男を見た?」
「いいえ、喧嘩が白熱してたから私、逃げたの。でも、後悔してる。その男がアンバを殺したのかもしれないでしょ?」
「男の声に聞き覚えはなかった?」
「なかったわ」
「内容は?」
「なぜそんなことをするの!とか、何様のつもり!とか…まるで恋人同士みたいだった」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に立ち上がった捜査本部。殺されたアンバが"覚醒"してたから警察とSATOの合同捜査。
あ、南秋葉原条約機構というのは、アキバに開いた"リアルの裂け目"に対応スル人類側の組織だ。
「父親も他の出場メイドも、アンバの恋人の存在を知らなかったわ」
「内緒に付き合ってたのか」
「アンバが雇ったコンサルタントのジステ・ハケル。萌えコン用のコンサルタントなんだけど、何か知ってるかも」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とゆーワケで捜査本部に呼ばれるコンサルタント。
「私が指導したわ。ダンス、スタイリング、化粧、彼女が苦手な質疑応答やバイオリンの稽古まで。彼女が優勝出来るように全力を尽くしたわ」
女言葉だが男子です。念のためw
「親しかったのね」
「萌えコンは、美人だからって勝てるわけじゃない。頭脳や才能も必要なの。でも、優勝すればキャリアアップの大チャンスになるし、何より賞金が入るわ」
「彼女に恋人は?」
何気な質疑に食ってかかるジステ。
「恋愛は禁止。それが私のルールだった。アンバも従ってた。100%萌えコンに集中しないと勝てない。彼女も"分水嶺"を理解してた」
「事件の夜、誰と討論してたかわかる?」
「さぁ?最後に会ったのは夕食会の前。何か様子がおかしかったわ」
頭をヒネるコンサル。
「どんな様子?」
「ここ数日はイライラしてるようで、それに衣装合わせの時には泣き顔で現れたっけ」
「泣き顔?」
美人の泣き顔。見たいな。
「誰かに騙されたみたい。誰にって聞いても自分で何とかスルとしか彼女は言わなかった。普段なら相談してくれるのに…」
「誰だか見当つかないか?」
「萌えコンって、相当なプレッシャーなのよ。計算高くなっちゃう子もいるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
引き続き、捜査本部。思案顔のラギィ。
「計算高い出場者は優勝すれば、名声もお金も手に入るわ」
「つまり、計算高い出場者が犯人だな」
「まぁ確かに優勝すれば名声もお金も手に入るから。でも、準優勝じゃ何もないわ」
「殺人の動機にはなるけどね。喧嘩の相手は謎のままだな」
エアリが割って入る。PC画面を指差す。
「ラギィ。ちょっと見て」
「怪しい出場者?」
「先ずは見て」
"私は小さい頃から…"
「昨日の夕食会の映像なの。スピーチしてるのが被害者のアンバ」
PC画面の中でマイクを握り、スピーチをしている美人メイド。寄り添うように立つMCのスタク。
「アンバは、必死にバロムに媚を売っているわ。で、面白いのはココからょ」
スピーチを終えアンバはマイクをスタクに渡す。スタクが何事か耳元で囁くとアンバは凄まじい形相w
「すごい顔。スタクが言ったコトに過敏に反応しているわ」
「表情だけじゃないぞ。ラギィ、スタクのタキシードを見ろょ」
「あら」
スタクは、黒いスパンコールのジャケットだ。
第2章 バイオリンケースの中身
捜査本部。
「ラギィ!ボビル・スタクのタクシードをヒルズの衣装係から借りてきた」
「奴のカードは?」
「バッチリ一致したわ」
ヲタッキーズの2人がスタクの身元を洗濯中だ。
「色々わかったわ」
「もしかして、前科?」
「違う。でも、相当悪名が高いわ。去年だけで3人の女子から接近禁止命令を出されてる。どうやら、お誘いが強引過ぎるみたい」
「でも、全然ワイドショーが騒いでナイけど」
「ボビル・スタクは、金でスキャンダルをもみ消してる。あと噂によると、最近はアンバに目をつけてたみたい」
「そして強引に誘ったか」
僕はニヤリ。ラギィもニヤリ。
「そして、断られ逆上して殺したのカモ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とゆーワケで捜査本部に呼ばれるスタク。容疑者なので取調室直行だが…鏡に向かって一人芝居中だw
「お前、何を見てるんだ!」
「スタクさん?何?」
「他には誰もいない。お前、俺を見てたな」
取調室の鏡に向かってスタクは一人芝居を続行。アレはマジックミラーで裏ではヲタッキーズが笑いを堪えてるw
「スタクさん。座ってください」
「どうだ?デニーロに似てただろう?」
「そのセリフ、人殺し役の時だ」
僕の鋭い指摘をまるで聞き流し、何とラギィの隣に腰を下ろすスタク。さしものラギィも驚くw
「名演技だったろう。誰も知らないんだ。いつも優しいヲタクのパパ役しか回って来ないからな」
「大丈夫。今回は殺人の容疑がかけられてるから心配ナイわ」
「殺人?マジかよ」
「スタクさん。アンバとの関係は?」
無表情に突っ込むラギィ。慌てるスタク。
「おい、マジかよ?殺してないさ。俺は勧誘していただけだ」
「何の勧誘?」
「俺の…"電車"に乗ってみないかと」
電車?
「個人的な萌えコンみたいなモノだ。俺の"ロケット特急"さ」
「素敵なお誘いだけど、アンバはどんな反応だった?乗車したの?」
「あともう少しだった。ジラしてたトコロさ。女なら、みんなスタク超特急に乗りたがるだろ?」
顔を覗き込まれ、首を振るラギィ。
「ホントはこーなんじゃない?夕食後、貴方はアンバを楽屋に呼んだ。そこで、また"電車"に誘ったんじゃない?」
「そして、彼女に拒絶され、逆上し首を絞めた。あ、君なら舞台の照明機材も熟知しているな」
「何だソレ?2人共バカなコト言うな!」
「じゃ何故あなたのジャケットのスパンコールがアンバの髪についていたの?」
ラギィは、ビニールの証拠品袋に入ったスパンコールを突き出す。息を呑むスタク。しばし絶句w
「昨夜の23時から1時の間、何してた?」
「実は…ベロベロに酔っ払っていて、よく覚えてないんだ」
「誰といたんだ?」
「さぁ?イチゴのオイルを塗ってる誰かだ。朝、起きたら…」
「昨夜何をしてたかも覚えてないのか?」
「YES…確かにコレはマズいな」
頭を抱えるスタク。呆れる僕達。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室からホウホウノテイで出て来る僕達。容疑者と立場が逆だ。
「アレはドラッグを相当やってた者の言動ね」
「アイツからヲタクの父親とはどうあるべきかを学んでいたのに…彼が殺人の容疑者だなんて信じられないよ」
「薬で腐敗した獣ょ」
厳しいな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部に入るとエアリが寄って来る。
「エアリ。スタクの通話記録を調べて。ホテルの防犯カメラも再チェックよ。スタクが殺害現場にいたと言う証拠が欲しいの」
「じゃコレはどう?」
「え。何?」
PCを開くエアリ。
「夕食会の画像ナンだけど、アンバは夕食会の時はバイオリンケースを持っていたけど、現場のどこにも見つからないのょね」
「ホテルの部屋にあるんじゃないの?」
「警官が調べたけど、部屋にはなかった。父親もコンサルタントを見てないわ」
何処か自慢げなエアリ。何なんだw
「殺された時に持っていたとか」
「そして、スタクが捨てたのね。ホテルの周辺のゴミ捨て場を調べて。殺害の証拠になるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「萌えコンですか。昔から変わりませんね…ほら、ありましたキャッ!」
ミユリさんの萌えコン画像!水着だっ!
「ミユリさんも萌えコンに出場してたのか」
「優勝は逃しました。昔からライバル達は、冷酷で容赦なかったです」
「ミユリさんのセールスポイントは何?」
「レオタードの着こなし。あ、おかえり」
常連のスピア…だが、ドップリ沈んでる。
「どうした?」
「シェラが覚悟を決めたわ」
「ジェラート音楽院?NYだ」
「違う。アキバ工科大学」
「名門だ。賢い選択だな」
「彼のミュージシャンになる夢を私が邪魔をしたコトになる。だから、私も決心した…別れるわ」
「そうだったの。かわいそうに」
スピアを抱きしめるミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜明け。万世橋が朝焼けに染まる。
「合理的な決断ね。どうせ関係は続かないもの」
「おいおい。恋愛は数学とは違う。運命の人と出会っても合理的じゃないからといって諦めろと言うのか」
「そーは言ってないわ…マリレ、スタクはどう?」
「事件の夜23時半に女とラブホに入る姿をパパラッチに撮られてた。1時にホテルを出てから、メイド泥レスを観戦してる」
「じゃあ23時から23時半は?」
「タクシーでラブホに向かってた」
「なぜわかるの?」
「タクシーの中で誰かのブラとパンティをアップしてるから」
「やっぽりそーゆー時はTwitterなのかな(旧X)」
「スパンコールは無関係か…スタクを家に帰して」
「ROG」
ラギィは溜め息だ。
「コレでまた振り出しに戻ったわ」
「そうでもないわ」
「マリレ?」
証拠品用のビニール袋に包まれた黒い楽器ケースを示す。おお、大発見だ。
「行方不明だったアンバのバイオリンを見つけた」
「やったー。どこで?」
「ホテルタワーの裏のゴミ箱だ」
「犯人が捨てたのか。やっぱりスタクが犯人だな」
自信を深めるラギィ。
「指紋がついてた?」
「ついてた。アンバともう1人の指紋がベッタリ」
「もう1人?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室にMissメイミンがいる。アキバの老舗御屋敷"メイミン"のNo.級のメイド。今は私服だが。
「アンバとは昔からの友人よ。私がなぜ殺すの?」
「貴女の指紋がバイオリンケースに付着していたの。アンバは夕食会の後、ケースを持っていた。そのケースにナゼ貴女の指紋が?」
「タイツを直す間、持っててあげたの」
「バイオリン本体にも指紋が付いてたわ」
途端に追い詰められた獣の表情になる。
「あの子が準決勝に進むなんて…いつもは苦手な質疑応答も彼女はバッチリだった。彼女の答えにみんな感動してたわ。優勝は確定よ」
「だから、殺してバイオリンを捨てたの?」
「そうじゃないわ。彼女はホテルに戻ると、また直ぐ出かけた。ドアが開いてたから閉めに行ったらバイオリンが目に入った。ポツンと置いてあった。まるで何かのシルシみたいだったわ。こう思ったの。私はどれだけ優勝したいのかしらって」
彼女、なかなか語るなw
「で、どれだけ勝ちたかった?」
「死んでもOKなくらい。私は25才。もう相席屋回りも無理。一緒に夜遊びしてくれる友達もいないヲバさん。来年からは萌えコンにも出場出来ない。でも、バイオリンさえ無ければ、今年の私は彼女に勝てると思った」
「それだけじゃ満足できず、アンバを殺した?」
「まさか。私は、彼女が死んだと聞いてパニックになり、バイオリンを捨てただけ」
思わず肩を落とす僕達。
「君、頑張って演技してるのはわかるけど、審査員には通じないぜ」
「神田明神に誓う。でもね、誰かが殺さなくても、どうせ彼女は失格になってた。バイオリンケースに隠されてあったの。激ヤバなモノが」
「激ヤバなモノ?」
窮鼠ニヤリと笑う←
「彼女が殺された理由ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
誰もいない楽屋。無駄に華やか。
「コレがバレたらアンバはもう萌えコンに出場出来なくなるわ」
化粧前灯りの中で黄色い封筒を渡される。中には、大判の写真が入ってて…思わズ息を飲むw
「コ、コレはスゴい!彼女は完全に…」
「全裸だわ」
「裏にメッセージがあるわ」
ラギィが写真を裏返す。
「"要求を飲まないと潰すぞ"…何コレ?」
「彼女は、脅迫されていたの」
「そして、脅迫だけでは終わらなかったのか」
第3章 ヌード写真流出!
捜査本部のホワイトボードに張り出される…その、あの、何と申しますか、アンバのフルヌード写真w
「萌えコン出場者のヌード写真。まぁリアルじゃよくある話だ。こういうのって、必ず流出するんだよな」
「アンバは、萌えコンで不利になるってわかってたのに、何でヌードを撮らせたのかしら…挑むような視線。コレ、間違いなくカメラ目線だわ」
「美人で賢いけど、判断力がなかっただけの話だ。美人にはよくある話さ…いや。アンバの話だよ」
うなずくラギィ。エアリが割って入る。
「父親に電話したわ。気まずい会話だった」
「写真について知らなかったのかな」
「あと、お金を借りてもいなかった」
「じゃ脅迫犯には自分で払ったのかしら」
「ラギィ、ソレ無理。アンバは有り金は全て靴やドレスにハタいてた。トマト銀行には500円しか残ってない。そもそも最近は金を引き出した形跡もないわ」
僕も思い当たるフシがアル。
「彼女はイライラしてたって誰かが言ってたけど、そのせいだったのか」
「でも、なぜ脅迫犯が彼女を殺すの?」
「通報されそうになったんだ。それで"恐怖の行動"に出た…"恐怖の行動"?次作のタイトルに使えそうだな」
忘れないようにメモ帳に撃ち込む。
「スマホ、も1度調べたけど、やっぱり不審な着信は無い。脅迫犯はホテルの電話にかけたのね」
「テリィたん、ヌード写真は見た?」
「意外に安産型だ」
「じゃなくて、この照明に構図。写真に詳しい人が撮ってるわ」
「プロってコト?」
「よくある話なの。カメラマンが撮影の合間にお小遣いをあげて、モデルにヌードを撮ってあげると持ちかける。モチロン、誰にも見せないと約束をしてね」
「そしてその子が売れたら流出させるワケか。しかし、ラギィは何でそんなに地下モデルの事情に詳し…」
「エアリ!過去にアンバを撮影したカメラマンのリストをもらってきて。その中に凶悪犯がいるかもしれないわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コンサルと、あの無駄に華やかな楽屋で会う。
「だから、彼女はイライラしてたのね。バレたら全部が台無しになるわ。でも、もうどうでも良いわ。私に相談もしないで、全く」
念のため。女言葉だが…(以下省略)。
「誰が撮影したか分からない?」
「この髪型って事は、半年前ね。カレンダーを見て来るわ」
「お願い」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
撮影スタジオを出ながらスマホを抜くエアリ。
「あの写真は半年前に撮られた。撮影のため秋葉原に来てた可能性が高いそうょ」
「カメラマンは?」
「ダクス・ラテマ」
「前科は?」
「ないみたいだけど…どうやら間違いはなさそうょ。地下で児童ポルノの撮影もしてるわ」
「決まりね。奴は今、どこ?」
「彼のスタジオ。今、向かってる」
「マリレと合流してくれ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スタジオ。意外に実直そうなダクス・ラテマ。
「覚えてる。アンバは良い子だったな。宣材写真を撮った」
「宣材写真以外は撮ってないの?何も着てない奴とかはどーかしら?」
「おいおい。彼女は、そういうタイプじゃない。そもそも、頭の中は萌えコンでいっぱいだったさ。何で俺に聞く?」
「殺されたから。で、彼女を殺した犯人が、このヌード写真を撮ってる」
写真を手に、暫し沈黙したダクスだが…
「俺の写真じゃない。こんなに腕は悪くナイ」
「マジ?貴方、地下でこんなコトならあんなコトやらやってるそうだけど」
「全部金のためだ。仕方がない」
悪びれた様子もない。
「アンバのヌード写真でも稼ごうとしたんじゃないの?脱がしたくなったんでしょ?2人きりで撮影してたから」
「いいや。2人きりじゃなかったさ。撮影には変な恋人が一緒だった」
「あのね。彼女に恋人はいなかったの」
「半年前はいたさ。そいつは自称カメラマンで、俺の構図にも口出しをした」
「名前は?」
「ジェリだかジェレだか…そんな名前だ」
やれやれ。話はドンドン面倒臭くなって逝く。溜め息まじりの御挨拶。
「一昨日の夜23時から1時はどこにいた?」
「家族と家にいた。妻と息子を寝かしつけていたよ。アパートの防犯カメラを見てくれ」
「そうするわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。スマホを切るラギィ。
「ありがとうございます…父親に聞いたらジェレ・カイパと言う元カレがいたそうよ」
「変人?」
「みたい。別れたのは去年の暮れ。彼女に悪影響だったからですって。今、仙台にいるわ」
「仙台からでも脅迫が出来るな」
「脅迫は出来るけど、殺人は出来ナイわ。最近、秋葉原に来てないか調べて」
「ROG」
飛び出して逝くヲタッキーズ。
「萌えコンだけじゃなく、ダメ男がいるトコロまでルームメイトのデビラにソックリだわ」
「ホントにルームメイトの話なのか?」
「毎日が"戦争"だった。部屋には色んな匂いが混じってたわ。ヘアスプレーと香水とタバコの匂い。部屋が爆発しても不思議じゃなかった」
「朝嗅ぐヘアスプレーの香りは最高だ…勝利って感じがする」
ベケットのガンが飛ぶ。"地獄の住所録"のセリフなんだが…珍しい来客。スピアの彼氏シュリだ。
「すみません、テリィたんさん」
「シュリ?テリィさんで良いけど」
「お忙しいトコロすみません。スピアと一切連絡が取れなくて」
「聞いたょ」
「悪いのは僕なんです。彼女が気を遣ってくれたのに、ジェラートを選ばなかった。そしたら、私より音楽を優先してと怒られて…だから、結局ジェラートに決めたんですが」
「連絡しない約束だからスピアに伝えられないワケか。甘酸っぱいな」
「そーなんです。でも、僕は太平洋を挟んでもスピアとやっていけると信じてます。彼女にそのコトを伝えてくれませんか?」
「シュリ。ココまで来てくれて、わざわざ話してくれて、とても勇気のあるコトだと思うし、感謝もしてる。でも、僕に口出しさせるのはどうかと思うょ」
正直な感想だ。すると…
「テリィさん。貴方は、心から愛する人と長く続いたコトはありますか?」
「モチロンなひ」←
「テリィたん…あら、お邪魔?」
廊下に出て来るラギィ。立ち聞き?
「いや。良いんだ(助かったw)。シュリ、すまないけど、もう戻らないと」
「テリィさん。考えといてください」
「わかった」
歩き去るシュリ。嫌な奴w
「テリィたん。どうしちゃったの?」
「僕を味方に引き入れようとした」
「あら。可愛いじゃない。でも、厄介ねクスクス」
何なんだ、そのクスクスって。マリレが割り込む。
「テリィたん。ジェレの母親に聞いたけど、どうやらジェレは有名になりたいと、先月から秋葉原に引っ越して来たそうょ」
「殺人犯と脅迫犯としてなら有名になれそうね」
「みたいだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アパートの木製ドア。容赦なくドンドン叩く。
「変人ジェレ・カイパ!万世橋警察署!」
ドアノブを握ると…鍵は開いている。ラギィは音波銃を抜き、目線で構えて突入スル。
「ジェレ・カイパ!誰かいますか?」
「ラギィ、コレを見ろ」
「変態なの?」
壁全面にアンバのフルヌード写真だ。壁画サイズ?に拡大してアル。スゴい迫力だ。欲しい←
「アンバに相当未練があったのね…テリィたん?」
音波銃を構えたラギィが僕に目配せ。僕はうなずきクローゼットの扉を勢いよく開いたら…
裏側に首吊り死体。
第4章 アキバの掟
殺人現場?は、瞬く間に警官や鑑識でごった返す。非常線が張られ、立哨が立ち、鑑識が写真を撮る。
「アンバを殺した後に自殺したんだ。ジェレは、元カノに未練があり脅迫してた。しかし、脅迫は効かズ、アンバに拒否され、激怒して殺してしまう。しかし、彼は家に帰ってから我に帰り、首を吊って自殺したんだ」
「哀れなSF作家ょ。その妄想には、1点だけ問題がある」
「なんだょ?」
ベテラン鑑識のパール・マタァに妄想を否定され、ムキになる僕。
「これは自殺じゃない」
「違うの?」
「自殺なら傷は縦方向につく」
「縦方向じゃないか」
「確かに縦だが、首を絞められた時についた横の傷もある」
「え。じゃ誰かが殺した後、自殺に見せかけたってコト?」
「YES。殺された時に腕と肋骨のあたりに抵抗した痣がある」
なぜかニンマリ顔のラギィが質す。
「死亡時刻は?」
「体温や死斑を見るとアンバーが死ぬ半日前」
「アンバが殺される前?」
「あぁ聞こえただろう。おい!どいてくれないか、ライトを遮ってるぞ」
怒鳴られる僕。パールには嫌われてルンだw
「変だな。じゃ彼はアンバを殺してない。なぜ脅迫犯も脅迫された側も死ぬんだ?」
「ねぇ彼のPC、データが消去されてるわ」
「きっとヌード写真を消去しようとしたのね。アンバも元カレもヌード写真を持ってる。そして、ソレが流出しては困る誰かにに殺されたンだわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。ホワイトボードの前で考え込む僕。
「父親は、ジェレの名前をココ半年は聞いてなかったらしいわ」
「ラギィ、マジかょ。2人が付き合ってる間、何か不審な点は?」
「特に聞いてないわ」
ラギィも一緒に考え込む。妄想のハレーションが起きる気配がスル。
「単なるヌード写真だろ?なぜこんなヌード写真が殺人に発展するんだ?」
ホワイトボードにジェレの名を描き足すラギィ。
「ヌード写真が原因じゃナイわ。別のコトが起こっていた。もしくは…」
「もしくは?」
「ジェレに共犯がいたとしたら?事件の夜、アンバが喧嘩してたのはそいつカモ」
「じゃ共犯は、なぜジェレを殺したの?」
「ジェレの気が変わったんだ。ヌード写真を流出させてアンバを傷つけたくないとか言い出して、モメたんだ。ところが、アンバは警察に行くと言い出した。そこで、アンバを殺し証拠も隠滅した」
「ジェレの資料を読み込んでみるわ」
ふと腕時計を見る僕。第3新東京電力を退職した時にもらった高級腕時計だ。
「あ。こんな時間か。御帰宅しなきゃ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿、経営を圧迫中だw
「ただいま。スピア、何を見てるんだ?」
「コレ」
「…何てこったw」
カウンターに陣取るスピアがタブレットを僕に見せる。やれやれ。今カレのシュリとのツーショ画像だ。
「寂しいンだろ?口出しは嫌いだけど」
「カツカレー並に好きなくせに」
「バレたか。今日、僕に会いにシュリが捜査本部まで来たよ」
「捜査本部に?なんで?」
「僕に、スピア達の仲を取り持って欲しいみたいだったな」
「で、何て言ってたの?」
「相当辛そうだったよ。ジェラートに決めたとスピアに伝えて欲しいって。それで、遠距離でもやっていけると思うと話してた」
「テリィたんは、どう思う?」
カウンターに置いた僕の手に、自分の手を重ねるスピア。ミユリさんをチラ見したらニコニコ笑ってる。セーフ?
「確かなモノなど何もナイ。可能性があるモノを無理に無くす必要はないんじゃないか。時間をかけてみろよ」
「でも、シュリが運命の人じゃなかったら?人生を無駄に使ってしまう」
「人生は旅だ。結果を予測するコトなど出来ない。決められるのは、その時々の目の前にアル選択肢だけ。人生は、選択の積み重ねに過ぎない。スピアは目の前の問題にだけ集中し過ぎだ。全体が見えてない気がする」
「ふーん結構良いアドバイスじゃん」
「まぁな。確かに良いアドバイスだったカモ…」
自分でも驚く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。思うトコロがあり、誰より早く捜査本部に顔を出す。アンバのヌード写真を虫眼鏡で見ているとラギィがヒヤかす。
「寝ても覚めてもヌード写真ばかり見てるのね。今年のお誕生日プレゼントはポルノ雑誌でOK?」
「ラギィ特集号か?それは嬉しいけど、裸を見てたわけじゃない」
2つ買っておいたスターボックスのグランデカップを手渡す。
「ヌード写真でヌードを見てないの?」
「YES。みんなヌードばかりに注目して、写真全体を見てなかった。問題は写っている人ではなくて、撮影された場所さ。見覚えはナイか?」
「…あ。見覚えアルわ」
やっぱりラギィは鋭いな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
秋葉原ヒルズ。ホテルタワー57Fにある"レコル・アクシヲム"オーナールーム。
ラギィと押しかけると、金髪の美人秘書が飛び出して来る。バッジを示すラギィ。
「警察ょ」
「中にいます」
「失礼」
2人でドアを開ける。
「アンバの追悼式はシンプルが美しいわ」
「あぁ上品な感じが良いな」
「そうね」
ホテル王の肩にもたれかかっている美人妻ケイラ。またまた撮影クルーのカメラの前で"演技中"だ。
「やぁ警部さん。何か御用かな?」
「いくつか聞きたいコトが」
「さぁどうぞ」
鷹揚に招き入れるホテル王。カメラクルーを見て芝居がかった咳払いをするラギィ。
「では、脅迫とアンバの殺害について伺います」
「カメラを止めろ!クルーは出て行け!」
「コンテストの裏側も美女達の素顔も全部撮ると言ってましたょね?」
「どうしたの何事?」
狼狽えるケイラ。カメラが止まるや瞬時に"地"が出てるw
「この写真が流出して1番ヤバくなるのは誰かな?それがようやくわかったのさ」
「写真って何?何の話?」
「ご覧ください」
アンバのヌード写真を見せられ、絶句するケイラ。
「嘘でしょう?貴方、何なのこれ?説明して」
「落ち着け。全て誤解なんだよ」
「何が誤解なの?コレって乙女ロードに買った億ションのベッドじゃないの?」
「めったに使わないだろう」
「2000万円するピカドの絵の下ね。ココにある絵とセットでオークションで落札したンでしょ?」
「インテリア雑誌で全部話しちまっただろ」
雑誌を付箋のページで広げる僕。
「ケイラ。説明するよ」
「2度と浮気しないと約束したわよね」
「週末に1度過ごしただけだ」
「池袋のヲ友達が見ていたらどうするの?私に恥をかかせたわ」
「誰にも見られてないよ」
「それじゃこんな写真をどうして出回るのょ!世界中に見られたに決まってる!」
助け舟?を出すラギィ。
「真相はこうじゃない?アンバは脅迫されて、貴方に助けを求めた」
「君は写真の流出をなんとか止めたかった」
「だから、貴方は脅迫犯を殺し、アンバも殺した」
ラギィと妄想をハレーションさせて追い込む。
「そうじゃない」
「もうカメラは回ってないわよ。何も演技する必要は無いわ」
「演技じゃない。アンバは脅迫されたんじゃない。あの女が私を脅迫してたんだ」
え。
「貴方を脅迫して誰が得するの?」
「とにかく!私の留守中に恋人に写真を撮らせたらしいのだ」
顔を見合わせるベケットとキャッスル…とケイラw
「乙女ロードの億ションに連れ込んだ女を1人にさせたの?」
「会議があったんだ。仕方なかっただろう。ソレに多分1人じゃない。撮影した誰かがいる。アンバは、萌えコンに優勝出来なければ、自分のヌードを流出させると私を脅したんだ!」
ようやく合点が逝く僕w
「"要求に従わないと潰すぞ"…アレはアンバとジェレから貴方へのメッセージだったのか。2人は共謀して貴方を脅迫した。それで、貴方はどーした?さすがに、貴方の一存では優勝者を決められないだろう」
「質疑応答の質問を教えた。だから、彼女は…」
「くらえ!」
突然、中国古代王朝の高価な花瓶が宙を飛び、ピカドの絵を直撃して粉々に砕け散る。振り返ると大きく肩で息をしてるケイラw
「待って待ってちょっと待って!落ち着いて」
割って入るラギィ。
「バロム・ワンダさん。突然ですけど、事件の夜23時から1時の間何をしてましたか?」
「夕食会の後、ボリジ議員と酒を飲んでた。帰宅したのは1時で妻がいたよ。なぁ、お前?」
「ケイラ、本当なの?間違いない?」
「…マジホントょ」
荒い息を吐く。ホッと胸を撫で下ろすホテル王(と僕達w)。
「他にこのコトは誰が知ってるの?もう池袋じゃ私は大きな顔が出来ないわ」
「誰も知らないよ」
「それはない。もう2人、死んでますから」
溜め息をつくホテル王。
「ステージマネージャーのキャン・ディスには、全てを話した。アンバが、私と萌えコンを潰そうとしたと。そして何とかして解決しろ、と指示をしたよ」
「そして、解決したワケね?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ボールルーム。萌えコン直前で騒然としている。
「花瓶に指紋をつけないで」
「指紋については慎重なのね」
「警部さん?」
開催準備を仕切り中のキャン・ディスに声をかけるラギィと僕。
「ずいぶんと仕事熱心なのね」
「YES。全てを完璧に準備したくて。私、もう17年もやってるのよ」
「萌えコンを守るためなら、貴女は何でもするでしょうね。脅迫についてバロンから聞いた?貴女は、全てを解決するよう指示された。そして、解決したのね?」
追い込むラギィ。ところが、キャン・ディスはホンキで憤慨スル。何だか風向きがおかしいw
「あのね。どうせ殺すなら、私ならバロム・ワンダを殺してた!自分の愛人が勝てるように、質疑応答の質問を渡せだなんて、よくも私に言えたモノね。でも、渡さないと萌えコンが台無しになる…」
「…えっと。あの、キャン・ディスさん。突然ですけど、事件の夜23時から1時の間は何をしてましたか?」
「聞かないで」
「でも…」
「人といたわ」
「誰と?」
「ソレは言えないの」
躊躇うキャン・ディス。
「貴女、ソレを言わないと…」
「ボビー・スタクょ。彼とホテルにいた。でも、恐らく彼は何も覚えてないわ。だけど、私はソレでも良いの。ウレしかった」
僕とラギィは死んだ魚の目になる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。
「アリバイは"レコル・アクシヲム"のコンシェルジュに確認出来た。キャン・ディスは、ボビィ・スタクと一緒にいたそうょ」
「ソレでイチゴオイルの香りがしたのか」
「ラギィ。バロム・ワンダのアリバイも確認出来たわ」
ヲタッキーズの報告に溜め息が止まらないラギィ。
「コレで全て振り出しに戻ったワケね。でも、彼がダークウェブで殺し屋を雇った可能性もアル。ヲタッキーズは、とりあえずバロムの弁護士と話してきて」
「ROG」
「アンバの野心には、ラギィの昔のルームメイトもビックリだろうな」
「でしょうね。でも、彼女は外側だけでなく、内側からも美しくなろうとしてた。だから、ミスコンに参加して努力してたのょ」
「ねぇソレってルームメイトじゃなくてラギィ自身じゃ…」
「一緒に住むのは苦痛だったけど、心の底から悪い子と言うワケではなかった。アンバみたいなズルはしない子だったわ」
やっぱりアンバはズルな子なのか。
「卑劣な選択だ。自分の魂を売ってまでして、萌えコンに勝つコトにこだわるとはな」
「相当冷酷で計算高かったのね」
「冷酷で計算高い?」
「何?」
「ソレ、アンバのコトかな?」
「え。他にいるの?」
「アンバについて、色んな人から話を聞いたけど…どーやら誰かウソをついてる人がいるな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アンバが微笑む写真がステージの後ろに大きく映し出されている。
喪章をつけたメイド服の美女達が手に手にキャンドルを持ち歩く。
白ジャケのスタクがジスタにマイクを渡す。
「悲劇がバロムの萌えコンテストを襲いました。アンバ・ミルベの突然の死です。私は、彼女を指導できて幸せでした。彼女が私の全てだった…」
「じゃナゼ殺したの?」
「え?」
舞台上手から現れるラギィ。
「殺してないわ!殺すワケないじゃない?」
下手から現れる僕。
「全部ウソだ」
「貴方は、アンバが誰かに騙されてイライラしてた、と供述したわね。実際には、脅迫していたのは彼女なのに」
「大事なリハーサルを中断させてまで、おかしなコトを言わないで!」
思わズ声を荒げるジステ・ハケル。
「貴方は、アンバのヌード写真を見てしまった。そして、元カレのジェレを犯人だと思い込み、彼を部屋まで追った」
「カード履歴も調べたンだろ?」
「そして、ジェレを部屋まで追った貴方は、そこで当のアンバも共犯だと知ったのね?」
突然リハ中のステージから飛び降り、客席へと逃げ出すジステ!
「ジステ、止まって!」
ステージの上から叫ぶラギィ。客席にはヲタッキーズのエアリ&マリレがいる。
「あら。どこ行くの?」
逃げ場を失ったジステは、通路を移動中のハンガーラックに突っ込み昏倒、服の山の中から顔を出す。
間抜け顔の彼を見下ろし、僕はキメ台詞を吐く。
「アキバの掟を教えてやるよ。ラギィが止まれと言ったら止まルンだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
事件が解決し、解散が決まった捜査本部。
「ジステが全部吐きました。アンバが勝たなければ、彼のコンサルとしてのキャリアは終わり。最近業績は芳しく無く、ジステはアンバに賭けていた。そんな中、アンバが脅迫されてると思い込み、だが、警察に行けば秘密がバレると思い、内密に話をつけようとジレミの部屋に行った。ところが、ジレミは酔っていて揉み合いになり、ハズミで殺してしまった」
「そして、元カレの死を知り、警察に通報すると言ったアンバも殺害」
「全く美しくない選択肢だ…みんな、とても良く頑張ったね」
「ありがと。テリィたん」
手をくるりと回す、舞台俳優みたいな挨拶をスル僕に、同じ仕草で挨拶を返すヲタッキーズ。笑顔のラギィが割り込む。
「そういえば気になっていたんだけど、スピアとシュリの件は?どーなったの?」
「決着だ。遠距離恋愛に賭けてみるそうだ」
「ポイントはイベントね。イベントさえ欠かさなければ、遠距離でも上手く行くハズ」
コレまた経験者っぽいラギィの発言だ。
「確かに良い選択だと思う」
「じゃ、また明日」
「明日ね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御帰宅スルとメイド長のミユリさんが目配せ。お?カウンター席にスピアとシュリだ。
「テリィたん、聞いて。私もジェラートに行くわ」
「なんだって?」
「飛び級よ。単位は取ってるから、秋に市民講座を卒業して普通より早く入学出来るの」
スピアは満面の笑顔だw
「な、何?」
ソファ席にへたり込む僕。
「だから!1月にはシュリとNYに行けるわ」
「何?」
「全てスピアの考えナンです」
マンザラでもなさそうに微笑むシュリ。こりゃダメだw
「何だって?!」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ミスコン"をテーマに、ミスコン業界の舞台裏に渦巻く嫉妬、陰謀、打算…殺人事件を追うヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公の元カノの留学騒ぎなどもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、国際観光都市としての風格が出て来た秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。