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「でも、でもクレアさんは最初から、レイモンドと距離を取っていたわ……夫婦になるのにおかしいじゃないっ…ずっと客室で過ごして、まるでいつでも出ていけるように感じたわ。レイモンドともっと話をしてあげてって言っても曖昧に笑うばかりで……っ」


泣きながら訴える公爵夫人に王妃はため息をついたが、国王は片眉を吊り上げた。顎に手をあてると、思い出したように公爵を見る。


「まさかと思うが公爵よ、そなたクレア夫人に離縁状を渡してはおるまいな?」

「離縁状?渡しておりますが」

「なっ!?このっ、大バカ者がっっっ!!!!!」


サンルームに国王の怒声が響き渡る。国王の怒声よりも公爵の発言に驚いて王妃は扇を落とした。


「離縁状はいつ渡したのだ!?結婚してからか!?」

「あ、いえ、ミルトン男爵家から懐妊の知らせが届いてから、男爵家を訪問した際……」

「お前は、お前という奴はっ………」

「イ、イザーク、どうして……」


国王は青筋を浮かべながら怒りで体が震えている。怒髪天を突く国王の凄まじい怒りに気圧されて公爵は身を縮ませた。公爵夫人は泣きながら公爵を見る。


「何故離縁状を渡した!?いや、答えんでいい!どうせクレア夫人のためだと思ったのだろう。そうだな、そなたはそういう男であった。だが話が違う!離縁状は結婚してから夫人とレイモンド子息と事情を話した上で、クレア夫人が離縁を望んだ時に渡せと言ったはずだ!何故私との約束を違えた!?」

「ぁ、そ、それは……」

「お待ちください陛下、何故離縁状をお作りに?わたくしも今初めて聞きましたわ。そんなものをこの公爵に渡すなど、それがどれほど危険な行為か陛下ならお分かりでしょうに」

「…………そうか、そういうことか。我々は試されていたのだな」


王妃の言葉に国王は怒りを鎮めるように深呼吸をした。その間に王妃が冷めてしまったお茶を淹れ直す。一度全員がお茶を飲んで一息ついた。サンルームの空気はかなり微妙なものだったがそれでも先ほどの緊迫した空気よりずっとマシだ。

はぁ、と国王が深く息を吐く。目頭を押さえると重々しく口を開いた。


「公爵、今一度問う。何故離縁状をクレア夫人に渡した?」

「……クレアさんのためです。結婚を半ば強制したために負い目がありました。それに、ミルトン男爵から離縁の選択をいつでもできるようにしておいてほしいと言われました。それならば、早いうちに離縁状を渡しても同じだろうと思い……」

「イ、イザーク……」


公爵夫人がぶるぶると震えながら愕然と公爵を見ていた。国王が疲れたように息を吐くと王妃へ目配せをする。王妃は頷くと国王の代わりに彼女が説明をした。


「公爵、離縁状は結婚をする前と後では全く意味が違います。結婚前に離縁状を渡す行為は、子を産むためだけの契約結婚と捉えられます。しかも当主であるあなたが渡したのならそれはアスクストーン公爵家の総意とみなされるわ」

「そ、それはつまり」

「クレア夫人は契約結婚と思って嫁いだのです。それなら距離を取っているのも、いつまでも客室から移動しないのも合点がいくわ。最初からレイモンド子息と離縁するつもりだったのだから」

「レイモンド子息が出て行ったのはおそらくクレア夫人から離縁を切り出されたのだろう。そこで初めて離縁状を渡されているのを知ったに違いない。それで妻子を連れて公爵家を出たのは子息の英断だな。きっと彼は今頃クレア夫人とゆっくり話し合っているだろう」

「………」


公爵が愕然としている様子を見てはぁ、と何度も国王は深く息を吐く。仕事においては本当に有能で心から信頼できるほどの手腕だ。なのに、いざ恋愛が絡むと最低の人間に成り下がるのは公爵唯一の欠点でもあった。今まで見逃してきたツケがこんなところで返って来るとは誰が思うだろうか。


「そこで話を戻す。離縁状はミルトン男爵からの要望で作成し、公爵に渡したのだ。クレア夫人に何かあった時のためにと。あの時はクレア夫人に負い目もあり、せめて離縁の選択肢だけでも残しておこうと思ってのことだったが……まんまと嵌められたな」

「嵌められた、と言いますと?ミルトン男爵は離縁状の作成をお願いしただけですのよね?」

「離縁状の作成と渡す際は公爵家から、という要望だ。最初はレイモンド子息に渡そうと思ったが、彼はクレア夫人を好いている。それに将来のアスクストーン公爵であり、第一騎士団副団長にまでなった者だ。そんな未来ある若者に慕っている相手へ離縁状を渡せなど何故言えようか。彼も我が王家の被害者だ、尚更言えぬ。公爵夫人は体裁を気にしてきっと離縁状は渡さぬ。ならば残るは公爵しかおるまい。離縁状は約束を取り付けて公爵に渡した……公爵、そなたミルトン男爵家を訪ねた際、男爵に何を言われた?」

「離縁の選択肢をいつでもできるようにしてほしいことと、あとは……離縁状はもう渡したのかと聞かれました。渡していないと答えると、とても悲し気に俯いて。それでこれは早く渡さねばと思い……」

「そうか」


国王は顔を上げると手帳を開く。国王の持つ手帳は歴代の国王たちの失敗談も書かれており、次代の国王へ同じ過ちを繰り返さない戒めでもあった。この出来事は記録として残すべきと判断して綴っている。サラサラと書きながら口を開いた。


「あくまで私の予想にすぎないが……これは、王家とアスクストーン公爵家に対するミルトン男爵の復讐だ。負い目のある王家に離縁状を作成させ、アスクストーン公爵家から離縁状を渡させる。誰がクレア夫人に離縁状を渡すのかそれも想定済みだろう。男爵は娘の身を最後まで案じていた。おそらくレイモンド子息も含めて公爵家を試す意図もあったのだろう。アスクストーン公爵家がしかるべき対応を行い、クレア夫人が夫人として尊重され幸せを掴んだのならいい。だが結果はどうだ?義父に離縁状を渡され、義母の嫁いびりにウェディングドレスの勝手な変更。令息との仲も縮まることなく管理される日々。しかも王家の不始末によるお披露目会での事件。これが世間へ知れ渡れば王家とアスクストーン公爵家の信頼は失墜……ミルトン男爵は見事に復讐を果たしたな」


国王は皮肉気に笑うと手帳へ文字を記す手を止めて盛大にため息をつきながら目頭を抑えた。


「待ってください!ミルトン男爵は夫に離縁状を渡すよう誘導したのですよね!?それならこうなったのは全てミルトン男爵の責任です!」

「……リュドミラ、ミルトン男爵は離縁状を渡したのかと聞いただけで、渡せとは一言も言っていない。クレアさんにあのタイミングで離縁状を渡したのは紛れもない私だ。ミルトン男爵に責任はない」

「でも、でもっ!これではっ……」

「確かに元は離縁状がきっかけだったのかもしれない。でもクレアさんは距離をとっていただけでレイモンドを無視していないし話し合いにはきちんと応じていた。我々にも従順でわがまま一つ言わずに静かに過ごしている。私たちがきちんとレイモンドに向かい合い、私が君をちゃんと諫めることができていたらこんなことにはならなかった。全て、落度は私にある。それにこれは陛下の予想でしかない。ミルトン男爵に訴えたところで知らないと言われればそれまでだ」

「イザーク……」

「リュドミラ、これ以上誰かのせいにするのはやめなさい。自分の非を認め、レイモンドとクレアさんに謝罪をするんだ。私も一緒に謝るから」


公爵夫人は納得がいかない顔をしていたが、公爵の強い眼差しに口を閉じた。公爵は立ち上がると、国王と王妃に向かって深く頭を下げる。


「この度は国王陛下、並びに王妃殿下に多大なるご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。今回の不祥事について、いかなる罰もお受けいたします」

「頭を上げよ、公爵。今後についてはレイモンド子息とクレア夫人がどうするかによる。離縁しないのなら本来あるべき姿に戻し、離縁するのならそうさせてやれ。今回の件は誓約によりミルトン男爵は全てを知る。その後男爵がどうするかはわからぬが、最悪の場合も想定しておくがいい。元は我が王家の責任でもある。今のそなたなら判断を間違えぬはずだ。今は令息たちの捜索をするだけに留める。よいな」

「かしこまりました」


公爵はもう一度頭を下げると、おぼつかない足取りの公爵夫人を連れてサンルームを出て行った。

国王と王妃は話しあう前よりだいぶ老け込んだ自分たちを互いに見ると、何度目かわからないため息をつく。そして今後どうするかを話し合うために重い腰を上げたのだった。








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