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前半が少しレイモンド視点になります




レイモンドが第一王子とマルロー公爵令嬢との話を終えて屋敷へ帰って来るとまっすぐクレアの元へ向かった。だが途中で執事に止められて父の元へ行くように言われる。一刻も早くクレアと話がしたかったのだが執事の狼狽した様子に嫌な予感がして転移魔法で父の執務室へ行った。そこでは珍しく両親が言い争っていた。


「わたくしはただクレアさんに一番似合うドレスを用意しただけよ!そこまで怒られるいわれはないわ!」

「リュドミラ、お前がここまで話が通じないと思わなかった。しばらく謹慎していなさい。それからもうお前には結婚式のドレスも装飾品も選ばせない」

「酷いわイザーク!!わたくしが結婚式のドレス選びをどれほど待ち望んでいたのか知っているでしょう!?」

「二人とも、何のお話しか伺っても?」


レイモンドが割って入ると二人は黙ってこちらを見た。母は不貞腐れたようにソファに座るとそっぽを向く。父がため息をつくと訳を話してくれた。


「リュドミラがウェディングドレスをマーメイドラインのものに勝手に変更したんだ」

「は?どうしてそんなことを、クレアは大丈夫なんですか!?」

「ドレスを見た時気を失ってしまってね、医者には診せたよ。しばらく安静にしていれば大丈夫だそうだ」

「……母上、どうしてマーメイドラインにしたのですか?クレアがやめてほしいと言った理由を知っているでしょう!」

「どうしてあなたまで怒るのよ!別にいいじゃない、元婚約者との結婚式で着るドレスの型が被ったくらい!もう相手はこの世にはいないのよ?それにクレアさんはアスクストーン公爵家へ嫁いだのです!いつまでもいない相手のことを気にするなんて自覚がなさすぎます」


母の酷すぎる言葉にレイモンドは言葉が出ない。父はショックを受けたように愕然と母を見る。レイモンドの手がぶるぶると怒りで震えた。次第に魔力が身体から滲み出てきて家具がカタカタと揺れる。


「母上は、私にクレアの元婚約者の、レイスの代わりをしろと言うのですね」

「な、何を言うのですレイモンド。そんなこと一言も言ってないじゃない」

「だってそうでしょう。レイスとの結婚式で着るはずだった同じ型のドレスをクレアに着せるのですから。わかっていますよ、彼女が私を好いていないことくらい。だから彼女が愛したレイスの代わりを演じろと言うのでしょう?私たちは似ているようですし」

「レ、レイモンド、そんなつもりじゃ」

「じゃあどんなつもりだったんだ!私はレイスではない!!」


パンッ、と近くにあった花瓶が割れた。レイモンドは顔を覆う。


「…レイモンド、少し頭を冷やしておいで。落ち着いたらクレアさんとヴィンセントの元へ行ってあげてくれ。リュドミラには私がよく言い聞かせておく」

「……はい。お願いします」


力なく頷くと、よろよろとした足取りでレイモンドは部屋を出て行った。母が呼びかけているような気がしたが聞きたくない。癇癪で魔力を暴走させるなど未熟者がすることだ。ヘローチェの時は仕方がなかったが、今回は十分冷静になれたのにできなかった。落ち着け、冷静になれと何度も自分に言い聞かせて心を鎮ませる。クレアが心配だったが今の状態ではとても顔を見せられない。全てに無視をして頭を冷やしに自室へ向かった。









目を覚ますと夜になっていた。クレアは起き上がるとすぐにヴィンセントを探しに行く。メイドにどうしたのか聞かれたがそれに構わず息子を探した。可愛い我が子は子供部屋でメイドたちにあやされていた。ヴィンセントをベビーベッドから抱き上げるとまっすぐ自室へ向かう。途中で誰かに声を掛けられたかもしれないが聞こえない。そのまま暗い部屋でヴィンセントを抱きながら母乳を与えて子守唄を歌うと、すやすやと夢の中へ旅立つ。その寝顔を見つめていたら視界が滲んだ。目からボロボロと大粒の涙が溢れて嗚咽が漏れる。ヴィンセントを起こさないようにベビーベッドへ降ろすと、口を手で覆いながら壁際へ移動した。すると体を机にぶつけて本が何冊か床へ落ちる。それを片付ける気力もなく、クローゼットから鞄を取り出してのろのろと支度を始めた。




「クレア、入ってもいいか?」


翌日、ヴィンセントに母乳を与えて背中をさすっているとレイモンドが来た。手には軽食と飲み物が乗ったお盆を持っており、それらをサイドテーブルに置く。


「昨日倒れてから何も食べていないと聞いた。体調は大丈夫か?母が本当にすまない、結婚式は延期することになった。だから……」


レイモンドが心配そうにクレアを覗き込む。ヴィンセントはクレアと同じ群青の目をパチパチさせながら彼を見つめるとケプっと息を吐いた。その様子にレイモンドの頬が自然と緩む。


「クレア、あの、少し話をしたいんだが……」

「レイモンド様、離縁してください」

「…………え」


レイモンドの息が止まった。クレアはヴィンセントをベビーベッドへ降ろすとまっすくレイモンドを見つめる。ベッドの側には旅行鞄が置いてあり、よく見ればクレアは外出用の服を着ていた。


「ま、待ってくれ、クレア。あの、離縁とは、一体……」

「少し語弊がありましたね。離縁の時期を早めてほしいのです。もう少しヴィンスといたかったのですが、もう私がここにいられません」

「時期を早めて?待って、待ってくれ!どういうことかさっぱりわからない。なにも離縁でなくても帰省ではだめなのか?もちろんヴィンスも一緒で構わない。そのことも含めて話をしたかったんだ」

「もう、私が縁を切りたいのです。この公爵家と。レイモンド様には大変お世話になったのでせめて最後にご挨拶をと思ってこうして待っていました。ヴィンセントをお願いします」

「離縁は、離縁はだめだ、できない。君を愛しているんだ。待ってくれ、どうか私の話を聞いてほしい」

「離縁はもうすでに成立しています。レイモンド様の許可はいらないのですよ」


クレアはレイモンドの言葉に耳を傾けることなく鞄に入っていた紙を広げてレイモンドに見せた。アスクストーン公爵家のサインの入った離縁状を見て彼は目を見開く。


「これは、そんな、いつ…」

「私が身ごもったことがわかった時です。公爵様が一人で実家に来た時に離縁状をいただきました」

「は………」

「子を産むための契約結婚なのでしょう?その役目は果たしました。私がここにいる理由はもうありません」

「ま、待ってくれ、ヴィンスは、離縁したら、もうヴィンセントに会えなくなるんだぞ……それでもいいのか?」

「……いいわけ、ないでしょう」


クレアの目から大粒の涙が零れる。この国において親権は父親側にあり、父親が親権を放棄しない限り母親に子どもが引き取られることはない。離縁したら一般的に母親と子どもが会うことはなく、契約結婚の場合は子どもに実母だと名のらせないよう約束させる家もあるくらいだ。クレアは必死に無表情を保とうとしているが、悲しみの表情を隠すことはできず顔がくしゃくしゃになっていく。


「お願い、このまま離縁してください。これ以上、私を惨めにさせないで……」


そんなクレアを見た瞬間、レイモンドは彼女を抱きしめた。クレアは抵抗するが、離さないとばかりにぎゅっと腕に力を込める。


「レイ、モンド様…」

「本当にバカだったよ、私は」

「え……?」


レイモンドは少し腕を緩めるとクレアを見つめた。頬を伝う涙を手で優しく拭うと、真剣な表情でクレアの目を見る。


「クレア、これで最後だ。最後に、一度だけチャンスをくれ」

「……無理です。私はもう、ここにはいれません」

「あぁ、そうだね。ヴィンスと一緒にここを出よう。そのための準備にあと二時間、いや、一時間ほしい」

「………え?何を言って」

「頼む、この通りだ。そうだ、誓約をしよう。破ったら私は死んでもいい」

「や、やめてください!死ぬだなんてそんな……あ、あなたはヴィンスの父親なんですよ?」

「ヴィンスの母親も君だけだよ、クレア。私は本気だ。君に信じてもらうにはこうするしかない」

「………」

「強引なのは承知の上だ。でもこうしなければクレアは出て行ってしまう。私はまだ君に何も話せていない。どうかお願いだ、最後にもう一度だけ私にチャンスをくれ」


その場でレイモンドは跪くと、頭を深く下げた。信じていいのかわからない。でもレイモンドは最後までクレアに誠実でい続けたのは確かだ。それに一刻も早くこの屋敷から出て行きたかった。行先はミルトン男爵家以外ならもうどこでもいい。戸惑いながら悩んだ末にわかりました、と呟くとレイモンドはぱっと笑顔を見せる。


「ありがとう!すぐに荷物をまとめてくる。クレアはヴィンスの荷物をまとめおいてくれ。君に世話を任せっぱなしにしていたから私には何が必要なのかわからないんだ。他に必要なものがあったら教えて」


そう言ってレイモンドは一瞬で姿を消した。今起こったことが夢だったように現実味がない。しばらく立ち尽くしていたが、ヴィンセントのあーうーという声で我に返る。クレアはヴィンセントをあやしながら半信半疑になりつつも言われた通り荷物を引っ張り出したのだった。













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