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意識を失ったクレアを別室へ運び、すぐに医者を呼んで彼女の母と義姉に付いていてもらった。幸い騒ぎが起きた時はすでにパーティーはお開きになっていたので招待客はほぼ全員帰っている。残っているのは公爵夫人の弟であるヴァロック侯爵一家だけだった。

事が発覚したのは屋敷の裏方にいたメイド数人が何者かに刺されて倒れていたところを執事が発見したからだ。すぐに公爵へ知らせが入り、まずは一人で休んでいるクレアの安全確保が最優先された。その知らせを聞いたレイモンドが真っ先にクレアの元へ行ったのだ。今は別室へ移動して残った者たちで話し合いがされていた。犯人の少女は拘束されて床に座らされている。


「それで、この娘は一体どこの誰です?説明していただいても?」


皆が揃ったところで開口一番にミルトン男爵が問うた。この中で最も身分が低く、不用意に発言すべきではない立場だったが咎める者はいない。


「この娘は元ヴァロック侯爵令嬢、ヘローチェ。七年前、禁断の魅了魔法に手を出して魔封じを施された。すでにヴァロック侯爵家から除籍されている。本来ならすぐに北の修道院へ行く予定だったが当時十三歳という年齢を考慮され、成人する十八歳まで外に出さないことを条件に生家で生活することを特例で認められた。そして三年前、成人を機に我が公爵家の私兵が娘を修道院へ送り届けたはずだが……何故かここにいる」


アスクストーン公爵が淡々と説明した。公爵本人もヘローチェがいることに納得しておらず、ヴァロック侯爵を鋭く睨みつけている。


「修道院にいるはずの娘がどうしてここにいるの!!わたくしも侍女にわざわざ確認をとらせたのよ?ディート!!一体どういうことなの!?」

「あ、姉上、これには訳があって……」

「訳があるなら何故わたくしへ相談しないの!修道院が駄目なら監獄や労働施設を紹介できたわ!お前、わたくしを、アスクストーン公爵家をバカにしているの!?」

「そ、そんなつもりは」

「リュドミラ、やめなさい。一度話を整理しよう。ヴァロック侯爵と夫人、話を聞かせてもらおうか」


金切り声を上げる公爵夫人を公爵が止めた。公爵に睨まれたヴァロック侯爵夫妻は大量の汗をかきながら俯く。

そんな二人に見向きもせず、レイモンドはヘローチェの元へ行くと手を翳した。


「やめろレイモンド。殺すとさすがに面倒だ」

「殺しません。クレアに何をしたのかを聞きたいだけです。話が終わったら後はお好きにどうぞ。ずっとここにいたらうっかり消しかねないので。尋問を依頼していただけますね?」

「……わかった。レイモンド・ジュエリア伯爵に尋問を依頼する」


無表情で淡々と告げるレイモンドに公爵は小さく息をついた。静かに殺気を放つ彼をあまり刺激すると本当にヘローチェを消してしまいそうだ。今はレイモンドの好きにさせるのが最善だろう。

レイモンドはヘローチェに自白の魔法をかけた。これは騎士団で一定以上の地位に就いた者だけが使用できる特別な魔法だ。普通は騎士団長と国王の許可がなければ使用できないが、上位貴族が何らかの事件に遭遇した場合は当主が尋問を依頼すれば行使できる。職権乱用と捉えられかねないため普通は依頼されても行使しないが、公爵家への不法侵入にメイドへの傷害、次期公爵夫人を害そうとした罪状を考えればこの尋問は妥当すぎた。


「罪人ヘローチェ、クレア・ジュエリア伯爵夫人に何をした?」

「ぁ、レイ兄さまを開放するようお願いしようとした、けど……ナイフを落としてできなかっ、た。だから、身の程をわきまえろって言った、の…レイ兄さまに媚薬を飲ませて、関係を迫ったから…それで、レイ兄さまの妻になるのが許せなくて……」


ヘローチェは虚ろな表情で話し始めた。一種の洗脳に近い魔法なので質問に素直に答えてくれるが、非常に複雑で膨大な魔力を消費するため長く続かない。レイモンドは額に青筋を浮かべながら質問を続けた。


「そのバカげた情報は一体どこから仕入れた?」

「手紙を、貰ったの……本当は、王女様が結婚、するはずだったのに、卑怯な手を使って横取りされたって……クレア・ミルトンは、最低の悪女、だって」

「その手紙は誰から?」

「王女、様……」


彼女の言葉にこの場にいる全員が目を見開いた。王女はすでに取り調べが終わって今や幽閉の身だ。外部への接触は禁じられており手紙のやり取りなどできるはずがない。


「手紙が届いたのはいつだ」

「ぁ、二カ月、くらい、前…」

「違法薬物の取り調べが終わった頃だ。あの王女、完全に幽閉される前に最後の悪あがきをしたようだな」


公爵は呆れながら息をつく。公爵夫人に至ってはすました顔をしてはいるが顔は真っ赤に染まっており今にも噴火しそうだ。


「他にクレアに何を言った?」

「ぅ、あ……」

「答えろ!クレアに何をした!?何故彼女は私を拒絶したんだ!」

「やめろレイモンド!それ以上は魔力が枯渇するぞ!」


公爵がレイモンドの腕を掴んで止めた。レイモンドは苦しそうに顔を歪めながらもヘローチェへ魔法をかけ続ける。だが自白の魔法はそれ以上続かず、彼女の虚ろな瞳に光が宿った。


「男爵令嬢が、男爵令嬢ごときがレイ兄さまの妻になるなんて!見た目だけでもまともかと思ったら地味で野暮ったくて田舎丸出しの貧相な女じゃない!あの阿婆擦れ!どうせ子どもだって誰の子かわからないんでしょう!?それなのに公爵家から望まれて結婚したなんてありえない!ちょっと脅して出ていってもらうだけのつもりだったけど、こんなことなら子どもごと腹を刺しておけばよかったわ!」


顔を醜く歪ませてヘローチェは思いの丈をぶちまけた。これが彼女の本音なのだろう。あまりの身勝手さに親であるヴァロック侯爵夫妻もドン引いている。レイモンドが怒りで攻撃魔法を繰り出そうとした瞬間、ヘローチェは部屋の隅に吹っ飛んだ。その光景に呆然としながら視線を横へずらすと、公爵夫人が持っていた扇で彼女をぶったのだ。そのまま美しい所作で扇を開くと口元を隠す。


「もういい。不愉快だわ」

「あ、姉上」

「お黙り、もうお前とは姉でも弟でもない。完全に縁を切らせてもらうわ」

「母上……」

「レイモンド、お前は頭を冷やしてこい。あとは私たちで処理をするからクレアさんに付いてやれ」

「……父上……お願いします」


公爵が頷くとレイモンドは出口に向かってよろよろと歩き始めた。だが名前を呼ばれて立ち止まる。振り向くとヘローチェが這いつくばりながらレイモンドに縋っていた。


「あ、レイ、にぃ…」

「最後に言っておく。私はお前が心の底から嫌いだ。出会ったときから、大嫌いだった」

「え……」

「失せろ」


驚くヘローチェを無視してレイモンドは歩き出す。退室する直前、ミルトン男爵と子息に深々と頭を下げた。男爵たちは何か言いたげな顔をしていたが、何も言わずお辞儀を返す。ヘローチェのすすり泣く声が部屋を満たす中、レイモンドは無表情で出て行った。






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