約束の時間
今朝は三人仲良く寝坊した。朝食は抜きかと思ったが、残してくれているらしい。
つみれ汁の出汁は優しく胃を目覚めさせ、気分も持ち直した。
(昨晩の事は一旦忘れてみよう!うん、美味しいなぁ)
「クリス、まだ食べてたの?今日は午後から遊ぼうねっ。約束よ!」
ちえりは現れるなりそう言ってすぐ下がっていった。
僕等は一日中何をしていると思われているのだろう?それを思うと少し不安だったが、旨いつみれを齧るともう忘れた。
ジーンマニに入り、二軒目を探す。昨日住所を大分把握したので今日はすぐに見つけた。昨日の商会より小さいかな?ケインを取り出し
(ケイン、本日もよろしくね)
『ハイハイ、今日はここなんだね。よし回収!』
相棒は、昨日のイタズラが成功してまだ機嫌がいいみたいだ。ケインは、元の屋敷にあった伝記からして、かなりのお宝が有るだろうと最初から見越していたらしい。それを教えなかった。
『終わりだよ。』
(よし、一番多い所から行く?近い所から行く?)
『どっちでも一緒だよ。僕は歩かないからね』
(む~、じゃっ近い所を教えて)
『ハイハイ、中通りの四番筋......』
午前はもうすぐ終わってしまうのでちょっと急ごう。
調査を切り上げ、昼食も終わらせて宿へと戻った。
「遅いよクリス!今日の午後はお手伝いお休みにしてもらったんだ~だから海で遊ぼう!これクリスにあげる。わたしのお古よ!お部屋で着替えてきてね!」
何と、水着を渡されてしまった。勿論、海パンではない。ワンピースタイプでスカートが付いている。
(これを僕が着るのか?)
想像するだけで、寒気がするが、
(これをちえりは着ていたのか)
想像するだけで、顔が赤くなった。
色々な感情が内混ぜとなり、棒立ちでいると早々水着に着替えたちえりがやって来る。
「どうしたの?水着着たこと無かった?大丈夫、手伝ってあげるね!」
(うわ~ぁ、ヤバイ大丈夫じゃないよ!)
ちえりはずんずん部屋に引っ張って行く。
「き、着替えるから、外で待ってて!」
言い放ってからドアを思い切り閉めた。
クリスは覚悟を決め着替える。流石に似合っていないことを祈る。(思ったより女の子の水着ってきつい)サイズが合って無かったがクリスにはよくわからなかった。
ドアをソロっと開けようとしたが、開かない。さっき思い切り閉めて曲がってしまったようだ。(う~レベル44だったのすっかり忘れてたよ)仕方なくドアを無理矢理開けた。
「出来た?うん、似合ってるよ。行こ!」
似合ってるのか?悲しい。...けど、
「ちえりの方が似合ってるよ。」
ちえりの水着もワンピースで両肩で結んだリボンになっている。白い生地に青い小さな花が沢山咲いている。
お互いを褒め合ってる女子みたいになっちゃったけど、ちゃんと言えた。最初に褒め言葉を言えなかった事をちょっと後悔していた。
「ありがと、わたしのもお古を貰ったんだ~」
海に入り脚で水を蹴りながら歩く。
「どっちが高く跳ばせるか競争だよ!ほら」
バシャーン
「え?」
ちえりは冲に向いて水を蹴り飛ばす。
「ほら、飛ばして!」
僕は、やり過ぎるとどうなるかわからないのでホドホドに飛ばした。
「全然跳んでないよ!ハハ」
案外飛ばなかった。
「クリス泳げる?」
「うん、泳げるよ」
前世での記憶だったが前にお風呂で平泳ぎをしたら、ちゃんと泳げた。出来るはず。
泳いで見せるが、
(この水着、平泳ぎヤバイぞ)
すぐ泳ぐのを止め、クロールに切り替える。
「何?その泳ぎ方、速いね!教えて」
僕はちえりにクロールを教えてやる。
お腹を支えるとき緊張した。ちえりは上手ですぐに泳げるようになった。
長い時間遊んでいた。肩がひりついて気付く。
ちえりを見ると、ちえりも肩や頬が日に焼けている。僕は治癒を願い欲した。治癒魔法は発動すると二人の肌から熱がひいていく。
「魔法?こんな風に日焼けも治せたんだ!知らなかった!ありがとう」
ちえりは本当に喜んでいる。よかった。
冲を見ると大きな夕陽が海へ沈むところだ。太陽までの橙色の絨毯が二人まで伸びようとしている。ちえりは僕の手を取り、
「夕陽の渡り橋!」
といい水面の光の橋に乗る仕草をするが、水しぶきが上がるだけだった。
二人で跳んで転ぶ。顔を合わせて笑って立ち上がる。
「いたっ」
何かを踏んだ。手に取って見ると薄い桜色の貝殻だ。
「かわいいねっ」
ちえりは覗き込んでそういい。今度は海の中を凝視している。
「あった!」
見つけた貝殻を人差し指と親指で挟んで翳す。
やりとげたその笑顔は夕陽を背に輝きを放つ。
きっと、太陽なんかより、ちえりの方が眩しい。
「ほらっ」
腕を伸ばし、掌の貝殻を僕に見せる。
この手は僕を眩しいちえりに辿り付く為の橋だ。
僕は、彼女の伸ばした手を握る。
「どうしたの?」
見せる為に伸ばした手を握られ、困惑しているのかな?
「交換しよ?」
僕も掌に貝殻をのせる。
「うん!」
ちえりは、喜んで交換してくれた。




