スズン 6
スズン山は登山客も誘致していたのか、登山道は無いもののよく手入れされ木と木の間が適度に有り歩き易く明るい。村の近くにあった森は入る所など見つからないという程に鬱蒼としていた。テレサとリードはそんな森で狩りをしていたのだ。尊敬する。森を抜けたサムも大変だっただろう。
夏でも山の中は気温がそこまで上がっておらず、時折抜ける涼しい風が青々とした香りで僕を洗う。気持ちいい。登山にはまる人の気が知れないと前世では思っていたがこの世界では積極的にやっていきたい。先日の雨でカラカラの土ではないがフカフカの落ち葉の絨毯でもないので小さな僕でも歩けるのが助かる。
途中、山桃の木を発見、纏って生えているわけでもないので見つける度にケインダイ○ンで異空間に回収。山桃はとても濃い甘い香りがするのでいつも直ぐに見つかる。しかし、一個がこんなに小さいなんて。あんな大きな籠をいっぱいにするなんて割りに合うとは思えなかった。
山桃を回収しつつ歩いていたらどれほど進んだのかよくわからなくなっていたが、一帯の木が薙ぎ倒されている場所に出た。(居るのかな?)
索敵能力など無い為わからない。取り敢えず、戦いになっても動き易いよう、倒れている木を異空間に放り込む。「グフーッ」そんな作業をしていると不意に強い息使いがした。イッチーブルが現れた。ルーとトッドが駆け寄り僕の前に立ち剣を構える。大剣のルーが前でトッドが僕を護る位置に入った。トッドは細い長剣を門番の頃から提げていたが、今は左腕に小型の丸い盾も装備している。僕を護りつつ戦う為らしい。つまり、僕を背後にした時、攻撃を避けずに受けるということだ。でも、僕も戦う。
ルーとイッチーブルがお互い見合っている。そこへ横から入るよう「サンドディスク」魔法を放った。イッチーブルの首に当たり、ルーと視線が途切れる。ルーが走った。首を反動で横に向けた隙へルーが大剣を振り下ろした。イッチーブルはそのまま倒れ動かなくなった。「ふー」ルーは大きく息を吐く。力を込める時に息を止めていたのか少し息が上がっている。
「クリス様!何ですか??今の魔法は?魔法で攻撃するなんて!!」
トッドは興奮している。通常運転だ。興奮するとクリス様呼びに戻ってしまう。
「僕の攻撃魔法だよ!いいでしょ?」ドヤ!
「いいですねーカッコいいですねー」
もう一度見たいのか、次のイッチーブルを探しに行くと息巻いている。トッドは男の子だなぁ。
イッチーブルを収納して現れた方へ行ってみることにした。
雨で出来た水溜まりの水を飲んでいるイッチーブルが三頭居た。一度に三頭、どうすればいんだ?一頭はまだ角が生えていないようだが身体は大きい牛だ。僕何て簡単に吹っ飛ぶ。
(よし!危ないのでケイン、頼んだ!)
『支持が投げやりだなぁ、キョリだけ指定してよ』
(じゃあ二十五メートル先までに居る魔物を集めて)
『よし!回収!』
イッチーブルが地面に向け飛び込んでいる。
(キョリが短いとこうなるのかぁ)
しかし三頭はまだ生きている。ルーとトッドが順に留めを刺した。
全部収納すると血濡れのケインが居た。
(うげー)『こっちのセリフですが?』
ごめんと謝り異空間にまだいっぱい入っている水を出してやり流した。(お疲れ様)
「そろそろ帰るか?」
ルーは少し疲れたのか、もう今日はこれでいいと考えている様子だ。トッドは残念そうである。
う~ん。全討伐の希望なんだよね~依頼は。
クリスは思う。観光客の安全の為の依頼であること、地元の人も山に入れなくなった事、スズンのこれからを思う領主らしき男の事。そして自分の相棒のことを見つめ
(やれると思う?)
筒抜けの作戦をケインはどう思うのか。
『まぁ、クリスの力と指定の範囲次第かな?』
優しげなケインの口調は僕の背中を押すためだ。
(よしやろう!)
ケインと話している時、ルーとトッドは待ってくれる。
「よし、もうちょい討伐するから待ってね」
二人に告げケインに向き直る。
(じゃあ直径二十キロの範囲の魔物と一キロの範囲の水を集めて!)
『ハイハイ、魔物と水を回収!』
ケインが引力を発動する前におもいっきり空へケインを放り投げた。ケインの真下で水を異空間から取り出し続ける。山のあちこちから魔物が空のケインに向かい飛ぶ、水が下から上へ昇る。
今度は山の木に激突して魔物達の怪死現象を起こさない為だ。
魔物団子のケインは落ちつつ、段々水球と化していく。下から上へ昇る水に速度を殺されつつゆっくりと落ちてきた。水球の中ではまだ全部の魔物が蠢いている状態だ。暫しお待ち下さい。
「これが話していた最初の魔物狩りをしたやつですね」トッドはデカさにビックリしているようだが最初の森の時はもっと大きかった。先日に見たのは蟲のみを集めていたので迫力より気持ちわるさが上だった。
「こんな大きな物、見張りをしてて気付かなかったのか、トッド」
ルーはちょっと馬鹿にしているというより意外だと言いたいようだ。信頼しているのだろう。
水没死した魔物達が水球を漂い始めた。蟲はまだまだ掛かるのが難儀だな。
トッドは、罰が悪そうで申し訳なさそうだ。
「結局、クリス様が全部倒してしまいましたね。収納して運ぶのもクリス様ですし」
更に申し訳なさそうにそう言う。
「いんだよ、それで。僕では仕事、受けられないし。二人の本当の仕事は護衛でしょ?そして僕が雇い主だ。雇い主としてお金を二人の分も稼いでお給料支払うからね。」
「クリス様」「クリス」
どう見ても幼い子供のクリスがそんな事を命を狙われながら考えていたことにショックだった。クリスは確かに護衛対象だが、もうとっくの前から家族と換らなかった。ただ生きて幸せに育って欲しい、弟か息子のごとき存在は自分を護衛として求めているのか?
「私はお金など無くてもクリスの傍に居ますよ」
トッドは距離を置かないよう敬称を敢えて省いて呼んだ。
「オレもだ、クリス金何か無くてもずっとクリスにくっついて行くからな!絶対だ!」
優しく話すトッドに対して、有無を言わさないよう強い口調でルーが続けた。
「うん、ありがとうずっと一緒だし、家族だよ。それは間違いないよ。でも、二人が僕と出会う前に得たもの、得た仕事は立派だし、僕のせいでそれを失ったと思いたくないんだ。僕は王子なんでしょ?なら僕を護衛している限り二人は紛れもなく僕の近衛騎士だ。誇っていて欲しいんだ」
僕がそうはっきり告げると二人はそれを受け止めてくれたようだった。
そしてトッドは、片方膝を付き左手を胸に当て右手で剣を差し出す。頭を下げ口上を述べる。
「私、トッド·バルドーはクリストファー·イテ·ロルドバーン殿下の剣となり盾となります」
トッドが誓ってくれるけど、僕はどうするのが作法なのかわからない。王子っぽい教育してないからね。
『取り敢えず、笑っとけ』ケインのアドバイス。
「うん、よろしくっ」
皆で笑い合った。




